ボストンテランのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ家族をカルトに誘拐された男が、かつてそのカルトから逃げた元信者と協力して娘の行方を追う、ただそれだけの話。
しかし、なんと濃厚な作品だろう。どこまでも人間の善と悪の本質に切り込み切り刻んでいく。
比喩や暗喩だらけの文章は、まるで文芸作品のように噛みごたえがある一方で、残酷なまでにリアルな暴力描写がいたるところに散りばめられ、主人公とヒロインの地獄めぐりが描かれる。
どこにも善良な人間はおらず、通常は善である主人公ですら境界を踏み越えていく辺りの描写は迫力がありリアル。
ハードボイルトというよりバイオレンスに近いかもしれないが、家族や仲間に対する思いがあるゆえに共感することが出来る。
さらに強力なのがヒロインのキャラ。まるで「ミレニアム」のリズベットの原型の様だし、モラルを踏み越えていく主人公の姿はグレッグ・ルッカのキーパーシリーズを彷彿とさせる。色々な作者に影響を与えるような作品だが、この世界は唯一無二かもしれない。 -
Posted by ブクログ
久々のバイオレンス小説。そうと知らなくて読み始めたから最初は本当に胸糞悪かったけど、アメリカの悪や矛盾を、成功や豊かさの下敷きになっている、必ずひずみに生まれてしまう犠牲者のそれぞれの姿を描き出している。単純なハードボイルド的な楽しみよりもそちらに目を奪われる作品。
ストーリーは至極単純。
とある中流階級家庭がカルト集団によって両親と飼い犬は殺害、少女は誘拐され、薬を打たれてレイプて連れまわされる。その少女の父親(あまりデキのよくない警官)が元ジャンキーでカルト集団に昔所属していたケイスという女性とともに追いかけるというストーリー。
展開がわかりきっているのに惹きつけられるのはハードボイルドならではかなと思う。 -
Posted by ブクログ
期待せず読み始めたのですが、面白かったです。
元妻を殺され娘を攫われた警官・ボブと、元カルト集団員のジャンキー・ケイス。
二人はお互いに嫌悪感を抱いています。ぜんぜん違う世界に生きてきたのだから当然です。
しかし、ふたりで死と隣合わせのギリギリの綱渡りを続けるうちに信頼のようなものが芽生えていきます。
このふたりの距離感がなんとも素敵です。
ギャビについて、もうちょっと掘り下げてくれれば嬉しかったのですが……うーん。
彼女はこれからどうなるのか。強く生きていけるのか。
原文がかなりクセのある、抽象的で難解な文章だったようで、
とくに序盤は微妙な言い回しがいくつか見られ、日本語訳を作るのに四苦八苦している様子が伺えます。
ですが読み進めるうちに作品の世界にぐいぐい引きこまれ、気にならなくなりました。 -
Posted by ブクログ
本当は感想を公開する場ではこう書くのを憚られるのだが、この作品はいい。なぜ「いい」と書くのを憚られるのかというと、この種の小説に接したことのない読者が安易に手を出すと非常に危険だと思える作品だからだ。日本だったら馳星周や花村萬月の作品を思い出すが、本書はそれらよりはるかに心ねじれた悪意と残虐さを秘めている。そんな作品を「いい」と言ったら人間性を疑われるかもしれないと思うほどだ。物語は、壮絶なノワール小説。娘が、「ドラッグと血と精液と愛液の世界」を作り出している狂気の集団に連れ去られた。刑事である父親は娘を取り戻すため、かつてその悪の集団に属していた女を相棒に、戦いの旅に出る。読み始めてすぐに疲労困憊してしまった。これ以上ないと思えるくらいの邪悪にあたってしまったからだ。しかし、もしそんな邪悪を秘めたストーリーに耐えられる読者ならば、相手を切り刻もうとするかのような辛辣な罵詈雑言の応酬の中に、一瞬であれ心を捉えられる言葉を見出すかもしれない。汚濁した言葉の中に、真理をつくものが紛れ込んでいるように感じられたからだ。それを証明するかのような一節があった。「ことばは信念の赴くところを定義するわけじゃない」あたかも日蝕のように、真昼間を闇にかえる邪悪。その暗黒世界から抜け出し、ようやく冷静に考えを巡らせることができたとき、この作品の凄みを思い知ることとなった。本書は、新人作家の衝撃的デビュー作であり、CWA新人賞受賞作。恐怖に隠された詩情の豊かさに、味わったことのない驚きを感じた。
-
Posted by ブクログ
プロローグ
“神は銃弾”
神のような絶対的存在ですら、たった一発の銃弾の前には成す術がないのであろうか!?
