川崎徹のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『しかしそれは晩年の今村監督から逆算した、わたしが捏造した記憶であるようにも思う。そんなはずはないのに、そこだけにスポットライトがあたっているようだった』-『石を置き、花を添える』
記憶と想像のあわいをすすむような印象、と初めて川崎徹の著作を読んだ時に思った。それはエッセイとも小説とも、すっぱりと決めて呼んでしまうことが躊躇われるような読後感だった。再び川崎徹の著作を手にして、やはり、と思い返す。
どこまでも記憶を辿るような話が進んでゆくようでありながら、そこにはにわかに事実とは思えないような(と書くのは少し大げさ過ぎるし、読んで受け取る印象からすれば事実ではなく、それらは極めて自然に文字 -
Posted by ブクログ
静謐な空気が言葉の隙間から漂い出てくるような錯覚に駆られる。日常の行為の中で去来する様々な思い。それは、目の前の出来事と過去を結びつけたかと思えば、穏やかな言葉のやり取りの中に忍び込む無口な怒りを気づかせたり、と忙しく動いているかのように思える。しかし一つの思いと次の思いの間には隙間が無いようでいて、実は何も無い時間が過ぎていったようでもある。その時間の思いがけない長さが不思議でもあり、自然でもある。
一体これは小説と呼ぶべきなのかそれとも随筆のようなものか。小説と呼ぶには作家と一人称で語る人物の重なり方には余りに隙がない。語られる言葉から立ち上がる世界は自分と地続きの世界であるようにすら見 -
Posted by ブクログ
ネタバレ両親も亡くなり、残された家で自分を溺愛するあまりに心中を持ち掛けてくるメス猫とのひっそりとした生活。
自分も高齢になり、毎年かかさず受けている健康診断で、予期せぬ陰が見つかり、腐れ縁の巨体の男と噛み合っているのかもよくわからないような話をしながら食事をするひととき。
「傘と長靴」で公園に住んでいる猫たちの餌の面倒をみる男の話が印象的。
増減する猫たち、交通事故や悪意を持った人たちによって翻弄される過酷な野良生活。
猫大好きー。
本が出版される頃にはまだ地域猫っていう考え方はまだ浸透していない時期かな?
どの生き物にも共通していることだけど、明日生きているか定かではない状況にいる猫たちに -
Posted by ブクログ
私小説的死生観~「傘と長靴」母が死んで以来一人暮らしだった父が死に、駅まで傘と長靴を持って父を迎えに行っていた頃を思い出す一方、公園の野良猫に餌を与えるために早朝自転車に乗る。「猫の水につかるカエル」父の家から引き取ったのはソファで父を思い出すが、一方で年に一度の人間ドックで膵臓に何かが発見され、精密検査を受けるように薦められると猫が心中を申し出てきてもひたすら断るが、猫のために庭に用意した水入れ代わりに使っている弁当箱に住み着いたカエルに水を与えながら部屋の中を見ると、そこに私はいない~余り人に近づかない父が死んで、公園で姿を消した猫たちと重ね合わせ、母が遺したコートと父が遺したソファが色々