越智敏之のレビュー一覧
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肉食のイメージが強いヨーロッパだが、肉の供給が安定するまで常食するのは魚だった。カトリックが定めた〈魚の日〉、ニシンの回遊ルートが動かしたハンザとオランダの経済、大英帝国を築きあげた塩ダラの輸出事業、魚を使った悪口が頻出する「テンペスト」と奴隷制など、魚食から見える西洋史。
バリー・コリンガム『大英帝国は大喰らい』でも一番最初の章はプア・ジョンと呼ばれる塩ダラを扱っていたが、その辺の食糧事情をより詳細に綴った一冊。
著者が英文学者なので、まえがきでまず「テンペスト」のキャリバンとタラの悪口に触れ、第一章は魚の宗教的な意味合いから語り起こす。言われてみると、キリストの奇跡は肉ではなく魚を増やすのだった。
面白いのは魚は多産の象徴であり、海で勝手に増えてくれるけれど、肉はまず農業革命が起きて餌の供給が安定しないと生産も安定しないというところ。カトリックが肉食を性欲と結びつけて忌避したのは、結局食糧事情による方便だったのかもしれない。
バルト海のハンザ同盟がニシン漁で天下を取ったものの、気まぐれに回遊ルートを変えるニシンのせいで天下がオランダに移ったというくだりは皆川博子『風配図』の未来世界の話だった。そしてニシン漁でも海戦でもオランダに負けたイングランドが、タラ漁で世界を制し始める。
ニシンの長期保存技術を独占していたオランダや塩田に恵まれたフランスに比べて、イングランドが"持たざる者"だったからこそ暴力を行使して盛り返してくるという歴史の動きは面白い。新教国になってフィッシュデイを廃止したら漁業が衰退し、緊急時の海軍を兼ねていた漁師たちが失業するので慌ててフィッシュデイを再施行するとか、その後フィッシュデイを厳守している旧教国に塩ダラを輸出して貿易を牛耳ったりとか、漁業がキリスト教世界の力関係とこんなに深い関係にあるとは思ってなかった。 -
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ヨーロッパの食べ物というと肉を想像するが、西洋の食の中心が肉というイメージが確立するのは、18世紀に、肉類を一年を通して供給するシステムが確立してからのことであり、それまでは、魚の方が肉よりも消費量が多かったそうだ。それには、当時のカトリック教会の世界では一年のおよそ半分が断食日であったが、魚を食べることは奨励されていたためということもあったらしい。
こうした経済的需要を満たすために、それを支えるための漁獲、保存加工、輸送の経済システムが発展したのだが、その主要な商品だったのがニシンとタラ。そして漁業と言えば船と船乗り。それはこの時代、海軍のベースであり、国家の盛衰を左右するものとなる。本書は、そんなニシンとタラを通して巡る世界史の旅。今までほとんど考えたこともない視点から眺めた歴史ということで、非常に面白かった。
とても勉強になったと思ったところは、次のような箇所。
〇ニシンについて
回遊魚であるニシンは、なぜか回遊コースを変えることがあり、11世紀にはバルト海に押し寄せていたニシンが、16世紀には北海に移動してしまう。これが、リューベックを中心とするハンザの繁栄が、オランダに移る大きな要因であったとのこと。そして、オランダはシェットランド諸島からスコットランド、イングランドと南下して漁獲をするのだが、当時のイングランドの漁船や加工技術ではオランダに太刀打ちできなかった。国内漁業の保護のためそれを何とかしようとしたのがスチュアート朝下のイギリス。
直接的にはスペインやポルトガルの覇権を打破するためではあったが、こうした時代だからこそ書かれたのが、グロティウスの『自由海論』であり、オランダの主張に反駁するためにチャールズ一世がセルデンに命じて出版させたのが『閉鎖海論』であった。
〇タラについて
ニューファンドランドがカボットにより発見されたが、そこはタラの大漁場であった。そしてタラのメリットと言えば、加工品の日持ちが大変良いということ。ニシンの塩漬けが良くて2年というのに対し、タラは5年は持つらしい。これは長期の航海には大変重宝される。
このタラの供給を巡って、イングランド→ニューファンドランドにタラ漁に必要な塩などの物資が、ニューファンド→イベリア半島にプア・ジョン(捌いたタラに塩をして数日置き、その後日干しにしたもの)が、イベリア半島→イングランドにサック酒(イベリア半島、カナリア諸島等で造られた白ワイン)が、という三角貿易が成立した。
そして、タラの漁場であるカナダ東部からニューイングランドの地域に関して、オランダ、フランスを駆逐して、イギリスが覇権を確立することになる。
