首藤若菜のレビュー一覧
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経済学の本を読み始めてから、物価と賃金には大いに興味があります。
実質賃金の停滞は、賃金労働者にとどまらず、物価の変動を通じて生活する人すべてに影響する問題であり、日本で停滞が続いてきた構造を明らかにするのが本書の目的です。
賃金上昇と経済成長という視点で考えると、日本で起こっているのは、「低賃金→低消費→低価格→低利益→低投資→低賃上げ」という悪循環。
それがどこから始まるのかはともかく、賃金が上がらないという問題は経済全体の成長にも悪影響を及ぼすものであり、このことが日本の経済停滞の大きな原因でもあると思います。
日本では商品の値上げが忌避される傾向にあり(価格はそのままに量を減らすステルス値上げなんかがその例)、価格ではなく賃金が企業内で調整されるという構造が固定化されてきたため、生産コストが上昇しても価格に転嫁しにくく、賃上げは企業の「負担増」と捉えられてしまいそれを抑制する方向に働くことから、人手不足の中にあっても賃金が上がりにくい、というサイクルが出来上がってしまっているようです。
また、生産コストを価格に転嫁できないのであれば、そのしわ寄せは労働者にいってしまうという一面もあります。
特に日本では、コストの上昇を「現場の努力」で吸収・解決してしまうという特徴もあり、このことは、賃金の抑制や果ては人員の削減まで、言ってみれば現場に負担を引き受けさせる構造の温存にもつながってしまうのです。
現場の優秀さゆえに負担がそこに集中し、問題が表面化しにくいという逆説的な構図がそこにはあるようです。
賃上げを行っていくためには、価格転嫁や取引条件の見直し(下請けの場合)といった経済構造の転換にまで踏み込む必要がありそうです。
日本では、価格を据え置くことや価格を実質的に引き下げることが、誠実さや企業努力の証として評価されてきた面もありますが、こういった評価を改めていくことも大事なのでしょう。
著者が示す好循環は、「賃金が上がる→価格が見直される→利益率が回復し投資の余地が生まれる→投資が進み生産性の改善につながる」というものです。
賃上げ(広い意味では「人件費」と言っていいかも)を抑制することで成り立ってきた経済の構造を、価格や利益を含む社会全体で引き受ける構造へと変えられるかどうかが大きなポイントになるようです。
私個人としては、消費者の立場に立てば、物価は安ければ安いほどいいのですが、一方で生産者の立場に立てば、適正な価格転嫁がなされない限り賃金も利益も上がらない、と常々思っています。
その点において、最近物価が動き出した(国民が少しずつ値上げを許容し始めてきた?)ことはむしろ好ましい現象だと捉えています。
渡辺努先生の物価の本も大いに勉強になるものでしたが、本書も日本経済の行く先を考える上で大いに示唆に富むものだったと思います。 -
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名著であると思う。
以前河野龍太郎『日本経済の死角』(ちくま新書、2025)が、過去30年、日本の生産性は諸外国と同様上昇していたにもかかわらず、ただ日本のみが勤労者の所得の上昇をもたらさなかった事情を明らかにした。
端的にいえば、少子高齢化による国内購買力の低下を見越して、国内よりも国外での投資にシフトしたこと、および将来の経営危機を見据えて株主への配当さえ抑えて内部留保の積み増しに走ったことである。
ど素人ながらマクロ的な見方としては概ね正確なのではないかと感心していた。
首藤若菜の本書は、このマクロ経済学上の行動主体、国・企業・労働組合それぞれの詳細に踏み込む。その分析は説得的である。
とりわけ企業分野において物流を担う運送業界の考察は見事というほかはない。
少し考えればわかるが、粗密の差はあれ、都市/農村に散らばるコンビニエンスストアの似たような商品構成と価格を背後で支えているのは、運送業の企業でありそこで働くトラックドライバーたちである。彼らの賃金がなぜ上がらないのか。大中小企業間の熾烈な過当競争が背後にあることを明らかにしている。 -
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ネタバレ物流危機は終わらない
ー暮らしを支える労働のゆくえ
首藤若菜氏による著作。
2018年12月20日第1刷発行。
著者は1973年東京都生まれ。
1996年大妻女子大学社会情報学部卒。
2001年日本女子大学大学院人間生活学研究科博士課程単位取得退学。
2002年「ブルーカラー職種における男女混合職化の研究」で学術博士。
2000年山形大学人文学部講師、2006年助教授、
