松下隆志のレビュー一覧
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2021年に出た本作は2010年に出た中編『吹雪』の10年越しの続編。
前作は吹雪の中をひたすらさまよい続ける物語だった。主人公のドクトル・ガーリンが本当に目的地にたどり着ける
のだろうか、という不安を抱きながら、セキコフという御者にネチネチと愚痴と悪態を付きながら旅を続ける。
『ドクトル・ガーリン』でもあの厭味ったらしい主人公のネチネチとした愚痴を聞かされ続けるのだろうなあ、なんて思っていたのだが、全然違っていた。むしろかなりポジティブなキャラクターに変わっていて、一体お前に何があったんだ、と気になるくらい。
また主人公同様に物語もカラッとした明るさがあった。ソローキンにしては珍しく感じたけ -
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ロシアの小説の翻訳だ。作品は2006年に登場したそうだ。2020年代後半を想定していると見受けられる、所謂「近未来SF」ということになる小説だと思うが、何か独特な、やや不気味な感じもした物語だ。“物語”というよりも、「独特な“近未来”への予感めいた想像に一定の形を与える文章」というような気がしないでもなかった。所謂「“ディストピア”な物語」というような感なのかもしれない。
本作冒頭に近い辺りから読み始めて、何やら酷く不思議な気がした。作中世界の独自な通称を冠せられているような場合も在るが、それでも「現代」の様々な小道具が普通に使われているように見受けられる。その他方で、何やらやっていることが「 -
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帝政下の親衛隊士たちの敵対者への恐るべき残虐行為と歪んだ疑似家族的愛情が同居する世界を描き出す。
この非論理的な暴力を、東大先端研准教授 小泉悠氏の指摘する「ロシアのプーチンはヤクザの親分である」がなければ読めなかった作品。
幾度も挫折しそうになったおぞましい表現の数々は、しかし、現代の悲劇を驚くほど正確に予言していた。ロシアのウクライナ侵攻、国際的な孤立(EUからの拒絶)、そしてブチャでの虐殺や子どもの誘拐といった非人道的な残虐行為の数々。武装集団ワグネルのプリゴジンの暗殺も衝撃を与えたであろう。
この小説は、単なるグロテスクな物語ではなく、ロシアへの理解に一助となり、暴力行為は映画「時計仕 -
購入済み
ザミャーチンの、まあ唯一と言ってもよいだろう代表作でありディストピア小説。
当時の社会情勢や、これを執筆するにあたり影響を受けたであろう他のロシア文学作品などと比較し解読するとまた違った面白さがわかる。 -
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原著1999年刊。
「怪物」ソローキンによる、破壊と猥雑化の限りを尽くした、妙な小説である。
読み始めるとすぐに、ボリスなる人物による、何を言っているのか全然わからないような手紙が延々と綴られてゆく。この圧倒的な「わからなさ」「言語の異物感」は、大昔に読んだSF小説『ニューロマンサー』の文章の感覚に似ている。
ひっきりなしに繰り出される妙な造語は、よく見ると巻末に用語解説が載っている。しかし、そこでピックアップされているのはごくわずかであり、このボリスの文章を理解するにはまったく足りない。
やがてボリスのパートが終わり、もっと分かり易い文体が出現する。
第二次世界大戦がロシアとドイツ -
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2068年。シベリアの遺伝子研18に所属するボリスは、かつての恋人へ猥語だらけの手紙をクローン伝書鳩で送りつける。その文面から明らかになるのは、ロシアの偉大な文学者のクローンを造り、彼らが作品を書いたあとに体内で生成される反エントロピー物質〈青脂〉を取りだすという計画。だが全てのクローンから青脂を採取した日、パーティー中の遺伝子研をシベリアの地下に拠点を持つカルト教団のゲリラが襲う。未来のインテリが操る中国語とロシア語のチャンポン言葉、プログラム言語のような猥語、クローンが書いた文体模写小説、歴史改変された1950年代ロシアの狂乱などで組み上げられた、鮮烈なヴィジョンと嗤いの書。
なーんも -
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まず、難解な小説である。全体主義で管理された社会に生きる(存在する?)uによる記録集。遠い過去に一度滅びかけた世界では、緑の壁により秩序が保たれかつ管理された社会が広がっている。
