アビール ムカジーのレビュー一覧
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前作『カルカッタの殺人』のレビューにて、「早いとこ次の現場に急行せねば!」と大口を叩いてから1ヶ月強。他の作品に気を取られてかなり出遅れてしまったが、こちらの2人も手遅れだったようだ。
2人というのは主人公ウィンダム警部とその部下バネルジー部長刑事のこと。
2人が警護していたにも拘らず、不覚にも藩王国の王太子が序盤で暗殺されてしまった。その刺客にも後々死なれてしまい窮地に陥るという、早々から手に汗握る幕開け。
都市部のカルカッタとは違い舞台となるサンバルプールは藩王国で、珍しく英領に入っていない。おまけに被害者(王太子)の生まれ故郷とは言え、ウィンダムらが所属する帝国警察には捜査権がなく…。
彼らはどう出るのか?この先は手に汗握るどころか、身を乗り出すことにもなる。
バネルジーが上司(兼ルームメイト)のウィンダムに自由に意見や質問をするようになっているのが良い変化の一つだった。前作終盤で、ひょんなことからすることになったルームシェアが攻を奏しているのか。女性が苦手なところも次作では克服出来ているといいね!(誰目線…)
本作は全体的に豪奢。近代化が進みつつも、エキゾチズムに溢れる王朝文化が好奇心をくすぐってくる…(にやり) マハラジャの宮殿やマリーゴールドに彩られた王太子の葬儀。映像化する際は是非総力を上げて再現して欲しい。(だから誰目線…)
「ありのままを見るようになさったほうがいい。でなければ、いつまでたっても、わたしたちを理解することはできないでしょう」
ラストは後味が悪い…というか、ぼやけた味がした。ことの成り行きに身を乗り出したまでは良かったが話は前進しない、手がかりになる人物らを毎回あと一歩のところで逃したりと色々歯痒かった。
あとサンバルプールがイギリスの統治下であれば、より綿密な調査や真犯人を公正に裁くことも叶っただろう。綺麗に幕も閉じられたはず。
だが2人をここまで遠回りさせたのは、他でもない藩王国。インド自体が(イギリスからの)独立への気運に揺れる中で、未だに独自の文化や産業で成り立っている。勿論独自なのは法律(実質的には習わしかも)も同じ。だからラストの時点で「あれからどうなった?」「これからどうなる?」な人物がわんさかいても、その国ではお構いなしでいられる。
それがぼやけた味の正体かもしれない。
次作は全く別物の事件で舞台は再びカルカッタに移るみたいだから、これ以上本案件に携わることはないだろう。
もし作中に入れるなら、終盤のモンスーンにあたって頭をスッキリさせたい気分… -
Posted by ブクログ
英国統治下のインドで捜査に挑む、帝国警察のウインダム警部とインド人部長刑事バネルジーコンビのシリーズ第二作。
今回は『藩王国』が舞台になる。
聞きなれない言葉だったので調べてみたら『イギリス従属下で一定の支配権を認められていた藩王(prince)の領国』という説明だった。作品を読み進めると藩王であるマハラジャといえどインド国外に出るには英国総督府に旅券発行の申請をしなければならないし、インド政庁に財務報告書を提出しなければならないという義務があるとのこと。
だが政治や宗教、慣習や文化は認められているし『藩王国』内での捜査権は英国帝国警察といえど無い。
それをやってしまうのがウインダムの強引さとバネルジーの家柄の高さ。
カルカッタで暗殺されたサンバルプール藩王国の王太子とバネルジーは、英国ハロー校の同窓であり懇意とまで言えなくとも王太子から『厄介事』について相談されるほど頼りにされていた。
彼の本名はサレンドラナートというのだが、ベンガル語で『神々の王』という意味。またカースト上ではバラモンであり、王太子より上になるとのこと。確かに王太子と御学友であってもおかしくはない。
そのため、バネルジーは帝国警察の代表として、ウインダムは私人として葬儀に参列するという名目でサンバルプール藩王国で捜査をすることになる。
そしてもう一人、ウインダムが未練たらたらなアニーも来ている。
なんと王太子とも親しくしていたと言うではないか。それも王太子の弟・プニート王子から専用飛行機を手配してもらってサンバルプールでの葬儀にやってくるという高待遇。
プニート王子もアニーに執心しプレゼント攻勢を仕掛けるし、周囲の要人たちも虜にしている。まるで『ルパン三世』シリーズの峰不二子のような女性だ。