2007年日本女子大学家政学部講師、2010年准教授、
2011年立教大学経済学部准教授をへて、2018年教授
夫は中北浩爾。労働経済学。
現在、立教大学経済学部教授
著書
『統合される男女の職場』
(勁草書房、2003年、社会政策学会奨励賞受賞、冲永賞受賞)
『グローバル化のなかの労使関係―自動車産業の国際的再編への戦略』
(ミネルヴァ書房、2017年、労働関係図書優秀賞受賞、社会政策学会奨励賞受賞)
学者である著者が、現場の第一線で働く人、企業へのインタビューも行った上で、物流危機の背景、今後に関してデータも踏まえて論じている。
ヒアリングを徹底して行ったからこそ机上の空論では無いリアリティを感じた。
私自身も物流センターでの勤務をしているからこそ痛感することもあったし、ドライバーの勤務の過酷さ、問題に関して改めて認識することが出来た。
単に学術論文を書くだけでは無く、新書の形でわかるように世の中に訴える事ができる学者というのは実はかなり少数派だ。
その意味でも首藤若菜さんにはこれからも学術論文だけではなく
良い本を世の中へ発信して貰いたい。
(全く論文を書かない、研究はしない、教育にも力が入っていないという駄目教授はかなりの数にのぼる)
第5章で指摘するように、過酷な労働を改善させる第1歩は他者の労働に対して無関心、無責任でいてはいけない。
社会的なつながりを認識し、働く者の負担を知り、そのコストを分かち合うこと。
適切なワークルールを作り守らせること(これが役所、公務員の仕事)
個人的には再配達には料金を取るように変える事が必須ではないかと思う。
人口減少社会に対して適切な規制を行う必要があると思う。
再配達無料から有料になることでコンビニ配達利用や宅配ボックス利用の促進を図る事が出来ると思う。
労働者、生活者、有権者の為のワークルールを作るという発想が乏しかった我が国日本ではある。
しかしこの数年働き方改革が曲りなりにも進んだ。
この方向性は正しい。
何でもかんでも市場丸投げ主義が正しいのではない。
ただ今の日本の役所、公務員は行うべきワークルール作りが不十分だ。
(というか霞が関の働き方そのものが過酷そのものだ)
世の中に必要ない不必要な資格試験の団体を作ったり天下り団体を作るのではなく
本来必要としている政策を実現して貰いたい。
印象に残った点を列挙していくと
(ヤマト運輸で)2016年度上期には、人員の大幅増強策が打たれた。
年度初めから、中途社員の大規模な募集が始まり、新卒採用の枠が第二新卒(学校を卒業後就業していない者および数年のうちに転職を志す者)にまで広げられた。
特に人手が足りていない地域では、募集時の給料を引き上げることも決まった。
さらに求職者の目にとまりやすくするため、募集・採用のウェブサイトが一新され、従業員が知人を紹介する社員紹介制度も導入された。
(中略)ヤマトホールディングスの有価証券報告書によれば、デリバリー事業の従業員は、2013年の14万7350人から、2014年には16万2383人まで増員されている。
高卒の新卒採用者数も、2013年までは年間150~180人程度だったが、
2014年には347人に増え、2016年はさらに471人と、以前の3倍程度の水準を記録している。
高卒者は、入社後に運転免許を取得してもらうが、大型免許の取得には3年以上の
運転経験が必要となるので、即戦力にはならない。
そのため、トラック業界では中途採用がこれまで主流だった。
しかし、中途採用で人を採用しにくい状況が続く中、ヤマト運輸では長く働いてもらえる労働者を確保するためにも、社内で育成していく方針を立て、高卒者の採用拡大に踏み切った。
だが罪の意識は、日々の忙しさにかき消されていった。
ヤマト・ショックから約1年が経過しようとしていた2017年末、内閣府はある世論調査の結果を発表した。
それによると、約9割の人が再配達を利用したことがあり、
7割以上の人は再配達を問題だと考えている。
けれども、7割近くの人が、コンビニ受け取りや宅配ボックスへの配達など、再配達削減に向けた方法を「いずれも利用したことがない」と回答した
(内閣府『再配達問題に関する世論調査』2017年12月)
そもそもヤマト運輸の旧来のビジネスモデルは、ドライバーの担当区域あたりの個数を増やし効率を高めることで、収益を上げることにあった。
ドライバーも人間である以上、一定時間内に配達できる個数には自ずと限度がある。
荷物の密度がいくら増していったとしても、労働生産性(労働者一人が時間あたりに
生み出す付加価値)は無限に上がっていくわけではない。
実際ある段階からは、コスト削減効果が明らかに逓減していたという。
モノの運搬や管理を「物流」と呼ぶ。国内で年間に輸送される貨物量は約47億トンにのぼり、このうち91%がトラックによって運ばれている。
