【一口感想】
「Scrum導入本の決定版!これ一冊でスクラムのエッセンスの全てがわかる」
【3行要約】
・あるプロジェクトにScrumを導入してみるという実験をストーリー仕立てで解説
・スクラムマスターに抜擢された主人公もPOもチームもスクラム初体験のなか徐々に成長していく姿がまぶしい
・
...続きを読む重要な用語やマインドセットなどももちろん網羅
【所感】
打ち合わせでスクラムの話をしたばっかりに、新しいプロジェクトにスクラムの導入を命ぜられ、
そして自身もスクラムマスターとして任命されてしまった主人公「ボク」。
「スクラムとは何か?」
を常に自問自答しながら、迫り来る数々の問題をクリアしていき、最後にプロジェクトはいろんな
意味での「成功」に導かれていく。
ストーリーの展開はマンガ+文章という2段構成で進められ、リズムも良いのですぐに読み切れてしまう。
遅読の私でも2時間もかからなかった。個人的には面白くて2度通し読みしてしまった。
この本のすごいところは、最初に全てをまとめて説明するのではなく、ストーリーが進んで行く
なかで必要な事実としてスクラムを解説しているところだ。ストーリーをマンガに乗せて展開
していくというスタイルは最近のハウツー本では流行りなのかもしれないが、私が読んだことのある
いくつかの本の中でもリズム感というか、マンガと文章の組み合わせの長さなどがちょうどよく、
それこそ「今必要な最低限のものを短いタームで作ってイテレーティブにリリースする」という、
スクラムのスタイルそのものに近いリズムで展開されていくところがとても読みやすかった。
また、個人的にものすごく心に響いた点は2つ。
ひとつは、このストーリーはスクラムマスターであるボクくんの成長ストーリーと捉われがちだが、
実は彼だけでなくPOのキミちゃんも、ボクくんの上司であるブチョーさんも、そしてチームの
メンバーそのものも、スクラムというプロセスの導入をきっかけにみんなが成長していくストーリーだ
という点だ。
チームは自分たちの活動内容がつまびらかになっていくことで不安もあったろうが、最後の方では
どうやればものごとを正しく、そして最短距離で解決に向かわせることができるのかわかるようになり、
そしてそれを自律的に行えるようになっていく。
スクラムは個人の能力もそうだがチームとして人が強くなり、リーダーを持たなくても自発的・自律的
に行動がとれるようになるというのは、まさにこういうことなんじゃないかと感じた。
もう1点は、プロジェクトの途中で起きるシステム的ではなく人為的な「障害」が、あまりにも自分の
過去に経験してきたことと重複してした点だ。
「人を投入すればベロシティ(開発速度)上げられるだろ。だから期間短くしろ」と上司が言ってくるとか
プロジェクトのステークホルダではない部署の人間がプロジェクトルームに来て、無意味な正義感を振り
かざして、仕様書を見せろ!こんな仕様は間違っている!と「口」も「手」も出してくる、とかいったやつだ。
スクラムにおいては、ステークホルダとチームメンバー以外の人間の意見はただの参考であり、基本的に
意思決定を左右するものにならない。彼らは自分たちのやり方が絶対で、それが正しいと信じ込んでいる
ので、そうでないやりかたをしているのが気に入らないのだろうが、そもそもプロセスも価値観もゴールも
まったく違う世界で、ひとつのやり方が絶対正しいなどという保証はない。
というかほぼ100%、間違っている。
私は、過去経験してきた数多くの開発の現場で何度もこの場面に遭遇してきた。
立場がメンバーだったこともあるしリーダーだったこともあるが、そのいずれの場合も、
チームは最終的にこの「部外者」からの意見に屈服してしまった。
しかし、それではダメだったのだ。
私はこの本を読んで確信した。
「プロジェクトのステークホルダでないやつの発言は、聞くだけ聞いて無視しろ」
この一言につきる。もしそれがステークホルダではない上司だったら、POやSMは意地でも説得する
必要があるだろうし、そうでなければチームメンバーのみんなに迷惑がかかるし、そもそもチームの
存在意義である「ユーザーに価値のある動くサービスを提供する」という目的を達成できなくなって
しまう。発言してくる人には悪意はないと思うし、上司だと言いにくい局面もあるかもしれないが、
ここは絶対に折れてはダメだ。粘り強く交渉・説得する必要がある。
スクラムとは、チームを強くするということと同時に、リーダーとなる人間がどうやって
チームを支えていくのか?ということの1つの答えであるような気がしてならない。
どうやったら部下が自律的に行動してくれる人間になるのか?
スクラムを導入することでおそらくリーダーの負荷は一時的には高くなるだろうし、これまでの
進め方では必要なかったタスクも多くなるだろう。
でもチーム全体としての生産性はきっと、それまでの何倍も高くなるはずだ。
本書では、そのきっかけとなる何かに気づかせてくれる気がする。
スクラムに限らず、リーダーとしてどう振舞うべきか?と悩んでいる人に向けても、とても良い
参考資料になるのではないかと思う。
チームのメンバーに限らず、この業種に関わる全ての人に読んでもらいたい「逸冊」だ。