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食品から日用品まで、何もかも驚くほど高くなった。
スーパーで目にする野菜の値段が少しずつ上がっているなと思っていたら、「令和のコメ騒動」が起き、同じ価格でも内容量を減らす「ステルス値上げ」が普通になった。
長く続いたデフレの時代が終わり、生活必需品の値上がりが、暮らしを直撃している。
その分賃金などの収入が上がっていればいいのだが、一向にその実感はない。賃金の上昇率から物価の上昇分を引いた「実質賃金」は4年近くもマイナスが続いていることが示すように、その実感は、統計にもはっきり表れている。
物価上昇のしわ寄せが、暮らしを直撃しているのだ。
いったいなぜこんなことになってしまったのか。
急激な円安によって輸入品やエネルギー価格が上がったためなのか。
企業が値上げで儲かった分を労働者に還元せず、「内部留保」として貯めこんでいるためか。
日本人の働き方は効率が悪く、「労働生産性」が低いためか。
各企業の労働組合の交渉力が弱く、大企業の言うがままになってしまっているのか。
本書では、こうした俗説を一つひとつ検証し、その当否を探っていく。
もう一つ、いま労働の現場でもっともよく聴かれる言葉が「人手不足」である。
とくに飲食や宿泊などのサービス業では、客を集める人気店でも人出が足りないために接客ができず、予約を断るケースもある。
また、介護や医療などの現場の人手不足も深刻で、外国人材の手を借りないと維持できないことがはっきりしている。
なのになぜ、賃金は上がらないのか。
第一線の労働経済学者として活躍する筆者は、物流や運送業界などの現場の声を聴き、その実態を見ることから、日本の賃金が上がらない本当の理由を明かす。
人手不足に悩む労働の現場では、いままで8人で担っていた仕事を7人で回し、同レベルの成果を出す「効率化」を進めてきた。
しかし、現場の労働者の献身的な努力や「カイゼン」によって「効率化」すること自体が、実は、日本の低賃金を固定化している可能性がある、と筆者は言う。
それはいったいどのようなメカニズムによって起こっているのか。
緻密なフィールドワークを基礎とする研究を重ね、日本の低賃金の謎に真正面から挑んだ、画期的な論考。
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Posted by ブクログ
名著であると思う。
以前河野龍太郎『日本経済の死角』(ちくま新書、2025)が、過去30年、日本の生産性は諸外国と同様上昇していたにもかかわらず、ただ日本のみが勤労者の所得の上昇をもたらさなかった事情を明らかにした。
端的にいえば、少子高齢化による国内購買力の低下を見越して、国内よりも国外での投資にシフトしたこと、および将来の経営危機を見据えて株主への配当さえ抑えて内部留保の積み増しに走ったことである。
ど素人ながらマクロ的な見方としては概ね正確なのではないかと感心していた。
首藤若菜の本書は、このマクロ経済学上の行動主体、国・企業・労働組合それぞれの詳細に踏み込む。その分析は説得的である。
とりわけ企業分野において物流を担う運送業界の考察は見事というほかはない。
少し考えればわかるが、粗密の差はあれ、都市/農村に散らばるコンビニエンスストアの似たような商品構成と価格を背後で支えているのは、運送業の企業でありそこで働くトラックドライバーたちである。彼らの賃金がなぜ上がらないのか。大中小企業間の熾烈な過当競争が背後にあることを明らかにしている。
Posted by ブクログ
まず、賃金が上がっているが、物価を踏まえた実質賃金は1990年ころからずっと上がっていない。であるから近頃言われる円安による輸入物価が直接の原因ではない。賃金が上がらないのは、「労働組合の弱腰だ」いう人に対し雇用を守るため力を尽くしたのだから、頑張った方だという。代わりに非正規雇用者増加した。
従業員が転職をしないからだ。「これからは転職の時代だ」という人がいる。そうなれば高い給料が払えない非効率な会社は自然に廃業していく。しかし、実際は転職により給料が上がった人は40歳以下でしかも上場企業から上場企業に転職する人に限られる。つまりスカウトでも来ない限りは現状維持か下がるということである。初めから中小企業の人は転職は自殺行為ということらしい。(40歳以下で一部上場会社からスカウトが来れば、または採用試験に合格すれば別であるが)
企業としては生産物の値段があげられない、それでも日本以外ではインフレが起きているため原材料が上がる。生産費を抑えるため人件費削減せざるを得ない。そこで「新しい機械を入れて合理化しろ」という人がいる。しかし、機械化して工場を海外移転していいのだろうか?労働組合は当然反対だ。
次は運送業界に代表される下請け制度だ、仕事量の増減があるため余った仕事は下請けに出す。自分の利益を守るため仕事に対する単価を下げて募集する。中規模運輸会社は維持できず。もっと価格交渉力がない小規模運輸会社が増える。これにより
ガソリンが上がっても仕事に対する単価は上がらず、賃金は少なくとも上がらない。
中には、物価が上がらないのだからこのままでいいのではないかという意見もあるが、原材料の値上げを従業員の賃金でカバーする。この体制はやはり正義とは言えないだろう。原材料の値上げは参加者全員(つまり賃金生活者以外も含めて)でカバーするのが正しいのではないかと思う。
確かに賃金生活者以外にも原材料の値上げを背負っていただくのが正義であるが、上場企業賃金生活者は楽になるが、中小企業の賃金生活者すぐに楽にはならない、便乗値上げもあるので、原材料の値上げをだけでなく、理由のない値上げまで引き受けなくてはならず、もっと苦しくなるかもしれないが、個人的にどうなるかはやってみないと分からない。会社であれば株式を持つもの、賃金生活者の住居を提供するもの、なども分け前を要求してくるからである。
Posted by ブクログ
【なぜ賃金は上がらないのか】 首藤 若菜 著
表題について、気合の入った分析を行っています。特に前半部分では、実質賃金を「労働生産性×労働分配率×交易条件(-税・社会保障負担)」に分解してそれぞれを解説するとともに、このうち、何が「犯人」かをまるでミステリー小説のように追っていきます(ここは、読んでいてドキドキする)。後半は主に、筆者の得意分野である物流部門を軸に分析しますが、理論だけでなく実際の現場に密着した論理展開は頷けます。
ネタバレにならない程度にまとめると…、価格転嫁が起きにくい構造的問題の中で、調整弁として賃金、労働条件、税・社会保険が動員されてきたというものかと思います。さらに、安価な賃金に頼って設備投資も進まず、賃金の低さが、全体の「生産性の結果であると同時に、生産性向上を阻む要因」になっていると論じています。「現在は、その一部を財政が肩代わりしている」場合もあり、これから注視することを最も主張したかったと「あとがき」で述べています(だいぶネタバレしました…)。
ただ、人事もIRも経験した自身の私見では、やはり株主の圧力が強くなったことも大きな要因と思います。経営者に対して、労組はかつてのような勢いはない一方、株主・投資家圧力は相当強く、分配にあたっては後者を優先する結果になっていると思います。この点、筆者にも教えてあげなきゃいかんな~と勝手に思った一冊です。
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