国の基準により、貨物輸送時の連続運転は4時間までと定められている。
4時間続けて運転したら、30分以上の休憩を取ることが義務づけられているのだ。
「4時間ごとにタイミングよく休憩できる場所があるわけではない」
「深夜のパーキングエリアやサービスエリアは、どこも満車状態。休憩したくても、できない」といった設備上の制約から、休憩できない
との声も聞かれる。
今日、長距離ドライバーで4時間を超えて連続運転している割合は32.7%にのぼる。
つまり3人に1人が、休憩時間のルールを守っていない。
こうした実態が生まれる主たる理由は、
①時間が足りないこと
②運賃が低いことの2つにある。
だが、現実には多くのドライバーが、パレットに積まれた荷物を手荷役でトラックにバラ積みし、それを輸送して、到着時には平積みされた荷物を再び手荷役でパレットに積み直している。
なぜパレットによる運搬が広がらないのだろうか。
前出の日本物流団体連合会の調査によれば、「荷主が積載量を多くしたいから」
ということが、最大の理由である。
繰り返しになるが、ドライバーの仕事は、本来、貨物を運搬することである。
しかし貨物搬送の前と後には、必ず荷役作業が発生する。
それらは「附帯業務」と呼ばれる。
この附帯業務を誰が担うのかが明確にされないままに、
多くの物流現場が回っている。
もう1つのサービス労働が「手待ち(荷待ち)時間」である。
長距離ドライバーたちは、一度トラックに乗れば、極めて長時間にわたり
働き続け、数日間は自宅に戻れない。
「家に帰れないことが、一番つらい」と話すドライバーが少なくない。
トラック運送事業者数は、1990年に4万72社だったのが、
2007年には6万3122社まで増えた。
2008年から減少に転じたものの、その後はほぼ横ばいで推移している。
つまり事業者数は、物流二法施行後の約15年間で1.5倍に増加し、
その水準のまま現在に至る。
物流二法→貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法
今日、トラック業界は、従業員数が50人以下の事業者が全体の90.9%を占める。
宅配便に限っていえば、ヤマト運輸が宅急便を始めた1970年代は、多くの企業が参入し、厳しい競争が繰り広げられた。
しかしその後、淘汰が進み、今日ではヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の上位三社で9割以上のシェアを占めている。
宅配便ビジネスは、幅広い配送ネットワークを構築することで、輸送コストを引き下げることができる。
そのため、全国各地に巨大ターミナルを設け、高速自動仕分け機を導入し多数のトラックを保有できる企業が勝ち残ってきた。
いわゆる「規模の経済」が働きやすいのである。
それゆえ宅配便は、大量のドライバーを抱えるという意味で労働集約的でありながら、装置産業的な特性も持つ。
他方、一般貨物は、主に法人を相手とし、一台のトラックに1社の荷物を積載する「貸切輸送」が典型的である。
ターミナルを利用せず、1台のトラックに貨物を混載して輸送する方式もみられる。
こうした輸送方式では、トラックとドライバーさせそろえば、スポットで仕事を請け負うことも可能であり、参入障壁は極めて低い。
その結果、物流二法施行後、事業者数が急増した。
つまり一般貨物については、規模の経済が機能しにくく、
価格競争に陥りやすい。
日本郵便の存在が、運賃を据え置く方向に作用してきた。(中略)
現在、ヤマト運輸の宅急便、佐川急便の飛脚宅配便、日本郵便のゆうパックの基本運賃を見ると、大きさや重さによって違いがあるため厳密な比較はできないものの、概ねヤマト運輸と佐川急便が同水準であるのに対し、日本郵便は若干安く設定されている。こうした状況のもと、ヤマト運輸や佐川急便は、日本郵便に顧客を奪われることを懸念して、運賃の値上げに踏み切れなかったと考えられる。
ただでさえ競争が厳しい宅配便市場の中に、こうした公共的性格を有する
日本郵便が参入していることをヤマト運輸は、以前から問題視してきた。
ヤマト運輸の関係者は、「佐川さんはいいんですよ。民間企業同士が闘うのであれば、互いに赤字になれば潰れるわけで、正面切って経営努力で勝負することができます。今回みたいに価格競争になって、
採算が合わない水準にまで(価格が)落ちれば、互いに撤退するか、値上げを求めるかだけです。でもね、何年も赤字を垂れ流しながらも決して潰れない企業と闘ったら、どの企業だって負けちゃいますよ」と苦々しく語る。
本来、市場が持つ「公正な競争による淘汰」という機能が働かないのであれば、
別の方法で公正な市場を形成しなければならない。
公正な競争を保障するために、例えば、各職場の労働条件を監督指導する労働基準監督官を大幅に増員し、事業所の監視を強化するといった施策も考えうる。
