中田耕治のレビュー一覧
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著者自身の言葉として、「非現実に対するわたしの不安はこの作品から始まっている。」と解説の最後に引用されています。つまり、後の作品群のいわゆる”ディック感覚”と呼ばれる最初の作品ということができるでしょう。
とはいえ、今まで読んだディック作品の中では、わかりやすくてとても面白かったです。仮想現実や多元世界に興味がある人にはツボでしょうね。ラストも、考え方によってはループ物を想起させますが、いい終わり方でした。
内容に少し触れると、人それぞれが思い描く世界観がリアルに体現できたら…ということですが、それが自分の世界観ではなく、誰かのものだとしたら…という感じ。例えるなら、読書嫌いな人の思考にと -
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マクベイン『87分署シリーズ』の5作目。ある一人の麻薬常習者の少年の死から凶悪な犯罪の全貌を暴き出す、私にとってはこれまでのシリーズ5作品の中で、『通り魔』に続いて好きな作品となりました。
本作の醍醐味の一つに、『他殺を知らせる為の自殺偽装』というものがあります。
縊死自殺に見せかけられた少年の死因は、ヘロインの過剰摂取によるものでした。
縊死に見せかけようとしなければ事故死とも捉えられたであろうに、なぜ犯人はわざわざ自殺に見せかけようとしたのか。
自殺を偽装することで、かえって他殺を疑われることに気づいていながら、なぜ手間のかかることを実行したのか。
ここに潜む悪意に満ちた野望の正体と -
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ネタバレ87分署シリーズ第三作。第一作で新婚旅行に出発したスティーヴ・キャレラがもどり、前作で殺人事件の犯人を逮捕したバート・クリングが刑事に昇進している。
麻薬の密売人と思われる男が死んでいるのが発見される。殺されたあと自殺に偽装されたとして、殺人事件として捜査が始まる。麻薬用の注射器には本人のものではない指紋が発見される。そして、87分署のピーター・バーンズ捜査就任に電話がかかる。ピーター・バーンズの息子のラリイ・バーンズが麻薬中毒者で殺人現場に残された注射器の指紋がラリイのものであるというものだった。
捜査主任としての立場と父親としての立場の間で板ばさみに会うピーターだが、息子の事件への関与 -
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意外にも良心的な結末にちょっとビックリ(…ハッピーエンドですよね?)。
先日読んだ「発狂した宇宙」と並び多元宇宙の金字塔と評される本書です。どちらも現実と異なる世界に迷い込み、四苦八苦するという点では同じですが、「発狂した宇宙」における多元宇宙が無限にある宇宙のひとつだとすると、こちらは極端な考え方をする誰かの意識(しかも複数)に迷い込みます。また、「発狂した宇宙」で訪れる宇宙がSFオタクの空想ものだとすると、こちらは現実の主義主張の地続きの異世界が舞台。だから甲乙つくわけではありませんが、楽観的に読み進められた発狂した宇宙に対し、不安と疑心がつきまとう本書でした。
読み終わって改めて思うこ -
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ディックの小説の中でも好きな作品になった。
時に難解な(というか破綻している(そしてそれが魅力だったりする))他作品とは一線を画し、物語は分かりやすく、SFとしての魅力も十二分な世界観である。
事故にあった人々の理想世界に転移していくのだが、それぞれが思う理想郷がいかに他者にとってのディストピアとなるのか、そこに宗教や共産主義、はたまた人種差別などの要素をシニカルに描くあたりがディックらしい。
最後は後日譚の様相であるが、果たして現実に戻ったのか。よほど大きな事故にあったであろう当事者たちが元の元気な姿になるとは思えない。やはりこの世界は誰かの夢の中?