上月雨音のレビュー一覧
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“そりゃ先輩と知り合って以来、様々な事件に巻き込まれてきたし、今回だってその例に漏れないわけで、既に一般人とは言い切れない世界にまで足を踏み入れてしまっているのかもしれないけれど……。
「もし僕が謎の黒服集団とやらに追い回される羽目になったら、どう責任とってくれるんですか」
「五月蝿いなぁ。男やったら自分の身くらい自分で守りぃや」
情けない奴やなぁ、なんて冷たくあしらわれてしまう。
それどころかトラさんまでさも当然のような表情だった。
そりゃこの人くらい強靭な肉体を持っていれば謎の黒服集団にだって立ち向かえるのだろうけれど、生憎とこちらは格闘技経験のない一市民なのだ。
「ってかトラさん。そういう時、守ってくれるのが警察なんじゃないですか?」
「何年かかっても必ず犯人は捕まえてやる」
「それってどう考えても僕の死体が上がってからの話ですよねっ!?」”
先輩のドレス姿が結構可愛い。
人間の黒く暗いところとか、そういう部分が深くなってきたような。
“「そんな事はどうでも良い。それよりも、アレとはあまり会わない方が良い」
いや、志乃ちゃんが真白ちゃんの事、嫌ってるのは知ってるけどさ」
「そういう事でもない。アレの中には『自己』しか居ない。他人が一切存在していない。だから必要になれば、何の躊躇いもなく他人を切り捨てる事が出来る。どれだけ親しげにしていても、一切の迷いを持たない。感じない。事実として、彼女は既に大切な存在を自分の物にしている、非常に危険な存在」
予想外の迫力に言葉を呑み込む。
志乃ちゃんは普段から真白ちゃんの存在を拒んでいるが、僕には決して危険な存在とは思えない。
いや、ちょっとだけ嘘だろう。
彼女は僕にはまるで分からない世界を知っていて、たぶんとても大きな力を持っている。そういう意味で恐ろしいと感じる部分はある。価値観が全く異世界の存在のような、志乃ちゃんとよく似た、けれど別種の危険さは感じていた。
けれど、基本的には優しい子なのだ。” -
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“「いや、才能は絶対の論理なんかじゃないよ」
「そうでしょうか?才能は、容易に努力を駆逐するものですよ。よく、努力すればどうにかなるなんて考えている人がいますけど、それは間違いです。だってそうでしょう?もし才能の無い人が、他人の何十倍も努力するのだとして、どうして才能のある人が同じだけの努力をしないと言い切れるんですか?凡人は才能の怠惰を望まなければ勝てないんです」
少年向け漫画誌の登場人物達は強大な敵を倒すために修行とかするわけだけど……それで勝てる彼らは、天才なんかじゃないのだろう。ゲーム上で世界を滅ぼさんとする大魔王を倒すためにレベル上げにいそしむプレイヤーもまた、凡人でしかない。
本当の天才は強大な敵であり悪の大魔王だ。
だから漫画の登場人物もゲームのプレイヤーも、彼らが努力しない事を祈るしかない。
強靭な敵が同じように修行していない事を望むしかない。
最初の街を出た瞬間にエンカウントしない事を信じるしかない。
そうする事でしか、僕らは才能を超えられない。”
だんだんとグロさが増している気がする。
“「曰く、『布団は最も身近な悪魔である』」
「……それは誰の言葉?」
言うまでもなく、ぐーたら大学生が勝手に作った言葉である。
自分で言っておいてなんだが、志乃ちゃんが真似しない事を祈るばかりだ。
ちなみに大学のとある友人は、「布団が悪魔なんてとんでもない!彼女はツンデレ天使なんだよ!最初は冷たくするけど、やがて優しく暖めてくれるんだ!」と熱く語っていた。” -
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“「アンタは、呪いって信じるか?」
「鈍い?」
「ありがちなボケやなぁ」
いや、そんな「詰まらんわぁ、ホンマに詰まらんわぁ」なんて呆れられても。僕としては別にボケたつもりはなく、それがあんまりにも使われない、日常会話にはまず出てこないだろう単語だったから直ぐには思いつかなかっただけだ。
あぁ、でも――ポンと手を打つ。
「そっか、夏だから……」
「なんや、その春先に湧き出る変質者に対するみたいな言い方は」
「いや、別にそういう意味じゃなくて」言いがかりですよ、それは。「シーズンじゃないですか、そういうの」”
『リゼィエの手記』の表現力が半端無い。
ぞっとするような、少し気持ち悪くなるような。
“あの大どんでん返しはいったい何を意味しているのだろうか。
普段まじめな人間ほど怒ったとき怖いという。それと同じで、リゼィエという少女の最初の印象は真面目で頭がよく、信仰心にあふれた聖女のようだった。死ぬ寸前まで神に救われる事を祈りつづけた彼女が、最後の最後に叫んだ――怨み言。
心臓がわしづかみにされたかと思うほど恐ろしかった。
