ネタバレ
Posted by ブクログ
2020年10月16日
芸術ミステリは、深水黎一郎さんのライフワークであり、代名詞。自分は芸術全般に疎いが、深水さんの芸術ミステリの一ファンのつもりではある。
深水さんの芸術ミステリは、その分野に精通していれば当然面白いし、自分のように全くの素人が読んでもやはり面白い。通と素人の両方を唸らせる。読者を置き去りにした蘊...続きを読む蓄系ミステリが多い中、なかなかできることではない。
手に取った待望の新作は、もちろん深水流芸術ミステリの系譜を継いでいる。面白いかったかといえば面白かった。しかし、本作と同名の歌曲集『詩人の恋』を知らなかった僕は、面白さと同時に悔しさも味わったのだった。
全七部からなるが、長さはばらばら、時代は過去だったり現代だったり、第二部「伝記的事実」はその通り第三者視点で淡々と綴っている。いずれも『詩人の恋』の内容が関わってくるが、この難解な詩を現代の恋愛模様にアレンジした第三部、第五部は、意外な展開に苦笑した。おっさん読者は若い感性に嫉妬しそうだ。
シューマンやブラームスの時代を描いた第一部、第四部。短くても濃密だが、謎を残して終わる。この謎が現代で解かれるのかなあと期待しつつ、読み進める。伯林を舞台にした第六部は、涙なしには読めない。一学者として誠実に生きてきた人物に同情する…。第六部の重要性に、自分は読み終えてから気づくことになる。
いよいよ真打登場の第七部。何と何とあの男が再登場。内容はとても理解できたとは言えないが、瞬一郎は歌唱指導までしてしまうんかいっ! そんな彼が最後に披露した、『詩人の恋』に込められた真相とは。偉い人の説がまかり通る、学問の世界。これを論文として提出したら、どう受け止められるのかと、ふと思った。
やはり、『詩人の恋』を知っている方が面白さは増すだろう。自分には真に理解できていないという点で、星四つとさせていただきたい。星五つはつけられない。