粟飯原文子のレビュー一覧

  • 崩れゆく絆

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    「アフリカ文学の父」による最高傑作と言われる。

    物語の前半は、徹底した労働により一代で名声を築く主人公オコンクウォの半生が語られる。彼の考える勇気の大切さ、怠惰への嫌悪などは息をのむほど。一方で、一夫多妻制の下での(現代の感覚から見れば)信じがたいほどの男尊女卑、子どもへの抑圧、「迷信」と呼ばざるを得ないような呪術。同時に、争いを避けるために精霊たちが村人に与える平和への知恵。そして後半、ここにキリスト教の宣教師がやってくる。

    初代宣教師は、村人のするどい突っ込みに受け答え、伝統的な慣習に理解を示しながら少しずつ信者を増やしていく(「神は一人といったり、神の息子がいると言ったりどっちなんだ

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    2019年01月05日
  • 崩れゆく絆

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    最後は痛烈。日本の明治維新における、漱石を初めとする文豪の問題意識や西郷隆盛の西南戦争と共通するところがあり、特に日本人にとっては、古くて新しい問題である。それは、第二次世界対戦後という現況にも問題を提起している

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    2018年08月11日
  • 崩れゆく絆

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    「アフリカ文学の父」と言われるチヌア・アチェベの作。
    アチェベはナイジェリア・イボ族出身で、ロンドン大学のカレッジにあたるイバダン大学(ナイジェリア最古の大学)で学んでいる。
    アチェベはコンラッドの『闇の奥』を批判したことで知られる。アフリカの人間性に目を向けず「ヨーロッパすなわち文明のアンチテーゼ」としたというものである。アフリカ人を「野蛮」としか見ていなかったというわけだ。
    アフリカを描写する「異なる物語が必要」として、実際に創作したのが「アフリカ三部作」と呼ばれる作品群で、この『崩れゆく絆』が最もよく知られる(他の2編、『もう安らぎは得られない』『神の矢』に関しては、少なくとも入手しやす

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    2017年02月04日
  • 崩れゆく絆

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    19世紀のアフリカを舞台とした、欧州の植民地支配によって分断されていく家族と共同体の物語。あらすじはシンプルだけど、実際にはとても重層的な意図の込められた、にもかかわらず単純に物語としても面白く読めてしまう本だった。語り口の変化は近代化のメタファーとして機能しているし、支配の過程も単純な二元論では収まらない。そもそも著者が植民地支配の教育を受けて育つことで、その支配以前の文化を書き留められたこと自体が逆説なのだろう。その上で、個人の弱さを軸とした物語は時代も文化も飛び越えて、こんなにも普遍的に届いてくる。

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    2015年03月13日
  • 崩れゆく絆

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    アフリカ伝統社会が西欧文明の流入により壊れてゆく様子を描いた小説。前半は伝統社会の描写で入り込むまで時間がかかるが、それでも読み進むねうちはある。映画「セデック・バレ」や、明治日本の近代化、さらには高度経済成長以後の日本の変化にも重ね合わせて読んでみたい。

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    2014年04月06日
  • 崩れゆく絆

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    ネタバレ

    小説の前半に描かれる、呪術と迷信が跋扈する19世紀のアフリカ社会を描く筆致、その異様な迫力に圧倒される。年代的にはアチェベはそれら時代から少し隔たっており、本書を読むことは、作者が自らの拠り所としてのアフリカ社会の伝統を手繰り寄せる行為に立ち会う作業とも云えそう。
    旧社会を代表するオコンクォの破滅を描くところで小説は終わるが、その先を描かないところにアフリカの深い自問があるのか、と思う。アフリカ現代を知りたいと感じる。
    新訳を出版した光文社に拍手。

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    2014年03月01日
  • マイ・シスター、シリアルキラー

