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■心は何から、いかにして生じるのだろう。進化は「まったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった」。一つはヒトや鳥類を含む脊索動物、もう一つがタコやイカを含む頭足類だ。哲学者であり練達のダイバーでもある著者によれば、「頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう」。人間とはまったく異なる心/内面/知性と呼ぶべきものを、彼らはもっている。本書は頭足類の心と私たちの心の本性を合わせ鏡で覗き込む本である。■海で生まれた単細胞生物から、現生の頭足類への進化を一歩ずつたどれば、そこには神経系の発達や、感覚と行動のループの起源、「主観的経験」の起源があり、それは主体的に感じる能力や意識の出現につながっている。「タコになったらどんな気分か」という問題の中には、心とは何か、それは物理的な身体とどう関係するのかを解き明かす手がかりが詰まっている。■知能の高さゆえの茶目っ気たっぷりの行動や、急速な老化と死の謎など、知れば知るほど頭足類の生態はファンタスティック。おまけに著者が観察している「オクトポリス」(タコが集住する場所)では、タコたちが社会性の片鱗を示しはじめているという。味わい深く、驚きに満ちた一冊。
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Posted by ブクログ
タコは不思議な動物である。頭足類であり、人間が属する哺乳類とは全く違う生物類に属している。しかしながら、著者が言うように「頭足類を見ていると、「心がある」と感じられる。心が通じ合ったように思えることもある」。もちろん、心 (意識や主観的経験、知性)については、いくつかの定義がある。また、ある生物種が心を持っているかという問いの答えはゼロイチではなく程度によって測られるものである可能性も高い。しかし、もしタコがこの本で書かれているとおり、個々の人間や同類の個々のタコを見分け、さらにその性格や行動も記憶し、相手がいるかいないかで行動を変えるというようなことを少なくともある種の心を持つものだと認識したとすると、次の重要な事実を認めることになる。
「進化が、まったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった」
神経系の共通の役割は二つある。一つは、「知覚と行動を結びつける」ことであり、そしてもう一つは「行動を生み出すこと」である。結果として「心」のようなものが生み出されると考えられる。何も不思議なものではなく、知覚と行動を制御する神経系が進化の過程によって、目や翼が何度か独立に発明されたのと同じように収斂進化して別の形で同じ機能が生物として発明されるようなものであるということだ。つまり「心」を獲得するのは進化上偶然ではなく必然であったといえる。
著者は言う。
「頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう」
そして、
「哲学には他者の持つ「自我」」について考える「他我問題」というのがあるが、タコはこの他我問題の格好の題材と言える」
タコに関してそんなことを思ったことはこれまでなかった。著者はタコの海底コミュニティ(著者は”オクトポリス”と呼ぶ)を定点観測し、タコがいかに社交性があり、個性をもち、まるで心をもってお互いに行動を調整しあっているのかを実地で見た。驚くべきことにタコの寿命は二年以内と短い。そんな短命の生物であっても全身の神経系を発展させて「心」のようなものを持つことが生物学上費用対効果に見合うものとして進化させてきたのだ。このことは心(意識や主体)を考える上で多くの示唆をわれわれにもたらすことが期待される。
本書の原題は”Other Minds”。われわれの心とは別様態の心についてタコに基づいて考察した本である。意識問題へのアプローチとしては異質であるが、議論を避けることのできないテーマである。タコがどうやら「心」を持ったように、同じく神経系ということもできるであろうAIも「心」が生まれるのだろうか。それとも哺乳類と頭足類とで個別に収斂進化した「心」が生まれるためには身体や行動が必要となるのだろうか。そうだとして、AIは動物の「身体」や「行動」を模擬することで「心」を獲得するようにできるのだろうか。この興味深い議論が、ここからさらに発展することを望むし、そうなることが今や期待されているのである。
Posted by ブクログ
タコやイカは知性が高いと言われている。進化樹の中でははるか昔に枝分かれした人類とタコであるが、異なる進化の中で神経系をそれぞれで発達させているのが興味深い。人間は脳で集中制御しているのをタコでは腕部にも脳のような機能があるなど、違いはあるもののタコにはタコの心があるようだ。また、もし異星人が存在するのであれば、独自進化した異星人の心を知るためにもタコの心を研究するのは有意義だ。まずはタコになった気分を考えるというのは面白い思考実験になりそう。こんなことを考えられるのも人間の特権のようなのだけど。何冊か類書を読んだうえで、この本にたどり着いたが、読みやすくて分かりやすい。
