ミユキ蜜蜂のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「私以外に、甘えん坊にならないで。赤ちゃんみたいな匂いがするってことおしえないで(嵐子)」
“Because you’re so young, so instinctive, and you come at me with such straightforward love, before I knew it, I lost track of what it even was. Is this affection I feel toward you the kind one has for a younger brother…? Or is it something else…?”
おやおや。『春の嵐とモンスター』10巻は、これまで積み重ねてきた嵐子と栢の絆が、「家族」という言葉だけでは収まりきらない感情へと姿を変えていく瞬間を、息を呑むほど繊細に描いた一冊ですね。
何より胸を締め付けられたのは、「ずっと一人」「助けなんて来ない」と信じて生きてきた栢が、「俺は今…一人じゃない」と心から言えた場面です。ようやく辿り着いた居場所の温かさと、それを与えてくれた嵐子や母への感謝があふれ、その一言だけで涙が込み上げました。彼の世界が少しずつ優しい色へ塗り替えられていく過程が、本当に美しく描かれています。
一方で嵐子の心理描写も圧巻でした。「寂しさがおそろい」だと思っていた気持ちが、実は「栢だけを自分のそばに置いておきたい」という独占欲であり、「いつか必要とされなくなるのが怖い」という切実な不安だったと気付くまでの流れは、あまりにも自然で胸が苦しくなります。「私以外に甘えないで」「君は私だけのモンスターだから」という言葉には、愛情、執着、守りたい気持ち、失いたくない恐怖が複雑に重なり合い、何度読んでも心を揺さぶられました。
そして栢の愛情は、幼さゆえに真っ直ぐで、駆け引きも迷いもありません。「嵐ちゃんだから独り占めしたい」という飾らない本音や、「付き合うとかじゃないけど、その人と一緒に死ぬって決めてる」という極端なまでに純粋な想いは、恋愛という言葉だけでは語れない重みを持っています。その純度の高さが、読む側の感情を容赦なく揺さぶります。 -
Posted by ブクログ
「…寂しい。もう自分の中にはなくなった感情だと思ってた。でも、あの時も。あの時も。私は…寂しかったんだ(嵐子)」
“I don’t like being in the dark all the time. But I’m also scared of places that are too bright. I didn’t know where I should be, but if it’s too dazzling, I can just hide away, and if I get lonely, I can step back out into the light again. It’s okay to go back and forth like that, right?”
『春の嵐とモンスター』9巻は、栢と嵐子の関係が大きく前進する一冊でありながら、その変化は決して劇的ではありません。だからこそ、一つひとつの言葉や沈黙、視線の揺らぎが胸の奥へ静かに染み込み、読み終えたあとも余韻が長く残りました。
今巻で最も心を揺さぶられたのは、栢の感情が「依存」から「慈しみ」へと変わっていく過程です。以前の栢は、嵐子を失うことへの恐怖から「自分だけを見ていてほしい」と願っていました。しかし今巻では、嵐子が泣けば自分まで苦しくなり、「笑っていてほしい」「抱きしめたい」と願うようになります。その想いの正体が分からず戸惑う栢に、嵐子が「それは慈しみなんですよ」と名前を与える場面は、この作品を象徴する名シーンでした。恋という一言では言い表せない、相手の幸せそのものを願う優しさが、栢の中に確かに芽吹いた瞬間だったのだと思います。
一方で、嵐子の心情もまた繊細に描かれています。誰よりも栢の成長を願い、彼の世界が広がることを喜んでいたはずなのに、一瞬だけ胸をよぎる「置いていかれる」という不安。その感情を抱いた自分に戸惑い、「寂しい」という気持ちはもう失くしたものだと思っていた彼女が、自分の本心を知る場面には胸が締めつけられました。ずっと他人を優先し、自分の感情を押し込めてきた嵐子だからこそ、その小さな心の揺れが何よりも尊く感じられます。
そして印象的なのは、二人がお互いの心を言葉によって救い合っていることです。嵐子は栢の想いに「慈しみ」という名前を与え、栢は嵐子に「それは寂しいっていうんだよ」と教える。感情を知らなかった二人が、互いの存在によって少しずつ心の輪郭を知っていく姿は、本作ならではの美しさではないでしょうか。
恋愛の進展だけではなく、人が誰かと出会い、傷つき、支え合いながら心を育てていく過程を、ここまで丁寧に描ける作品はそう多くありません。共依存にも見えた関係が、互いを尊重し、それぞれの幸せを願える関係へと変化していく姿には、大きな感動を覚えました。
激しい愛情表現よりも、一言の台詞や何気ない仕草の中に宿る想いの深さが胸を打つ9巻。読むたびに新たな感情を見つけられる、シリーズ屈指の名巻でした。 -
Posted by ブクログ
「過去の傷も罪も忘れて。どうか今はこの胸で眠って モンスター(嵐子)」
“Even if I betray someone and hurt them, and no one ever forgives me again. Even if the entire world turns against me, I will still be Kaya-kun’s ally.”
おやおや。『春の嵐とモンスター』8巻は、「誰かの味方であり続けること」の重みと、その覚悟が胸に深く刻まれる一冊でした。
栢の世界は、思っていた以上に狭く、そして眩しいものでした。嵐子は栢の世界を広げようと願い続けてきましたが、実際には栢は彼女という存在を通してしか世界を見ることができなかった。その事実に気づいた瞬間の嵐子の後悔は、自分が栢の光であり、同時にその光を失わせてしまったという痛切な自責となって胸を締めつけます。それでも彼女は南須を傷つけることへの罪悪感を抱えながら、「世界中が敵になっても私は栢くんの味方です」と手を差し伸べます。その言葉には恋愛や義務を超えた、誰かの人生を背負うほどの深い愛情と覚悟が宿っていました。
一方の栢もまた、ただ守られるだけの存在ではありませんでした。嵐子のもとへ戻ったことで少しずつ人とのつながりや日常を取り戻しながらも、「ひとりじめしたい」「離れたくない」と幼い独占欲を隠せない姿には、置き去りにされることへの恐怖と、ようやく見つけた居場所を失いたくない切実な願いが滲みます。そして、涙をこらえる嵐子を理由も分からず抱きしめる場面には、「守られたい」という想いが「守りたい」という想いへ変わり始めた確かな成長が感じられ、思わず胸が熱くなりました。
恋愛でも家族愛でも簡単には言い表せない二人の絆は、傷を抱えた者同士だからこそ生まれた唯一無二の救済です。優しさと危うさが繊細に溶け合うその関係性は、読み終えたあとも静かな余韻となって、いつまでも心に残り続けました。