現実に労働基準監督官は、少しずつ増員されている。
だが厳しい財政状況のもと、十分な監視を可能とするほどの人員増は現実性を持ちにくい。
それよりも現実的で、より効果的な施策は、社会保険の加入や労働時間などのワークルールを遵守しうる規模の事業者のみに参入を制限することである。
物流が止まった例 2018年5月のブラジルでのトラック運転手と業界団体が燃料価格の高騰に講義して、全国規模のストライキと抗議デモを起こした。
小規模事業者がひしめき合うなかで、他社と異なる付加価値をつけようとしても
それが難しい。より多くの荷物を、より早く運ぼうしても、道路交通法の積載制限や速度制限を遵守して運行する限り、自ずと限界がある。
つまりサービスの差別化がしづらく、技術特性を発揮しにくいのである。
そのことが運送会社の交渉力を弱め、荷主に対して従属的な性格を生み出してきた。
なぜ若者はトラックドライバーになりたがらなくなったのか。
これには若者の「車離れ」といった変化も関係するが、それ以上に労働条件の相対的低下が影響していると思われる。
かつてトラックドライバーは「きついが、稼げる」仕事と言われていた。
それが、若者にとって魅力となってきた。
だが1990年代後半から賃金が低下していく。
今日、トラックドライバーの賃金(所定内給与)は、平均男性の7割ほどである。
労働時間が長いという意味で「きつい」ことは変わらないまま、「稼げない」仕事になってしまった。
若年層の参入減には、トラックドライバーのキャリアの変化も関係している。
かつては、20~30代にトラックドライバーとして働き、そこで身につけた技能を活かして、40~50代にバスドライバーに転職し、さらに60代でタクシードライバーに転換するキャリア・パターンがあった。
そうした道を歩めば、平均に近い生涯賃金を獲得することができた。
ところが、トラックドライバーの賃金水準が下がっていった時期に、バスドライバーの賃金はそれ以上に下落した。
例えば、50代前半のバスドライバーの年収は、1990年では600万円を超えていたが、
今日(2017年)では500万円を下回り、大型トラックの年収とあまり変わらない。
その結果、もはや運転職を渡り歩きながら、一般的な賃金水準を得るキャリアを描けなくなった。
要するに、同じ時期にトラックだけではなく、バスやタクシーといった他の運転職の賃金水準も低下していった。
それゆえ、運転職としてのキャリア展望を見出しにくくなり、若年労働者を惹きつけることが難しくなったと考えられる。
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ネタバレ総務省の労働力調査での男性の年間就業時間は2232時間、長時間労働が問題になっている教員は2459時間、トラックドライバーは2684時間(いずれも2017年)。政府が進めている働き方改革の時間外労働の上限規制も、運送業は建設業ととともに、「5年後の施行」と猶予期間が設けられるとともに「年960時間」、一般労働者よりも240時間長く設定されている。「荷主に対する指導の徹底と取引環境の改善が必要」とのトラック協会等の意向が踏まえられたもの。長時間労働はトラック業界の常識も一般の非常識。賃金もかつての相対的な優位性は、もはやなく、若年層の成り手がなくなりつつある。
ドライバーの仕事は、本来貨物を運搬すること。しかし、貨物搬送の前と後には必ず「附帯業務」と言われる荷役作業がある。荷積みや荷卸しだけでなく、仕分けや棚入れ、ラベル貼り、検品、資材・廃材の回収、場合によれば商品の陳列作業もある。業務契約がないにも関わらず荷主優位の商慣行が蔓延し、サービスとして提供され、その負担をドライバーが担っている。納品場所での長時間待機が余儀なくされる場合もあれば、所定納品時間との関係で休憩時間の取得ができない場合もある。これらトラックドライバーには責任のない「無償のサービス労働」の是正が進まないと、ドライバーの労働時間の実質的短縮は実現できない。
これらのサービスの実施の背景には、業界の過当競争がある。1990年施行された物流二法で規制緩和が進み、事業者数はその後15年で1.5倍に増加。貨物輸送量が増えない中で、トンキロ当たり運賃が大きく低下。ジャストインタイム、少量多頻度納品等のサービス水準のアップの中で、積載率は1990年の49.3%から2015年には36.3%まで低下。ドライバー数が増加しない中で、事業者数が増加し、何層にもわたる下請け構造の中で、車両10両以下・従業員10名以下の事業者数が増加。零細性の強い産業特性が過当競争を助長し、実勢運賃の下落と杜撰な労務管理をもたらしてきた。
