田中康夫のレビュー一覧
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田中康夫氏が一橋大学在学中の1980年に発表した処女作『なんとなく、クリスタル』に登場した、東京に暮らす女子大生兼ファッションモデルの主人公・由利とその女友達と、『なんとなく、クリスタル』には登場しなかった田中氏本人の33年後を、一人称で描いた作品。『文藝』2013年冬号から2014年冬号に連載、2014年11月に単行本として出版され、今般文庫化されたもの。
尚、『なんとなく、クリスタル』は、1980年の文藝賞(河出書房新社の新人賞)を受賞、1981年の芥川賞候補にもなり、発行部数100万部を超えるベストセラーとなった小説。
本文庫版では、更に、社会学者・大澤真幸と作詞家・なかにし礼による「解 -
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巻末で高橋源一郎さんが激奨しているけど、80年代のアーバンでアッパークラスの若者の日常の雰囲気をそのまま描写したという意味では見事なのかもしれない。
オスカー・ワイルドやスコット・フィッツジェラルド的アッパークラスの苦悩には近づけず、ただ淡々と80年代の都会の若者的風景とその薄い感覚を結末も無く描いただけ。
それ故に前時代的文学のアンチテーゼとして同時代を生きた若者にとって真実なのだ、と源一郎さんも言いたいのだろうけど。
ピチカート・ファイヴを聴いている時にロスジェネの僕たちが共有できた感覚をこの小説を通じて80年代の若者たちは感じたのだろうか、と思ったりする。
風俗とその時代の気分のカットア -
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(2017年2月のブログから2020年11月に転記)
まず、この本を手に取ったのは、「膨大な注があることで有名(*1)」だったから。
要するに物珍しさというか、歴史の1ページというか、そういうのを知っておきたかったから。
で、読み始めたところ、注のほとんどは、作中で紹介されているブランド品の説明とか、お店、楽曲、洋楽シンガーの説明(*2)とか固有名詞のための注。だから思いました。
注のための注(*3)なんだな、と。
でも、読み進めていくと、不意に本質的なことにたどり着く。
何のために生きているのだろうか。
しかし、この年代の主人公は現代の私たちとは違って楽観的。
「クリスタルな -
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『なんとなくクリスタル』(「なんクリ」改め「もとクリ」だそう)後編のこの本『33年後のなんとなくクリスタル』(いまクリ」)は1950年後半生まれの人たちの20代前半から50代前半への軌跡。
わたしは1988年、46歳の時に「もとクリ」を読みました。1980年~81年にかけての沸騰した話題から少々遅れて。
登場人物みたいに若くはなかったけれど、それでもまだバブル期、ちょっと軽薄だけどそんな雰囲気わかると思いましたよ。なんにも考えていなかったわけでもないけど、肩パット入り大きめの洋服、ふわふわの髪型、アクセサリーをごちゃごちゃつけて、いい中年なのに派手。
さて「いまクリ」の感想。
50代に -
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留年した学生時代に一気に書き上げたというこの作品、見開きの左半分は注釈という特異な形式もさることながら、それ以上に今までにはなかった、感覚で生きる自分たちの世代の青春小説を描きたかったという。
主人公は、青学とおぼしき大学に通う女子大生。モデルの仕事もこなし、同居するミュージシャンの恋人がいながら複数の男友達もいる。経済的にも恵まれ、ファッションも音楽も生き方も、すべてを自分のセンスで選び、何ひとつ不自由することなく、なんとなくクリスタルな毎日を楽しんでいるが、その視線は常にどこか冷めている。
1980年といえば、バブルにはまだ間があるものの、物質的には豊かになる一方の日本だった。ブランド -
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舞台は1980年代前半。なんとなくブランド物を身につけて、なんとなく美味しいものを食べて、なんとなく楽しいところで遊んで…というお気楽な大学生たちの物語。
悩みもなく、金銭的な心配もなく、未来を憂うこともない。本当にそういう時代だったらしい。
ちょうどその年代に生まれた私からすると、羨ましいの一言だけど、たった30数年で日本の国力が随分と落ちてしまったってことでもあるのだと思う。
かるく読めるから何も考えたくないときにはぴったり。
たぶんこの小説はタイトル通り“なんとなく”読むのが正解だと思う。
物語は右半分だけで、左半分は脚注みたいになってる変わったつくりの小説だから、あっという間に読め -
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「ファディッシュ考現学」は1985,86年に朝日ジャーナルに連載された文章をまとめたものだ。
偏狭なアカであったsatoboも当時同誌を読んでいたのだけど、田中康夫の書くこの連載や噂の真相での「ペログリ日記」を偏見を持って「なんだよ田中康夫ってチャラチャラしやがってよぅ」となかば飛ばし読みをしていた。
ところが今あらためて読んでみると、大変面白い。
実に的確で嫌みが効いて冷静に時代を観察している。
むしろ田中康夫を嫌っていた方が、チャラチャラして浮ついた考え方で世の中を浮遊していた事が、今となってはわかる。
85年といえばバブルが始まる時である。
田中康夫は29歳。
今の感覚だと、田中の文章は