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    ナイジェリアの治安だからこそ成り立つハラハラドキドキのサイコミステリー。これが監視カメラが街に点在する日本だったらすぐに犯罪の足がついてしまうだろう。時に互いに懐疑的になりながらも一緒に生きていく姉妹の姿は、運命共同体というか一蓮托生というか。シフターフッド的な作品でもあり、とても楽しめた。

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    2023年05月18日
  • ぼくらが漁師だったころ

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    アフリカの呪術的な要素がずっと根底にある。
    予言が的中していくおどろおどろしい雰囲気はたぶん独特のものなんだろう。
    やし酒飲みや崩れゆく絆やらがアフリカ文学の名作として知られているけど、こういった作品ももっと知られても良いと思う。

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    2022年11月12日
  • 崩れゆく絆

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    アフリカの作家は初。昔ながらの部族のしきたりを守って暮らしている村の英雄が、ふとした事故で7年間の追放の憂き目にあう。戻ってきた頃にはイギリスの宣教師が入り込み、村の様子は一変している。ストーリーとしては、二つの面があると感じた。一つは植民地化する前、その過程の両方で、住民、特に部族内で虐げられていた女性や子供、差別されていた村民にとって、何が幸せかを考えさせられる。もう一つは主人公と村全体の運命。文明化の旗印のもと、過去の風習等は全て否定される。ただ、不潔なことや迷信に基づいた子捨て、双子の廃棄などは解消されるわけで、どこに線を引くのかは難しい。

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    2022年04月09日
  • ぼくらが漁師だったころ

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    現代ナイジェリアを舞台に、家族がある狂人の予言めいた言葉から不幸に陥っていく様はあまりに痛々しいが、一方で予言めいた言葉だけでここまで・・?とも思わなくもない。

    ただ最後の絆は感動した。

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    2021年12月26日
  • 小さきものたちのオーケストラ

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    ネタバレ

    小さきものたちのオーケストラ

    著者:チゴズィエ・オビオマ
    訳者:粟飯原文子(あいはらあやこ)
    発行:2021年7月25日
    早川書房

    唯物Vs観念

    ナイジェリア出身、アフリカ文学の若手作家の第2作。英国の最高賞であるブッカー賞の最終候補作。現在はアメリカのネブラスカ大学で教鞭をとりつつ執筆。

    本作はナイジェリア南東部にいるイボ人の話。60年代後半、この地域はビアフラ共和国として分離・独立宣言をしたため、ナイジェリア内戦となり、イギリスやソ連など大国の干渉も受けた。ムスリムではなくキリスト教徒が多く、登場人物たちもキリスト教徒だが、教会へ通いつつも、イボの宇宙観や宗教が行動原理の根底にある

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    2021年11月25日
  • マイ・シスター、シリアルキラー

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    「ねえコレデ、殺しちゃった」美しく誰からも愛される妹アヨオラから掛かってきた3度目の電話。妹とは違い控えめで堅実な姉コレデは、彼女が犯す犯罪の隠蔽を続けていた。
    衝撃的な題材だが淡々とした文章から、事件が姉妹の日常に溶け込んでしまっている様を思わせる。ソシオパスの妹だけではなく家長制の背景についても考えさせられる一冊だった。短めで読みやすい。 ハヤカワポケットミステリは小口染めが可愛らしいですね。持ち歩いてるだけで嬉しかったです。

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    2021年09月16日
  • マイ・シスター、シリアルキラー

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    ナイジェリア人の作家さんということで、気になって読んでみた。
    アフリカが舞台の作品は、ほとんど読んだことがないので新鮮。
    ミステリ・レーベルから出ている本だけど、自分的にはこれは純文学だと思う。
    登場人物のほとんどがクズだと思ってしまうのは…自分がおかしいのか?

