手塚富雄のレビュー一覧
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まず、誰の訳で読むか迷ったが、比較記事などを参考に手塚富雄氏の訳を選んだ。言い回しに引っかかることもなく最後まで面白く読めたので、私には合っていたのだと思う。
ギリシア神話の神々や、架空の生き物も大勢登場するが、詳しい注のおかげで理解しやすく、訳者の解釈まで添えられているのも面白かった。こんなに隅々まで注を読んだのは初めてだった。
20代前半から書き始め、82歳の頃に完成させたという、ゲーテが一生をかけた作品。その歳月に思いを巡らせながら読むと、若々しい情熱や勢いが感じられる場面もあれば、長い人生を経たからこそ生まれたような重みを感じる場面もあり、一つの作品の中に異なる年代のゲーテが同居しているように思えた。
人間とは何か、という大きくて単純な、答えのない問いに向き合った作品だからこそ、ゲーテもまた簡単に完成とはせず、生涯をかけて書き続けたのかもしれない。そんなことを想像すると、この作品がいっそう美しく思えた。
良くも悪くも欲望を抱え、それでも何かを追い求め続ける人間の姿が、最後には肯定されているように感じたのが印象的だった。人は過ちを犯さないことよりも、立ち止まらず求め続けることに価値があるのかもしれない。
「悪魔は年をとっている。だから悪魔の云うことがわかるには、早く年をとることです」
一度読んだだけで、とても全てを理解できたとは思わない。もっと年を重ねて10年後、20年後に再読したら、今とは違うものが見えてくるのだろうか。長いつきあいをしたいと思えた一冊。
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Posted by ブクログ
老学者ファウストは悪魔メフィストフェレスと「とまれ、おまえはじつに美しいから」と言った時、自分の魂を渡す契約を結ぶ。その代償として若返り、
「さっぱりと知識欲を投げすててしまったこの胸は、
これからどんな苦痛もこばみはせぬ。
そして全人類が受けるべきものを、
おれは内なる自我によって味わいつくしたい。
おれの精神で、人類の達した最高最深のものをつかみ、
人間の幸福と嘆きのすべてをこの胸に受けとめ、
こうしておれの自我を人類の自我にまで拡大し、
そして人類そのものと運命をともにして、ついにはおれも砕けよう。」(第一部PP142~143)
と人生をやり直すことを決意する。しかし、一幕一幕場面が変わり、主人公のファウストは相変わらず、女性の後を追いかけ回し続ける。最後は寄せて返る波の非生産性に腹を立て、海の埋め立てを実行する。そして、立ち退かない老夫婦を焼死させることになりながらも、自身は
『自由な土地に自由な民とともに生きたい。
そのとき、おれは瞬間にむかってこう言っていい、
「とまれ、おまえはじつに美しいから」と』(第二部P568)
と思いを馳せ、亡くなる。しかし最後は、メフィストフェレスとの契約履行のとき、天使たちが突然降り立って、約束を反故にしてしまう。
天使たちは
「どんな人にせよ、絶えず努力して励むものを、
わたしたちは救うことができます。」(第二部P598)
といって、主の救いを歌う。
傍から見て身勝手な物語だと思う。しかし、これは憂いを克服する物語なのだ。老学者の頃のファウストに自殺を考えさしたこの憂いを、悪魔の力を借りながら最後は退ける。ゲーテにとって、この、憂いがどれだけ生命に反するものだったかを察しなければならない。解説文で中村光夫が『ファウスト』のセリフは「作者の体得した人生の真実」と書いていた。それを汲み取る努力が、この読書には必要だ。 -
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生涯を通して人智の宝庫を掴み取っても結局は何も知らないということが分かっただけ
肉体の翼は閉じていることが多く精神の翼だけは羽ばたこうとバタつく
無邪気さと無垢なるものは時の渦に飲み込まれてひとつひとつ挫折に変わり
太陽に背を向けて冷たい霜を胸であたためたくなると復讐の女神メゲラが囁く声に耳を傾けてしまう
人間は努力する限り迷うもの
人を欺く仮面の群に繋がれ怯える心
恐怖と希望は最大の敵
寂寥という虚無のなかで一切を見つける
救いや慰めはいらない 困難な危険を恐れないファウストの勇気がその鎖を断つ
詩のこころは美の調和をもたらす
子供のころに聞き慣れた歌が地獄の淵から引き戻す
胸から溢れ出て全世界を再び心の中に入れる
非精神的である無感動の意識は浅く留まり
揺すぶられる感動を必要としている戦慄する魂だけが前進していく
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ネタバレ厨二病に罹患した自覚のあるものはただちに読むがいい。圧巻のセンス・オブ・ワンダー! 物語の筋の悪さには目をつぶり、裏読みを要するような難解さは専門家に任せ、この大いなる幻想を楽しむがいい。
筋の悪さ。
悪魔の力を手に入れたファウストは欲望の赴くままにそれを楽しみ、時には非道な行いをする。それに悔いることもなく次なる欲望につきすすむさまは、芸術家ならわかる心情というものか。文豪がまれによく持つゲスい感性のなせるわざか、苦い経験などなかったかのごとく生きていく。
第二部は、行間を大いに読めば、奔放に生き、時には幸せを得、儚く失い、時には非道をふるまったファウストの人生模様である。いつとは知れぬ人生の場面をただ見せられる。なぜそういうことになったのか説明されないので、たいそう座りが悪い。壮大な幻想風景に感嘆させられながらも、物語性の欠如を強く感じさせられる。
そもそも神とメフィストフェレスが、ファウストが堕落するか否かを賭けて物語がはじまる。ファウストの血を混ぜたインクで契約書を書かせたにも関わらず、そんな事情を知らぬ天使たちにファウストの魂を天へ連れて行かれてしまう。天使たちの光はイノセントに見守るしかないメフィストフェレスを焼いている。
欲や罪にまみれた人生であっても神は救う。そういうことでいいの?
