冨田浩司のレビュー一覧
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タイトルどおり、危機に直面したときの指導者としてチャーチルがどう振る舞ったかに焦点を絞った書籍。チャーチルの人生や戦争の経緯等は他で学んだ後に手に取ると、彼のリーダー像の理解を数段深化させてくれる一冊。
チャーチルはキャラ立ちしていて(パグ犬のような顔、やや丸まった背中、葉巻、放埒な言動等)、ワンマンで強硬なリーダーというイメージを抱きやすい。ただ、政治家としては中道、長い閣僚経験に裏打ちされた圧倒的実務能力、現実的な問題解決思考を有する点などを、本書は丹念に指摘する。
注目すべきは、チャーチルは「危機の指導者」(WW2の戦時内閣)として超一流であり、平時の指導者(前後の第二次内閣)としては中の上ぐらいであったという点だ。特に戦時内閣以前の閣僚時代は、失策や失言で不評を買い、不遇時代を経験している。ただしその経験値が教訓となり、戦時内閣のパフォーマンスに繋がっているから面白い。禍福は糾える縄の如し。
最後に、筆者が指摘するチャーチルを偉大な危機の指導者たらしめた三点を要約しておく。
①コミュニケーション能力
危機に際して最初に求められるのが目的意識の明確化。不満や現実逃避に陥りがちだが、それは避けるべきだ。チャーチルは演説で、いかなるコストを払ってでも戦争に勝利すると名言し、国民の迷いを払拭し、想力を結集した。また、ドイツとの戦いを、自由、民主主義と合成、善と悪と捉えることで、国民に戦争の大義を信じ込ませることに成功した。
②行動思考の実務主義、
器における指導者の最も重要な役割は、大きな戦略的判断を下すことだ。実際の機器においては、数百の課題が毎日指導者に決断を求める。それを処理する能力がないし、指導者は大きな戦略的判断は下せない。「即日実行」で自ら昼夜なく働き、国家組織にも戦時モードを浸透させ昼夜なく稼働させた。また軍事と政治を広い視野で統合的に指揮、行動した(独ヒトラー、米ルーズベルト、蘇スターリンもその視点での立ち回りはして(出来て)いない)。そして独裁や独善に陥らなかった点からも戦争指導の成功といえる。
③歴史観
危機は、時として指導者の国家観そのものを試す。洗濯を迫られたときに、国家のあり方と国民についてどれだけ理解を持ち、決断を下すかと言う問題だ。チャーチルは、現実的解決策を模索する一方、歴史にも啓示を求める。チェンバレンが融和政策を勧め、ハリファックスがヒトラーとの講和の糸口を模索しようとする時、彼らの念頭に浮かぶのは、WW1の悪夢と大恐慌の窮状に倦んだ国民の顔だった。しかしチャーチルはドレイク、ジョン・チャーチル、ネルソン、ウェリントン9帝国の栄光を築いた先人を思い浮かべた。イギリス人の愛国心の起源は、大陸から迫りくる旧教勢力の脅威に対抗して信仰を守り抜こうとする決意に求められる。そして、彼らの心の中には、そうした戦いを通じ、自ら選ばれた民族であると言う、心の平安が芽生えたとする。WW2初期にチャーチルが頼りにしたのは、こうした歴史に裏打ちされたイギリス人の狂人差だ。彼の歴史への信頼は、究極的には国民への信頼だった。ドイツ降伏の日、チャーチルは群衆に向かい「神の祝福。これはあなた方の勝利です」と叫んだ。チャーチルの信頼に、国民もよく応えた。
本書を読むと、WW2における連合国の勝利は薄氷を踏むものだったということがよくわかる。チャーチルが首相になり徹底抗戦しなければ、ヨーロッパ大陸は今頃EUではなくナチスが統治していたことも十分にあり得る。フランス降伏後、ナチスドイツからのイギリスへの講和案は、イギリスにとってはある意味合理的で現実的だからだ。チャーチルの③歴史観からくる徹底抗戦の決断がなければ、おそらく講和していたと想像する。結果的にそれが人類の幸福/不幸に繋がったかは不明だが。
感想としてまとまりがないが、なんとも歴史のダイナミズムと面白さを教えてくれる良書だった。 -
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イギリスに住んでいて驚いたことの一つは、イギリス人は社会と公共のあらゆることをサッチャーと絡めて話そうとすることであった。(サッチャーのせいでこうなったんだ、と、たいていは悪い意味である)
