【感想・ネタバレ】なぜ賃金は上がらないのか 日本経済30年の陥穽のレビュー

あらすじ

食品から日用品まで、何もかも驚くほど高くなった。
スーパーで目にする野菜の値段が少しずつ上がっているなと思っていたら、「令和のコメ騒動」が起き、同じ価格でも内容量を減らす「ステルス値上げ」が普通になった。
長く続いたデフレの時代が終わり、生活必需品の値上がりが、暮らしを直撃している。
その分賃金などの収入が上がっていればいいのだが、一向にその実感はない。賃金の上昇率から物価の上昇分を引いた「実質賃金」は4年近くもマイナスが続いていることが示すように、その実感は、統計にもはっきり表れている。
物価上昇のしわ寄せが、暮らしを直撃しているのだ。
いったいなぜこんなことになってしまったのか。
急激な円安によって輸入品やエネルギー価格が上がったためなのか。
企業が値上げで儲かった分を労働者に還元せず、「内部留保」として貯めこんでいるためか。
日本人の働き方は効率が悪く、「労働生産性」が低いためか。
各企業の労働組合の交渉力が弱く、大企業の言うがままになってしまっているのか。
本書では、こうした俗説を一つひとつ検証し、その当否を探っていく。
もう一つ、いま労働の現場でもっともよく聴かれる言葉が「人手不足」である。
とくに飲食や宿泊などのサービス業では、客を集める人気店でも人出が足りないために接客ができず、予約を断るケースもある。
また、介護や医療などの現場の人手不足も深刻で、外国人材の手を借りないと維持できないことがはっきりしている。
なのになぜ、賃金は上がらないのか。

第一線の労働経済学者として活躍する筆者は、物流や運送業界などの現場の声を聴き、その実態を見ることから、日本の賃金が上がらない本当の理由を明かす。
人手不足に悩む労働の現場では、いままで8人で担っていた仕事を7人で回し、同レベルの成果を出す「効率化」を進めてきた。
しかし、現場の労働者の献身的な努力や「カイゼン」によって「効率化」すること自体が、実は、日本の低賃金を固定化している可能性がある、と筆者は言う。
それはいったいどのようなメカニズムによって起こっているのか。
緻密なフィールドワークを基礎とする研究を重ね、日本の低賃金の謎に真正面から挑んだ、画期的な論考。

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Posted by ブクログ

経済学の本を読み始めてから、物価と賃金には大いに興味があります。
実質賃金の停滞は、賃金労働者にとどまらず、物価の変動を通じて生活する人すべてに影響する問題であり、日本で停滞が続いてきた構造を明らかにするのが本書の目的です。

賃金上昇と経済成長という視点で考えると、日本で起こっているのは、「低賃金→低消費→低価格→低利益→低投資→低賃上げ」という悪循環。
それがどこから始まるのかはともかく、賃金が上がらないという問題は経済全体の成長にも悪影響を及ぼすものであり、このことが日本の経済停滞の大きな原因でもあると思います。
日本では商品の値上げが忌避される傾向にあり(価格はそのままに量を減らすステルス値上げなんかがその例)、価格ではなく賃金が企業内で調整されるという構造が固定化されてきたため、生産コストが上昇しても価格に転嫁しにくく、賃上げは企業の「負担増」と捉えられてしまいそれを抑制する方向に働くことから、人手不足の中にあっても賃金が上がりにくい、というサイクルが出来上がってしまっているようです。

また、生産コストを価格に転嫁できないのであれば、そのしわ寄せは労働者にいってしまうという一面もあります。
特に日本では、コストの上昇を「現場の努力」で吸収・解決してしまうという特徴もあり、このことは、賃金の抑制や果ては人員の削減まで、言ってみれば現場に負担を引き受けさせる構造の温存にもつながってしまうのです。
現場の優秀さゆえに負担がそこに集中し、問題が表面化しにくいという逆説的な構図がそこにはあるようです。