本当の、心の底から這い出てきた本音だと伝わってきたから。
リゼィエという少女の本音。
極限の状態で出てきた、普段は理性とか倫理観とかで隠れている人間の本性。
純粋な……あまりにも純粋過ぎる『恨み』だ。
不幸な結末だろうと、あるいは幸せな結末あろうと、それならそれで良かったのに。なのに、この結末には、妄想とかそういった不純さが感じられない。心のどこかで、それは死に瀕した人間が辿り着いた、自分を死に追いやる世界の全てと、対照的に今もこれからも生き続けている多くの他者へ向けられる、真実の思いがあった。” -
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“「きっちり一秒間隔……」先輩が腕時計で確認しながら、掠れた声で呟く「こら、間違いないわ」
「間違いないって、何がですか?」
もちろん、僕だって全く創造がつかないというわけではない。上半分の存在は謎だが、少なくとも下半分のそれらは――そのタイマー表示からどの様な意味を持つものであるかなんて、凡そ常識的な想像力をもっている人間なら誰にだって分かるだろう。
ただ、納得し難い心情があるだけで。
それはこの場にいる誰にも共通する思いだったのだおる。ゴクリという唾を飲み込む音さえ聞こえてきそうな静寂の中で、先輩は微妙に引き攣った笑みを浮かべながら、それを宣言する大役を見事に果たしてみせた。
「時限、爆弾や」”
先輩なら時限爆弾くらい解体できそうなものなんだけど。
うーん。
主人公たち落ち着きすぎではないかと少し疑問に思ったり。
犯人を欺くための工作がそこからだとは思わなかったり。
“生まれてきた意味を求め、生き続ける意味を求め、死なない理由を探し、死にたくない理由を探し、ただただ無為に生きる人々を見つめ、その在り様に絶望し、愚かしく思い、それでも最後に辿り着いたのが、この解答。
人はただ、生きていたいだけなんだという願いなのだとしたら。
世界には、生きたいと願う人間だけが生きている。それが答えなのだとしたら。
『だが、悲しい事に――生きたいという人間の意志は、しかし、死によってのみ完結される』
彼らの嘆きは、僕らが感じているものよりもずっと、深かったのかもしれない。” -
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“「貴方は支倉志乃という少女についてどのように考えていますか?彼女と共にいて、何を感じますか?可愛らしい少女?えぇ、確かに彼女はとても可愛らしいと思います。不思議な少女?それも事実でしょうね。彼女はたとえばお世辞の世界チャンピオンだって普通とは表現できないでしょう。何処か恐ろしい少女?それは真に迫っていると思います。彼女は本当に恐ろしいですから」
「何を……言いたいの?」
「簡単な事です。貴方がどのように考えているのかは知りませんけれど、それは本質を捉えていない。わたしが彼女を初めて見た時の、そして今なお変化する事なく感じ続けている感想を言いましょう――『怪物』です」
怪物、それは凡そ女の子相手に使うには相応しくない単語だ。
他の誰かに言われていれば、本気で怒っていたかもしれない。
それはだって、明らかな蔑称なのだから。
けれど、それでも怒れなかった理由は二つ。
一つは真白ちゃんの顔があんまりにも真剣だった事。
そしてもう一つは――僕自身がそれを否定しきれない事。”
ミステリ要素は今回少なし。
志乃の本質は未だ鮮明にはならず。
“「……ま、まず先に、一つ質問させてもらって構わないかな?」
「はい?もちろん、構いませんけど」
「……もう会う事はない、とか言ってなかったっけ?」
人間、不思議だ。驚きすぎると逆に冷静になるらしい。きっと感情のパロメータがクルリと一回転してしまったのだろう。
「おかしな事を言いますね?」
けど、そんな僕とは対照的に真白ちゃんはニコリと、それはもう、凡そ世界の何処を探したってそれ以上はないだろうってくらい楽しげに笑った。
「わたしは『少女』ですよ?嘘くらい、吐きます」
「―――――」
何だろう、この説得力。” -
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“だから、というわけでもないのだろうが。
嫌な、予感がした。
やがて、
「そう――分かりました」
ガキはそう言って、ノートを閉じた。
そして、ゆっくりと顔を上げて、俺を見た。
真っ黒な瞳。吸い込まれそうな、闇色。
これまでだって幾度と無く危ない事に手を出してきた俺でさえも、ゾッとせずにはいられない、わけの分からない圧迫感。いや、違和感。まるでこの世界に在ってはならないものを見てしまったかのような――恐怖。ただ、それは決して汚らわしさの混じった感情ではなく、生理的な嫌悪ではなく、そういう宝石であるかのような美しさだった。
だからこそ、俺はそんな少女の言葉を、真正面から受け止めた。
「貴方が、犯人ですね」”
中心となる事件と、それにそれほどかかわりのない事件の平行発生。
なんでこういう形をとっているのだろ?
