冨田浩司のレビュー一覧
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イギリスに住んでいて驚いたことの一つは、イギリス人は社会と公共のあらゆることをサッチャーと絡めて話そうとすることであった。(サッチャーのせいでこうなったんだ、と、たいていは悪い意味である)
そんな具合でサッチャーについて冷静に議論するのはイギリス国内では難しいのだが、この本は大変バランスが取れていると感じた。サッチャーに対してポジティブな評価をくださない筆者だからこその「筆者が何よりも感銘を受けるのは、政治家としての知的真摯さである」の一文は重みがあった。
強いて言えば、サッチャーとコールやミッテランといった他の政治家との関係性を男女という文脈で論じがちなのはやや気になったが、全体への評価を揺 -
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サッチャーほど毀誉褒貶の激しい首相は少ないであろう。それは、彼女が初の英国女性首相であるためではなく、その妥協を知らない交渉スタイル、そして「鉄の女」と称されるほどの強い信念を、内政、外交(軍事含む)において臆することなく発揮したことによる。
本書において、英国の1970年代の停滞期から脱する過程、そして望まざる退陣までの動きが、英国の政治思潮や周辺諸国との歴史的経緯を都度概説を加えながら叙述されている。
彼女の信念は「人々に(社会扶助が)全ての国家によって実施可能だという考え方を植え付ければ、人間性の最も枢要な構成要素である道徳的責任を人々から奪い取る(p.34)」という演説の一節に顕著 -
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意思の人
政治家に必要な能力には、先見性 教養 知性 交渉力 人間性 など多くの要素があるが、その中でもとりわけ重要なの要素が「継続する意思」だと思う。この不屈の意思こそがその他の要素では取り立てて優れていたわけではないチャーチルを救国の英雄とした。
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[彗星のごときパグ]第二次世界大戦時、類い稀なるリーダーシップをふるい、英国を滅亡の淵から救った立役者、ウィンストン・チャーチル。英国政治の異端とされた男が、危機においてどう考えどう振る舞ったのかを丁寧にたどるとともに、危機において求められるリーダー像を考えていく作品です。著者は、外交官として英国に赴任された経験も持つ冨田浩司。
誰でも名前だけは知っているチャーチルですが、政治家だけでなく軍人、そして作家としての側面も丹念に記述がなされており、入門的一冊としてピッタリ。また、人生の大半を英国政治の中枢において過ごしているため、チャーチルを軸とした英国近現代史としても読むことができます。あま -
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ルーズベルト、スターリンと並ぶ大日本帝国の仇敵の1人、チャーチルの伝記。まさに戦争指導のために生まれてきた(と本人が思い込んでいた)政治家の存在によって、崩壊の危機スレスレにあった大英帝国が生き長らえさせされたのは間違いない。
日本が対英米蘭に宣戦布告し、結果として米国の対ドイツ戦を可能とならしめた際の「結局のところ我々は勝ったのだ。」という言葉は、日本人としては痛烈な皮肉として受け止めざるを得ない。
最近出版された本なのではあるが、別に3.11や、その他国内情勢にムリヤリこじつけることもなく、かなり客観性を意識して、事実を書き連ねた内容や構成にはかなり好感を感じた。
そして何より専門の -
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駐英経験豊富な外交官である著者が、執筆当時の最新の研究成果も踏まえながら、第二次世界大戦時の英国を指導したチャーチルの多面的な人物像を紹介。
時系列でチャーチルの足跡をたどるのではなく、政治指導者としてのチャーチルを理解するためのいくつかの切り口を特定し、掘り下げた考察を加えるというスタイルを採用している。具体的には、青年期、政治信条、家庭といった指導者としての人格を形づくった要素を吟味した上で、第一次大戦中、戦間期、第二次大戦中のそれぞれの時期において、チャーチルがどのように実際の危機に取り組んだかを詳述し、最後に危機における政治指導者の在り方について著者の考察を示している。
名前だけは知っ -
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主にサッチャーの外交について書かれた第6章 「戦友たち」の最後の方に「1980年代、サッチャーとともに国際政治の激動を経験した指導者のほとんどは鬼籍に入り、今やその時代のことを語れるのはゴルバチョフとワレサくらいになってしまった。」と書いてあってのけぞりました。
サッチャーと同時代に日本で長期政権を実現した中曽根元首相はまだご存命です(2018年12月現在)。
それだけでなく、全章を通じて中曽根氏の名前が出てくるのはサミットの写真のキャプションだけです。
日本の読者として中曽根氏とサッチャー氏の関係がどうだったのか知りたく思うのは当然ですし、中曽根政権下で若手官僚だったはずの著者にはそれが書 -
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・サッチャーは1925年、キリスト教徒の父が営む食料品店で生まれ、幼い頃から店を手伝った。信仰に明け暮れる幼少時代を過ごし、彼女の政治信念の土台を築いた。
・1975年に保守党党首となったサッチャーは、政治と宗教の関係を明確な形で訴え始める。
例えば、この世は個人が神の恩寵にどう応えるかで決まり、政治の重要性は神と個人の関係に比べれば二義的なもの。政治があらゆる社会問題を解決できるという考え方は幻想で、個人の神に対する責任を形骸化しかねない
と指摘した。
・当時のイギリスの病弊の根底にあるのは、社会主義思想の蔓延によって、人々が国家への依存を深めたことだと考えた。
こうした精神構造を改め、 -
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●内容
・外交官によるチャーチルの評伝。人物を主体に、WWⅡ前後の政治情勢に迫る。
・チャーチルを“自信過剰で後進に道を譲れなかった”としながらも評価は高く、彼の行動を挙げて理想の指導者を語る。
「指導者が自己への確信を示すことは、危機においてはとりわけ重要である。人は危機的状況において自らの能力に疑問を持つ指導者に運命を委ねる気にはならないからである」
●感想
・トップマネジメントのケースとして読める。
自信過剰でなんにでもクチバシをつっこむ「いやな奴」のチャーチルが、そこそこ失敗しながらもトータルで成功を収めたのはまさにその自信のゆえ。
・チャーチルを通じて語られる「危機の指導者