かつてドライバーの平均年齢は38歳強と男性労働者の平均より若かった。それが2001年に逆転し、2016年の大型ドライバーの平均は47.7歳と5歳弱高く、一般より高齢化が進んだ。有効求人倍率は2.33倍も、宅配便ドライバーはネット通販で需要が増えたことによる人出不足、大型・中型を中心とする貨物トラックは成り手が減ったことによる人出不足と、背景が違う。配達員の新規求職者数は0.76も、貨物自動車運転者は0.38。かつ新規求職者の2人に1人は45歳以上。従事する男性の84.4%が中卒・高卒者。高校を卒業して就職するものの率は1990年には35.2%も2016年には17.9%。若年労働力人口の減少に加え、中卒・高卒労働力の不足が、成り手の不足に拍車をかけている。女性の就業者数が極めて少ないのも大きな特徴。
かつてドライバーは「きついが稼げる仕事」だった。ただ、今日は所定内給与は平均男性の7割ほど。求人側が提示する賃金(求人賃金)の最高額が、求職者が望む賃金(求職賃金)の平均賃金額に達していない。20代前半の賃金は一般労働者より高いものの、かつては30代半ばまで優位だったのが20代後半で追いぬかれる状況。生涯賃金の獲得の展望もない。
トラック協会の調査では「収入が増えるなら、本当はもっと働きたい」と答える長距離ドライバーは58.6%もいる。「労働時間が短くなれば賃金が減ってしまう」と考えているから。一方「収入が増えたとしてもこれ以上は働きたくない」と答えるドライバーも37.9%と増加傾向。厚労省の「雇用動向調査」では、2000年代前半まで仕事を辞める理由は、労働時間・休日よりも給与の割合が高かったが、労働時間を上げる比率が徐々に高くなり、2010年代に入り労働時間・休日の方が上回るようになっている。賃金より労働時間を重視するようになりつつあり、それが転職行動にも表れている。共働き家庭の増加といった社会構造の変化がある。
ボストンコンサルティング・グループは、荷物増、積載効率の悪化、労働環境改善(超過労働時間50%削減)等で、2027年には、96万人のドライバー需要に対し72万人と24万人の不足と想定。物流業界はまさに「絶滅危惧業界」。
業界の構造的な問題は、是正は容易ではない。しかし、構造の是正へと進まないと物流危機は終わらない。「この業界では経済的規制の緩和が優先され、社会的規制の確保が後回しにされてきた。業界自体の存続が危ぶまれる中、社会的規制を機能させるため、経済的規制を強化することが考えなければならない」との著者の指摘は問題の核心をついている。
労使関係の研究者が、物流の現場で起きていることを労働問題としてとらえなおし、労使関係の観点から「物流危機」をもたらした原因を明らかにし、その解決策を考える。物流危機の背景を理解するために、読んでおくべき書。著者はまだ40代、今後の活躍に大いに期待。 -
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ネタバレ【なぜ賃金は上がらないのか】 首藤 若菜 著
表題について、気合の入った分析を行っています。特に前半部分では、実質賃金を「労働生産性×労働分配率×交易条件(-税・社会保障負担)」に分解してそれぞれを解説するとともに、このうち、何が「犯人」かをまるでミステリー小説のように追っていきます(ここは、読んでいてドキドキする)。後半は主に、筆者の得意分野である物流部門を軸に分析しますが、理論だけでなく実際の現場に密着した論理展開は頷けます。
ネタバレにならない程度にまとめると…、価格転嫁が起きにくい構造的問題の中で、調整弁として賃金、労働条件、税・社会保険が動員されてきたというものかと思います。さらに、安価な賃金に頼って設備投資も進まず、賃金の低さが、全体の「生産性の結果であると同時に、生産性向上を阻む要因」になっていると論じています。「現在は、その一部を財政が肩代わりしている」場合もあり、これから注視することを最も主張したかったと「あとがき」で述べています(だいぶネタバレしました…)。
ただ、人事もIRも経験した自身の私見では、やはり株主の圧力が強くなったことも大きな要因と思います。経営者に対して、労組はかつてのような勢いはない一方、株主・投資家圧力は相当強く、分配にあたっては後者を優先する結果になっていると思います。この点、筆者にも教えてあげなきゃいかんな~と勝手に思った一冊です。 -
