マリオ・バルガス=リョサのレビュー一覧

  • 楽園への道

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    作者円熟の極致。とにかく読みやすい。画家の孫の生涯と祖母の社会主義者の生涯が交互に語られていく。祖母も孫も、政治、宗教のそれまでの体制と徹底的に対立する。そして、ヨーロッパ中心主義や男性中心主義やブルジョワジーを超えて、どこまでも絶対的な自由や平等=楽園を探し続ける。バルガス=ジョサの作品として新しい。というのも、これまで彼は何かを批判的に描くことはあっても、積極的に何か理想を強く描くことはなかったからだ。もちろん理想=楽園なので、完全に実現されることはなく、孫の生きざまも祖母の生きざまも矛盾に満ちている。でも、それでもかまわないのだ。何の理想もない人生のほうが虚しいのだから。この作品になると、バルガス=ジョサのホモフォビア(同性愛嫌悪)も抑制されていくのもよかった。

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    2026年02月01日
  • 楽園への道

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    フランスの社会運動家フローラ・トリスタンと、その孫であり芸術家のポール・ゴーギャン。作中ではこの2人の主人公の遍歴を交互に語る形で、物語が進んでいく。
    活動した時代や領域は異なっているものの、この祖母と孫の生き様は驚くほど似通っている。周囲の無理解や抑圧に苦しみながらも、自らの理想の世界(作中ではときに「楽園」として描かれる)を貪欲に追い求め、しかし志半ばで力尽きる。無謀だと思いながもその生き方に説得力を感じてしまうのは、史実として語られる出来事の隙間を満たす、作者の創造力の成せる技なのだろう。そもそも、この一見ちぐはぐとも言える祖母と孫を照応させて魅力ある作品を組み立てる試みに、作家としての嗅覚の鋭さを強く感じさせられた。

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    2025年10月29日
  • ケルト人の夢

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    コンゴとペルーにおける原住民の虐待を告発したアイルランド人にしてイギリス外交官、同性愛者の、実在した人物であるロジャー・ケイスメントの伝記小説。
    最後はアイルランド武装蜂起に関わって絞首刑になる。
    面白かったけど、ハードカバーの500ページ以上の本なので、読みにくい(物理的にね)事甚だし。
    リョサの本は「都会と犬ども」「緑の家」もおもしろかつた。

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    2025年04月26日
  • ケルト人の夢

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    想像をはるかに絶する
    衝撃的な残虐な行為が
    静かな筆致で描かれていく
    なんども 本を閉じて
    ふうっ の ため息が出てしまう

    「闇の奥」を書いたコンラッドは
    この本の主人公ロジャー・ケイスメントを
    「イギリスの(正しくはアイルランド)バルトロメ・デ・ラス・カサス」
    と呼んでいたそうだが
    ケイスメント本人ではなく、彼を主軸に置いて著者バルガス・リョサの筆致を通すゆえに、より鮮明に、より印象深く、「帝国主義」「被植民地」のおぞましい実態が浮かび上がってくる
     むろん、これはイギリス国を始めとする当時の植民地政策をとっていた全ての国の犯罪行為の暴露でもあるが、戦争行為を歴史の汚点として抱えた国全て、むろん、この日本の歴史的行為も含めて考えさせられる一冊である

     優れたジャーナリストであり、英雄であり、同性愛者であり、国家によって抹殺された、一人の特筆すべき歴史的な意味を持つ、ロジャー・ケイスメントをここまで魅力のある人物として描き出したバルガス・リョサが凄い
     また、日本語訳をしてくださった野谷文昭さんに感謝である。

    とんでもないものを読んでしまった
    と同時に
    21世紀を生きる我々が
    読んでおくべき一冊である と思う

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    2022年03月22日
  • ケルト人の夢

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    ネタバレ

    2010年のノーベル文学賞受賞作家の最新作。
    とはいってもスペイン語版がでたのが2010年なので
    もう11年も前です。
     これまでのリョサの本とは異なり、いわゆる歴史小越です。
    実在の人物アイルランド人のケイスメントの人生を振り返る話。ケイスメンとはコンゴでそしてペルーで原住民の人権が蹂躙されているのを見聞きし、その問題の解決に取り組む。
    その過程でアイルランドの問題も未開の部族の問題から敷衍すれば理解できることに想到する。コスモポリタンであるケイスメントがナショナリストになっていくという皮肉。
     そしてケイスメントは同性愛者である。
    理想と現実の間に挟まれながら、ケイスメントは突き進む。真剣なのに滑稽、絶望的なのに理想主義者であり続ける常に前のめりの姿勢を崩さぬまま、ついに足元を救われて、泥沼に頭から突っ込んでいくようなケイスメントこのような人物こそ顕彰に足る人物だとリョサはいいたかったのではないだろうか?
     多くの人に読んでもらいたい本。