賃上げを行っていくためには、価格転嫁や取引条件の見直し(下請けの場合)といった経済構造の転換にまで踏み込む必要がありそうです。
日本では、価格を据え置くことや価格を実質的に引き下げることが、誠実さや企業努力の証として評価されてきた面もありますが、こういった評価を改めていくことも大事なのでしょう。

著者が示す好循環は、「賃金が上がる→価格が見直される→利益率が回復し投資の余地が生まれる→投資が進み生産性の改善につながる」というものです。
賃上げ(広い意味では「人件費」と言っていいかも)を抑制することで成り立ってきた経済の構造を、価格や利益を含む社会全体で引き受ける構造へと変えられるかどうかが大きなポイントになるようです。

私個人としては、消費者の立場に立てば、物価は安ければ安いほどいいのですが、一方で生産者の立場に立てば、適正な価格転嫁がなされない限り賃金も利益も上がらない、と常々思っています。
その点において、最近物価が動き出した(国民が少しずつ値上げを許容し始めてきた?)ことはむしろ好ましい現象だと捉えています。
渡辺努先生の物価の本も大いに勉強になるものでしたが、本書も日本経済の行く先を考える上で大いに示唆に富むものだったと思います。

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2026年10月19日

Posted by ブクログ

名著であると思う。
以前河野龍太郎『日本経済の死角』(ちくま新書、2025)が、過去30年、日本の生産性は諸外国と同様上昇していたにもかかわらず、ただ日本のみが勤労者の所得の上昇をもたらさなかった事情を明らかにした。
端的にいえば、少子高齢化による国内購買力の低下を見越して、国内よりも国外での投資にシフトしたこと、および将来の経営危機を見据えて株主への配当さえ抑えて内部留保の積み増しに走ったことである。
ど素人ながらマクロ的な見方としては概ね正確なのではないかと感心していた。
首藤若菜の本書は、このマクロ経済学上の行動主体、国・企業・労働組合それぞれの詳細に踏み込む。その分析は説得的である。
とりわけ企業分野において物流を担う運送業界の考察は見事というほかはない。
少し考えればわかるが、粗密の差はあれ、都市/農村に散らばるコンビニエンスストアの似たような商品構成と価格を背後で支えているのは、運送業の企業でありそこで働くトラックドライバーたちである。彼らの賃金がなぜ上がらないのか。大中小企業間の熾烈な過当競争が背後にあることを明らかにしている。

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2026年09月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【なぜ賃金は上がらないのか】 首藤 若菜 著

 表題について、気合の入った分析を行っています。特に前半部分では、実質賃金を「労働生産性×労働分配率×交易条件(-税・社会保障負担)」に分解してそれぞれを解説するとともに、このうち、何が「犯人」かをまるでミステリー小説のように追っていきます(ここは、読んでいてドキドキする)。後半は主に、筆者の得意分野である物流部門を軸に分析しますが、理論だけでなく実際の現場に密着した論理展開は頷けます。

 ネタバレにならない程度にまとめると…、価格転嫁が起きにくい構造的問題の中で、調整弁として賃金、労働条件、税・社会保険が動員されてきたというものかと思います。さらに、安価な賃金に頼って設備投資も進まず、賃金の低さが、全体の「生産性の結果であると同時に、生産性向上を阻む要因」になっていると論じています。「現在は、その一部を財政が肩代わりしている」場合もあり、これから注視することを最も主張したかったと「あとがき」で述べています(だいぶネタバレしました…)。

 ただ、人事もIRも経験した自身の私見では、やはり株主の圧力が強くなったことも大きな要因と思います。経営者に対して、労組はかつてのような勢いはない一方、株主・投資家圧力は相当強く、分配にあたっては後者を優先する結果になっていると思います。この点、筆者にも教えてあげなきゃいかんな~と勝手に思った一冊です。