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ネタバレ宅配の仕事は一般のトラックドライバーと異なり、運転以外の仕事が多く、労働密度が濃いため、ドライバーの平均より労働時間が短い。ドライバーも人間である以上、一定時間内に配達できる個数には自ずと限度がある。荷物の密度あいくら増加しても、労働生産性は無限に上がるのではなく、ある段階からはコスト削減効果が逓減していく。2018年1月、ヤマトは値上げ交渉をしていた大口顧客のうち6割が値上げに応じて契約を継続し、4割とは取引を解消した。荷主・利用者の利益(「お客様のため」)V.S.ワーク・ルール。トラックドライバーの歩合制では、運賃から経費(高速代金や燃料費)を差し引いた額の一定割合を歩合として受け取る場合が多い。帰り荷が見つからない中、運送各社は「空気を運ぶよりまし」と考え、非常に安い運賃でも仕事を引き受けがちになり、業界全体の運賃低下を加速させた。ジャスト・イン・タイムや単品管理は、日本企業の強みであるが、そうした効率的な生産システムや商品管理の裏側で、トラック業界が一気に非効率を引き受けてきた。渡したいの社会は、無駄に車両を走らせる物流を基礎に、便利で効率的な仕事や暮らしを獲得していった。労務管理上の業務を滞りなく遂行するには、ある程度の規模が必要。宅配便ビジネスは、幅広い配送ネットワークを構築することで輸送コストを下げることができる。このため、全国各地に巨大ターミナルを設け、高速自動仕分け機を導入し、多数のトラックを保有できる企業が勝ち残る、いわば「規模の経済」が働きやすい。それゆえ、宅配便ビジネスは、大量のドライバーを抱えるという意味で労働集約的でありながら、装置産業的な特性を持つ。P131~133日本郵便。物流というインフラになるためには、質も重要。環境への配慮、安全、労働力供給の持続性。運送業はサービスの差別化がしづらく、技術特性を発揮しにくいため、荷主との交渉力が弱い。2017年省エネ法の改正で通販業者も対象へ。自由な競争の結果として低価格競争が生じ、社会保険から脱退したり、違法な長時間労働を黙認する事業者が存在してきたのがトラック業界の実態。つまり、独禁法という法律を遵守する一方、労働関係の法律は半ば公然と破られてきた、という法体系が内包する矛盾がある。最低賃金制度(特に、特定の産業や職業ごとに定める「特定最低賃金制度」)の引き上げがポイントだが、適正な労働時間管理がなされることが必要。運賃はカルテルを結べないが、賃金は合法的にカルテルを行えうる(P194)。価格競争は際限なく進むわけではなく、いつかは下げ止まるが、そこで競争が終わるわけではなく、その次には非価格競争が待ち受けている。サービス業では、下がりきった価格の中で、いかにサービスの品質を向上させるかが競われる。商品価格に見合わない「過剰」なサービスのしわ寄せは、労働者へ向かう。だが、労働者もいつしか、そうした労働の達成をやりがいと捉え、安価な賃金で最大限のサービスを提供することが当たり前だと考えるようになる。荷主の細かなニーズに合わせて、非効率な運送を行う、という物流の在り方が、企業の在庫を最小化させ、生産コストを削減させてきた。つまり、トラック業界の生産性の低さが、他の産業の生産性向上に貢献してきた面がある。サービス産業の労働生産性について、サービス品質の国際的な違いが考慮されていないために、日本では高いサービス品質をもつ商品が割安な料金で提供され、その結果、労働生産性が低くなっている。
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まず、賃金が上がっているが、物価を踏まえた実質賃金は1990年ころからずっと上がっていない。であるから近頃言われる円安による輸入物価が直接の原因ではない。賃金が上がらないのは、「労働組合の弱腰だ」いう人に対し雇用を守るため力を尽くしたのだから、頑張った方だという。代わりに非正規雇用者増加した。
従業員が転職をしないからだ。「これからは転職の時代だ」という人がいる。そうなれば高い給料が払えない非効率な会社は自然に廃業していく。しかし、実際は転職により給料が上がった人は40歳以下でしかも上場企業から上場企業に転職する人に限られる。つまりスカウトでも来ない限りは現状維持か下がるということである。初めから中小企業の人は転職は自殺行為ということらしい。(40歳以下で一部上場会社からスカウトが来れば、または採用試験に合格すれば別であるが)
企業としては生産物の値段があげられない、それでも日本以外ではインフレが起きているため原材料が上がる。生産費を抑えるため人件費削減せざるを得ない。そこで「新しい機械を入れて合理化しろ」という人がいる。しかし、機械化して工場を海外移転していいのだろうか?労働組合は当然反対だ。
次は運送業界に代表される下請け制度だ、仕事量の増減があるため余った仕事は下請けに出す。自分の利益を守るため仕事に対する単価を下げて募集する。中規模運輸会社は維持できず。もっと価格交渉力がない小規模運輸会社が増える。これにより
ガソリンが上がっても仕事に対する単価は上がらず、賃金は少なくとも上がらない。