なお著者は元々英文学者なのだが、シェイクスピアの『テンペスト』の中に、「お前を干ダラ(ストックフィッシュ)にしてやるからな」という台詞があり、ストックフィッシュとは何だろうと思ったのが執筆のきっかけだったという。そんな英文学者の著者の面目躍如なのが、第5章の「『テンペスト』の商品ネットワーク」。舞台となる島はどこにあるのか、先住民のキャリバンのイメージは何かを問いつつ、サック酒やプア・ジョン、ストックフィッシュというワードが出てくることなどを指摘する。『テンペスト』を読んだ時には完全に読み飛ばしていたが、当時の時代背景がそんなにも読み取れるものかと驚いてしまった。 -
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戦後日本の占領統治を効果的なものとするため、日本の土地を踏むことなく文化研究学者ルース・ベネディクトがまとめた日本人論。脚注において誤りも多数あるが、日本人の精神構造をアメリカ人と比較しながら論述することで、特徴的に描き出している。ほとんどが今でも有効なものではないか。
日本人は社会の中で自分に与えられた役割「其ノ所」を得てその役割を失わないよう努力する。相手に対する責務は契約関係に基づく「義務」よりはるかに広く概念的な「義理」であり、その義理を目立たぬ形で果たすことが美しいとされる。競争的に自分の貢献をアピールすることは相手の「其ノ所」を犯し恥をかかせることとなり、社会的に許容されない。日本人にとっては恥をかかされた場合、相手に見えない形での報復、相手への暴力を自分に転嫁した形での自殺により名誉回復をすることが義務とされていることから、見える形での競争を避け、相手に恥をかかせないことが重要である。そのため、事前の根回しや見合いにおける仲介人が本人を介することなく事前のお断りをすることにより、公衆の目に触れることなく社会的地位の調整がなされる。
天皇に対しては無条件の「恩」があり忠誠を誓う。これに対して一般から受けた「恩」に対しては、恩返しをしなくてはならず、なにか恩返しをしても相手からの恩は簡単につきるものではない。(これだけのことでは頂いた恩への返しは)すみません。返せないことが申し訳ないし、感謝していることを忝ないといって表現している。
日本人は自らの生き様を「刀」になぞらえており、自らの義理を果たしたいないことから生ずる恥「身から出た錆」を注ぐことは自己責任上重要な課題とされている。 -
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アメリカが日本との戦争を終わらすために調査・分析した日本人論のよう。
負けを認めず、最後の一兵まで戦うという日本の決意を鈍らせるにはどうすればいいか。
どうすれば、日本は戦争をやめる(降伏に応じる)のか。
・皇居空爆をすべきか。
・日本人を根絶するしかないのか。
戦争を終わらせるために原爆を投下したという理由づけの根拠となるアメリカ側の言い分になる内容だと思った。
本書は1930年代の日本を、徳川期の武士階級の論理と組み合わせて、日本人の統一像を描こうとしたものだ。
本書の出版年に生まれた人が今80歳くらいなので、その親の世代の日本人論になる。
当然ながら今の日本とは大きく異なっている。
プライド、恥、恩、義理、礼節、徳、忠、といった精神論的な言葉が沢山出てくる。
結婚や子育てについても、こうあるべきだという在り方が詳しく書いてある。
当時の日本人の考え方(常識)や生活の様子を知るにはいい本なのかも知れない。 -
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ネタバレどこかでオススメとして見かけた本。
読んでる間、頭の中にあったのはスカーレット・オハラのタラのテーマ曲、というのはさすがに嘘だけど、タラの話がとても多い。
世界史というか、欧米世界と魚との関わりを解く試みが楽しい。
キリスト教と魚、シェイクスピアと魚、アメリカ入植と魚。
いやあ、お腹いっぱい。
面白くてテンペストを再読してしまった。
ニューファンドランドのアバロン半島にこんなドラマがあったとは。
ジョンスミスというやたら匿名性の高い名を持つ波瀾万丈すぎるポカホンタスの恋人(嘘)の話も凄かった。
この人がトルコ奴隷時代にやったこと、本当に人間の所業じゃないよね。(主人の妻に色仕掛けして助けてもらい、恋仲になるも、その夫人の兄弟を殺して脱出)
それにしても、ケープコッドがこんなに頻出する本はバナナフィッシュとこの本だけじゃない?
