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「天皇機関説」事件は、この学説を主張する憲法学者の美濃部達吉への、天皇を崇拝する退役軍人や右派政治家の攻撃が発端となっている。1935年2月に始まり、約半年にわたる「機関説」排撃運動の中で、美濃部に対する政治的な弾圧が行われただけでなく、言論や学問の自由も奪われ、立憲主義が事実上停止した。その結果、「権力の暴走」を止める安全装置が失われ、日本は破局的な戦争へと突き進む。この事件は、社会がどのように「壊れて」いくのかを物語る昭和史の重要な分岐点である。現在の政治・社会状況との類似点の多さに戦慄が走る……! 【目次】はじめに/第一章 政治的攻撃の標的となった美濃部達吉/第二章 「天皇機関説」とは何か/第三章 美濃部を憎んだ軍人と右派の政治活動家/第四章 「国体明徴運動」と日本礼賛思想の隆盛/第五章 「天皇機関説」の排撃で失われたもの/あとがき/「天皇機関説事件」に関する年表/参考文献
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Posted by ブクログ
この「天皇機関説事件」が、日本を軍事マシンへと流れを変えた決定的事件なのですね。
凄く分かりやすい説明と、全体の流れを俯瞰する内容で、初心者にも読みやすいです。
なぜこうなるに至ったのかを考えながら、本書を読み進めたのですが、まずは明治憲法の欠陥ですね。軍隊が天皇によってのみ統帥される。つまりは政府や裁判所に牽制されない。この欠陥をうまく突いてきた訳ですね。
またなぜこんな憲法になったのかを考えてみると、明治政府はやっぱり薩長出身者で作った軍事政権という事だったのでしょうか。
一度は憲法も作って、立憲主義、法治主義を表明して、野蛮な国から脱却したのに惜しいですよね。
明治維新から昭和の戦争までの流れが良く理解できた一冊でした。
Posted by ブクログ
貴族院議員でもあり、憲法学者であった美濃部達吉らが唱え、
大日本帝国憲法下で30年近くに渡って憲法学の通説とされたのが
天皇機関説である。
国を法人とみなし、統治権は国家にあり、天皇はその最高機関とし
て、内閣等の機関からの輔弼を得ながら統治権を行使する。
しかし、満州事変後の1935年、軍人出身の政治家たちをはじめ、
右翼団体等から総攻撃を受けることになった。
美濃部達吉が矢面に立たされ、その著作までが発禁処分となった
「天皇機関説事件」を分かりやすく説いたのが本書だ。
もうねぇ、攻撃を開始した軍人出身の政治家っておバカちゃんでは
ないかと思うのよ。美濃部博士の著作さえ読まずに「学匪」「謀反人」
などと言って恫喝するんだから。
それは右翼も一緒。政治家たちを先導した蓑田胸喜なんて、美濃部
博士の天皇機関説の一部を切り取って、理論を捻じ曲げて「けしか
らんっ!」なんてやっているのだもの。そもそも蓑田の「いいがかり」は
私怨ではなかったのかと思うんだわ。
美濃部博士は「一身上の弁明」を議会で演説し、騒動は沈静化するかに
見えたのだが、天皇を利用したい軍部や右翼からの攻撃は増すばかり。
右翼団体や在郷軍人会は別動隊の団体を立ち上げて、国体明徴運動
を錦の御旗にして振りかざす。あれ?別動隊って今の「日本会議」の
やり口がそのまんまだね。
大体、明治維新後の日本って「アジアは後進国だからやだ。ヨーロッパ
列強の一員になるんだもんね」と脱亜入欧を目指していたはずだろう。
それなのに、満州国建国で国際連盟脱退。「日本は他に類を見ない
万世一系の天皇が統べる特別な国なんだぁ」と、西洋思想を排撃って
なんだよ。
天皇機関説を唱える美濃部博士をはじめとした学者さんたちを国賊だと
か、不敬だとか言うけれど、当のご本人である昭和天皇は「機関説で
いいではないか」と容認されているっていうのに。
要は自分たちに都合のいいように天皇を利用していたのは右翼団体や
陸軍皇道派なんだよね。だから、2・26事件を起こして昭和天皇を激怒
させたんじゃないのかな。
今の教科書ではこの天皇機関説に触れているのかな。私は学生時代、
事件の内容は教わらなかった気がする。
新書なので一般向けに分かりやすく書かれており、各人のよって立つ
思想についても解説されているので理解しやすい。
そして、日本会議の手法がこの頃の機関説排撃運動に加担した人たち
と似ていることにうすら寒くなった。
尚、美濃部博士攻撃の急先鋒だった蓑田胸喜は戦後の1946年に自死
している。一説には国体のなんたるかが分からなくなった末の狂死とも
言われているようだ。
Posted by ブクログ
天王機関説事件から国体明徴運動とその後の流れまでを非常に分かりやすく整理してくれている
1935年と100年近く前の事件ではあるが、人の起こしたこと故、現代にも通じる
混乱の最中では道理よりも無理が通る
国連脱退による国際社会からの孤立、明治以降の欧州文化偏重の傾向、1920年代の軍縮
