ラグナル・ヨナソンのレビュー一覧
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フルダシリーズ三部作の完結編。
レイキャビークという首都の名前も、海岸線を縁取るニョロニョロとしたフィヨルドに囲まれたサイの横顔のような国の形も、随分身近に感じられるようになった。
前作から更に10年遡り、フルダは40歳。夫のヨンも娘のディンマもまだ生きている。
今回はクリスマスの時期に起こる事件で、舞台は人里離れた雪深い高原地帯の農場だ。読むだけで体が冷えるので、暖かい上着と熱いルイボスティーは必須だな。
近くの一軒家で一人暮らしをしている娘と過ごすクリスマスを楽しみにしているエルラと、その夫のエイナール。しかしドアをノックしたのは心待ちにしていた娘ではなく、一緒にきた猟の仲間とはぐれたという謎の男だった。
単なる遭難なのか、それとも別の目的があるのか。外は猛吹雪で、電話は繋がらない(雪のせいなのか、意図的に切られたのか)。おまけに停電になってしまう。ドアの外に出ることはできるが、これははっきり言って雪によって作られた密室に近い。
一方、レイキャビークにいる女刑事フルダは、娘のディンマに手を焼いていた。難しい年頃なのかもしれないが、親と一切口を聞こうとせず、自室に鍵をかけて閉じこもっている。楽しいクリスマスにしようと奮闘するものの、すべて無駄になってしまい、空回りする自分に焦るフルダ。そしてあの悲劇が起きてしまうのだ。
わたしは元々フルダに好意を持っていなかったが、これを読んで更に好きじゃなくなった。
「病院に電話してよ」と夫に頼むんじゃなくて、なんで自分で電話しないんだよと思った。刑事として優秀で、行動力があり洞察力もあるはずなのに、なぜそれは自分の家庭の中で発揮されないんだ。おかしいだろう。しかもまた肝心な時に、電話に出ないし。
事件の方は、非常にスリリングで面白い。3作の中でも断トツだと思う。一旦真実を知った後で、もう一度男が訪ねてきてからのやり取りを読み直すと、全く違った楽しみ方ができるので是非試して欲しい。
そして、クリスマス。やはり本場のクリスマスは雰囲気があるな。
クリスマスに必ず食べる料理、クリスマスイブには新しい本を読み始めるという習慣、ラジオ局から流れる讃美歌。
ここに出てくる女性は、みんな何かに閉じ込められてしまう。
ディンマもエルラもウンメルも、そしてフルダも。
そうそう、巻末におまけでクリスマスの短編が載ってました。
主役はアリ=ソウル。これから読むからね、待っていてくれ! -
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クリスマスミステリー 今作はフルダ三部作の完結編と、あとがきを読んで知った。逆年代記のため、このまま逆順に読んでみようと思う。
冒頭で落ち込む刑事のフルダに複数の死体が発見された事件の話が舞い込む。そして時間は2ヶ月前のクリスマスへ。その頃のフルダは仕事上で疾走した女性の捜索をし、家では娘の抑うつ状態に悩んでいた。並行して描かれる農夫のエルラ視点の話。クリスマスに猛吹雪の中訪ねてきた男性への疑念と、雪により閉じ込めれられてしまった恐怖感。そしてフルダの娘も不穏な方向へと進んでいく。
ハラハラさせられながら一気に読み終わった二章と解決編の三章では前章での視点がぐるりと入れ替わる気持ちのいい展開だった。
ボーナストラックとして別のシリーズの主人公が出ていたのでそれも読んでみようと思う。 -
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終わったところから始まる物語。時間を逆行して発表されてきた女刑事フルダのシリーズ三部作、早くもその完結編である。
これを読んだのは、北海道までをも巻き込んだ猛暑のさなかだったのだが、作品世界は雪に閉じ込められたアイスランドの一軒家である。とりわけ、三人だけの登場人物による恐ろしい駆け引きの第一部は、大雪で閉じ込められ、血も凍る恐い心理小説なのである。まさに猛暑対策にはこの上ない一冊なのだった。
アイスランドという国、その特色を生かした寂しさと孤独と、辺縁の土地を襲う暴風雪。それらが重なるだけでも、いわゆるヒッチコック的スリラーの完成度が極めて上がる。そこに加え、前二作によるヒロインの運命と、娘についての叙述を読者は知っているという困った事実である。
本書は、恐ろしく少ない登場人物による300ページ強の小説でありながら、いやな汗をかきそうな第一部の怖さ、そして一気にその世界をひっくり返してしまうかのような第二部への驚愕の展開が、何といっても読みどころである。
その他にも、フルダが担当することになる行方不明の少女はどこへ消えたのか? という付きまとう謎がある。これは本ストーリーとの関係性はどうなのか? 読者は何もつかまされぬままに、本書の恐怖と不思議に立ち会ってゆくことになる。この恐怖の館の驚くべき仕掛けとは? 物語の主たる装置はどこにあり、どう動いているのか?
