解説が楠木建だった。面白かった。
考察するために選ばれたのは、マリー・キュリー、トマス・エジソン、アルバート・アインシュタイン、ベンジャミン・フランクリン、スティーブ・ジョブズ、ディーン・ケーメン、イーロン・マスク、ニコラ・テスラ。
…彼らが独創的な思索家になる後押しをしたのは、孤立だった。孤立に
...続きを読むよって支配的な考え方や規範から自由でいられたし、たとえそういったものに向き合わなければならなくなっても、どこにも所属していないという感覚のおかげで、それを受け入れない選択をする場合が多かった。
輝かしい成功を収めた者が退学経験者だと聞くと、教育は成功に無関係であり、むしろ妨げになるのではないかと思う人も多いかもしれないが、もちろんそんなことはない。現に私が研究した優れたイノベーター全員が熱心に独学に取り組んでいる。
そうした研究結果をまとめると、ブレインストーミングがグループの創造性を低下させるのは、人のアイデアを聞いているあいだに自分のアイデアを忘れてしまったり、斬新なアイデアが浮かんでも人にどう評価されるか心配で発表するのをためらったりするからであることがわかる。このことにずっと以前から気づいていたのが、SFの巨匠でボストン大学の生化学教授、アイザック・アシモフだった。彼は1959年のエッセイで次のように書いている。「創造には孤独が必要であると私は感じている。創造性のある者はとにかく不断に努力するものだ。無意識のときですら、常に頭の中で情報をシャッフルしている。創造とはばつの悪い行為なので、他者の存在はこのプロセスの邪魔になるだけだ。ひとつの優れたアイデアを考え出すまでに、何百、何千ものばかげたアイデアが浮かぶが、そんなものを人に見せる人間はいない」
ヴァロー・エクイティ・パートナーズ社のCEOで、友人であり、テスラ・モーターズ、スペースX両社への出資者でもあるアントニオ・グレーシャスは、この時期のイーロンの精神力と強固な意志に深く感銘を受けたという。「これまで出会った中で、彼ほど身を粉にして働き、ストレスを耐え抜く力をもつ者はひとりもいなかった。2008年に彼が経験したことは、どんな人間の気力も奪い取ってしまうものだった。彼はそれを生き延びただけではない。働き続け、常に集中力を保っていた。あれほどのプレッシャーにさらされれば、ほとんどの人間はボロボロになってしまう。間違った決断をするようになる。イーロンは極端なまでに論理的な人間だ。長期的な判断も明確に下すことができる。困難であればあるほど、ますます良い判断をする。彼が経験したことを直接目にすれば、ますます尊敬の念を深くするに違いない。あれほどの苦しみに耐えられる力を見たのは初めてだ。」
並外れて高い自己効力感の持ち主がみな非同調的な思考や行動を選ぶわけではないが、その可能性は極めて高い。自分が一般人より分別があると思えば、一般人の意志に屈するのを潔しとしないだろう。一風変わったアイデアを思いつく人は決して少なくないが、その多くは自信をもてず、批判の気配が生じるやアイデアを放棄してしまう。もし自分のアイデアが優れたものであればそれほど批判されないはずだとか、もしかしたらすでに実行されているのかもしれないと考えがちだ。自分のアイデアが常識を逸脱しているのは、それが良いアイデアではないからだと思ってしまう。ところが自己効力感の高い人は、非常識を否定的なしるしとは考えない。自分にはそのアイデアの価値を評価する能力があると思い、他人の「理解」を求めないからだ。
経験への開放性が拡散的思考や創造力と関連があることは、多くの研究で証明されている。幅広い興味と幅広い経験をミキサーにかければ、さらに風変わりな連想につながるのは間違いない。さらに、複雑さと曖昧さを寛容に受けとめる性格は異端的思考を促し、高度な抽象化を可能にする。
…ジョブズは言う。「専念というと、専念すべきことに”イエス”ということだと思われがちだが、そうではない。むしろ、ほかに無数にある良いアイデアに”ノー”と言うことなんだ。だから、選択は慎重に行わなければならない。私はこれまで行ってきたことにも、行ってこなかったことにも満足している。イノベーションとは、1000のアイデアに”ノー”と言うことだ。」
私は、イノベーションについて指導したり、起業家やイノベーターに助言したりする仕事を何年も続けるうちに、ある事実に気づいた。起業家やイノベーターが画期的なアイデアを思いついたとしても、周囲の人間がそれを理解してくれない場合が往々にしてあることだ。周囲の人間には、イノベーターのビジョンが見えていない。イノベーターの感じるスリルを感じていない。そのため、彼らのアイデアに深い疑念を抱いてしまうのだ。イノベーターの説明によって周囲の者が納得してくれる場合もあるが、うまく説明できないからといって、それが良いアイデアではないとは限らない。イノベーターが画期的なアイデアを生み出し、それを追い求めることができるのは、周囲の人間には理解できない理由があるからだ。彼らは前提を疑うことができるうえ、自己効力感が人一倍高い。だからこそ、ほかの人にはばかばかしく思えるアイデアを思いつき、その実現に向けて努力できる。ほかの者にいくらばかげていると言われても、嬉々としてアイデアの実現に取り組める。そもそも他人に認めてもらうことなど頭にはないのだ。他人が同意しようがしまいが、自分は正しいと信じている。だから私もいまでは、イノベーターからアイデアを聞いても、その将来性の判断はしないことにしている。その代わりに、周囲の誰もがそれを理解してくれるとは思わないようにとアドバイスしている。また、彼らが実現可能と考えている構想に基づいて適切な判断ができるように、必要なツールを提供するよう心がけている。