【感想・ネタバレ】ドクトル・ガーリンのレビュー

あらすじ

G8首脳のクローンと医師ガーリンは、核攻撃を避けるため北へ向かう。謎のコロニー、日常化する戦争、サーカス、巨人女……。『青い脂』の衝撃が近未来の異世界に響きわたる集大成的傑作。

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Posted by ブクログ

2021年に出た本作は2010年に出た中編『吹雪』の10年越しの続編。
前作は吹雪の中をひたすらさまよい続ける物語だった。主人公のドクトル・ガーリンが本当に目的地にたどり着ける
のだろうか、という不安を抱きながら、セキコフという御者にネチネチと愚痴と悪態を付きながら旅を続ける。
『ドクトル・ガーリン』でもあの厭味ったらしい主人公のネチネチとした愚痴を聞かされ続けるのだろうなあ、なんて思っていたのだが、全然違っていた。むしろかなりポジティブなキャラクターに変わっていて、一体お前に何があったんだ、と気になるくらい。
また主人公同様に物語もカラッとした明るさがあった。ソローキンにしては珍しく感じたけど、これはソローキン作品の中ではかなり好きな作品になった。

戦争が日常化した近未来のロシア。高級サナトリウム【アルタイ杉】の院長となったドクトル・ガーリンは一緒に働くスタッフと共にサナトリウムのエリート患者たちを管理している。
エリート患者たちは異形で、全身が巨大な尻で出来ており、そこに脚を生やしている。口も目もあるが、人間より遥かに巨大である。更にこの異形たちはG8元首脳陣のクローンであり、ドナルド(トランプ)、シルヴィオ(ベルルスコーニ)、ジャスティン(トルドー)、ボリス(ジョンソン)、アンゲラ(メルケル)、エマニュエル(マクロン)、ウラジーミル(プーチン)、シンゾー(アベ)の面々。
彼らは隣国カザフとの国境紛争で使われた核ミサイルの被害に遭い、病院を捨てバイオロボットに乗り込み北へと避難することになる。
その道中、様々な場所に立ち寄り、おかしな人々と交流していく。
バービー人形のように小さい母を信奉するアナーキストの収容所、コサックの兄弟伯爵の宮殿でのフェンシング対決、都市バルナウルでクローンたちが参加するサーカスや、巨大な女地主の館での悪夢めいたセックス、前作『吹雪』にも登場したビタミンダーによる麻薬製造や、国家の極秘プロジェクトとして遺伝子操作で作られた野人たちによる奴隷労働とアルビノの女性野人との交流などが描かれていく。

あらすじから既におかしい笑
上下2段組500ページ近い大著で、ソローキンのこれまでの技巧の集大成的作品でもあるらしく、さすがに1回読んだだけで理解するのは到底無理なのだが、それでもこれまでのソローキン作品と比べたらかなり読みやすくて、そしてめちゃくちゃに面白かった。
とにかくあらすじにもある通り、道中ヘンテコなことばかり起きるので、それがずっと興味深くて読んでしまう。
もっと悲惨なラストになってもおかしくなかったが、ちゃんとハッピーエンドな結末なのも良かったな。これは確かに愛の物語だった。
またいつか読み直したいくらいには好きな作品。傑作。

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2025年09月17日

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