近年、登場人物や舞台装置の目まぐるしい展開が多くページ数も費やして説明に終始した小説の多いなか、この作品のシンプルさはどうか? それでも作られてしまう驚愕の展開とストーリーテリングは、何なのか? この作者の作品は、おしなべてそう厚くない長編でありながら、しかし、外れがない。アイスランドという国の人口の少なさと犯罪の希少さ、そこに生きる人間の寂しさのような風土まで含めてミステリーの素材としてしまう作者の力技が素晴らしい。
本シリーズは三作を時間的に逆順で書かれることにより、読者側はヒロインの未来を知りながら読むことになる。また、未来において語られていた事実をも知っているからこその不思議も感じることになる。だからこそ過去の時系列にヒロインとともに遡行することで、怖さが高まる、という経験を珍しくさせて頂いた。
おそらく逆に時系列で三作を読んでみても良いのかもしれない。そうしたチャレンジ体験者のレビューについても改めて伺ってみたいものである。 -
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フルダシリーズ三部作の最終巻。
重い内容ながら読みやすく、あっという間に読んだ。
三部作を通してフルダが対応している事件よりも彼女の家庭が気になる。
二作目までで家庭で何が起こったのかは匂わされてはいるが、本作でもフルダの心情は描かれるが実際家庭で起こった出来事が詳細に語られることはない。
本作が読めるのを楽しみに待っていたのでその辺をもっと詳しく読んでみたかった気もするが、重すぎるテーマゆえ、娘と夫に関しては淡々と事実が描かれるだけでも胸が苦しくなる。
三作通して、アイスランドの凍てつくような寒さも相まってひたすら重い雰囲気の作品ではあるが、名作である。 -
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一方の端からもう一方の端へと振れ幅の広さにまず驚く。
昨年、アイスランドのシグルフィヨルズルという北極に最も近い漁村の警察官アリ・ソウルのシリーズに驚いたぼくは、この人の作品は書かれた順番に読もうと誓っている。なので、アリ・ソウル・シリーズも一作、二作という順に読んで、先に翻訳された五作目はそのまま手元にあるが読まない。この作品はこのシリーズの三作、四作と読んでから取り組むべきなのである。それを感じたのは一作から二作へ渡される作者の想いのようなものだと思う。時間というバトンは決して軽くない。作者はそれだけアリ・ソウルとシグルフィヨルズルの街を丁寧に扱いたいのだと思った。
さてアリ・ソウルとは遠く離れて、本書はレイキャビークを舞台にした、64歳の女性刑事フルダ・ヘルマンスドッテルをヒロインとしたシリーズ開幕の物語である。若い二十代のアリ・ソウルとまるでできるだけ距離を持とうと企図したかのように、フルダはアイスランド一の、否、唯一の都市で警察人生を今にも終えようとしている定年退職直前の刑事なのである。性別も年齢も、アリ・ソウルからは遠く離れるべく設定したようにしか思えない。そしてこの作品のなんというフィニッシュ!
どう見ても単独作品に見える本書は、実のところ三部作のスタートに当たる物語である。十代の頃に読んだ安部公房の『終わり道の標べに』の印象的な冒頭の文章を想い出す。
「終わった所から始めた旅に、終わりはない。墓の中の誕生から語られねばならぬ。何故に人間はかく在らねばならぬのか?」
何故なら本書は、フルダ64歳。定年退職を目の前に、自分の人生を振り返りつつ、未解決事件い挑もうとすう冒頭。しっかり描き切れてはいない未来設計。人生の終わらせ方を思いつつ、現役生活と仕事に未練を残す。そして古い古い過去の経緯。誰の物語かわからない断章が、現在のフルダの捜査の合間に二つほど語られてゆく。何が、いつの時代に、誰によって進行しているのか? その断章が現在の退職間際の事件捜査にどのように関わってゆくのか?