ウインダムはインド人のバネルジーとルームシェアをしたり、インド人とイギリス人の混血であるアニーに魅了されたりというところからあまり民族差別のような意識はないと思っていたのだが、意外にもこの作品では複雑な心境が吐露されている。
つまり、インド人男性が白人女性と恋に落ち、白人女性がそれに応えることが受け入れられないという感情だ。その逆はOKなのだが。
だがその心境はウインダムだけではない、現地のインドの人々にもある。サンバルプール王室の男性が白人女性を王妃として迎えることに対して非常な抵抗感を持つ民衆は多いということだ。
それはその時代的社会背景もあるだろうし、宗教的価値観によるものもあるだろう。単純に時代錯誤だと批判できない。
それを考えるとアニーは相当苦労したのではないだろうか。彼女がこれほど多くの男性を魅了するようになるまでにどれほどの努力と経験と勉強をしてきたのだろうと思うと、違う感情も湧いてくる。
もう一つ、ある登場人物の言葉『真実と結果は別物』であり『真実はかならずしも正義ではない』というのが印象に残った。
ウインダムのような英国人にとっては赦しがたいことであっても別の立場の人間からすれば受け入れるべきこと、逆に誰かにとっては大問題であってもウインダムにとっては無視できるほど些細なこともある。
同じ言葉でも人によって全く違う意味になるというのも興味深い。
この作品ではあまたある動機のなかで何が当てはまるのか、そして犯人は誰なのかという点において最後まで二転三転して忙しかった。
いくつか疑問が残ったものもあるが、それも含めて『真実』ということだろうか。
それにしても事件に振り回され政治に振り回され宗教に振り回されアニーに振り回されインドという土地に振り回されれば、阿片も吸いたくなるのも分からなくはない。絶対ダメだけど。
※シリーズ作品一覧
(全てレビュー登録あり)
①「カルカッタの殺人」
②「マハラジャの葬列」本作
③「阿片窟の死」 -
Posted by ブクログ
1920年、インド・カルカッタでサンバルプール国王太子が車中で射殺された、車中にはウィンダム警部とバネルジー刑事部長も一緒だったが、犯人は逃亡し自殺、王太子は死亡した。
王太子の葬儀がサンバルプール王国で行われウィンダムとバネルジーは葬儀に向かい王太子殺害事件の真相を探る事となった。
舞台は、カルカッタから遠いマハラジャの国サンバルプールは地方の田舎街だが、幻想的で豪華絢爛な宮殿が思い浮かぶ。ストーリーはウィンダムとパネルジーの行動は現代なら違法捜査や不法侵入等のルール違反が多くて、ほぼ物語として成立しないが、時代的には何の問題も無く捜査がスムーズに進んで行くが、登場人物全員が怪しい、
2人の妻と100人以上の側室とその子供達、亡くなった王太子の弟や異母兄弟、イギリス人の財務官や王宮警察官僚、王妃や王子達の愛人等、物語がとても上手く構成されているので悩み所満載だが、物語はシンプルで煩わしい思考の必要が無いのでひたすらに刑事達の行動に浸る事が出来、面白い。時代小説ならではです。
また、シリーズ1作目の''カルカッタの殺人''同様にユーモアセンス抜群でミステリー小説なのに時々笑いが出てしまう。
ウィンダムが後宮に聴取に行くと言うとバネルジーは宦官と同様に去勢する必要が有ると教えると、ウィンダムは''君の母親の言う通りに結婚させられる事は無くなるからいいじゃないか'' と、、おまえが行かんのかい! とツッコミを入れたくなる。 -
Posted by ブクログ
著者は1974年ロンドン生まれのインド系移民二世で、デビュー作の本作は2017年にイギリスで刊行され同年の英国推理作家協会(CWA)賞エンデバーヒストリカル・ダガー(歴史ミステリー)賞を受賞した。
小説の舞台であるインドは、1858年から1947年迄イギリスの植民地だった。
1919年インド・カルカッタでイギリス人の官僚が治安が悪く白人の寄り付かないブラックタウンの道端で惨殺された。イギリスから派遣されているウィンダム警部と現地人で新人部長刑事バネルジーが捜査に当たる。
翌日、列車強盗が発生し列車保安員が殺された。1時間に亘って強盗団は列車を止めたものの何も盗らずに逃走した。
容疑者は、逃亡中のテロリスト、センの可能性が高い。帝国情報部と警察で彼を逮捕する。
植民地下のインドに、支配する側の少数のイギリス人と大多数のインド人の対立、イギリス人警部ウィンダムと現地人バネルジー刑事の協力、貧困と富裕、白と黒、様々な対称の中で次々に起きる事件に時代背景とカルカッタの景色を感じながら楽しめる一冊です。ストーリーのテンポも良く、枝葉末節な展開も無い、まさしく一気読みの物語です。