過去の遺物であるマンション部屋よく訪れ煙草を吸うlに会い、惚れ込み、緑の壁の外に暮らす野蛮人(とは言え、それほど野蛮でもなさそうだ)に会い、自分が正しいと信じ込んでいた世界が恩人によって過剰に管理・抑圧された社会だと気付いていき、、という話。
至る所に数式が出てくるのだが、微分積分(波を平らにしていく)で没個性を表しているよう。
やたら女性に好かれるところからも、理系のこじらせ男子の妄想が入ってるんじゃないか。ザミ -
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ネタバレ今まで様々なディストピア小説を読んできたが…これは、何だか"真っ白"と言う印象を受けた。表現としては、青やピンクなどの色が出てきて、カラフルなんだけど…それはきっと、主人公の側に"個"が認められないからだろう。ぜーーーんぶ同じ。明言されているわけではないけど"個"が認められているのは、トップのみ。上の考えが全てなので、だからそういうイメージなのかも知れない。
私がディストピア小説で好きなところは、徹底的に管理された世界で、そこからはみ出した人が矯正されたりなんだりする、みたいなところなのだが…今回も存分に徹底的に管理されていて、そし -
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現代ロシア文学のスター、いや、スターと言うよりはモンスターと評される若手作者の長編小説。こーれーはヤバイです。ヤバ過ぎて、何度も挫折しかけてやっとの思いで読み終えました。人生で一番読むのに苦しんだ作品と言っても過言ではないかもしれない。前衛アート?奇怪なスラング、文豪のクローン、エログロスカトロ何でもござれ、極め付けはスターリンとフルシチョフの濃厚な濡場。読むのに並々ならぬ体力が必要です。
你好、私の優しい坊や。やっとお前がくれた書を読み終えた。正直に言おう。一文字目から腐っている。これを書いたのはどこの醜悪な気狂い野郎だ?おかげで私はMバランスを7ポイント失った。マイナス=ポジット。後はた -
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全体主義の中で、思春期をこじらせた32歳の男の内面を追う物語。性欲と理性の対立、その葛藤の中で狂気を扱っている点は、フロイト的だなと思われた。
左脳的なものの行き着く先は、常に右脳的なものの爆発による終演だ。
作中、世界と個の関係について2種類の異なる表記が見られた。
「無から偉大へと至る自然な道は、自分が一グラムだということを忘れ、一トンの百万分の一だと感じることである」p177
「私は消えていく、彼女の膝に、彼女に溶けていく、私はどんどん小さくなる。そして同時にどんどん広がり、大きくなり、果てがなくなる。なぜなら彼女は彼女ではなく、宇宙だからだ。」p198
「種」の中で責任を -
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最近ポストモダン文学にハマってる。この作品はその系統だと思う。前衛的というか実験的というか、兎にも角にもはちゃめちゃって感じ。ストーリーの筋自体は複雑ではないと思うが、書き方が複雑かつ、独特の文体でついていくのが困難。もうその文体や造語自体を楽しむしかないって作品。
小説を書くことで青い脂(青脂=せいし=精子)という奇抜なアイディアも斬新でよき。そういう小説内小説の入れ子構造も楽しい。ロシアの文豪が次々と出てき、各作家の文体に合わせて小説も書かれていた。ナボコフが一番好き。比喩表現が面白いから。
それぞれの作家を読んでいて、ある程度理解があればもっと楽しめたと思う。
怒りから子どもが生まれてく -
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ソローキン入門として手に取ったが、「この人の作品は他言語に翻訳しようがないのでは」と他作品へのチャレンジを躊躇する結果になってしまった。
本作は一言でいえば「帝政が復活した2028年ロシアにおいて、ツァーリ直属の親衛隊が矛盾に満ちた"粛清"を行う様子を描いたディストピア小説」となろうが、この手の風刺系ディストピア小説は風刺以外にどのような視点を提供するかが肝要(単なる「帝政こわい」であれば小説のフォーマットで長々と読む価値がない)なところ、本作の場合はそれが(おそらく)ロシア語の言葉遊びを躊躇なく極端化した暴力性・異常性のあるモチーフの連続なんだろうが、その言葉遊びが理解で