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    2021年08月04日
  • マイ・シスター、シリアルキラー

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    各章が短いのですぐ読める。内容は凄いのに何故か突き放した様な雰囲気がドライで良い。コレデはずっと妹を庇い続けるのかと考えると着地がイマイチの気がした。

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    2021年04月01日
  • マイ・シスター、シリアルキラー

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    平凡な姉の想い人が美しい妹に奪われるというよくある設定に、シリアルキラーだという突拍子もない要素が加わって、果たして結末はどうなるのかという興味で読者を引っ張っていき、尻拭い役の姉がドタバタしながらも事態は一応の決着をみるのだが、ジタバタするのを止めることにした姉が妹の悪癖にどう付き合っていくのかという続編(無さそうですが)というか、殺人鬼デクスターばりにTVドラマ化したら面白くなりそうな予感が…

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    2021年02月27日
  • マイ・シスター、シリアルキラー

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    ナイジェリア出身の作家が、自国を舞台に描いたスリラー作品。付き合った男を次々に殺す妹と、その後始末を続ける姉が主人公である。アフリカという事情もあるのだろうか、ちょっと信じられないくらい緩い。ミステリーとして読むとイライラするかもしれないが、普通の小説(?)としてはそこそこ興味深く読んだ。翻訳ものにしてはセンテンスも短く、小刻みに章が変わるのであっさりと読み終わった。

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    2021年01月24日
  • 崩れゆく絆

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    「アフリカ文学」なるジャンルは初めて読んだ。使用言語は英語で、「英米文学」の欄に並んでた。
    西洋文明への批判でありながら、宗主国の言語で書かないと伝えることができない、というのが「弱者」の立場を象徴しているような。
    「宗教は脳の副作用である」(ジャレド ダイアモンドだったか)、「神は妄想である」(リチャード ドーキンス)という言葉が好きな身としては、やっぱり一神教はろくなもんじゃねえ、と改めて思った。
    アフリカの年寄りの言葉は含蓄が深いなあ。今の言葉で言うと、サステイナビリティファーストか。

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    2020年08月23日
  • 崩れゆく絆

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    ネタバレ

    ナイジェリア出身のイボ人作家 Chinua Achebe (1930-2013)による、アフリカ文学の金字塔と言われる作品です。

    前半は、19世紀後半の植民地化前のイボ族の共同体が、複雑かつ精緻な統治、信仰、慣習システムにより運営されている様子が、主人公であるオコンクウオを中心に描かれています。後半では、それが白人の宣教師たちによるキリスト教布教を境に瓦解していく様へと進行していきます。このあたりが、題名である”崩れゆく絆”をよく体現しています。

    この小説は1958年に出版されてますが、そのわずか2年後の1960年にナイジェリアが独立を果たしており、時代は違うものの過度期の不安定や焦燥とい

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    2018年11月10日
  • 崩れゆく絆

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    植民地をめぐる黒人と白人の闘い!はそれほどメインではなく、一族の血気溢れる父親を中心に物語は進んでいく。部族の中では自分中心に家族を捉える考え方が基本であり、息子は部族の生き方に疑問を持ち、いち早く異教の宗教を受け入れ家族から離れることを決意。いずれ母や兄弟にもわかってほしい。そこに父親の存在はない。変わらない人として息子の中では勘定に入らない。父親は俺のやってきたことはなんだったのか、と当然悩む。確かに歩いてきた道なのだが、これからも進むべき道なのだろうか。時代の流れって残酷だ。流されない者にとっては。

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    2018年08月31日
  • ぼくらが漁師だったころ

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    書評でタイトルだけを読んで選んだので、アフリカ等で消えゆく湖の漁師の話だと思って読み始めた。

    が、そんな話ではまったくなくて、1990年代のナイジェリアを舞台に、9歳の少年の視点から語られる壮絶な物語。
    ナイジェリアの裕福な家庭が、狂人の予言をきっかけに崩壊していく。
    ナイジェリアの生活とその狂乱に巻き込まれていく家族を、4人兄弟の末弟の視点から描く。
    その視点の生々しさが、ぎらぎらとぬらぬらと伝わってきた。

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    2018年01月30日