またユーモアもとてもいい。犯人が捕まらない事で同宿の者 が''おちおち眠っても居られない…''と言うとウィンダムは''被害者は歩いている時に殺されたんだ''と心の中で呟く。
救急車で運ばれたウィンダムが降り際に医師が片手を出して来た''心付けがいるのか、お金を差し出した…''医師は馬鹿かといった顔でウィンダムを見た。
ウィンダムとバネルジーの続編は現地では2018年に刊行され、日本語訳(ハヤカワポケットミステリー)では''マハラジャの葬列''として2021年3月に刊行され3作目も間もなく翻訳盤が刊行される。 -
Posted by ブクログ
1919年、イギリス統治下のインド・カルカッタでイギリス人の政府高官が殺され、口にはイギリス人に対する憎悪を綴ったメモが押し込められていた。
その後列車が襲われ保安員が殺される事件が発生。
捜査を担当するのはカルカッタに赴任してきたばかりのウィンダム警部、その部下ディグビー警部補、インド人部長刑事のバネルジー。
捜査を進める中で二つの事件を結びつける犯人として革命組織のリーダーが浮かび行方を追うが、軍情報部も横槍を入れてくる。
イギリス統治下のインドで現地人差別が公然と行われ、少数のイギリス人が政治も経済も握り、イギリス人同士での権力や経済を巡っての暗闘が繰り広げられる。インド人たちの中では当然抵抗勢力が湧き上がり、それを阻止するために強引過ぎる抑圧が行われる。
警察は必ずしも自由な捜査が出来るわけではなく、軍や政府との軋轢の中でうまく立ち回らなければ明日の仕事の保証すらない。
そんな中でウィンダム警部たちはどう真実に辿り着くのか、というのがこの作品の本筋。
しかしこのウィンダムが何とも頼りない。
スコットヤード時代は優秀だったらしいが、妻の死や戦争体験などのストレスから、今はモルヒネと阿片がなければ精神を維持できないような状況。
さらに被害者の秘書でイギリスとインドの混血美女アニーに恋をしてしまって、いけないと思いつつ請われるままに捜査状況を話していしまう始末。
また部下のディグビーも実はウィンダムがカルカッタにやってきたせいで昇進を阻まれていて、事件解決を早期に成し遂げ出世したいというのがミエミエ。昇進のためであれば後ろ暗いことはやってしまいそうで、どうにも信用出来ない。
そしてインド人刑事のバネルジー。三人の中では一番誠実で勤勉でウィンダムの指示を確実に迅速にこなしていく優秀な警察官に見えるが、インド人であるが故に度々不快な思いもしている。
ウィンダムはバネルジーに対しては(他のインド人に対してもだが)割と公平に接しているし信用出来る部下として扱っているが、バネルジー自身の心中はどうなのか分からない。
この奇妙なトリオで事件の捜査は進められていく。
捜査の方は序盤に出てきた数々の手がかりをほっぽり出して革命家センにばかり視線が向いているのはどうなのかと思っていたら、中盤から軌道修正されて面白くなってきた。
ただ読み進めていく中で「なんか怪しいな」と思っていた人々が悉く後に何らかの形で事件に関わっていたというのが分かり、あからさまだったのが残念。
もっと何かすごい奸計というか陰謀があるのかと期待していた。
『イギリスの中産階級の男たちは、ここに来て、権力と栄位を手に入れ、のぼせあがる。ふと気がつくと、召使いにかしずかれ、服まで着せてもらえる身分になっている。それを当然の権利のように思い始めるのは時間の問題よ』
イギリス統治下のインドだけではない、この時代世界中のいろんな場所でこんな状況が起こっていた。
インド系移民二世のイギリス人作家が書きたかったのは事件の真相よりも何よりもこういうことだろうか。
結末はちょっとホッと出来る。 -
Posted by ブクログ
時は一九一九年。舞台は英領インド、カルカッタ(今のコルカタ)。スコットランドヤードの敏腕刑事だったウィンダムはインド帝国警察の警部として赴任して間がない。第一次世界大戦従軍中、父と弟、それに結婚して間もない新妻を失った。過酷な戦闘で自分一人生き残ったこともあり、生きる意味と意欲を喪失し、アヘンに溺れていたところ、かつての上官で今はインド帝国警察ベンガル本部の総監タガートに誘われ、カルカッタにやってきた。
ミステリもいろいろ読んできた。舞台もアメリカ、ロサンジェルスをはじめ、イギリスのロンドン近郊、さらに最近ではノルウェーのオスロも仲間入りし、いよいよ国際的になってきた。しかし、インドが舞台というのはめずらしい。交易の中心地として栄えてきた、東洋の星と謳われるカルカッタ。時代は第一次世界大戦直後。アヘン中毒の現職刑事が主人公とあっては、ちょっと読んでみたくなる要素が揃っている。
