リチャード・ボールドウィンのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
本書はトランプ関税について、その背景、米国内においてはなぜ目的を達成することができないか、世界貿易秩序への影響、その対策を平易かつ論理的に解説した良書。著者は経済学者であり、かつて日米貿易交渉を担当した実務経験もある。
本書の内容は説得力があり、トランプ関税はその目的を達成することはできないが、世界貿易体制の転換となるものであることが理解できる。
内容のポイントは以下の通り。
著者が貿易ハッキングと呼ぶトランプ関税の根底には「不満ドクトリン」がある。「不満ドクトリン」とは「米国内のグローバリストに裏切られ、外国に食い物にされ、その結果、中間層が代償を払っており、これを報復と強制により回復しなければいけない」というものである。
そしてトランプ関税による混乱は「信じられないほどの資質の欠如」か「策略がひそむ悪意」かまたはその両方である。
関税では中間層を救えない→中間層で製造業に従事しているのは10%に満たない数だから。
関税でアメリカの産業の再建はできない→投資、教育、インフラ、関係者間の調整が必要
関税では貿易赤字は解消できない→貿易収支は支出(個人消費+民間投資+政府支出および総投資)と所得の差(理論でもグローバリストの主張でもなく、会計、算数の問題)
アメリカは自ら築き上げてきた自由貿易のルールの破壊者に回った。WTOの重要なルール「無差別原則」「関税譲許」「紛争解決制度」に対して攻撃を行っている。「無差別原則」とは、ひとつの国に対して貿易障壁を下げた場合、ほかのすべてのWTO加盟国に対しても同じように障壁を引き下げなければならないということ。「関税譲許」とは、国際協定に基づき、特定の輸入品に対して「一定以上の関税を課さない」、または「関税を撤廃・引き下げる」と相手国に約束すること。
世界の他の国に対する処方箋としては、第一に「ルールに基づく貿易体制を守るため、ルールを遵守する」ということ。そして戦略的選択として、待機(米国内の苦境を待つ)、防御(米国の世界貿易に占める割合は15%であり、残りの85%を守り抜く)、行動(攻めの多国間主義)を提案している。
著者が今後の可能性として想定するシナリオは4つ。①1930年代型の混沌②コントロールの利いた多国間体制の漂流③貿易ブロックの対立④アメリカ抜きの再グローバル化。
④アメリカ抜きの再グローバル化は可能性は低いが、このシナリオを取れれば世界経済は順調に成長し、WTOも協調の中心拠点となり得るとしている。そのためには「集団的リーダーシップ」が必要とされ、それはEU、中国、日本、イギリス、韓国、インドなどによる緩やかな連携に基づく協力体制であり、2017年にトランプが離脱宣言をした後の環太平洋経済連携協定(TPP)を日本が集団的リーダーシップでまとめ上げた経験をモデルとして例示している。
【原題】
THE GREAT TRADE HACK :
How Trump's Trade War Fails and the World Moves on
【目次】
日本語版序文
第1章 貿易の大ハッキング
第2章 不満ドクトリン
第3章 カオス 意図したものか、機能不全か
第4章 関税は中間層の助けにならないが、それでもワシントンで支持される理由
第5章 関税では産業の復活はできない
第6章 関税では貿易赤字は解消できない
第7章 アメリカと中国の対立は貿易戦争ではない
第8章 貿易ハッキングは世界を分断するか
第9章 ハッキングによって世界貿易秩序は壊されたのか
第10章 ポスト・アメリカ主導時代への戦略
第11章 なぜリーダーたちは立ち上がらなければならないのか
付録1 関税と工業化の歴史上の事例/付録2 貿易赤字を改善すると考えられていた革新的出来事が、為替レートで相殺されたことを示すわかりやすいふたつの事例
監訳者解説 -
Posted by ブクログ
なんて凄い本だ。あらゆる人に読んでほしい。政策立案に関与する人には特に読んでほしい。
【以下のレビューにネタバレあり】