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2026年09月24日

Posted by ブクログ

なかなか面白い視点を示してくれた。絶対的な答えは見出せていないが、検討すべき可能性のようなものがいくつか見えた気はする。根本は価格転嫁と費用構造にあるのかと。(違うかも知れないが)
著者は物流、ロジスティクスをフィールドにしているようで、取り上げられた例や課題が個人的には大変なじみやすかったというおまけもついていた。

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2026年08月26日

Posted by ブクログ

まず、賃金が上がっているが、物価を踏まえた実質賃金は1990年ころからずっと上がっていない。であるから近頃言われる円安による輸入物価が直接の原因ではない。賃金が上がらないのは、「労働組合の弱腰だ」いう人に対し雇用を守るため力を尽くしたのだから、頑張った方だという。代わりに非正規雇用者増加した。
従業員が転職をしないからだ。「これからは転職の時代だ」という人がいる。そうなれば高い給料が払えない非効率な会社は自然に廃業していく。しかし、実際は転職により給料が上がった人は40歳以下でしかも上場企業から上場企業に転職する人に限られる。つまりスカウトでも来ない限りは現状維持か下がるということである。初めから中小企業の人は転職は自殺行為ということらしい。(40歳以下で一部上場会社からスカウトが来れば、または採用試験に合格すれば別であるが)
企業としては生産物の値段があげられない、それでも日本以外ではインフレが起きているため原材料が上がる。生産費を抑えるため人件費削減せざるを得ない。そこで「新しい機械を入れて合理化しろ」という人がいる。しかし、機械化して工場を海外移転していいのだろうか?労働組合は当然反対だ。
 次は運送業界に代表される下請け制度だ、仕事量の増減があるため余った仕事は下請けに出す。自分の利益を守るため仕事に対する単価を下げて募集する。中規模運輸会社は維持できず。もっと価格交渉力がない小規模運輸会社が増える。これにより
ガソリンが上がっても仕事に対する単価は上がらず、賃金は少なくとも上がらない。
 中には、物価が上がらないのだからこのままでいいのではないかという意見もあるが、原材料の値上げを従業員の賃金でカバーする。この体制はやはり正義とは言えないだろう。原材料の値上げは参加者全員(つまり賃金生活者以外も含めて)でカバーするのが正しいのではないかと思う。
 確かに賃金生活者以外にも原材料の値上げを背負っていただくのが正義であるが、上場企業賃金生活者は楽になるが、中小企業の賃金生活者すぐに楽にはならない、便乗値上げもあるので、原材料の値上げをだけでなく、理由のない値上げまで引き受けなくてはならず、もっと苦しくなるかもしれないが、個人的にどうなるかはやってみないと分からない。会社であれば株式を持つもの、賃金生活者の住居を提供するもの、なども分け前を要求してくるからである。

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2026年07月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ベースアップや最低賃金の引き上げは、物価上昇率を上回る水準だったが、実質賃金はマイナス。
円安、エネルギー価格、上昇の時期の差、などが理由とされている。
大企業と最低賃金は上がったが、中間層、中小企業が上がっていない。社会保険料の負担増も原因。
過去30年間、実質賃金は持続的に上昇していない。これが常態化している。
時間当たりでは上昇しても、月では上昇していない=労働時間の減少。パート労働者の増加。長時間労働の是正などによる。
パート労働者も単価は上昇したが、労働時間は減少。年収の壁による影響。
日本の労働市場では需給の法則が成り立たない。人手不足だが賃金は上昇しない。人手不足の業界ほど賃金は上がっていない=介護、運輸、公共交通、建設など。
介護と公共交通は、料金が決められているので、人手不足を反映できない構造。
建設、運輸は、過当競争と重層下請け構造で料金が上がらない。
労働組合の交渉力不足だけではなく、価格と結びついているため。

