坂本葵のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
大学卒業後も司法書士試験を受け続けて5年経ち、断念することに決めて図書司書として母校の小学校に勤務することになった中島まふみ。
実家に帰る気はなく、シェアハウスに住むことになるが、そこの大家が製本家の綺堂瀧子で「ルリユール工房」で孫の由良子と製本をしていた。
小学校で関わったディスレクシアの児童に窓あき文庫のボール紙で由良子が作った世界の覗き窓で本を読めるようにするのには感動した。
由良子がずっと引きこもっていた理由も彼女が相貌失認を患っているからで、だからこそディスレクシアという疾患にも直ぐに対応できたのだろう。
二冊の本を結婚させてほしいという古本カフェの店長の依頼にも戸惑うことなく受けて完璧な製本に仕上げるのも凄い。
そして美しくて素晴らしい出来栄えなのが文章だけで感じられる。
最後には、白紙の原稿の製本を依頼した青年が持ち込んだ最後の原稿を仕上げて送ったものが、古本カフェに置いた中島が窓あき文庫で装幀した『密やかな結晶』の白い本の代わりに、葉室宙『とある物語の終わりと始まり』と美しい灰色のシークレット・ベルギー装になって置かれていた。
もちろん白紙ではなく、万年筆で文章が綴られて。
装丁、製本のことも興味をひかれたが、関わる人の苦労が消え去るほど人情や温かさを感じられる物語だった。
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Posted by ブクログ
☆3.5 食への執着
著者の坂本葵さんは、小谷野さんの奥さんなので私にはなじみ深いが、今回のこの新書をよんで、小谷野の谷崎伝を思ひ浮かべ、執筆の経緯をおぼろげながら想像した。
食のとりことなった谷崎を、その執着から書いた好著で食とエロスが結びついてゐることがよくわかる。
フロイド分析を持ち出すところは余計だが、後半の食魔の生涯は谷崎の人間性(おもに食へのこだはり)が明白で、おもしろかった。食ひ意地が汚くて、松子いはく、乱杭歯で肉を切り裂くやうな壮烈な食べ方ださうだから驚きである。
なんでも谷崎がはじめて西洋のチーズを知ったのが、一高時代の先生に教へてもらったジェローム・K・ジェロームの『ボートの三人男』からといふ蘊蓄も意外である。 -
Posted by ブクログ
落語が業の肯定なら、文学は倒錯の肯定。このことを執拗に教えてくれたのは谷崎潤一郎。この文豪の描く妖しくも奥深い文学に描かれる食の描写は、小洒落たグルメなんていう生易しいものではなく、まぎれもなく「倒錯した悪食」そのものである。
本書は「痴人の愛」のナオミが日にビフテキ3皿を平気で平らげるように、食欲旺盛な妖艶な悪女たちの食いっぶりから、谷崎自身の「三日に一遍は美食をしないと、とても仕事が手につかない」と語るほど食に取り憑かれ、和洋中の美味珍味を追い求めていく自堕落な美食家の横顔も遺漏なくすくい上げる。
谷崎は美食をこう定義する。
「美食の味は、色気やお洒落をそっちのけにして、牛飲馬食するところにあるのだ」。
多くの女性と情交を結んだ谷崎は食の世界においても、まごうことなき変態であった。尽きることのない食い意地。そこにはグルマンや食通といった気取った姿はなく、まさに全身全霊で貪り食うといった凄まじさ。この食い意地こそが、生涯を文学に駆り立てた原動力であり、料理を通して母の想い出に浸ることのできる記憶装置ようなものでもあった。
多淫と多食。色と食。舌と口を縦横に駆使し貪り食った谷崎潤一郎。千ベロは中島らもの造語だけど、谷崎先生には「全ベロ文豪」という称号を捧げたい。