佐藤龍雄のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
皆さんは、残り一ヶ月、残り一週間、そしてあと一日と、徐々に世界ごと滅びる運命に置かれたとしたら、どのように行動するだろうか?
この作品は、そんな究極の問いの答えの一つを、静かにしかし厳かに示してみせる。
北半球での核戦争が終わり、放射能が徐々に南半球をも侵食していく世界。
絶対に逃れられない死へのカウントダウンの中で、残された僅かな時間を生きるオーストラリア南部の人々。
このような状況に置かれたら、人はパニックを起こし、好き放題に背徳的に振る舞うのではないか、そう考える方も多いだろう。
だけどこの作品は違う。多くの人は、まるで自分たちに死は訪れないかのように、普段通りの時間を愛する人や物とともに過ごし、そして宿命の時を迎えるのだ。
そこにはもはや悪人はいないと言えるだろう。
これは現実逃避ではない。
目を離せば戦争を引き起こしている愚かな人類。
だけどこの『いつも通りの穏やかな日常』は、まさにその同じ人類が放った、誇りに満ちた最期の輝きだったのだ。僕にはそう思えてならない。
「こんなに立派で素敵な人たちが、なぜ、なぜ死ななければならないのか。これからもずっと、優しい日々を送ってほしいのに!」
この小説を読み終えて、僕はこう叫ばずにはいられなかった。
ここからはネタバレを挟む。
主要な登場人物五人のうち、僕が最も感銘を受け、琴線を揺さぶられたヒロイン格のモイラ・デイヴィッドソンとその従兄、ジョン・オズボーンを中心に、彼女や彼たちの生き様を眺めてみよう。
読みたい方、まだ読み終えていない方は、ぜひ最後まで読んでから再び来てほしい。
モイラは当初は自由奔放で、あたかも単純明快な女性であるかのように描かれる。
ブランデーに溺れ、今さえ良ければいいと、ただ享楽的に動いているだけのように見える。
だけどドワイトに出会い、彼の頑なで少し不器用ではあるが誠実な人生観に触れて、彼女も少しずつ変化していった。
荒っぽい言い方をすると、この作品は彼女の成長物語としても眺めることができるのだ。
自由を象徴する一人の女性(モイラ)が、規律と誠実を象徴する一人の男性(ドワイト)を愛し、その過程で、さらに大らかな視点を手に入れる。
このような美しくも尊い過程に、胸を震わせられない人が果たしているだろうか。
放射能という終幕が、今まさに降り注ごうとしているオーストラリア・メルボルンで、僕ら読者が見出したモイラは、もはやかつての享楽的な彼女ではなかった。
そこにいたのは、絶対に叶わぬ恋と知りながらも、ドワイトという男性を深く深く、自己犠牲的なまでの献身とともに最期まで愛した女性だったのだ。
彼女は残された今この瞬間を、愛する人のために最大限に生きようとする女性として、生まれ変わったのである。
愛車のハンドルを握り、悲しいまでに煌びやかな瞳で見据えた東の灰色の海と空の果てに、彼女はドワイトの姿を認めただろう。
そうであってほしいと、僕は強く願う。それは彼女にとって最期の、そして最高の花束になっただろうから。
科学者ジョン・オズボーンは、冷徹なまでに研ぎ澄まされた知性の象徴として描かれるが、それだけなら僕の胸中をここまで揺らさなかったはずだ。
知的な彼だから、自分の死期を正確無比に知っていたに違いないのだ。
そこで彼がやったことも、やはり、自分の内で愛せるものを創造することだった。
彼は掘り出し物のスポーツカー・フェラーリを愛することに決め、深層に秘めたありったけの情熱をそのクルマに注ぎ込み、あまりにも過酷なカーレースに出場しようと決意する。
そして死闘の果てに、見事な優勝を成し遂げてみせるのだ。
これは人によっては、読み流しの対象になるエピソードかもしれない。だが僕はこのオズボーンもまた、格好いいと思った。
この優勝は、自らの愛が本物であったということを、彼自身の手で証明したことに他ならないからだ。
彼は知性を手にしたまま、より人間らしい男性として生まれ変わったのだ。
彼は愛車のコックピットで、奇しくもモイラと同じく、ハンドルを握った姿勢で眠りにつく。
愛するクルマの中で死ぬことができたというだけでも、彼と愛車にとっては本望だっただろう。
けれど僕はその時のオズボーンの両眼が、モイラ、ドワイト、そしてホームズ一家をも、同時に見据えていてくれたらと願う者である。
たとえどれほど身体が朽ち果てようとも、彼らの魂の絆はこれからも、強く、強く結ばれ続けるだろう。
愛すべき登場人物たちよ、Rest in Peace. -
Posted by ブクログ
善良で、罪のない、20代30代の人たちが絶望の淵に追いつめられていく。残酷で胸が苦しくなった。
しかし主人公とヒロインがとても気高く、小説全体に品格を感じた。
彼らは絶望的な状況でもやけになったり、安易な道を選んだりしない。
それぞれの選択と意志の強さに胸を打たれた。
後半じわりじわりと恐怖がつのった。この世界に没入しすぎて緊張したのか、読んでいる自分まで腹痛に襲われたことが恐ろしく、読むのを一時中断。少しずつ慎重にページをめくった。結末にむけ覚悟をつくりながら。
でも最後まで読んでよかった。立ち直れないほど悲しく辛くなるのではないかと心配したが、意外とそんなことはなく、読後は静かな余韻につつまれた。
永遠の名作と呼ばれるのにふさわしい小説だと思った。
こんな未来にならないことを強く願う。
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Posted by ブクログ
ネタバレドワイトとモイラのあと一歩踏み込めない関係性。
ドワイトの家族はもうとっくにいないことがわかっているが認めたくないという気持ち。
みんなのやるせない思いを抱きながらも、日常を過ごそうとしているのが上手く描かれていた。
合衆国から届いたモールス信号は生存者の出したそれではなかった描写あたりからぐっと本作品に引き込まれていった。
それ以降はもう全員助からないんだなと思い、読み進めるのが辛かった。
章ごとにだんだんと希望は薄くなり、最終章はかなり重たかった。
最後にドワイトがモイラに再度キスしようとして、モイラに拒まれた。
ドワイトはどんな心境で再度キスしようとしたのだろうか?
