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有権者が選挙を通じて政治家を選び、政治家が政策決定を行う。これが代議制民主主義の仕組みである。議会の発展、大統領制と議院内閣制の確立、選挙権の拡大を経て定着したこのシステムは、第二次世界大戦後に黄金期を迎えた。しかし、経済成長の鈍化やグローバル化の影響を受け、今や世界各国で機能不全に陥っている。代議制民主主義はもはや過去の政治制度なのか。民意と政治家の緊張関係から、その本質を問い直す。
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Posted by ブクログ
政治が機能していないと言われて久しい。それが政治不信の原因とされ、選挙制度をはじめ様々な改革が行われてきた。だがそもそも政治が「機能」しているとはどのような事態を指すのか。そして改革は何を目指し、その効果をどう評価すべきなのか。本書はこうした問いに対し、比較政治制度論の近年の研究成果を踏まえながら、...続きを読む各国の代議制民主主義がいかなる歴史的経緯を経て現在のかたちをとるに至ったかを、その基本的な理念に立ち帰って検証し、あるべき議論の筋道を示す。実証的政治学と規範的政治理論の野心的な統合の試みであり、久しぶりに歯応えのあるシャープで骨太の政治学に出会ったという気がする。 著者は代議制民主主義とは自由主義と民主主義という本来全く別の互いに矛盾する二つの政治理念の接合であり、一方が他方に対して強くなり過ぎないようバランスを取ることを目指す政治制度であると捉える。自由主義は「多数者の専制」の抑制を意図し、執政制度においては権力集中的な議院内閣制、選挙制度においては単独政権を生み易い小選挙区制の組み合わせを志向する。エリートの競争を通じて多数派を形成した政党が、民意に硬直的に縛られずに政策を実行することが狙いだ。イギリスが典型だが、内閣機能を強化し、小選挙区制を取り入れた近年の日本もこのタイプに分類できる。他方民主主義とは可能な限り治者と被治者の同一性を確保しようとするものであり、大統領制と比例代表制を志向する。マイノリティーを尊重し、社会のコンセンサスを重視した政策運営を目指す大陸ヨーロッパ諸国に多い。勿論いずれの組合せであっても代議制民主主義である以上、自由主義と民主主義の双方の要素を合わせ持つ。例えば議院内閣制や小選挙区制が自由主義的と言っても、普通選挙制を採用する以上、民主主義的でないはずはない。あくまで相対的な比重を問題にしているのだ。 政治が機能していないと言うが、政治が民意を反映していないことを指すのか、逆に、民意にとらわれ過ぎて何も決められないことを指すのか、それによって処方箋も変わってくるし、そもそも現行の政治制度は、批判者が政治に期待する「機能」を政治が発揮し過ぎないことを意図した側面を持つことを忘れるべきでない。既得権にとらわれた議会を軽視し、住民投票の意義を強調する自治体の長がメディアの注目を集めるが、彼は一体何を目指すのか。「決める政治」か、それとも「ふわっとした民意」の尊重か。前者であれば住民投票はベクトルが逆であり、むしろ必要なのは自治体における首長と議会の二元代表制の是正だ。後者であれば国政レベルの自由主義的改革に逆行し、中央と地方のねじれをさらに助長するだろう。政治家は結果責任を問われる。それはいい。だが政治制度は政治のプロセスやルールを決めるもので、長期的な視点から多面的に評価すべきものだ。個々の政治的イッシューに特定の結果を出すために変えるものでは決してない。 本書への不満を一つあげるなら小選挙区制への評価が若干甘いように思う。確かに小選挙区制は中選挙区制や比例代表制に比べて多党制を防ぎ、既得権にとらわれない「決める政治」に適合的な面を持つ。だが日本のようにイデオロギー分布がはっきりせず、無党派層が多い国では、ポピュリズムとの親和性が高い。自由主義を志向するはずの小選挙区制が歪な民主主義を帰結してしまうという逆説だ。
課題図書。入門レベルにうってつけの良書。議会制民主主義の歴史を辿りながら、それぞれの政治制度の長所、短所をまとめた本。改めて全ての民意を完全に反映させることは難しいと実感しつつ、だからこそできる範囲のことは政治機関に担って欲しい。間違っても機能不全といった事態に陥ってはならない。
自由主義(効率性)と民主主義(公平性)の結節点として代議制民主主義を、歴史的、課題的、制度的に読み解き、あるべき改革を探る。 最後の章で、代議制民主主義はしたたかでしなやかである、との一文まで至った時、本書の冗長で、広範な書き口、構成の意義、つまり、作者の意図が始めて分かった。 あちら立てれば...続きを読む、こちらが立たない、というバランス装置の重要性こそ認識すべきなのだ。
