ローラン・ビネのレビュー一覧
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フランス・パリ出身のローラン・ビネのデビュー作であり、2009年に本国で出版、2013年に邦訳が出版された本作、『HHhH』。この謎めいたタイトルが渦めく装丁に興味を惹かれて書店で購入したのだが、その感覚がは大いにあたり、ストーリーテリングの面白さと、極めて技巧的・意識的な仕掛けに溢れた一作。
タイトルの奇妙な4文字はドイツ語の「Himmlers Hirn heißt Heidrich」という文章に由来しており、”ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる”という意味になる。そのヒムラー、すなわちナチス・ドイツの親衛隊(SS)のトップであったハインリヒ・ヒムラーにその頭脳として仕えたラインハルト・ -
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Himmlers Hirn heißt Heydrich.
訳:ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる。
タイトルは上記の単語の頭文字をとったもの。
ヒトラーが生み出したナチという思想を、そのまま具現化したかのような金髪の野獣、死刑執行人、ハイドリヒ。
ユダヤ人大虐殺の首謀者である彼を暗殺すべくイギリスから飛んだチェコ人、スロヴァキア人の青年二人を主人公に据えた史実に基づく小説。
訳者あとがきに言いたいこと全てが書かれている。僕はその上澄みをここに貼り付けることしかできない。
いわゆる歴史モノ、ナチモノ、ノンフィクションモノである本書だが、他と一線を画するのはその小説スタイルだ。
脚色 -
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哲学をちょっとかじっただけの私でも知っているような有名人が次々と!
登場人物がこれだから、読み始めたときはかなり難解に思えて、私はこの本を最後まで読めるのだろうか…と不安になった。
そんな思いも杞憂に終わり、物語が大きく動く100頁あたりからは、話のスジがわかりやすくなり、頁を繰る手も速くなっていった。
言語学、言論、アクション、エロ、複雑に絡まってゆく思惑、言語の七番目の機能という謎。
総頁数500弱と私にとってはなかなかの長編だけれど、刺激的な展開で最後まで飽きずに読み切ることができた。
爽快感のあるロゴスのやりとりはまさにファイトクラブさながら!
シモンの活躍ぶりは目を見張るばかりで、 -
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評を書くときには、読者がその本を読む気になるかどうかを決める際の利便を考慮し、どんなジャンルの本かをまず初めに伝えるようにしているのだが、本書についてはどう紹介したらいいのか正直なところ悩ましい。シャーロック・ホームズ張りの推理力を発揮する人物が、ワトソン役の警視とともに殺人事件の謎を追うのだから、謎解きミステリというのがいちばん相応しいのだろうけれど、ミステリとひとくくりにしてしまうと少々具合が悪いことになる。通常のミステリ・ファンが本書を面白がるとは思えないからだ。
『黒死館殺人事件』から法水麟太郎の超絶的な博学の披露を取り去ってしまったら、並みの推理小説と大して変わらないという評を読ん -
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ネタバレ◼️ ローラン・ビネ「HHhH プラハ、1942年」
タイトルの奇抜さに気が惹かれ、やがて来るその瞬間に向けて集中力が高まっていく。
書評と受賞歴で評判はなんとなく分かり、読みたいと思っていた。本を読む前に予備知識はあまり入れない。単純に知らない方が楽しめるから。今回も最初の方のページに書いてある紹介文にはほとんど目を通さなかった。ナチもの、という程度の認識だった。
ナチスの大物幹部、ハイドリヒ・ラインハルト。天才的な実行能力と、狂気とを併せ持ちドイツ第三帝国領内のユダヤ人を絶滅させようともくろみ実行した男。チェコを統括する地位に就いたハイドリヒを暗殺すべく、ロンドンの亡命政府が刺客を放 -
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1942年のプラハで、ナチのゲシュタポ長官であるハイドリヒを暗殺しようとした「類人猿作戦」を描いた小説、を描こうとした「僕」が何を調べて、何を伝えたくて、何をためらい、何を取り上げたり取り上げなかったりしたのかを逡巡していくうちに、歴史の出来事の記述がコントロールしづらくなっていく様を描く小説。原書はフランス語。
ある事件を描いた、というだけだったら歴史小説として読めばいいのだけど、「僕」が一体何なのかを理解したり慣れたりするのに少し時間がかかる。なんかこれまでに読んだことのない感じの小説で、割と前半は、「僕」の話と何人かの登場人物の整理がつかなかったり当時の政治状況に関する無知のせいで、 -
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ちょっと難しすぎたな……。
ところどころ刺さるフレーズはありつつ、全体として悪い夢見てる感じの展開。
母国語で、かつ近代史に明るかったらもっと楽しめたのかも?
以下気に入ったフレーズ。
自分だって子供の頃は人生は美しく、まるで奇跡か魔法のようだと思っていたのに、今では何もかも変わってしまったけれど、その責任が自分にあるわけでもないし、そんなにやりすぎたわけでもないような気がするんだけどな、と歌詞を反芻しながら眠りに落ちた。
日本料理がいつも食べる人の前で作られるのは(それがこの料理の基本的な特徴だ)、敬っているものの死を人前にさらすことによって神聖化する、おそらくそれが大切なことだからで -
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その名はラインハルト・ハイドリヒ
「第三帝国デもっとも危険な男」、親衛隊将軍、国家保安部長官、ユダヤ人虐殺の司令官。
強制的に併合されたチェコの総督となったハイドリヒ。
暗殺すべく、チェコ人、スロバキア人のパラシュート部隊員がプラハに送り込まれる。
ノンフィクションでありながら、フィクション。
独特の手法で書かれたディティール。
作者、ローラン・ピネのデビュー作であり代表作。
タイトルの「HHhH」は「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」の略だ。(ヒムラーは親衛隊のトップ)
(ちなみに「ヨーロッパでもっとも危険な男」と当時呼ばれたのは、これまた親衛隊のオットー・スコルツェニー大佐。幽 -
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ヨーロッパ(スペイン)人によるアメリカ大陸発見と侵略の歴史を逆転し、インカ人がヨーロッパを征服するという歴史改変小説で、逆転パロディみたいな話。第一部〜第二部は、前日譚でごく短く、本書のほとんどを第三部の「アタワルパ年代記」が占めている。
おそらく大半はカール五世の事績をアタワルパに置き換えて語っているのだと思うけれど、この時代のヨーロッパ史に通暁しておらず、なんとも言えない。詳しければもっと楽しめたのかも。「年代記」というように、記述もわりと淡々としていて、あまり心躍る感じでもなかった。強いて言えば、セルバンテスがメインで、エル・グレコやモンテーニュもでてくる第四部が一番面白かったかな。