確かにコッドはタラだもんな。
ピルグリムファーザーズがプリマスを出て、ニュープリマスに来たのは偶然だったんかい。。。それにもビックリした。
追記メモ
イギリスでは、大戦 the great warというのは今でも第一次世界大戦のほうを指す
らしい。ほーん。 -
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ヨーロッパではあまり魚が食べられてるイメージが強くなかったけど、実はそうではなくてニシンやタラは重要なものだったという初めて知る知識に惹かれ購入。イギリス、オランダ、フランス、スペイン、アメリカあたりの歴史に興味のある方におすすめ
私が思ったよりもかなり前の時代から魚と人々の生活や政治、軍隊、宗教なんかとの繋がりがあってしかもそれがかなり強い繋がりだったことに驚いた。
昔の時代は特にだけどやっぱり人間は食べ物ファーストなんだな。生きていく上で欠かせないものだし。
あと巻末の方に当時の魚料理のレシピが載ってるんだけどこれ大丈夫??みたいなレシピが多くてそこも面白かった。作る勇気はない。
ヨーロッパの漁業の歴史を時代の流れに沿って学べる。世界史の授業をあまり覚えてないことが残念だった。詳しい人なら多分もっと楽しめるはず。
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Posted by ブクログ
戦後すぐに出版された日本人論なので、現代では「?」な部分もありますが、おおむね的を得ているように感じます。ただ、一つの論点をだらだら書いててわかりにくい部分が多くみられます。
1.この本を一言で表すと?
・大きくはずれてないが、細部で間違いが多い、アメリカ人による終戦直後の日本人分析
2.よかった点を3〜5つ
・罪の文化、恥の文化(p272)
→現代の日本では、恥の文化が薄れてきているのが問題なのではないか?と考えさせられた
・身からでた錆への責任(p361)
→刀を比喩的に使った、大和魂をわかりやすく表現している。
・乃木将軍とロシアのステッセル将軍とのエピソード(p375)
→単純にいい話。相手を嘲笑するのは恥ということか。
2.参考にならなかった所(つっこみ所)
・注釈をみる限り、あまりにも勘違い、調査不足が多いと感じました
・そもそも、この本を読んだ欧米人はどれくらいいるのか、甚だ疑問
・義務と義理について、現代ではそれほど区別されていないのではないか?
・恩とそれに対する返済一覧表(p147)
→義務は等価返済?返済期限あり?自分の名に対する義理=名誉?どれも少しずれている気がする
・降伏後の日本について、平和国家になるか、好戦的な国になるか、状況次第と纏めているが、後に制定される憲法に影響されることになってしまった。
・人情の領域
→睡眠、食事等は個人的には当たっていると感じたが、現代の日本人一般的には外れている部分が多いと思う。
・タイトルの「菊」はどこからきているのか?
3.みんなで議論したいこと
・恥の文化がなくなった場合、宗教なき日本人にとっては、何が内なる神になるのか?
4.全体の感想・その他
・終戦前後の時代背景を考えると、日本に来ることなく、文献調査と聞き取りのみでここまで分析できたのはすごいと思うが、事実誤認も多く、なぜ現代まで語り継がれる本になったのかは疑問
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Posted by ブクログ
以前読んだ長谷川松治訳(講談社学術文庫版)よりかなり読みやすい.光文社文庫版もチェックしたいところ.
「菊と刀」の評価は過去にも多くなされているが,ベネディクトの見方に正しいものがあるというところは感覚的には理解できる.ただ,それは単純に結論として正しくなっているだけである.結論にいたる過程については荒削りであり,また不正確でもある.だからこそ大枠だけは正しいというところである.日本人の研究者は日本文化になじみすぎており,これまで,敢えてその「大枠」に眼を向けることがなかった.本書の価値はこの過去に抜け落ちていた視点があったというところであろう.
ただ,やはり彼女がつかんだ直感的なものだけでは学問としての位置づけは高く評価できない.結論は面白いし,結果としては正しくもあるだろうが,それで十分であろうか? -
Posted by ブクログ
評価が難しい本。本書でまず目につくのは、巻末に附された厖大な量の註である。これは、著者が丹念に取材にあたった証左ではなく、むしろその逆で、事実の誤認などがかなり多いために訳註を増やさざるをえないのだ。まずこの時点で、高い評価をためらってしまう。当時日本論がほとんど世に出ていないことや、取材時は戦時下で、情報を容易に得ることができないという背景は理解しているものの、それでも日本人からすれば常識的な部分にまであまりにも誤りが多く、積極的に肯定する気にはなれない。それを差し引いても、内容もはたして妥当なのかどうか。いわんとしていることはたしかにわかるのだが、どうにも腑に落ちない部分も多多ある。時代背景が違うため理解することが難しいということもあるのだろうけど、ちょっと偏見が過ぎる印象ももった。ただ、今日でもたとえば「空気」を重んじたりするようなところなどはよくいわれることであるが、そういった記述にかんしてはよく理解できるし、そのほかの部分と比較・対象すれば、その的確さにはむしろ舌を巻くばかりである。現代でもなかなかこういう民族論はかけないのではないかとも思う。なにより、戦時中日本に対してこういう見方があったのだということは非常に興味深い。正確性については疑問符はつくけれど、それはそれとして、この時代の日本人論として白眉であることは間違いないと思う。