自国を守らねばならない環境下で力を失っていた軍部が国体という標語のもとに揺り戻しをかけた
結果、理論として天皇自体も認める機関説が排撃され、精神性を拠り所にした国体が推されることとなる
現代日本も経済的な弱体化やコロナ禍という混乱にかこつけて政府は無理筋を通している
社会規模でなく自身の身近な会社でも十分に起こり得る潮流であるし起こっているのかもしれない
Posted by ブクログ
天皇機関説事件とは、1935年に起きた政治的な弾圧事件です。
私も高校時代に日本史で学んだ記憶があります。
恥ずかしながら、私は本書を読むまで大きな勘違いをしていました。
天皇機関説というのは一部の左翼学者が唱えた異端の学説で、これを不敬だとして当時の軍人や右派政治家が排撃したもの。
と、そのように捉えていたのです。
本書を読み、天皇機関説とは、美濃部達吉をはじめとする当時の学者が、正統的な憲法学説として唱えたものだということが分かりました。
つまり、日本という国家を「法人(法的に擬人化した概念)」と見なし、天皇はその法人に属する「最高機関」に位置するという学説です。
この学説は、当の天皇陛下自身が認めていたものでした。
しかし、この天皇陛下自身も認める正統的な学説に対して、当時の軍人や右派政治活動家は
「天皇陛下を『機関』などという無機的で世俗的な言葉で表現するとは何事か!」
「天皇陛下を『会社の社長』や『機械の一部』のように捉える考え方は、不敬ではないか!」
などと激しい批判や罵倒の言葉を投げつけます。
一部軍人や右派政治活動家は、天皇機関説だけでなく、美濃部に対する人格攻撃も繰り広げます。
「学匪」とまで罵られては、さすがに黙っていられない美濃部は、「一身上の弁明」として議会演説を行います。
この演説で美濃部は、天皇機関説を排撃する者たちが、実は美濃部の著書をほとんど読んでおらず、片言隻句を捉えて誹謗中傷していることを白日の下に晒します。
美濃部は演説の中で、皮肉も交えてこう述べます。
「菊池男爵(天皇機関説排撃の急先鋒=引用者註)は、私の著書をもって、我が国体を否認し、君主主権を否定するものであるかのように論じられていますが、それこそ実に同君が私の著書を読まれていないか、または読んでもそれを理解しておられない明白な証拠であります」
いつの時代にも、菊池男爵のような手合いがいるのだと思うと、暗澹たる気持ちになりました。
ところが、戦時色が濃くなっていくのと同時に天皇機関説排撃派は増長し、美濃部は徐々に窮地に追い詰められていきます。
当初は「自分は天皇機関説には反対だが、学説の話は学者に任せて、政治家が口出ししない方がよい」(岡田啓介首相)と冷静に対応していた政府も、ついには天皇機関説排撃派の突き上げに抗しきれなくなり、美濃部の著書の一部を発禁処分にし、さらには国体明徴声明(日本が他国よりも優れていることを示す独特の性質を認めてはっきりと証明すること)を発表するに至ります。
こうした排撃派の動きを、天皇陛下は快く思っていなかったそうです。
しかし、あろうことか天皇陛下の意向さえ無視して排撃派はさらに勢いを増し、立憲主義は実質的にその機能を停止し、ブレーキを失った国家権力は破滅への道へとひた走ります。
美濃部は、天皇機関説事件の前年に当たる1934年に雑誌「改造」12月号に寄稿した記事「国家主義の思想とその限界」で次のように書いています。
今という時代に大変に示唆に富んでいます。
また、個人主義や自由主義についても、実に簡潔、的確に書いています。
個人主義や自由主義は、最近極めて評判が悪いですが、批判する向きにはどうも勘違いしておられるのではないかという疑念があります。
美濃部の記事を読んで、共に勉強しましょう。
「個人主義と言えば、国家の利益や社会の福利を顧慮せず、各個人をして小我的な自利を主張することであるとか、あるいは何らの節制もなく個人のわがままな行動を放任することであるとするような傾向があるけれども、正統な意義における個人主義とは、各個人の人格を尊重し、個人としての生存の価値を認め、国家および社会の利益と調和できる範囲において、個人の精神的および物質的に自由な活動を容認するという主義に他ならない。個人の天与の材能(才能)を、その天分に応じて自由に発揮することを可能とし、各個人をして人間に価する(人間らしい)生活を営ませることは、実に個人主義の真髄の存するところである」
「国策としての国家主義は、その最も極端なかたちにおいては、国家を単に戦闘団体としてのみ観察し、国防すなわち国家の戦闘力を強くすることが、国家の唯一の目的であるとし、国家のすべての編制および活動をして、ひとえにこの目的を達するための手段にしようとするところにある。こういう考え方の下においては、国民は単に国家の戦闘力を構成する手段に留まる」
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