松下隆志のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ソローキン入門として手に取ったが、「この人の作品は他言語に翻訳しようがないのでは」と他作品へのチャレンジを躊躇する結果になってしまった。
本作は一言でいえば「帝政が復活した2028年ロシアにおいて、ツァーリ直属の親衛隊が矛盾に満ちた"粛清"を行う様子を描いたディストピア小説」となろうが、この手の風刺系ディストピア小説は風刺以外にどのような視点を提供するかが肝要(単なる「帝政こわい」であれば小説のフォーマットで長々と読む価値がない)なところ、本作の場合はそれが(おそらく)ロシア語の言葉遊びを躊躇なく極端化した暴力性・異常性のあるモチーフの連続なんだろうが、その言葉遊びが理解できない人間にとってはただひたすらトリッピーなディストピア小説になっている(例として、終盤の一幕は蒸し風呂の蒸気を「浴びる」ことと処刑台で鞭を「浴びる」ことを対比させている、らしい……あとがきより)。
飴村行的なグロテスクなモチーフの面白さはあれど、読んでいてどうも片手落ちの感が強く、正直ついていけないと思う部分が多かった。面白い部分も多いだけに歯がゆい。 -
Posted by ブクログ
1999年に出版された
ロシアの作家ウラジーミル・ソローキンの長編SF小説。
2068年、酷寒の地に建つ遺伝子研(GENLABI)18に、
七人の文学者のクローン体が運び込まれた。
クローンたちは新作を書き上げると
焼け焦げて仮死状態に陥り、
超絶縁体の《青脂》――青い脂――を体内に蓄積させる。
研究所員の一人、
言語促進学者ボリス・グローゲル曰く、
防衛省が月面にピラミッド型をした不変エネルギーの
反応器を造っており、
その原料になるのが第五世代の超伝導体と《青脂》で、
それは軍事用ではなく、毒性もなく、
分解可能だが燃えることもない――。
物語の鍵を握る謎の物体が
次から次へと人の手に渡っていく様は
さながら河竹黙阿弥『三人吉三廓初買』のようだと
思いつつ、ニヤニヤしながら読み進めたが、
次第にボルヘスの名言が頭を擡げ出した。
> 長大な作品を物するのは、
> 数分間で語りつくせる着想を
> 五百ページにわたって展開するのは、
> 労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。
※『八岐の園』~「プロローグ」
(岩波文庫『伝奇集』p.12)
様々なテクストを織り込んで諷刺を利かせているのは
理解できたが、
後半のエログロ描写ですっかりお腹いっぱいに(笑)。
ただ、《青脂》が製造される2068年のロシアに
中国語・中国文化が浸透しているらしい叙述について、
解説(p.604)には、
> すでに疲弊した西洋に代わって中国が勢力を増し、
> やがてその文化が
> ロシア文化を侵食するだろうという
> ソローキン独自の未来予測
とあり、中国のパワーが増大して、
ロシアに限らず世界中を席巻している現状を鑑みるに、
前世紀末時点での作者の予見は
的中していたと言えるのでは……と、
その点には深く頷かされた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ想像していた内容と良い意味で違った本。ロシアの作家や歴史的な人物が登場したり、パロディが成されていたりする。それに加え、SF要素がある。初めのうちはもう何が何だか分からない。登場人物たちも新ロシア語で話しているし。しかし、読み進めていくうちに不思議と何を言っているかが感覚で理解できるようになります。それに1954年が舞台になると普通の言葉で話すようになるので、言葉だけは理解できるようになります。物語中で起こることは、私の理解の範疇を超えていましたが。
2068年の作家たちのクローンによる作品は、その作家っぽく書かれていて、作者のの手腕が光っていると思います。
ところで、結局「青脂」とは何だったのだろう。どうして青い脂はスターリンの脳を肥大化させるような力を持っていたのだろう。スターリンが2068年まで生きながらえているのも、もしかして青脂の力? 青い脂は作家が作品を執筆することで生成されるということだったから、文学によって生まれる目に見えないものを可視化した物質なのか? このような疑問は解決されぬまま終わります。
色々考えられる作品ですが、序盤を読み進めるのが苦しかったので、個人的にはしばらく再読したくありません。