人間は、絶対的な暴力の前には無力なのか!?
その答えは……
本章
『神は銃弾』破壊的な★3.5
アメリカ探偵作家クラブ賞 ノミネート
英国推理作家協会賞新人賞受賞
このミス1位
ゼロ年代ベストミステリー3位
ボストン・テランの錚々たる賞を引っさげた、
輝かしいデビュー作である
ドラッグ、セックス、ヴァイオレンス、猟奇的殺人、エログロ…アメリカの闇を全て詰め込んだ作品だ
これは、傑作なのか!?
それとも、只のヴァイオレンスなだけの作品なのか!?
私は後者をとる
そう感じた!!!
エピローグ
本書が刊行されたのが2001年である
“羊たちの沈黙“に代表されるハンニバルシリーズや
タランティーノやたけしの初期の作品にみられる、猟奇的で暴力的な特異なキャラクターを配したヴァイオレンス作品が一世を風靡していた時代の影響なのかこういった作品がもてはやされたのかもしれない
20年以上経過した現在では通用しないし流行らない
何かが足りないのだ
大切な何かが!
その答えは……
プロローグとエピローグの答えは、結局見つからなかった
いったい銃弾は何処に行ってしまったのか!?
そう思った(¯―¯٥)8v♪
完
-
Posted by ブクログ
ボストン・テランはエエはなし書かはるなぁ。
「その犬」の名前はギヴ(give)。人がギヴに寄せる愛や、ギヴが人に感じさせる優しさが通底する、ギヴとギヴに関わる人たちの物語だ。語り手は湾岸戦争の復員海兵隊員で、戦場で追った心の傷をギヴの物語を追体験する中で和らげ、かつての自分を取り戻してゆく。
アメリカは第2次大戦以降も世界で戦争を続ける好戦国ではあるが、市民生活は至って平穏な面を見せる。本書は古き良きアメリカの善意に包まれていて、悪意の現れも一部あるが、全体に古いアメリカ映画を観ているような気分に浸れる。最近のアメリカ大統領が振っている旗印に反吐が出る思いを感じるなか、包容力あるアメリカの復興を願わずにはいられない。 -
Posted by ブクログ
長く、そして読みにくい。
文章がわかりにくくて頭になかなか入ってこなかった…。
でもそれを耐えて読み続けると、頭がなれるのかあまり苦じゃなくなりました。
映画の宣伝で気になって読んだので、ケイスとボブのイメージは先に出来上がってしまっていました。
具体的に、この人物はどのように死んだのか?と疑問が残るような場面の切り替わり方をしていて、それがいい余韻になった。
ケイスの強さ、ぶれない性格、残っている優しさ、すべてが魅力的でした。
かっこいいジャンキーでタトゥーだらけな女の子と会えただけでも読んでよかったです。
一連の事件の真相はわかりづらくすっきりしない部分もありましたが、すべてが事細かに、明らかになる必要はないのかもしれないと思える本でした。 -
Posted by ブクログ
【あらすじ(背表紙より)】
憤怒――それを糧に、ボブは追う。別れた妻を惨殺し、娘を連れ去った残虐なカルト集団を。やつらが生み出した地獄から生還した女を友に、憎悪と銃弾を手に…。鮮烈 私にして苛烈な文体が描き出す銃撃と復讐の宴。神なき荒野で正義を追い求めるふたつの魂の疾走。発表と同時に作家・評論家の絶賛 を受けた、CWA新人賞受賞作。
『音もなく少女は』で大ファンになったボストン・テランのデビュー長編です。”暴力の詩人”と呼ばれる謎多き著者によるカルト集団を題材にしたバイオレンス・ミステリー。山上容疑者が安倍元総理を銃撃した事件をきっかけに、そういえばカルト題材の小説を持っていたなと思い出して、積んでいた本棚から引っ張り出して読みました。
全編カリフォルニアの砂漠を舞台にしていてその描写が第一の鑑賞ポイントだと思います。映画『ファーナス』や『MUD』などでも描かれているような貧しい田舎のアメリカです。決して行儀の良くない合衆国市民=犯罪者達の活き活きとした蠢き。そして犠牲者家族でもある主人公の一人ボブ・ハイタワー保安官の鬱屈と、職業人そして父親としての奮起が第二の鑑賞ポイントでしょう。前半に「おそらく彼が主人公なのだろう」と読者に示され舞台に引っ張り出されながらもどうにも情けないグズグズな性格付けで描かれる伏線が本当に良く出来ています。保安官の上司と反目してまで自主捜査に乗り出したものの腰の引けたところのある主人公ボブの心理描写はその後の相棒ケイスとの問答に説得力を持たせる大事な設定でした。さらに彼がカソリック白人男性であることで相棒ケイスに対して無自覚に差別的な言動をとっていることを描写することもこの作品では非常に重要な要素であります。