事件はめったに白人が立ち入らない地区で起きた。タキシードに黒い蝶ネクタイの白人が喉を掻き切られ、口の中にメモを詰め込まれて発見された。被害者はインド副総督の側近中の側近で、ベンガル州行政府財務局長。口中に残されたメモに「インドから出て行け」という意味のメッセージが記されていたことから、警部補のディグビーは政治がらみの犯行と決めつけるが、現場近くの娼館の窓からこちらを見ていた女の顔に怯えが浮かぶのをパネルジー部長刑事は見逃さなかった。
冒頭、矢継ぎ早に重要な手がかりが提示される。補足説明しておくとディグビー警部補は白人で、警部昇進がほぼ決まっていたところを、タガートがウィンダムを呼び寄せたあおりをくらって話がフイに。何とか事件を解決し、昇進へのバネにしたいという思いがある。パネルジーは現地の名門の出でケンブリッジを卒業した俊才ながら、独立後のインドには、土着の人間が大量に必要になることを予想し、親の反対を押し切り、警察に入ることを決めた理想家肌の青年。うぶで女性と口をきくことが苦手。
ウィンダムはインフルエンザで死んだ妻のことが忘れられずにいるが、被害者の秘書をしていたアニーというインドとイギリスの混血美女が登場すると、すぐにデートに誘っている。アニーは頭がよくて活発、男の前でも積極的に意見を言う好ましい人物だが、高級レストランでは入店を拒否される。アングロ・インディアンであることはインド人からもイギリス人からも差別の対象となる。
当時のベンガル州ではインド独立の火が燃え盛っており、独立を目指す組織による火器弾薬を手に入れる資金確保を目的とする、列車襲撃事件も起きていた。軍情報部H機関を率いるドーソン大佐は、ことある如く捜査に介入し、事件をH機関の管轄下に置くことを要求してきていた。そんな時、四年間も潜伏中だった革命組織のリーダーのアジトが見つかる。列車襲撃と殺人事件の関係を追うウィンダムはドーソン大佐を出し抜き、単身アジトに乗り込むが銃撃され右腕を負傷、あわやというところをパネルジーによって助けられる。
宗主国の人間であるウィンダムは、それまで英国人による露骨な人種差別を当然視していたが、アニーやパネルジーと行動を共にするうちに、どうもおかしいと思い始める。そこに、イギリス人からは悪魔のように罵られる革命組織のリーダー、ペノイ・センが現れる。何が何でもセンを死刑にしたいドーソン大佐とちがい、ウィンダムは真実が知りたい。尋問を通じて、センは非暴力への転向を真剣に考える悔悛した革命家で、ただのテロリストではないことも判明する。ウィンダムはセンの無罪を明らかにしたいと思う。
宗主国と植民地、英国人とインド人、分かりきった対立軸とは別に、同じイギリス人であっても、英国内では到底芽が出ない、いわば二流の貿易商でも、ここインドではまるで王侯貴族のような生活が可能になる。そういう暮らしを続けるためには、行政府との関係を密にし、より権益を得るために賄賂を贈り、供応を繰り返す必要がある。その一方で、所詮植民地における栄耀栄華は当地だけで通用するものという、本国に対する劣等感は誰もが抱いている。入り組んだ植民地意識が、今回の事件を複雑にしている。
ガンジスの支流ながら、死体を焼く儀式も当然登場する。熱帯の酷熱と湿気、中国人が経営する阿片窟、唯々壮大さを誇張した建築物、と純然なミステリでありながら、キプリングの『少年キム』等に始まるインド亜大陸を舞台にした冒険活劇風側面を持つ。ウィンダムの一人称による語りなので、主人公の心の動きを追ってゆけば、実行犯は意外に簡単に絞り込める。ただ、それとは別に殺人を引き起こすに至る複雑な人間関係の網の目が存在する。
独立インドを夢見る憂い顔の青年。射撃の名手で捜査能力に秀でたパネルジー部長刑事とバディを組むことで、アルコールとアヘン、モルヒネに頼りがちだったウィンダムも少しずつ生きる意欲が回復する気配が仄見える。食事のまずいゲスト・ハウスを払って、パネルジーと下宿をシェアするまでに至る二人は、ひょっとしたら、これからもコンビを組んで難事件にあたるのだろうか。ひねりのきいたトリックや異常心理、陰惨な犯行を繰り返すシリアル・キラーとは無縁の、古き良き時代の探偵小説を思わせる仕上がりが、刺激の強い新作に食傷気味のファンの心を慰撫してくれる。二〇一七年英国推理作家協会賞受賞作。