未解決事件の謎と、フルダの謎と、それらとは別の物語らしきものも次第に明らかになってゆくという、たまらなく意味深な構成によって引っ張られてゆくその牽引パワーが物凄い。ラストは何となく想像できはしなかったものの、何ともノワールな作りに驚く。
思えばアリ・ソウルのシリーズの方も十分ノワールの空気感に満ちているのだが、『湿地』その他のエーレンデュル警部シリーズシリーズで独特な世界観を描き出すアーナルデュル・インドリダソンの凄みのことも思うと、殺人事件が年に一回あるかないかという平和な小国アイスランドには、見た目以上に深い闇の奥行が齧られるし、何よりもそれを描き切る作家の上質さには、驚愕を覚えるばかりだ。
相当優秀な作品で商業的にも売れないものであればまずアイスランド語で書かれた作品は英訳されず、世界に旅立つことができないし、英訳を日本語訳している現状から言えばこの作家はいくつもの言語的ハンディを背負ってこの物語を紡いでいる。そうした逆境だからこそ、この高いレベルでしかぼくらは読むことがない類の作品群なのである。何だかぞくぞくする。
本シリーズは衝撃の結末を迎えるが、実は三部作の初篇ということで、二作目はフルダの50代、三作目は40代が遡るように描かれているのだそうである。その伏線らしきものを捜しつつ、眼をすがめて読んだ読書経験も、これまたとても不思議なものであった。次作への興味を繋ぐ深い深いエンディングに不思議感と期待感と二つ、我にあり、といった心境である。 -
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『闇という名の娘』に続くシリーズ2作目。
このシリーズは、回を重ねるごとに過去に戻るのだ。
主人公のフルダ・ヘルマンスドッティルは、前作では定年間近だったが、今作では10数年遡り、まだ50歳。偉くなりたいという野心の炎は赤々と燃えている。
フルダという人間は、非常に頑固で扱いにくい一面がある。
それは彼女が幼い頃、ある理由から施設に預けられていたからなのか。
その頑固さ故なのか母親と心を通わせることができなかった。その人間としての不完全さが、彼女自身を傷つけているのではないかと思う。
起った事件についていうと、前回の話より今回の話のほうが分かりやすく、読みやすかった。
10年前に起こった、山の中の別荘で女の子が殺害された事件。捕まった犯人はなんと彼女の父親で、彼は獄中で自殺した。
10年後、その女の子の死を悼むために集まろうと、4人(男性2人・女性2人、うち1人は被害者女性の弟であり、犯人の息子である)が無人島を訪れるが、そこでまた死人が出てしまう。この事件は傷心の(あの悲惨な出来事が起こった直後だもの)フルダが担当することになった。誰もが何かを隠している状況の中で事件を解決するには、まず、10年前の事件に隠された恐るべき秘密を暴かなければならない。
フルダの父親についてのエピソードは特によかった。本当に知りたかった真実を手に入れることができない可哀相なフルダ。誰よりも優秀な刑事のはずなのに。
憐れに思えたし、ある意味滑稽にも感じた。
物語の最後に、これからの自分の人生や死について、思いを馳せる言葉すら。 -
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『ヴェラ~信念の女警部』が好き過ぎて、海外の女性刑事というと、頭の中で描くビジュアルがすべてヴェラになっちゃう。困ったもんだ。
それはおいといて。
とても面白かったです。訳者との相性がよかったのか文章はスルスルと読み易く、あまり馴染みのないアイスランドという国の美しい風景写真を眺めながら、あっという間に読み終わりました。
数か月後に定年を控えた女性刑事、フルダ。64歳。
いわゆるガラスの天井なるものに阻まれて、優秀だったにも関わらず警部どまりだったことに憤りを感じている。夫とは死別しており、今はひとり暮らしだ。
最近趣味の山登りで、素敵な男性と知り合った。穏やかな人柄で、暮らしぶりもよく、フルダに好意を持ってくれている。
フルダは、これからの人生が孤独なものであることに恐れを抱いており、同時に刑事としての自分のキャリアが、公平に評価されていないことに不満を感じていた。未来をバラ色にしてくれる恋の予感と、報われなかった過去の自分と仕事への未練。フルダはいつも心の中で、その2つを天秤にかけていた。
ある日、突然あと2週間で席を明け渡せと上司に言われたフルダは腹を立て、その2週間のうちに過去の未解決事件を解決して、みんなを見返してやろうと心に誓う。
そこで選んだのが、ロシア人女性の不審死事件だった。
フルダのプライドの高さが、彼女の内面の弱さと共鳴して綻びとなり、そのから危機へと落ちていく。驚きの結末へ真っ逆さまだ。
なんと3部作らしい。これがシリーズ一作目なんて!これを読んだ人は絶対続きを読まずにはいられないと思う。胸にある思いを抱きながら。 -
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ネタバレ謎解きは面白くテンポも良い。そして、あっと驚く結末。
充分に読み応え有り。
でも、作者の書きたかったのは、主人公の生い立ち、苦悩、苦境、孤独などなど、
どこ切っても辛く悲しく、そして憤り。
こうまで辛い人生でも刑事として自分なりの正義を貫こうとする姿勢は、立派だけど作者は更に捻りをいれてくる。
正義って見方によって、悪にでもなるし、悪い事をすれば、災厄が自分に返って来る
なんて、説教臭いけど、いわゆる因果応報ってことだね。
衝撃的なラストも、僕に皮肉が強すぎて、まるでコメディのように思えて、不謹慎だけど笑ってしまった。
ともかく、すげぇ~と思わせる作品だった。 -
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アリ=ソウルシリーズ第二作 アリ=ソウルにクリスティンとの子供が産まれ、新人警官から街に馴染んだ(ように見える)数年後の話。
前回は被害者に見えたクリスティンにもなんだか問題があるようだし、相変わらずアリ=ソウルは心をクリスティンに晒せてない状態で関係はひりついている。
そんな中平和と名高い街で警官が銃で打たれる事件が発生する。
前作の上司トーマスが街に助っ人で駆けつけ、街を捜査するが隠された秘密が幾つも見つかり見せかけの平和が崩れていく。
今作も誰なのかわからない独白が合間に挟まり、それが誰なのか、どんな関係があるのかを想像するのが楽しい。