そして私が思うに本作の最大の鑑賞ポイントはヒロインであるケイスのキャラクターです。保安官ボブのバディ役をつとめるのは薬物依存のリハビリ施設から出てきた「脱会者」の女性です。なんと彼女はボブの元妻を殺し、娘を誘拐したカルト集団にもともと属していた女性なのです。保安官と元薬物常習者のカルト脱会者がバディを組む!導入部ではずいぶんと危なっかしい不安定さで描かれるケイスですが、ボブの娘を探す旅に出てからは徐々にそのタフさと魅力を読者に見せつけ始めます。
” 耐久性に加味されるリヴォルヴァーの美しさは、扱いの簡単さにある。彼女はシリンダーを回転させる。引き金も撃鉄もスムーズに動いているのがボブのところからもわかる。
が、何よりボブの眼にとまったのは彼女の手と指だ。リヴォルヴァーの美しささえ色褪せそうなほど、銃に触れる彼女の手つきは優雅で見事だ。顔にも緊張はうかがえない。筋肉も張りつめていない。まるで禅道場から出てきたばかりの人のように落ち着き払っている。
(中略)
彼女の動きにはある種の生々しさがある。手と武器の機械的な動きがいつのまにか詩的な舞踏のように見えてくる。太陽に照らされ、彼女は汗をかいている。腋の下に汗をかいている。彼女の汗に銃までいつしか濡れているかのように見えはじめる。ボブには何もかも免疫のないことだ。”立入禁止”と書かれたドアが一瞬開き、またすぐ閉じるまえにその中の何かを見て、何かを感じたような......そんな気がする。(P.152)”
中略した部分には銃のギミックに関する緻密な描写があって、それはそれで大変魅力的な部分ではあるのですが、私はここの過剰に蠱惑的であったり性的イメージに引き寄せ過ぎないケイスの描写が大好きです。ボブと、そして作者の「節度」が感じられるのです。その「節度」は作品を通してボブとケイスの関係性に一本筋を通しています。ドラックとレイプと暴力に溢れたこの作品で、主人公たちが主人公たり得るのは正義感や義侠心ではなく、この節度にあるのではないかとさえ感じます。敵役であるカルトのボス、サイラスの狂気や、ボブとケイスの協力者でもある彫師のぶっ飛びキャラもそれぞれがとても魅力的であるので、その線引きとして倫理観や規範意識ではなく「節度」・・・いや、お互いに対する敬意と言ったほうがよいかもしれませんが、言外にほのめかされるそういった美徳を採用しているのでしょう。それをもってしてようやく読者はボブとケイスに感情移入できます。それだけこの作品の世界は苛烈で暴力的です。主人公のボブでさえ差別意識や猜疑心にゆらゆらと思考を揺さぶられ決して善人には見えない瞬間もある。ケイスにいたっては来し方があまりにも犯罪的で素直にヒロイン的な行動原理が飲み込めない。そのどちらも作者の計算づくの造形であるのですが。
徹底的に荒廃した情景、容赦ない暴力の中に突然差し込まれる静謐で怜悧な思索。私はこれがボストン・テランの作風の一番の魅力だと考えています。そしてケイスは「脱会」の過程で、薬物依存からの回復の過程で、書物を味方にできたために作者の問いかけの代弁者たり得る知性を備えました。
”正しくあること、それは悲しみ以外の何物でもない。そして、悲しみそのものがもはや彼女には邪悪なものになっている。だから、意識しないことだ。ただやってみることだ。それこそわれわれが人生と呼ぶ暗い創造物のすべてではないか。死をもって正せない正しさなどありはしない。(P.150)”
ケイスは、ピエール・ルメートル 『その女アレックス』のアレックスに並ぶくらい、私の大好きなキャラクターになりました。
最後に蛇足にはなりますが、作者も意図せずして日本のニュースや世相をえぐる一節がありますので、そちらを紹介して終わりにします。
”「狂ってることにまちがいはないけど、彼にも動機はある。だからあたしは思うんだよ、彼があの家にはいったのには何かわけがあるって。何もなくてあんたの......その、子供をわざわざ連れてったりはしないはずだって。彼は精神異常者じゃない。そんなふうに見ると、まちがっちゃう。彼の宗教は、すべての宗教がそうであるように、とても政治的なものさ」
「政治的?」
「あたしが欲しいもの対あんたが欲しいものという政治の力学」
(P.210)”