過去30年、日本だけが実質GDP、実質賃金が伸びていない。価格に転嫁できない事情がある。
実質賃金は、名目賃金を物価指数(CPI)で割ったもの。
労働生産性と労働分配率と交易条件の組み合わせによる。
労働生産性の低さは、設備投資よりも人海戦術に頼ってきたから、と言われているが、価格が上昇しないから労働生産性が低い、という側面もある。
交易条件の悪化が、価格の上昇や企業利益の圧迫ではなく、賃金の停滞として表れている。
価格の上昇がシェアの喪失を懸念することで、抑えられた。
ヨーロッパでは、産業別交渉で、個別企業の価格上昇が全体へと波及しやすい。
日本では雇用を守るため賃金抑制、が広く共有されてきた。
賃金を抑えて交易条件の悪化を吸収するほうがコストがかからない。
運送業は2024年問題でも価格を上げられなかった。事業者数が多く、退出できない業界だから、価格交渉できない。下請け構造では、現場の価格交渉力がない。価格決定力はどこが握っているか。下請け構造ゆえに発注側に集中している。製造、建設、ITでも同じ構造がある。

ジャストインタイムは、トヨタにとって最適だが、業界全体では下請けにシワ寄せを引き取らせただけ。
需給の不均衡が退出ではなく賃金抑制による事業継続として表れた。結果として低付加価値で設備投資がないままに置かれている。

組合の賃金プレミアムは中小では確認されるが、大手では見られない。大手は組合がなくても賃金は上がる。
企業内組合は、賃金上昇よりも雇用の維持が主目的になりやすい。

賃上げと雇用の関係は、明確な結論が出ていない。賃上げが雇用の減少につながるのか、つながらないのか。
賃金上昇は離職の低下につながり、採用費用の抑制効果がある。
賃上げを起点に考えると、
賃金上昇→価格の見直し→利益率の回復→投資→生産性の改善。自然にはこれは起こらない。

労働移動の制約=賃金だけで労働は移動しない。
転職を考えている層は増えているが、転職自体は、女性、非正社員、サービス業、で増えているだけで、実際は増えていない。希望者は増加している。
人材の流動性が高いからといって賃金が上昇するとは限らない。
求人票の数字だけでは実際の処遇は判断できない。
船員の労働市場は、資格とキャリアを個別に表示できる制度が整っている。職域内で移動先の可視化が進み、転職が容易。しかし、未経験者を育てるという環境が育たない。中途採用が容易だったから。
労働移動は見通しがないまま行われるのが実際の状況。

かねてから、日本の賃金調整力は高いとされてきた。賞与の割合が高く、長期雇用を前提に配置転換が行われる。そこへ、需要の落ち込みと交易条件の悪化にあたって、それを発揮した結果、賃金が抑えられた。
現場が優秀で柔軟で責任感が高かったため、調整の負担がそこに集中した。
付加的なサービスによる追加コストが請求されない構造になっている。標準化よりも、顧客に合わせたサービスが現場で提供されて、それが当たり前になっている。
競争が自然と望ましい形になるとは限らない。事業者の淘汰が新たな事業者を生むだけ、であれば競争は価格上昇にはつながらない。

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2026年10月13日

Posted by ブクログ

給料は上がったものの、物価高に追いつかず、生活の余裕が失われている現実に直面し、本書を手に取りました。外食や旅行といった楽しみを我慢せざるを得ない現状に、改めて危機感を覚えています。

本書は一度読んだだけでは深く理解するのが難しい内容でしたが、「物価上昇に対して賃金が上がらない」という厳しい現実と、今後どう向き合うべきかを深く考えさせられました。情報を収集し、それを基に行動することの重要性を再認識できたのは大きな収穫です。内容はまだ咀嚼しきれていない部分も多いですが、現状を打破するためのヒントを得るべく、繰り返し読み込みたい一冊です。

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2026年07月11日

Posted by ブクログ

7章まではやや退屈だなぁと思いながら読んだけど、興味深く読んだのは8章。
人の移動と賃金の変化についての言及。
船員の労働市場あたり

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2026年07月09日

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