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    2021年12月22日
  • 楽園への道

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    長い小説だけど、もう少し読みたいもう少し読みたいと、惜しむように読んだ。
    読み終わってからも、しばらく余韻が残った。

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    2020年05月12日
  • 楽園への道

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    暑くなると、ラテンの文章を読みたくなる。
    ゴーギャンの章が特に良い。肌にまとわりつく熱気と湿気。彼は求めていたものを手に入れたのか?

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    2018年09月10日
  • 楽園への道

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    ネタバレ

    たぶん本書の「正しい邦題」は、「楽園への道なかば」、だと思う。
    「ここは楽園ですか」と問うが、
    「いいえ、楽園は次の角ですよ」と延々先送りされてしまう。
    叛逆者ふたりは、ふたりとも、至れない。

    楽園、なんてばかばかしいね、と生まれた瞬間から白けていた読者が、【1983年生まれが、2017年に読む】(何を見ても、はいはい「ここではないどこかへ症候群ね」)
    楽園、という概念は発生当初から頓挫していたのだ、とわかっている現代の作者が書いた、【1936生まれが、2003年に書いた】
    楽園、を求めて場所も身分も移動した画家の、身体的・精神的挫折や(とはいえ人食いへの無邪気な憧れは保たれていた)、【1848年生まれ1903年死去】
    楽園、という概念を、宗教に依拠せず、労働者と女性の団結を通じて実践しようとした近代の行動家、【1803年生まれ1844年死去】
    を読む。
    社会やニュースに疎い私だが、精神や気分やイズムへの傾倒やがいかに変容したかを、実感した。

    フローラ・トリスタンは高潔な生き方を字義通り必死に行おうとしているが、
    被害者面の裏に、実のところ他人を騙したり、子に対しては加害者と同様の仕打ちをしたりしている。
    またポール・ゴーギャンは、家族を蔑ろにし、エキゾチスムへの憧れの背後で、
    少女略奪(14歳が好きなんだね!)を始めとし、野蛮人への憧れと裏腹の差別に導かれているという、西洋的簒奪を嘆きつつその一部でもあった。

    どちらも純粋でもなく純白でもない。
    強者が弱者を毟り取るという社会の構図の中で、ふたりとも可能な限り強者であろうとし、性格上不可能な場面では弱者だった。
    弱者(労働者/芸術家)としての発言だけでなく、強者(なんだかんだ恵まれた生まれ/西洋人)としての振る舞いも書き落としていない、のが「長い小説」としては優れている。

    また、対位法。
    衰えつつある者が、その活動に至る経緯や活動初期の活気を思い出す、という小説の構図は、
    いわば人生の開始と終焉を網羅するという意味で、正しく伝記であり正しく歴史小説である。
    それでいながら死去の瞬間の本人の思考を追うという意味では、伝記や歴史を逸脱した、正しい小説なのだ。
    さらには祖母と孫の人生の対位法で、個人を離れ人類へ、という目論見も。

    さらには、性の少数者というテーマ。→反権力。
    同性愛や男-女への希求は、権力的マチズモへの明確な反旗のサインだ。
    作者が21世紀に書き上げてくれたおかげで、前世紀の先進的なジェンダー意識は、更新されながらも今後百年通用するに違いない。

    リョサの得意とする時間のねとねとした融和ではない、奇数と偶数は独立しているが、同じ本に仕立てられたことで物質的に融和する、それが精神的に融和する、おお、これはテキストファイルではありえない、本ならではの愉しみであった。

    「おまえは……だよね」と語りかける語り手の口調は、優しくて、よい。
    また語り手→作者に拠って考えれば、バルガス=リョサの作品にはマチズモへの極めて有効な反旗が多数描かれている。
    マチズモはもはや南米特有ではなく、日本にも「濃い霧」のように侵食しつつある風潮なので、頻繁に思い返す小説になるであろう。

