再読。
象が巨大なクレヨンを使って、青や赤や黄色の塊を、大きく大きく描く。周りの動物たちは、その描かれたものを、本物の池や、火事や、バナナだと勘違いして、驚いたり戸惑ったりする。振り回された動物たちの代表(と思われる)ライオンが象を怒るけれど、象は「まだ まだ かきたりない みたいで くれよんを
...続きを読むもって かけだし」ていき、物語は終わる。
改めて読み直してみると、象が色の塊を描くとき、何を描くとも、描いたとも明言されないのが面白い。それを池だとか火事だとか言うのは、あくまで周りの動物たちで、象は終始にこりともせず、ただ心にあるものを描いているように見える。表現したいという衝動だけが、象にはあるのかもしれない。
そして絵本のタイトルが『ぞうのくれよん』ではなく『ぼくのくれよん』となっている点。象の衝動は、象だけのものではなく、読者である子どもたち(=「ぼく」)が共有する、表現への衝動であるのだろうと思える。
集団を代表して象を怒るライオンは、落書きを叱る大人にも見え、秩序や良識の象徴とも感じられる。
怒られた象は、しかしほとんど堪えず、秩序も良識も振り切って、衝動のままに駆け出していく。
最後のページで鮮やかに描かれる色の足りない虹は、美しい。虹はページの手前から奥へ伸び、象が走る限り描かれていくようだ。虹はまだ描き終えられていない、そして、子どもたちがこの絵本を読むまさにその瞬間にも、描かれている虹であるのだろう。