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Posted by ブクログ
悪意や閉塞感に満ちた現実を吹き飛ばし、そして世界を変革するヒロイン。
山本弘さんの『詩羽のいる街』という作品のメッセージとそのヒロイン像に、初めて読んだとき大いに惹かれました。そしてこの『プロジェクトぴあの』の上巻を読み終えた時の感情も、それに近いものを感じます。
AR技術などが進歩した近未来の日本。ある日貴尾根すばるは、秋葉原の電気街でマニアックな部品を買い漁る地味な女性と出会う。彼女の名前は結城ぴあの。常人とはかけ離れた思考と頭脳を持つ彼女は「宇宙へ行く」という夢を語る。そして夢のためぴあのは自宅で実験を続け、一方で資金と賛同者を得るためアイドル活動しているらしく……
ぴあののキャラクターはとてもユニークなのですが、一方で人間関係全般に関しては、不器用というか、興味がないのかとも思います。身内の話を語るところなんか、マッドそのもの……。そこだけ読むと、彼女を遠く感じてしまうかもしれないです。
では、なぜ自分はぴあのが好ましく感じるのか。それは単に彼女が天才で特異なため、言葉や行動の予測がつかないから面白い、ということだけではありません。
彼女の「宇宙へ行く」ための手段であるアイドル活動が結果的に、人、さらには人工知能にまで影響を与え、現実や世界をいいふうに変革してしまう。その過程が描かれるからこそ、自分はぴあのに惹かれていくのだと思います。
『プロジェクトぴあの』の近未来の世界にも悪意はあります。技術が進歩しても、誹謗中傷やいわれのない差別は、その技術を利用して現実に侵食します。他にも科学技術を悪用しての詐欺であったり、成功を収めつつあるぴあのへの嫉妬であったり。人の小ささ、浅ましさは変わらず、それが世界を狭めてしまうのも変わりません。
評価されるべき人は、きちんと評価される世界。簡単な原理のようで、なぜかうまくそれが反映されない現実世界は、ぴあのアイドル活動で塗りかえられます。そしてさらにはぴあの自身も、人間の可能性を体現するのです。
小説内に登場する、人工知能や最新のAR技術によって生み出された通称「メカぴあの」
年も取らず永遠にアイドル活動ができる「メカぴあの」こそが、本物のぴあのではないか? ネットの声は二極化し、本物のぴあのの人気が脅かされる事態に。そこでぴあのは自身のコンサートに、メカぴあのを招待し、デュエットをすることになります。
このコンサートの場面が良かった!
未来のライブを疑似体験させるかのような描写に、そして圧巻の歌唱シーン! 有限であるがゆえの人間の力と、そして無限の可能性とがこの場面に圧縮されていたように思います。
そしてぴあのの理論も徐々にカタチになっていきます。この辺はハードSFなので、理解度はアレですが……。でもここまででぴあのの活躍に惹かれているので、分からないことが問題に感じないというか、現実を突き破る科学理論の展開にワクワクする自分がいます。
『詩羽のいる街』ではアニメによる町おこしが、話の中で出てきました。こうしたいわゆるオタクコンテンツは色眼鏡で見られがちですが、山本弘さんはそうしたオタクコンテンツに、人の可能性を見いだしているように感じます。
この『プロジェクトぴあの』に出てくるものも、歌ってみたや、素人が制作したMADなどがアップされる投稿サイト、今でいうvtuber、そしてネットでの投げ銭機能など、様々な最近のコンテンツやネットの潮流が、世界を変えるキーワードとして使われます。
そして興味あるものや、好きなものは仕事でもないのに徹底的にのめり込む、いわゆるオタク的な姿勢。それもまた世界を変える一助として物語に機能します。
たぶん自分が山本弘さんの小説を好きなのは、頼まれてもいないのに時間を削って本の感想を挙げている一方で、そのオタク的な部分やこだわりがコンプレックスでもある自分を、物語を通して肯定してくれているからだと思うのです。
アイドル活動の一方で、宇宙へ行くための理論を構築していくぴあの。下巻を読み終えたとき、彼女のいる世界はどのように変わっているのか、楽しみです。
移籍・文庫版ですね
https://booklive.jp/product/index/title_id/283382/vol_no/001
こちらの、移籍・文庫版ですね
Posted by ブクログ
面白く、知的好奇心をくすぐられ物理学好きとしては終始ワクワクさせられたことは確かだが、個人的には好きになれない話だった。若い女性が大学にも行かず、宇宙を目指すためにひたすら自力で研究し、その資金を集めるためアイドル活動をするという夢に満ちた物語で、その過程はすごくワクワクしたが、主人公のキャラクターが好きになれなかった。天才故のコミュ障であっても、いろんな人との関わりで、人間への見方が変わっていくなど、物語を通して心の成長があって欲しかった。もちろん、自分の宇宙への夢は芯として持っていて変わらない部分もあって良いが、主人公は終始利己的で人間を常に見下し、利用して自分の目的を叶えてしまったことが残念。こういうマッドな女性の話としてある意味キャラクターのぶれがないとも言えるが、利己的な部分が目立ってしまったのが残念。人を好きになるように宇宙を好きになっていいし、そういうサイコっぽいキャラでもいいのだが、だったら嘘をついたり人に助言を求めたり、協力してもらったり他人を巻き込まず、自分の力だけで達成してほしい(もちろん宇宙に行くのは不可能に近いかもしれないが…)ずっと支えてくれていたすばるを裏切ったり、自分への資金提供者を裏切ったあげく協力するよう脅し、人間は頭悪くてイライラするなど、いじめがあったから非人間的になったのではというすばるの途中の推理と裏腹に最後まで人間らしい姿を見せてくれなかったのが残念だし、後味が悪かった。
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小説・文芸
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