そんな具合でサッチャーについて冷静に議論するのはイギリス国内では難しいのだが、この本は大変バランスが取れていると感じた。サッチャーに対してポジティブな評価をくださない筆者だからこその「筆者が何よりも感銘を受けるのは、政治家としての知的真摯さである」の一文は重みがあった。
強いて言えば、サッチャーとコールやミッテランといった他の政治家との関係性を男女という文脈で論じがちなのはやや気になったが、全体への評価を揺るがすものではないと思う。
それにしても、大国が没落した後の舵取りは難しい。そんな1980年代のイギリスに現れたのがサッチャーであったが、日本はどうだろうか、とつい考えてしまう。2020年代のイギリスと日本の政治を考えるうえでもとても示唆を与えてくれる一冊だった。 -
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サッチャーほど毀誉褒貶の激しい首相は少ないであろう。それは、彼女が初の英国女性首相であるためではなく、その妥協を知らない交渉スタイル、そして「鉄の女」と称されるほどの強い信念を、内政、外交(軍事含む)において臆することなく発揮したことによる。
本書において、英国の1970年代の停滞期から脱する過程、そして望まざる退陣までの動きが、英国の政治思潮や周辺諸国との歴史的経緯を都度概説を加えながら叙述されている。
彼女の信念は「人々に(社会扶助が)全ての国家によって実施可能だという考え方を植え付ければ、人間性の最も枢要な構成要素である道徳的責任を人々から奪い取る(p.34)」という演説の一節に顕著に現れており、(彼女の信仰する)メソジストの教え、そして食料品店を営む父との”life over the shop”から体得した勤勉さが浮かび上がってくる。
彼女は、外交や軍事を不得手としたが、フォークランド戦争を勝利に導き、また冷戦終結への端緒を開いた、優れた指導者であった。
しかし、後年は、その妥協なき姿勢によって協力者を失い、政権を追われることとなった。
その頃英国が抱えていた懸案の一つが、単一欧州議定書への交渉の中での欧州為替相場メカニズム(ERM)への参加であり、通貨同盟への参加への彼女の強い拒否は、英国除く欧州諸国にとって、英国を厭わしいたらしめていた。それは、単にERMのみならず、拠出金返還を強く要求していたこともあって、なお一層倦怠感を欧州に持たせてしまっていた。
これが、今のBrexitの伏線となったかは、議論が分かれるところだが、少なくともBrexitに至る英国の欧州共同体に対するスタンスは、決して(英国除く)欧州諸国よりは冷笑的で、その理念に対する熱意にかけていたことがよく分かったのは、収穫であった。 -
購入済み
意思の人
政治家に必要な能力には、先見性 教養 知性 交渉力 人間性 など多くの要素があるが、その中でもとりわけ重要なの要素が「継続する意思」だと思う。この不屈の意思こそがその他の要素では取り立てて優れていたわけではないチャーチルを救国の英雄とした。
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[彗星のごときパグ]第二次世界大戦時、類い稀なるリーダーシップをふるい、英国を滅亡の淵から救った立役者、ウィンストン・チャーチル。英国政治の異端とされた男が、危機においてどう考えどう振る舞ったのかを丁寧にたどるとともに、危機において求められるリーダー像を考えていく作品です。著者は、外交官として英国に赴任された経験も持つ冨田浩司。
誰でも名前だけは知っているチャーチルですが、政治家だけでなく軍人、そして作家としての側面も丹念に記述がなされており、入門的一冊としてピッタリ。また、人生の大半を英国政治の中枢において過ごしているため、チャーチルを軸とした英国近現代史としても読むことができます。あまり紹介されないチャーチルの家庭人としての側面(必ずしも幸せ一色ではなかったようですが...)を知ることができたのも収穫でした。
時と場合によって求められる指導者像というのはずいぶんと異なると思うのですが、あの「強烈」な時代においてはチャーチルぐらいの「強烈」な人間でなければ一国を率いることはできなかったのかもしれません。そういった意味ではチャーチルの首相就任はいわば「天の采配」によると言えるのかもしれませんが、その采配をたぐり寄せられるだけの柔軟性をもった英国政治というものにも興味が尽きませんでした。
