山本圭のレビュー一覧
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民主的な社会の必然的な副産物としての嫉妬、そこから見える「人間学」。
安易な答えに逃げ込まず、それでも社会の実践のヒントを探る真摯な姿勢。
・嫉妬は疲れを知らず、非生産的で、みっともなく、それが故に自他に隠したい。
◯嫉妬
・他人の幸福が自分の幸福を少しも損なうわけではないのに、他人の幸福をみるのに苦痛を伴うという性癖(カント)
・比較可能な者同士のあいだに生じる(アリストテレス)
cf.義憤
・不当な幸運に苦痛を覚えること
下方嫉妬
・自分が苦労して手に入れたものを、他の誰かが簡単に手に入れたとき
◯類似の概念
・相対的剥奪:自分が感じる満足の絶対量の多寡ではなく、他人と比較するこ -
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ギリシャ哲学の時代から邪悪とされた「嫉妬」という感情。SNSで常時繋がる現代では、これまで見えなかった他人の一部が見えてしまうことで、他人と自分の対比がより鮮明に、嫉妬の源泉がより身近になったのではないでしょうか。
良くも悪くも横並び一線だった義務教育課程を終えると、高校、大学、社会人と進むに従い、周囲は持つ者、持たざる者に徐々に分かれ始めます。自分と同等だと思っていた相手の社会的階層の上昇を素直に受け取ることができない、そんな感情を抱いた経験も人生で一度はあるのでは。
こんな負の側面から語られることが多い「嫉妬」ですが、その社会的上昇への渇望からフランス革命など民主化の原動力になったのも -
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人生のネガティブな事、不幸の原因の大半は他人と比べる事にあり、そこから全ての道は「嫉妬」に通ずるという気がしてならない。人間は本能として競争を組み込まれているのは受精を巡る精子の鞭毛運動のはじまりから明らかで、しかし、必ずしも活発さが競争優位となる単純なスピードレースではなく、精子にしても運次第。つまりは人間が競争せざるを得ない事と、しかし競争とは公正な能力争いではないという原初的な二つの定めを生命の誕生から業のように背負うのだ。
生まれ落ち、それが続く。ランダムな競争は能力と偶然によって多様化を齎す。そんな時、敗者が自制しきれない「嫉妬」は、多様化を種の根源的欲求にもつ人間社会において、ど -
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独身未婚中年男性の自分が読んでみました。
なかなかおもしろかったです。
言われてみればああ、という、コロンブスのたまご的ではあるんだけれども、このことに気が付かなかった。まさに、民主主義やら資本主義やら社会主義やらの話の根底は嫉妬にあるんだろうなと気づかせてもらいました。
「あいつだけずるい」と足の引っ張り合いになってしまうのが、日本は多いような気もしますが、それで結局、全体的に質を落としている感じは、日本も含め、世界全体的にそうだったりするのかもしれませんね。
自分自身も最近、若い同性の子に対して苦言を呈してしまったのですが、どうやらそれは嫉妬だったようで、これは自分で認めねばならないな -
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「嫉妬」という感情を紐解いた書籍はたくさんあるけれど、この本のように政治的な面から分析しているものはめずらしいと思う。だいたいは心理学や哲学系の分野で、嫉妬が思考や行動にどのように影響するかが書かれている
けれどもこの本は嫉妬とは何かを検討したあとで思想史において思想家が嫉妬をどのようなものと考えているのか、そして嫉妬はコミュニティでどのように変化するか、また現代の民主主義において嫉妬はどう作用するのかを様々な人の定義や言葉を引き付けながら書いている本。当たり前だけれど人間は理屈によってのみ動いたり考えたりしているわけではなく、嫉妬をはじめとする種々の感情があり、それを無視して理屈のみによって -
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ネタバレ【民主主義というフィクションのいろいろな説】
学者、思想家の間で唱えられるたくさんの民主主義の在り方のについて、20世紀ごろからの主要な議論が紹介されている。
あとがきに書かれている通り、包括的ではなく、指導者、選挙、参加型民主主義、などの主要な争点について、主だった政治学者に的を当てて、議論を比較しながら書かれていた。
はじめの方で挙げられたポイントは、民主主義と自由主義は元から親和性があったわけではないということ。今では自由民主主義、みたいな形で良く語られるけれど、この違いは、カール・シュミットの同質性・同種性を強調する民主主義の特徴を通して紹介されていた。
これに対立する -
Posted by ブクログ
嫉妬についての本は初めて読むので、嫉妬について詳しく考えを聞くことが新鮮で面白かったです。
古代より悪しきものとして思われ続け、人々が苦しんできたものとわかって、恐ろしく掴めない嫉妬という感情が不毛でも人は持ってしまうもの、とわかり妙な親近感というかリアリティが伴って怖さが減りました。
感想を書こうにも中々建設的なことが出てこないのでまだまだ理解できていないのだと思われる。
嫉妬は私感で、民主主義など政治に関係ないと思い込んでいたけれど、そうではなく社会の体制に一個人の嫉妬の感情が作用してまた社会が作られ、というように影響があるのだと知れた。
印象に残ったところ
p116
嫉妬を「あるゆる -
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妬み、嫉み、恨み、辛み。
ルサンチマン、他人の不幸は蜜の味…
私たちの社会生活において日々出会う感情だが、合理的・理性的な人間像を基本とする社会科学の主流においては自分を引き上げることよりも他人を引き下げることを望む負の感情は適切に扱うことが難しかった。
とはいえ、文学では主要なテーマの一つでもある嫉妬について、思想家たちはあれこれと論じてきた。本書ではそうした嫉妬論を概説したり、「自慢や誇示」についての思想を追って嫉妬に別の角度から輪郭を与えたりする。基本的に嫉妬は負の感情であり、良い面はほとんどないというのが、多くの思想家たちに共通しているところだが、最後に著者は負の感情であったとしても、 -
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前半(3章途中まで)はほとんど過去の著名人の著作物から引用し、嫉妬に関して言及を行っている。
後半は現代の SNS 等に関わる嫉妬の話を展開していく。エピローグでは嫉妬にどう向き合うかについて解説しているが、基本的には嫉妬がなぜ発生してしまうのかについて解説している。
平等・公正が進み、比較できるから嫉妬が生まれるという理論は面白い。平等と差異のバランスの上で嫉妬が生まれるということ。ただそれが格差を認めるということになるとは思わないが。
要は言い訳ができる余地を残しておくことで、嫉妬につながりにくくなるはずなのに、現在は過度な自己責任論と SNS による視える化で比較せざるをえなくなり、