筆者はグローバリゼーション進展を、①モノの移動コストの低下、②アイデアの移動コストの低下、③ヒトの移動コストの低下の三段階に区分し、産業革命は①を引き下げることで世界に「大いなる分岐」をもたらしてG7の発展につながり(第一のアンバンドリング)、近年のICT革命は②を引き下げることで世界に「大いなる収斂」をもたらし、その結果世界では途上国が急速に成長しているとする(第二のアンバンドリング)。
第二のアンバンドリングにおいては、競争力の源泉は国ではなく、企業やサプライチェーンを源泉とするため、従来の経済政策は思うように効果を上げられない。経済政策には今、発想の転換が求められている。
…本書のこうした議論を読んで、グローバリゼーションに対する理解がとてもクリアになったように思う。この本に書かれているのは、革新的な「世界の捉え方」だ。
本書の最後では、ヒトの移動コストが下がった未来に何が起こるかを論じている。個人的には、この未来予測にワクワクせざるを得なかった。
読み終わる頃には、これからの世界と日本に思いを馳せていた。
超良書。ずっと大切にしていきたい本。
ただ一点、訳は惜しかったなぁ。 -
Posted by ブクログ
今、AIやロボットが、世界的な規模で経済、ビジネスを急速に変えている。こうした技術の進化とグローバル化がもたらす、破壊的変動について解説した書籍。
グローバル化は従来、モノづくりの分野に関わる問題だった。しかし、通信技術やAIなどが進化した今日、グローバル化による影響は、サービス職や専門職にも波及しつつある。
情報通信技術を利用して遠隔地で仕事をする労働者を「テレマイグランツ(遠隔移民)」という。先進国のサービス・セクターの労働者は、今後、遠隔移民との競争にさらされる。
欧米の銀行では「ホワイトカラー・ロボット」が働いている。労働者を代替する目的で設計され、20カ国語を話し、数千本の通話を同時に処理する。この状況は、本物の労働者と、思考するコンピューターとの賃金ゼロの競争を意味する。
遠隔移民のような新たな形態のグローバル化と、ホワイトカラー・ロボットのような新たな形態のロボット化(ロボティクス)の組み合わせを「グロボティクス」と呼ぶ。今日、
このグロボティクスは、世界を激変させつつある。
グロボティクスは、大規模な雇用喪失など、破壊的な変動を引き起こすおそれがある。今日の大手IT企業のビジネスモデルは、高所得国の労働者を遠隔移民やホワイトカラー・ロボットに置き換え、コストを節減する、というもの。
グロボティクス革命に備える上で「AIや遠隔移民と直接競争しない仕事を探す」「AIや遠隔移民との競争を避けられるスキルを磨く」「人間らしさはハンデではなく、強みだと心
得る」の3つが重要。また、AIに代替されたくないなら、仕事の中で、それを使いこなす方法を学ばなければならない。 -
Posted by ブクログ
数年前、AIでなくなる仕事というのが話題になった。背景には、計算能力向上やディープラーニング活用事例の増加、シンギュラリティに懸念を示す著名人の影響がある。そうした時に必ず出てくるのがラッダイト運動で、第一次産業革命で織物職人が自動織機を壊す抗議活動である。今の世では、ラッダイト運動は既得権益者の抵抗と批判的に説明されるが、機械により新しい産業が生まれ雇用が回復するのに100年かかっていることを考えると、抵抗なく移行できるはずもない。
本書は、イノベーションによる仕事、社会の変化を産業革命から現代までの歴史を振り返り、これからどうなるかを予測する。と書くとありきたりに思えるが、本書ならではの解釈として、転換、激変、反動、解決に整理し、技術による変化に社会が追いつく長いプロセスを説明している。興味深いのが、産業革命に始まる工業化による混乱は労働運動、共産主義、ファシズム、大戦を経て、ようやく制度も整備され解決したが、今は脱工業化による混乱の真っ只中であり、ポピュリズムの台頭など反動が出てきたところで、AIによる新たな転換を迎えている点だ。
AI、RPA、リモート技術により、ホワイトカラー、サービス業が省人化、オフショア化されつつある。新しい仕事が生まれるよりも早く、先進国の雇用は失われていくだろう。果たして、今の格差社会の下層と、今後AI化でさらに増える格差の犠牲者が協力し、大きな反動を成し遂げるのか?政治で安全に解決することはできるのか?