〜ノルウェー討議からチャーチルの首相就任までのプロセスは、国家存亡の危機において最も相応しい指導者を選び出す能力を備えていたという意味で、英国の政治制度の強靭さを示している。しかし、制度を動かすのは、詰まるところ時々の人間の判断であることも忘れるべきではない。〜
やっぱりイギリスに行きたいな☆5つ -
Posted by ブクログ
ルーズベルト、スターリンと並ぶ大日本帝国の仇敵の1人、チャーチルの伝記。まさに戦争指導のために生まれてきた(と本人が思い込んでいた)政治家の存在によって、崩壊の危機スレスレにあった大英帝国が生き長らえさせされたのは間違いない。
日本が対英米蘭に宣戦布告し、結果として米国の対ドイツ戦を可能とならしめた際の「結局のところ我々は勝ったのだ。」という言葉は、日本人としては痛烈な皮肉として受け止めざるを得ない。
最近出版された本なのではあるが、別に3.11や、その他国内情勢にムリヤリこじつけることもなく、かなり客観性を意識して、事実を書き連ねた内容や構成にはかなり好感を感じた。
そして何より専門の作家や研究者ではなく、一外務官僚がこのような文章を書いて本を出版した、という事に意外さを感じつつも、ああ日本の官僚にも優秀な人はやっぱいるんだな、と感じることができた。それが一番の収穫だったかも。 -
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駐英経験豊富な外交官である著者が、執筆当時の最新の研究成果も踏まえながら、第二次世界大戦時の英国を指導したチャーチルの多面的な人物像を紹介。
時系列でチャーチルの足跡をたどるのではなく、政治指導者としてのチャーチルを理解するためのいくつかの切り口を特定し、掘り下げた考察を加えるというスタイルを採用している。具体的には、青年期、政治信条、家庭といった指導者としての人格を形づくった要素を吟味した上で、第一次大戦中、戦間期、第二次大戦中のそれぞれの時期において、チャーチルがどのように実際の危機に取り組んだかを詳述し、最後に危機における政治指導者の在り方について著者の考察を示している。
名前だけは知っているという程度だったチャーチルについて、その人生の大まかな流れが把握できたとともに、チャーチルのある面で傑出した人物像がよく理解できた。
特に、チャーチルの若い頃からの野心とエネルギー、自身に対する揺るぎない信頼は、他人から見たらいかがなものかと思う面もあったとは思うが、危機に直面する政治指導者としてはこの上ない特質だったように思うし、率直にすごいなと感じた。
また、著者がチャーチルの政治観として指摘している、歴史観の重視、問題解決型、中庸の追求という3点は、自分としても政治指導者の在り方として共感するところ大である。
そして、著者がチャーチルから学ぶことができる危機の指導者に求められる資質として提示する、(国民に対する)コミュニケーション能力、行動志向の実務主義(「即日実行」の精神)、歴史観という3点についても、もっともな指摘だと思った。 -
Posted by ブクログ
主にサッチャーの外交について書かれた第6章 「戦友たち」の最後の方に「1980年代、サッチャーとともに国際政治の激動を経験した指導者のほとんどは鬼籍に入り、今やその時代のことを語れるのはゴルバチョフとワレサくらいになってしまった。」と書いてあってのけぞりました。
サッチャーと同時代に日本で長期政権を実現した中曽根元首相はまだご存命です(2018年12月現在)。
それだけでなく、全章を通じて中曽根氏の名前が出てくるのはサミットの写真のキャプションだけです。
日本の読者として中曽根氏とサッチャー氏の関係がどうだったのか知りたく思うのは当然ですし、中曽根政権下で若手官僚だったはずの著者にはそれが書けるはずです。
ここまで何も書かれていないと、私怨でもあるのかと勘ぐってしまいます。また他の事柄に関しても「書かない権利」を行使しているのでは、と内容に疑念を抱いてしまいます。
せっかく日本の読者にもわかりやすくサッチャー氏の業績を書かれているだけにもったいないと思います。 -
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1.この本を一言で表すと?
