美しき絵は、人を呑み込む。
それはまるで、我が子を喰らうサトゥルヌスのように。
凝った造りの装丁に胸がときめく。
絵画と画家と、モデルたちの物語は、ファンタジーそのものだ。
「天使派」と呼ばれる芸術家集団たちは、目に見えるものを、美の神の使者として、キャンバスに描く。
しかし、その絵に描かれたのは、
...続きを読むモデルであってモデルでない。
現在から過去へ戻り、また現在に戻ってくる物語の構造はオペラ座の怪人のようだ。
美に取り憑かれ、しかしてその美は神なのか、それとも悪魔なのか、画家にも、見るものにも分からない。
もしかしたら、ただ1人だけその正体に気づいていたかもしれないが。
よく言えば余韻の残る、悪く言えば少しわかりにくい終わり方をする。
個人的には仮面劇のシーンは面白かったが、結局女神とはなんだったのか、もう少し迫っても良かったように思う。
また、絵画のタイトルが、今ひとつ垢抜けないように感じた。
現実世界の画家を思わせないようにしたのかもしれないが、イメージがラファエル前派だったので、少し寄せても良かったのでは。