本書後半では、新しい社会について、とても楽観的なビジョンが描かれる。地域の人々が繋がり、心を大切にして、働きがいのある仕事をする社会だ。どのように移行できるかは分からないが、混乱に振り回されないための準備は可能なはず。今の混乱が解決されてない状況で、多少のモヤモヤは残るが、余裕のある人には良い示唆であろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレGLOBOTICS グローバル化+ロボット化
距離の束縛=地域主義 ○多様性 ×経済停滞
1712~産業革命 蒸気機関
農業革命 農地の囲い込み運動(エンクロージャー)
人口爆発 イギリス1750年からの100年で倍増
工作機械産業 1770~
1820~グローバリゼイション
技術により農民減少、工業生産量急増
鉄道による物流コスト引き下げ
1870~第二次産業革命「大転換」
農村から都市へ、土地から資本へ
1973~ニューグローバリーゼイション
ICT情報通信技術が生産プロセスを地理的に分散
AutoML by Google
機械学習のアルゴリズムをどう設計するかの機械学習プログラム。
SiriレベルのAIシステム構築できる人材は世界に1万人しかいない。
AIパターン認識
高等動物の「知能」とは異なる。
upwork.com
人材とプロジェクトの世界最大マッチングサイト
機械翻訳
一つの民と言葉が建てようとしたバベル(混乱)の塔
神による言葉の混乱による解体
英語を話す10億人の競争相手の英語を話さない60億人
AR/VR
遠隔移民 Telemigrants
RPA
まとめられるものは分解できる。
無くなるのは職業ではなく仕事。
アメリカの職種分布
オフィスワーク22%、販売14.5、調理13、輸送9.7、生産9.1、教育8.6、医療8.3
スマホは計画的に世界に普及させたわけではない。
気付けば生活になくてはならないものになった。
国際競争力のない仕事は労働者の「避難小屋」になっている。
機械学習ができないこと
社会的認知
各メンバーが他のメンバーをどう思っているかを理解
問いも答えも明確でない課題
思考より感情
意思決定の責任
AIは推測の説明ができない
創造的知能
アイデアや解決案を考案する能力
非言語コミュニケーション
グロボットを設計するのではなく、使いこなす。 -
Posted by ブクログ
オールドグローバリゼーションとニューグローバリゼーション。
1990年以降、世界貿易に占めるG7の割合は低下し、中国、韓国、インド、ポーランド、インドネシア、タイが増えた。
オールドグローバリゼーションは、蒸気機関の発明による産業革命で物流コストの低下がきっかけ、ニューグローバリゼーションはICT革命によるアイデアの移転コストが低下したことがきっかけ。
オールドグローバリゼーションは選手のトレード、ニューグローバリゼーションはコーチの派遣。
次の革命は、人間の移動に変わるテレプレゼンスとロボット化で人間が移動するコストが低下するのと同じ効果が表れる。
比較優位が国単位ではなくなった。比較優位が無国籍化した。部品だけでもサプライチェーンの一躍を担えるとすると、世界経済に組み込まれることは容易になる。自国の能力だけで比較優位を確立することはできない。
北の発展は人口の増加によるもの。市場の規模の拡大が工業化のインセンティブになった。
ニューグローバリゼーションでは、北に近い部分のみに起こった。ダイソンは工場を移転したが、サービス部門は移転しなかったため、縮小しても雇用は守られた。先進国はサービス部門に特化した。
オールドグローバリゼーションではセクターレベルで比較優位が争われたが、ニューグローバリゼーションでは行程レベルで比較優位を生かせる。
賃金が上昇しても、貿易は減らない。サプライチェーンに組み込まれているから。
今後は生産は3Dプリンターでモノの移動もなくなる。
どこでも生産できるようになる。