橋本勝雄のレビュー一覧
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後半ではミステリー要素が漂うものの、ほぼ全編に文学的素養が詰め込まれ、実に豊かな読書体験となりました。これほど教養の何たるかを突きつけられたことはありません。このような会話をしてみたい、と心底思ったし、膨大な読書経験の中からこれと思う場面が引き出せるヴィンチェは尊敬しかできません。たくさん本を読んできましたが、自分の人生を象ってはいないなあ、としみじみ思ってしまいました。ミステリーばかり読んでるから仕方ないんですけどね。ヴィンチェの語りで文学の素晴らしさを改めて感じました。文学を学んでいた学生時代も思い起こされ、素敵な余韻に浸れました。こういう作品も読んでいきたいな、と思えています。そして、私
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内容としては、文書偽造技術を持つ主人公シモーネ・シモニーニの日記によるさまざまな事件の回想を語り手と読み進めていくもの。1830年~1898年の記録なので、2つの世界大戦前、革命を経てナショナリズムが広まった時代です。イタリア統一、ルイ・ナポレオン、ドレフュス事件、さらにシオン賢者の議定書等世界史に詳しくない私でも知っている事件の裏に一人の人間が関わっていたというエンタメ性もあり一気に読み進めてしまいました。この本からエーコにハマっています。
個人的には語りの技術が抜群に好きです。どんどん語り手とともに深淵にのめり込んでいく感覚で読み進めました。フィクションと歴史との混ざり具合もまた真実味を増 -
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[偽の蝕み]「偽書」でありながら、反ユダヤ主義の言説に決定的な影響を与え、ヒトラーも引用をした『シオン賢者の議定書』。この文章を執筆した人物のみを架空の設定とし、『議定書』がいかに著されていったかに迫った歴史小説です。著者は、イタリアの小説家であり記号学者でもあるウンベルト・エーコ。訳者は、京都外国語大学で教授を務める橋本勝雄。
これは小説なのかそれとも小説という形式だけを借りた思想史叙述なのか......。凄まじいディティールと時代描写で、近代ヨーロッパの暗い側面の歩みが透けて見える異色作だと思います。テーマ的にも、分量的にもかなり重い読書にはなりますが、陰謀や偽説というものがいかに創り -
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史実の中に巧みに虚構を立ち上がらせるのは、ウンベルト・エーコの得意とするところ。しかしそれを単純に虚構だと割り切って読むことが出来ないのもまたこの作家ならではのこと。そのことを肝に銘じて読まねばならないと自戒しつつ読み進める。
「薔薇の名前」を初めて読んだのはもう四半世紀以上前のこと。歴史の中の「もしも」を推理小説風に描いた作品は単純にエンターテイメントとして面白く、ショーン・コネリー主演の映画も素晴らしかった。しかし時を経て読み返すと、輻輳し縦横に入り組んだ話の全体像、あるいは、小さなエピソードが意味する暗喩を一つ一つ受け止めるには文字を追う必要があると、思い直した。映像はともすれば勧善懲 -
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ネタバレタイトルの通りに全て作者の異なる9作品を収録しているのですが、どの作品も面白くて、かなり充実したアンソロジーでした。
以下、特に気に入った作品の感想を記します。
「木苺のなかの魂」
男爵が見た目はそのまま急に乙女になってみんなが戸惑うというお話で、幽霊ものではあるのだけど少しコミカルな感じもあってこのパターンは昔から定番なんですね。
書き出しのところの、人から聞いた話だけど、仮にKとするみたいな感じのパターンも定番ですよね。
「ファ・ゴア・ニの幽霊」
これが一番好き。
ある人物の命と引き換えに幸福を手に入れた主人公の前にその人物の霊が現れるお話。
何がすごいって、このタイトルに -
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冒頭であまりにもユダヤ人やフランス人についての反感が述べられていたり、フリーメーソンについての話が出てきたので、いったんお手上げになり、解説を読んだ。
解説によれば、舞台は十九世紀のパリ。偽書として名高い「シオン賢者の議定書(プロトコル)」の成立が物語の中心にあるとのこと。
贋造と判断するための基準、複製とオリジナルの関係性についての長年の作者自身による考察が反映されているといえるようだ。
主人公は十九世紀にすでに老境にある反ユダヤ主義者で、その人物の内面から当時のパリを透かし見るような趣の作品世界である、ということをまず押さえてから、もう一度読書に挑戦ということにしたいと思う。
うーん -
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ネタバレ「シオンの議定書」成立を描く歴史小説。
19世紀後半のヨーロッパの歴史が良くわかっていないので、何が史実で、何がフィクションかがわかりませんでしたが、宗教派閥闘争、ユダヤ人排斥、国間紛争などが絡んでややこしいながらも面白かったです。
視点が、偽書作成の天才のシモニーニ、その二重人格と思われるピッコラ修道士、著者と思われる「書き手」の3人で、日記形式で歴史の裏側を語っていくのが、みんな同一人物だと裏を読みつつ、実は「書き手」は著者視点でした。
それにしても、上記の語り手以外は、全て実在の人物というのが信じられないほど、癖のある人物たちばかりで社会権力の怖さを感じました。
分厚い本で、読み難いな -
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19世紀初頭から末にかけて偽造文書作りをなりわいとした者を通じて描かれる、憎悪と歴史。
記憶を取り戻すため、日記を書くことにしたという体裁でスタートするが、どうも様子がおかしい。ときおり倒れるようにして眠ると、別の人間が自分の日記の続きを書いている。「語り手」はその2人の記述を補うように「物語」を書き足す。
エーコらしい、メタフィクションだといってしまえばそれで終りなのだが、エーコらしく、隅々に歴史や美術、当時の風俗に関する描写がちりばめられていて楽しめる。
語り手によるフィクションでありながら、実在する登場人物たちを華麗に操作しながら語られる、ある種の歴史であり、その意味で、虚構と事実 -
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つい先ごろ亡くなったウンベルト・エーコの最新長篇小説。その素材となっているのは、反ユダヤ主義のために書かれた偽書として悪名の高い『シオン賢者の議定書』である。その成立過程が明らかにされてからもユダヤ陰謀説を裏付けるものとして、反ユダヤ主義を広めたい者たちによって何度も利用されている史上最悪の偽書だが、そんなものがどうして世に出ることになったのか。そしてまた、イエズス会、フリーメイソン、ユダヤ人、と時代や場所によって誹謗する対象を変えながらも、何度も息を吹き返しては現れる、この偽書が民衆に対して持つ意味とは。
記号学の大家としても知られるエーコ先生だが、こ難しい理論を開陳しようというのではない -
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長らく積読していたが、ようやく読み終えた。疲れた。
エーコは、「フーコーの振子」でも陰謀論や狂信者を扱っていたし、「パウドリーノ」では天才的嘘つきを描いていたのだが、ここでは陰謀論の大博覧会の影の主人公を作り上げる。欧州近現代史の大事件の数々が一人の陰気な捏造家によってお膳立てされていたという具合。
「パウドリーノ」も、フリードリヒバルバロッサは死ぬわ、コンスタンチノープルは陥落するわ、司祭ヨハネの国を目指して大旅行するわ、アサシンは出るわ、何でもありなんだが、読んで楽しく笑える話だった。
こっちは、ずっとどんよりした冬の空の下にいる感じで、気分が晴れるところがない。登場する陰謀論が、いまだに