もうひとつの事件のほうが、何気に深いし。
「微笑」の顔文字には少し泣ける。
“「アホ。アンタはシノシノに人前でスカートの中身見せるような女になって欲しいんか?」
もちろん、そんな女の子には、断じてなって欲しくないです。
「せやったら、ちゃんと恥じらいちゅうもんを教えとかんとな。シノシノはただでさえ無防備やねんから――いや、ちゃうか。無防御、やねんから、その辺り、アンタもちゃんと気をつけたらんとアカンで」
相変わらず超極論から始まって、人様の人格と尊厳を一方的に傷つけまくった挙句、最後には何故かお叱りを受けてしまった。
なんだろう、この屈辱……。
微妙に的を射ているだけに、なお更、性質が悪い。
「まぁ、シノシノのスカートの中を覗いてみたくなる気持ちは分からんでもないけど」
「だから何でだっ!」” -
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“あぁ――まただ。
いつもいつも、邪魔をする。
いつもいつも、肝心なところでその声が『私』を引き戻す。
いつもいつも、その声に、どうしようもなく引き戻されてしまう。
だが、大丈夫。
一瞬だけ、届いていた。
僅かに指先が触れた程度だったけれど、大きな問題はない。
志乃は、ゆっくりと浮上していった。
「……い!おいっ!」
「……何?」
「大丈夫なのかよ。オマエ、いま息してなかっただろ」
唖然とした顔でこちらを覗き込む良樹を、志乃はまだボンヤリした瞳で見つめた。曇りガラスを隔てているかのように、目の前の男の顔は判然としない。この男が誰だったのかも、どうして自分がこんな場所に居るのかも漠然としていた。
だが、ハッキリと分かっていることが一つだけあった。
「デッドエンドコンプレックス。それは――」
死からの逃避?
死への憧憬?
それとも――
「……生からの乖離」”
小学五年生の少女支倉志乃は、人の死とかそういったことに対して異常なくらいに興味を示す。
彼女と幼馴染に値する大学せいの僕は、そんな彼女を守り守られ事件の真相と対面する。
結構あっさりと読めた。
志乃ははたして、普通の少女なのかそれとも。
まだあまり、よくわからない。
“だから、彼女に呼びかける。
意識して彼女を呼び止める。
「志乃ちゃんは、何が食べたい?」
「グリンピース以外」
「…………」
しかし。
帰ってきたのは、見事なまでの即答だった。
案の定といえば案の定だけれど。
あんまりにもあんまりで。
分かり易すぎるくらいに分かり易い、その答え。
それは、何も分からない彼女の、唯一理解できる嗜好だった。
思わず、苦笑がもれる。
それに対して、志乃ちゃんは「何?」と何気なく、それでも少しわかる程度に不快気な感情を込めて、僕を睨み付けてきた。真っ暗な瞳の中に、僕が映る。それに僕は、もちろん「何でもないよ」と答えたけれど、それでも苦笑は収まってくれなかった。ますます、志乃ちゃんから放たれる眼力が重くなる。
それから逃れるようにして、僕は冷蔵庫の中に頭を突っ込むのだった。
さぁて、今日は、何にしようかな、なんて考えながら。 -
Posted by ブクログ
富士ミスレーベルに共通して言える事は『ミステリー要素に過度に期待してはいけない』ということ。まぁ犯人がいてそれを考える、って点では十分なんですけどねw
(『麗しのシャーロットに捧ぐ』を除く。あれはガチ。)
まぁミステリミステリしたけりゃ講談社ノベルスとか読んでおけって話ですね。(あれもライト気味ですけど)
ライトノベルはイラストによるキャラへの感情移入あってナンボだと思いますのですよ。それとミステリ風味の融合が楽しいのです。
ミステリの話はさておき、内容としては中々楽しめました。「テラお約束www」的な展開も好きだったりw
やや婉曲な表現や生き死に云々の語りが目立つ感もありましたが、そこはもうキャラの動きでカバーできてたと思います。
1つケチをつけるならばシリーズ全体としての展開がやや遅いところでしょうか。5巻まで読んだけどまだイマイチ全体像が… (´・ω・`)
とはいえ6以降も買っていこうと思えるシリーズ。地味に富士ミスシリーズの中では1番好感触だったかもしれません…