中には、物価が上がらないのだからこのままでいいのではないかという意見もあるが、原材料の値上げを従業員の賃金でカバーする。この体制はやはり正義とは言えないだろう。原材料の値上げは参加者全員(つまり賃金生活者以外も含めて)でカバーするのが正しいのではないかと思う。
確かに賃金生活者以外にも原材料の値上げを背負っていただくのが正義であるが、上場企業賃金生活者は楽になるが、中小企業の賃金生活者すぐに楽にはならない、便乗値上げもあるので、原材料の値上げをだけでなく、理由のない値上げまで引き受けなくてはならず、もっと苦しくなるかもしれないが、個人的にどうなるかはやってみないと分からない。会社であれば株式を持つもの、賃金生活者の住居を提供するもの、なども分け前を要求してくるからである。 -
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ネタバレベースアップや最低賃金の引き上げは、物価上昇率を上回る水準だったが、実質賃金はマイナス。
円安、エネルギー価格、上昇の時期の差、などが理由とされている。
大企業と最低賃金は上がったが、中間層、中小企業が上がっていない。社会保険料の負担増も原因。
過去30年間、実質賃金は持続的に上昇していない。これが常態化している。
時間当たりでは上昇しても、月では上昇していない=労働時間の減少。パート労働者の増加。長時間労働の是正などによる。
パート労働者も単価は上昇したが、労働時間は減少。年収の壁による影響。
日本の労働市場では需給の法則が成り立たない。人手不足だが賃金は上昇しない。人手不足の業界ほど賃金は上がっていない=介護、運輸、公共交通、建設など。
介護と公共交通は、料金が決められているので、人手不足を反映できない構造。
建設、運輸は、過当競争と重層下請け構造で料金が上がらない。
労働組合の交渉力不足だけではなく、価格と結びついているため。
過去30年、日本だけが実質GDP、実質賃金が伸びていない。価格に転嫁できない事情がある。
実質賃金は、名目賃金を物価指数(CPI)で割ったもの。
労働生産性と労働分配率と交易条件の組み合わせによる。
労働生産性の低さは、設備投資よりも人海戦術に頼ってきたから、と言われているが、価格が上昇しないから労働生産性が低い、という側面もある。
交易条件の悪化が、価格の上昇や企業利益の圧迫ではなく、賃金の停滞として表れている。
価格の上昇がシェアの喪失を懸念することで、抑えられた。
ヨーロッパでは、産業別交渉で、個別企業の価格上昇が全体へと波及しやすい。
日本では雇用を守るため賃金抑制、が広く共有されてきた。
賃金を抑えて交易条件の悪化を吸収するほうがコストがかからない。
運送業は2024年問題でも価格を上げられなかった。事業者数が多く、退出できない業界だから、価格交渉できない。下請け構造では、現場の価格交渉力がない。価格決定力はどこが握っているか。下請け構造ゆえに発注側に集中している。製造、建設、ITでも同じ構造がある。
ジャストインタイムは、トヨタにとって最適だが、業界全体では下請けにシワ寄せを引き取らせただけ。
需給の不均衡が退出ではなく賃金抑制による事業継続として表れた。結果として低付加価値で設備投資がないままに置かれている。
組合の賃金プレミアムは中小では確認されるが、大手では見られない。大手は組合がなくても賃金は上がる。
企業内組合は、賃金上昇よりも雇用の維持が主目的になりやすい。
賃上げと雇用の関係は、明確な結論が出ていない。賃上げが雇用の減少につながるのか、つながらないのか。
賃金上昇は離職の低下につながり、採用費用の抑制効果がある。
賃上げを起点に考えると、
賃金上昇→価格の見直し→利益率の回復→投資→生産性の改善。自然にはこれは起こらない。
労働移動の制約=賃金だけで労働は移動しない。
転職を考えている層は増えているが、転職自体は、女性、非正社員、サービス業、で増えているだけで、実際は増えていない。希望者は増加している。
人材の流動性が高いからといって賃金が上昇するとは限らない。
求人票の数字だけでは実際の処遇は判断できない。
船員の労働市場は、資格とキャリアを個別に表示できる制度が整っている。職域内で移動先の可視化が進み、転職が容易。しかし、未経験者を育てるという環境が育たない。中途採用が容易だったから。
労働移動は見通しがないまま行われるのが実際の状況。
かねてから、日本の賃金調整力は高いとされてきた。賞与の割合が高く、長期雇用を前提に配置転換が行われる。そこへ、需要の落ち込みと交易条件の悪化にあたって、それを発揮した結果、賃金が抑えられた。
現場が優秀で柔軟で責任感が高かったため、調整の負担がそこに集中した。
付加的なサービスによる追加コストが請求されない構造になっている。標準化よりも、顧客に合わせたサービスが現場で提供されて、それが当たり前になっている。