Posted by ブクログ
著者は熟練ダイバーでもあるそうだが、「オクトポリス」でのタコに手を引いてもらった(と感じた)体験、ジャイアントカトルフィッシュという種のイカとの交感の描写が、実らない愛を感じさせ切ない。
頭足類が地球上の動物の中で極めて特殊な位置づけの生き物であることに改めて感心。ボリュームあり読むのはちょっと大変だが良書。
P10 頭足類を見ていると「心がある」と感じられる。それは何も私たちが歴史を共有しているからではない。進化的には互いに全く遠い存在である私たちがそうなれるのは、進化が、全く違う経路で心を少なくとも二度、作ったからだ。頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう。
P13 よい哲学は日和見主義だ。つまり、どのような情報であれ、どのような道具であれ、役に立ちそうであればすべて利用するということだ。
P40 クラゲのように上下の区別はあっても左右の区別はない構造の動物を「放射相称動物」と呼ぶ。一方、人間、魚、タコ、アリ、ミミズなどは「左右相称動物」と呼ばれる。【中略】元来、左右相称の身体は、移動に向いている。またこの身体の構造は、ほかにも多くの複雑な行動に適していた。
P65 タコは、ラットやハトなどに比べてはるかに、自分でこうしようという考えを強く持っているようである。【中略】タコの行動にどうも「いたずら」の要素が多くあり、また彼らには多分に狡猾な面もあるようなのだ。
P80 脊索は動物の背側にあり、身体の中央を貫く。瀬木作には神経が通り、一方の端には脳がある。一方、頭足類は、それとは大きく違った身体の設計、違った種類の神経系を進化させる。脊索動物の神経系を中央集権型だとすると、頭足類の神経系はそれよりも分散型だと言える。(はしご状神経系)【中略】頭足類の場合は(食道が)脳の中央を貫いているということだ。その位置関係はあまりにもおかしいように私たちには思える。そこは絶対に脳があってはならない場所だと感じるのだ。
P88 タコには余計なことをするだけの、内面の能力の余剰があるようだ。
P92 タコの身体には決まった形というものがなく、変貌自在だ。可能性のかたまりだと言ってもいい。決まったかたちを持ち公道をある程度決定する身体を持つと、そのためのコストが発生する一方で利益も得られるが、タコにはどちらもないということになる。多くの動物では脳と身体が明確に分かれるが、タコはその区別とは関係のない世界に生きている。
P163 ヒヒはメロドラマのような生活を送っており、おそらくストレスも多い複雑な社会にいる。にもかかわらず、情報を発信するための手段は非常に貧弱だ。反対に頭足類の場合、社会生活は非常に単純なもので、したがって言うべきことも非常に少ない。にもかかわらず異様なほど多くの表現をする。
P174 言語が思考のための重要な道具であることは間違いない。そして内なる声はただ泡のように無意味に湧いているわけではない。しかし、秩序だった思考をするのに言語が絶対に必要だとまでは言えない。言語は複雑な思考を一手に引き受ける媒体というわけではないのだ。
P191 皮膚に現れる色や模様は、たとえどれほど複雑なものであっても受取り手のいない一方通行のものである。頭足類は、自らの発する色や模様を、人間が言葉を聞くように認識するわけではないのだ。
P194 頭足類の多くは、その寿命の短さに比してあまりに大きく、あまりに賢いと言える。タコが卵からかえって2年以内に死んでしまうのだとしたら、彼らの高度な知能は一体何の役に立っているというのだろうか。
P253 この地球上では、少なくとも2回、同じような能力が、全く別のところで無関係に生まれ、進化したということである。【中略】頭足類は、独立して進化を遂げたにもかかわらず同じようなmindを持った非常に不思議な生物だ。昔から、異星人の想像図はタコに似た姿になっていることが多かった。偶然にしてはできすぎている。(訳者あとがき)
Posted by ブクログ
私を含む「心身問題」という哲学用語を知らない人にとって、手に取りにくいタイトルだと思う。原題は "OTHER MINDS"、これは秀逸なタイトルだと思う。これまで人間には認識できていなかった、まして想像などしたこともなかったような”ほかの心”あるいは”ほかの知性”が存在する。そのひとつが頭足類で、進化的には人間とはまったく遠い存在であるのに彼らにも私たちと通じ合う”心”のようなものがあるのは、「進化が、まったく違う経路で心を少なくとも二度、つくったからだ。頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう。」(P10 L4~6)
話が行ったり来たりすることを含め、読みやすい本ではなかったと思いますが、それを凌駕する面白さとeye openingな内容で、高評価としました。
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