裏読みとは押井守氏の言葉を借りたものだが、氏曰く、映画は必ず裏読みできるようにあるべきだという。氏の作った映画は全てそのように作っているという。そういうふうに作ってあるからといって面白い訳ではないということだね。
氏の主張ではないが、文学もまた、そうあるべきという風潮があるように思う。あるいは、ない裏もあるとして論ぜねばならないように思う。だが、それはできる人に任せておけばよい。本書について言えば、注釈やあとがきによって、背景や感じ方というものに触れることはできる。無論、訳者の解釈に過ぎない。正解はおそらく著者も持っていない。
マーガレット・ワイスは、マジェーレ兄弟やソス卿の創造にあたってファウストを意識しただろうか。
永野護のFSSは、ファウストに依るところが大きいのかもしれない。
とか思いながら。
どうやら、現代に与えた影響を知ることを、古典を読む楽しみとしてるようだ。 -
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古典で戯曲というと近頃シェイクスピアを数編読んだという程度のニワカだが、古典で名作といわれる作品らに感じることがないわけではない。必ずしも面白いものではないこと、週刊少年ジャンプ掲載作品のようだということ。前者については戯曲に限らぬこと。後者については、作者が第一に気にすべきは人気であっただろうということである。客が席を立たぬようにすることが第一で、叶うならばリピーターを生産したかっただろうということである。それを由来として、いろいろと雑なところがあるように見える。
『ファウスト』も古典で戯曲だが、第一部を読んだ限りでは前述のようなことはない。雑だと感じないし、面白い。
なぜか第一部の巻末に掲載されている、第二部まで含めた解説によればゲーテは半生をかけてこの物語を綴ったそうで、死の間際にも改稿を施している。重ねた推敲が悪く働かず、作品を昇華させたということか。
巻末エッセイによれば、ファウストの翻訳は森鴎外をはじめ幾つも存在するが、必ずしも読みやすいものではなかったらしい。本書はそのあたりを強く意識して翻訳がなされたということで、そのためだろうか、読みやすいと感じるのは。
さて、本作品にはノストラダムスの名が登場する。ただ一度だが、出生地たるフランスはおろか全世界的にはそうでなくとも、一時期日本人なら誰でも知ってるくらいの著名人たりえたのは、古典名作の権威があったからなのかなとか。
石川賢が「虚無との戦いは空間の奪い合いだ」としたネタ元だったのかなとか。
ワルプルギスの夜の描写は『ベルセルク』の蝕に着想を与えたのかなとか。
ハロルドシェイの呪文はこの辺由来なのかなとか。
思ったり思わなかったり。 -
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戯曲形式でファウスト博士と悪魔のメフィストの掛け合いがメインです。メフィストが意外と親しみやすいキャラ設定なので、メフィストが絡む場面は面白みがグッと深まります。
難解な作品だと覚悟はしていましたが、意外と分かりやすい場面も多かったです。ただ、一筋縄でいかないのが巨匠ゲーテ先生というところでしょうか。難解な部分も多々あり、一読でサッと理解することが難しい印象は受けました。
内容としては、あらゆる知識が備わっているが人生に満足できないファウスト博士に対して、悪魔のメフィストが博士を満足させることが出来たら死後に魂を貰う契約を行うことからこの物語は始まります。
なので、メフィストがファウスト博士にあの手この手で仕掛けるのかと思いきや、マルガレーテに恋しちゃった博士が欲望を叶えるためにあれせぇ、これせぇと煩悩丸出しで振り回しちゃったり、ユニークなシーンもあります。
個人的にはそのユニーク路線で2人の掛け合いをもっと見たかったのですが、そこは悪魔と関わっている定めなのでしょうか。重苦しい雰囲気が漂うことの方がはるかに多く、物語は完全に悲劇の方向へ向かっていきます。そのため、作品全体の8〜9割は堅苦しい雰囲気が続くと思ってください笑
覚悟していたよりは読みやすかったですが、それでも難解さは残る作品でした。何回も読み直すことで少しずつ理解を深めていく、そんな作品だと思います。
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Posted by ブクログ
ネタバレ高潔にして世界の真理を追い求めた末、自分のちっぽけさに絶望した主人公ファウストが、悪魔メフィストフェレスに魂を売って人間的快楽を知るといった内容だった。設定としては結構面白かったが、内容が面白いかと言われれば個人的にはそうでもなかった。
所々に出てくるポエムはちょっとよくわからなかった。また、登場人物たちの何気ない発言は含蓄に富んでいるが、少々唐突で無理やりであり、著者がこの作品を通じて自分の人生哲学、思想を詰め込もうとしているように感じた。
ただ、この手の古典的名作の良さというのは、そのつまらなさの故に、読後に現代の流行りの小説を読むといつもの数倍面白く感じることができるといったところにあると思っている笑