自分が死にに行くことを決めたから、もう家族はとっくにいないことを認めモイラに情が移ったのか。それともモイラへの気遣いだったのか。
読後感はかなり重めだが自分好みの作品だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ某パンジャンドラム界隈で先にお名前を知ってしまっていたので、そうでなくきちんと作品も読んでみようということで読んでみた。いわゆる世界の終末についての作品なのだけれど、作中の誰もが少し先の死よりも、すぐ目の前にある日常のために必死に生きようとしているのが凄く印象的だった。自分だったらどうするんだろう、こんなに落ち着いていられないだろうなと考えてしまう。あとモイラとタワーズの淡い関係が切なくて、でもきちんと線を引いている関係も良いなと思わされた。文章も翻訳によくある難しいものではなく読みやすく、すらすらと読めるのがとてもありがたかった。他の作品も評判がいいみたいだから読んでみたい。
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Posted by ブクログ
ネタバレ普遍的な作品
アメリカの潜水艦スコーピオンの艦長タワーズ大佐とオーストラリア在住の女性モイラ。この2人は最後まで一線を越えなかった。タワーズは中盤から、「最後の日は家族が待つ故郷に帰るつもりだ」とたびたび発言するのだが、この状況でタワーズが故郷に帰ることは不可能。家族も亡くなっている。つまり、最後は自決するということを意味している。そしてそれを聞いている周囲の人もそれに対して深い詮索はしないで「そうなんですね」と受け流す。この小説の良さはこんなとこりにある。
ラルフ・スウェインがシアトル近郊で潜水艦スコーピオンから飛び出して、放射能汚染されている自分の故郷に泳ぎたどり着くところも胸にぐっとくるシーンだった。ラルフが「自分はあとどのくらい保ちますか?」という一連のやりとりも良い。 -
Posted by ブクログ
1950年代に発表されたSF小説だが今読んでもまったく色あせない。それどころか、最近書かれたものと錯覚してしまうくらいの内容。核戦争後に生き残った人類を描くストーリーは涙なしには読み切れない。人はこの世の最後が迫った時にどうするのか。人々の行動がきれいすぎるようにも思えるけど不自然なことも様子もなく描かれている。最後の100ページは誰もが止まらなくなって一気に読み進めてしまうと思う。最後にどうなるのか。この本を読み終えて、今世の中に起こっていることを考えざるを得なくなり、この小説に重なることが多くてとても暗澹たる気持ちになってしまう。気持ちが落ち込んでしまうくらいのめり込める、とてもよい小説。
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Posted by ブクログ
ネタバレ死ぬとわかっていても、頭のどこかではなんだかんだ自分たちだけは死なないと思っている。登場人物たちは、着実に近づく世界の終わりを感じながら、ちょっとだけおかしくなりつつ、穏やかに生きている。
あまりにも平和だから、きっと何かの間違いで、死んだりしないんじゃないかってずっと思いながら読んでいた。
でもついに放射能が目の前にきたとき、自分たちにも症状が出た時に、あ、本当だったんだ、逃げることはできなかったんだと思った。放射能は淡々と全てを破壊していった。なすすべもなく、ただ愛する人と、せめて苦しまないように一緒に死のうとする人々の姿に、心が痛んで、痛んで、仕方がなかった。
誰も死んでほしくなかった。たくさん鱒を釣った日や、レーシングカーで優勝した日や、ボートレースに出た日、庭づくりを楽しんだあの日が、ほんの数日前なのに。ずっと笑って生きていて欲しかった。わたしなら、きっと死ぬ少し前まで、信じられないままだろうな。
じわじわと、しかし確かに、何かを決定的に変えてしまう力を持った小説だった。愛する人と過ごす時間がどれだけ大切か、思い知らされた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ世界の終焉を描いているのにここまで穏やかで静かな雰囲気の作品があるとは思わなかったので衝撃を受けた。
出てくるキャラクターもみな(軍人という職業はやや特殊だが)普通でまともな人。フィクションらしくキャラが異常に濃い人間もおらず、ノンフィクションなのではないかと思うほど淡々と日々が描かれる。
だからこそ登場人物全員の気持ちが理解できる。皆死ぬことは決まっているのに信じられない気持ち。そして死が目の前にやってくるギリギリまで自分の仕事をして、日常生活を送る姿は、実際に人間がこういう状況に置かれたらこうなるんじゃないかと納得がいった。
そんな静かなストーリーだからこそ所々にそっと描かれる悲しみや悔しさが際立っていた。
メインとなるタワーズ大佐、モイラ、ピーター・ホームズの3人がとても好きで、もっと長生きすべき人たちなのに…と切なくなってしまった。
戦争をしている国のトップに読んで欲しい。
ストーリーの性質上やや単調なのと船に関する専門用語が多くて少し読みづらかったが良作。⭐︎3.7〜4くらいかな。