競争が自然と望ましい形になるとは限らない。事業者の淘汰が新たな事業者を生むだけ、であれば競争は価格上昇にはつながらない。 -
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ネタバレ本 間違いだらけの日本の物流
自社が営業所を持っていない地域の輸送には下請業者を活用。帰り荷を確保するため、復路は下請けの荷物を運んでしまう構造。待機料金や付帯業務料金を請求するための管理コストが高くなってしまう実務上の問題点。他社の荷物を自社の荷物と見せかけるために、商品ごと買い取って輸送するなど、自家輸送を装い、運送事業を行う白トラックの横行。小売の在庫情報は、卸売、メーカーとの共有化が図られていない。朝一番ということを着荷主側が指定していない場合も多く、発荷主側の営業がしている場合も多い。営業からすると朝一番にしておけば顧客から文句を言われることがないから。日本の消費財物流は「店着価格制」が一般的。店着価格制とは、買い手が支払う商品価値の中に、売り手が物流企業に支払う商品の納入に必要な物流費用が含まれている価格決定方式。 -
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ネタバレ人員整理の対象は、日本では中高年から、アメリカは若年層から。レイオフ制度と関連している。
雇用調整速度には、社旗制度が影響する。解雇規制、雇用調整助成金、調整を遅らせる合理性。企業特有に技能を必要とする職種は遅い。
欧米の労働組合は先任権制度がある。勤続年数の短い社員からレイオフされる。
コロナで、整備や貨物は余剰にならなかったが、客室乗務員や地上職員が余剰になった。
ANAの場合
雇調金と補填で100%の支払いをして休業させた。同時に役員報酬、管理職賃金もカット。
パイロットの採用は継続。教育訓練に時間がかかる。
一時金の大幅カット。同時に融資制度もつくった。
定昇は実施。社内資格制度への影響が大きい。
社会保険の負担額を半額より少なくしていたが、それをもどした。
全体では、変動給の減額もあって、2割程度の年収減。
サバティカル休暇制度をスタート。
在籍出向を拡大。
希望退職者を募集。
人員削減は、会社にとってもリスク。需要が戻ったときに対応できないおそれ。
業務の内製化によって、委託先で雇止め、希望退職が発生。
アメリカの場合
ロビー活動で航空会社への給与支援制度ができた。一時的には有効。その後は人員削減計画と、自発的休業を募集。休業は健康保険は継続され、勤続にも加算される。合わせて全体の3割くらい。
一時解雇は、復職者の待機リストに載って、順次呼び戻される。年功の逆順で一時解雇。復職は年功順。年功は継続される。待機リストに載っている人がいなくなるまでは新規採用をすることができない。若い人ほど利殖期間が長くなる。
パイロットは、訓練期間が長いため人員削減には慎重。賃金引き下げと自発的退職の募集。
一般従業員の賃金引下げは組合が受け入れなかった。一時解雇のほうが選択された。むしろ賃上げ交渉。労組の幹部は、レイオフでは解雇期間が短い人が多い。
イギリスの場合
人員削減と賃金カット。
ドイツの場合
人員削減、短時間勤務によるワークシェア
日本は賃金調整のスピードが速い。賞与があるため調整しやすい。月例賃金のカットは日本でも難しいが、それでも最終的には受け入れた。
航空業界は乗務手当など変動給が多いため、生活苦になりやすい。
アメリカは賃金調整には組合が同意しない。雇用よりも賃金水準の維持が優先される。
雇調金だけでは事業活動は支えられない。構造変化を阻害するかは議論がある。
雇用調整は欧米で速く、日本で遅い。
日本は、定年退職と採用抑制による自然減耗。
中小企業の雇用調整は欧米並みに早い。
日本の企業は内製率が低い。トヨタとフォルクスワーゲンでは従業員は2倍近くの差がある。
アメリカでも労働組合がある大手企業では、強制的解雇を簡単に実施するわけではない。自主的退職プログラムを歓迎する。
日本でも希望退職募集が行われるが後ろ向きのイメージがある。肩たたきが存在したから。アメリカでは労組が強要されないよう呼びかけた。
長期的な雇用調整制度として出向がある。以前は40~50歳代、近年は低下傾向。
百貨店の場合
店舗閉鎖は数年前から予測を告げられる。半数は出向
転籍、残りはグループ外への出向。銀行のATM接客係など。雇用の確保、から雇用の場の確保、へ。
一時的な不況に対しては残業を減らし、雇調金を活用する。中長期では配置転換、自然減耗で対応。次に出向や転籍。転籍後も面倒を見る。
長期雇用は、配転、転勤、出向を正当化する根拠となってきた。
休業手当をめぐって
会社の補填によって100%支給されるのは不公平という意見。モラルハザードを起こさない制度設計が必要。