日本の外交官からみたサッチャーの人生をまとめた本。
2.よかった点を 3~5 つ
・二人の「象徴」(p68)
→エリザベス女王とサッチャーが緊張関係にあったことは知らなかった。
・幸いだったのは、実際的で、バランスの取れた判断力、忠誠心、自己顕示欲のなさ、といった彼(デニス)の性格
がこうした役回りにうってつけであったことである。また、求められない限り助言を行わないことや、プレスのイン
タビューには絶対に応じないことなど、彼が自らに課した原則はいずれも賢明あものであった。(p60)
→非常に賢明な夫の支えがあってこそのサッチャーだったと知った、、
・欧州の戦友たち(p183)
→指導者間のケミストリーが国家間の動向に影響を与えるのは今も昔も同じだと思った。
・サッチャーの交渉スタイルはこのような外交専門家の「職業病」とは無縁で、外交上の妥協は、自らの主張を徹頭
徹尾追求し、刀折れ、矢尽きた状況で初めて考えるという、いわば「玉砕型」と呼べるものであった。(p180)
→玉砕型とは意外だった。
・真の変革を達成するためには「愛されない」覚悟を持って自らの信念を訴えていくことが必要となる。(p285)
→こういう覚悟を持った政治家は最近見なくなったと思う。
2.参考にならなかった所(つっこみ所)
・欧州の戦友たち(p183)
→ゴシップ的な記載で他の部分と比較して違和感を感じた。
3.実践してみようとおもうこと
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5.全体の感想・その他
・著者のチャーチルの評伝も読んでみたいと思った。
・著者自身はあまりサッチャーのことが好きになれないようだか、その方が客観的にサッチャーの事を書けると思っ
た。
・著者の外交官として直接見聞きしたエピソードが面白かった -
Posted by ブクログ
・サッチャーは1925年、キリスト教徒の父が営む食料品店で生まれ、幼い頃から店を手伝った。信仰に明け暮れる幼少時代を過ごし、彼女の政治信念の土台を築いた。
・1975年に保守党党首となったサッチャーは、政治と宗教の関係を明確な形で訴え始める。
例えば、この世は個人が神の恩寵にどう応えるかで決まり、政治の重要性は神と個人の関係に比べれば二義的なもの。政治があらゆる社会問題を解決できるという考え方は幻想で、個人の神に対する責任を形骸化しかねない
と指摘した。
・当時のイギリスの病弊の根底にあるのは、社会主義思想の蔓延によって、人々が国家への依存を深めたことだと考えた。
こうした精神構造を改め、経済・社会再生のための道徳的な処方箋が、個人の経済的自由を最大化し、国家の介入を最小化する「サッチャリズム」とした。
・女性の地位向上には前向きだったが、「家庭における女性の伝統的な役割」を放棄したキャリア・ウーマンは嫌った。
実際、仕事上の同僚は男性が中心で、政権にあった間、閣僚に登用された女性は1人だけ。
・現実主義者のサッチャーと、楽観主義者のレーガン米大統領は親密な関係を築いた。
性格の異なる2人が親しくなれたのは、共に個人の自由の回復を目指し、共に政治的なアウトサイダーだったから。
B級俳優から大統領となったレーガンと、食料品店の娘から女性首相となったサッチャーは、政治的道のりの厳しさについて強い共感を抱いていた。 -
Posted by ブクログ
●内容
・外交官によるチャーチルの評伝。人物を主体に、WWⅡ前後の政治情勢に迫る。
・チャーチルを“自信過剰で後進に道を譲れなかった”としながらも評価は高く、彼の行動を挙げて理想の指導者を語る。
「指導者が自己への確信を示すことは、危機においてはとりわけ重要である。人は危機的状況において自らの能力に疑問を持つ指導者に運命を委ねる気にはならないからである」
●感想
・トップマネジメントのケースとして読める。
自信過剰でなんにでもクチバシをつっこむ「いやな奴」のチャーチルが、そこそこ失敗しながらもトータルで成功を収めたのはまさにその自信のゆえ。
・チャーチルを通じて語られる「危機の指導者」の資質。
1、コミュニケーション能力→目的意識の明確化を行い、ヴィジブルなリーダーとなること。
2、行動志向の実務主義→大きな戦略的判断を下すにあたって、不作為のリスクは作為のリスクを大きく上回ると知ること。
3、歴史観→国家の存亡を左右する決断を迫られたとき、国家のあり方と国民についてどれだけの理解を持ちながら決断を下すか。