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    2017年07月12日
  • 沈黙をあなたに

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    本著が遺作となったノーベル賞作家。
    何しろラテン音楽の知識が皆無なので、用語など時々調べながら読んだ。
    友人でありながらトーニョが心惹かれていた美しき歌手セシリア・バラーサは、巻末解説によると実在の人物だそう。
    著者も交友があったらしく、もう一人の実在の登場人物ホセ・ドゥランフローレスの二人に別れ(死)のあいさつの作品だったのかも、と。
    印象的だったのは、トーニョを悩ませる妄想。
    精神的に参ると体中をネズミが這い回る…コワい。

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    2026年04月07日
  • 楽園への道

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    原田マハの「たゆたえども沈まず」、サマセット・モームの「月と6ペンス」とはまた違ったゴーギャン像
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    芸術はパリの芸術家や批評家、学者、収集家たちによってはめこれている、窮屈な型や小さな視野を打ち砕かなければならない。

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    2025年09月11日
  • フリアとシナリオライター

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    バルガス・リョサの半自伝的小説とのこと。ラジオ局に務める青年、その青年のおばにあたる離婚歴のある女性(青年の妻になる)、ラジオドラマの人気シナリオライターが織りなすコミカルなストーリーに、ラジオドラマのストーリーが挿入されており、おもしろおかしく読める一冊。ストーリーが輻輳するという点で、お得感があります(笑)

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    2024年03月01日
  • 楽園への道

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    自らの意思を徹底して貫くという生き方は、どうしようもなく苦しいものだ。
    意思を貫き自分の理想とする楽園へと突き進む道のり、それはまさに地獄の道である。
    楽園への道とは、地獄なのだ。地獄が楽園へと誘ってくれるのだ。
    そう考えると、楽園と地獄は表裏一体なのかもしれない。

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    2020年02月05日
  • 楽園への道

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    画家ゴーギャンとその祖母のフローラの話。2人の物語を交互に紡いでいく。長編だったにも関わらずあっという間だった。あれだけ長い道のりを一貫した気持ちで生きた、と言うところに無駄がなく羨ましい。仕事頑張ろう!と、まぁたまには休んでもいっか!と繰り返し思わせてくれる作品。

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    2017年12月10日
  • 楽園への道

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    やっと読み終わった〜(1ヶ月以上かかった)

    実在した人物、女性社会改革運動家のフローラ・トリスタンと、その孫で画家のポール・ゴーギャンを題材にした小説。
    フローラは19世紀パリ周辺、ポールは主にタヒチが舞台。フローラは労働者の団結を呼びかけ各地を回る。ポールはブルジョワの地位を捨て絵を描く。異なる時代を生きる2人が「反逆者」として生きてきた過程を章ごとに交互に描いている。

    リョっさんの作品を読むのはは『街と犬たち』に続き2作目。正直なところ、読みながらもうラテアメ文学はしばらく読まない!と決めたほど読み進めるのが大変だったけど、読後感は悪くない。あとがき読むとリョっさんの他の作品読みたくなってきた。(やめとけ)

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    2025年10月03日
  • フリアとシナリオライター

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    ネタバレ

    原題は「La tia Julia y el escribidor」。1977年発表。
    で、映画化されたのが、ジョン・アミエル監督「ラジオタウンで恋をして」(Tune In Tomorrow...)1990年。
    出演は、ピーター・フォーク、キアヌ・リーブス、バーバラ・ハーシー。

    バルガス=リョサ作品は邦訳された3分の1くらい読んだか?
    中では一番読みやすかった。
    読みやすかったから面白かったか? と問われたら、他の作品の難しさや重厚さ自体が面白かったので、本作は正直微妙。
    といっても面白くなかったわけではない、ひたすら微妙。
    まずは作者の自伝を反映している、義理の叔母フリアとの恋愛模様が、その時代のその雰囲気を表しているという面白さはあるが、正直どうでもええわー。
    並行して描かれるペドロ・カマーチョの様子は、スラップスティック小説としてはいい。抜群にコミカル。
    偶数章で展開されるラジオ劇場も、面白いとは思う。
    (ただしなぜラジオドラマではなく朗読劇なんだろうと頭にハテナ。)
    でも全体としては、うーん単に好みじゃなかったのか、自分のコンディションの問題か。

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    2024年01月23日