そもそも、民主主義と議会制度は出自が異なるのに、今では民主主義と言えば、普通選挙に基づく議会制度が必須となっているが、これは、決して直接制民主主義の代替物では無く、自由主義と民主主義の貴重な接点であること。そして、自由主義的側面と民主主義的側面が互いに摩擦を起こすことこそが、必要なことなんじゃないの...続きを読むかなあと。 多数の専制に陥らないように民主主具は制御される必要があるし、政治家の正統性は民意に基づかねば維持できない。そして、熟議民主主義では、民主党政権が行った(偏った専門家主導の)討論型世論調査で実証されたように、却って専門家による専制を招きかねない。 そして、民意と政治家と官僚(専門家)の関係性を調整することは必要になっても、安易に直接民主制的な国民投票を導入するのは避ける方が、長期的な利益を確保できるような気がするのである。
政治の世界をテレビなどで見ている時に、様々な問題に対する批判や泥仕合を見ることが多いように感じていたのですが。その原因が一体何なのか、政治家が悪いのか、官僚が悪いのか、それとも私たちが勉強不足なのか、わかっていないままに散髪屋の親父と化してしまっていました。それを理解する視点として、代議制民主主義が...続きを読む日本の政治体制であり、その制度の利点や問題点を知ることができたこと、本書を読んで良かったと思いました。世界の政治制度を知ることで、日本だけの問題でもないことを知ることも重要と感じます。 代議制民主主義は柔軟な制度であり、それゆえバランスをとることが困難ですが、よくも悪くもなる制度であること。その希望について書かれた良書だと思います。
最近政府に対する批判として時々聞かれる「民主主義的でないという言葉がよくわからず(選挙で選ばれた代表が多数決で決定することがなぜ「民主主義的でない」の?)、かと言って厚い政治学の本を読む気もなく、ちょうど良さそうなタイトルの新書だったので読んでみました。 ものすごく要約すると、結局のところ、執政制...続きを読む度や選挙制度に一つの正解なんてものがあるわけなく、必要とされていることと、現状の制度のずれが大きくなったら、適宜改革は行っていく必要がある。そのキーワードが「自由主義的素」と「民主主義的要素」のバランスで、極端に寄り過ぎて良いことはない、難しいけどね、というとこでしょうか。 私は学生時代、政治に興味がなく、この手のことを全然知らなかった(「共和主義」の意味、大統領と首相がいる国ってそれぞれの役割はどうなっているの?、新興国って何で大統領制の国が多いのか?等ふと疑問に思ってもとくに調べはしなかった)ので、単純に勉強になりました。義務教育でこの辺のことをもっとやれば良いのに。
京都大学大学院法学研究科教授の待鳥聡史(1971-)による比較政治学の観点からみる代議制民主主義論。 【構成】 序章 代議制民主主義への疑問 議会なんて要らない? 第1章 歴史から読み解く 自由主義と民主主義の両輪 1 近代議会の成立と発展 2 大統領制と議院内閣制 3 拡大する代議制民主主...続きを読む義 4 代議制民主主義の黄金期 第2章 課題から読み解く 危機の実態と変革の模索 1 動揺の時代 2 変革の試み 3 目立つ機能不全 4 危機への対応 第3章 制度から読み解く その構造と四類型 1 代議制民主主義の基本構造 2 代議制民主主義を分類する 3 制度と政党 4 四類型を考える 第4章 将来を読み解く 改革のゆくえ 1 三つの「症状」 2 執政制度の改革 3 選挙制度の改革 終章 代議制民主主義の存在意義 バランスの観点から 今日の日本では「民主主義」「民主政治」と言えば、普通選挙による議会政治による立法行為を差すことが多いように見受けられる。 本書では今日先進諸国で多く採用されている「代議制民主主義」を「自由主義」「民主主義」に分解する。そして、それぞれの要素が形成される歴史的背景、第二次大戦後、冷戦終結後の環境変化によって構成要素に生じたジレンマを紹介することで、当たり前のように受け止められている「代議制民主主義」の特徴を明示し、課題を整理する。 第1章は歴史的背景である。「有権者の民意を反映すること」を主眼に置く民主主義、王権による財産権の侵害を防ぐことからはじまったロック的自由主義、権力を分立させることでエリート間のチェック&バランスを志向したマディソン的自由主義。 現代政治のように、決定に高度な専門的知識を要する政策判断において、専門知識を持たない有権者が常に妥当な結論を出せるわけでもないし、個々の立法・財政措置を一々国民に諮るということも非現実的である。そこで有権者は政治家に、政治家は官僚にそれぞれの領域を委任し、委任事項に対して各々が説明責任を負う「委任と責任の連鎖」の仕組みが構築される。 問題はこの委任の範囲がどの程度であるかという点であり、本書ではこれを第3章で中心的に論じる。選挙制度と執政制度を軸にした、レイブハルトの分類をもとに各国の代議制民主主義を区分する。選挙制度にあっては、大選挙区や比例代表制などの「比例性が高い」制度か小選挙区などの「比例性の低い」制度なのか。執政制度にあっては、権力分立的な大統領制か権力集中的な議院内閣制かというのが大まかな分類。 それに続いて、さらに細かく分類と考察がされる。小選挙区で権力集中的なウエストミンスター型は「多数主義型民主主義」と呼称され、選挙により多数派政党(および首班)に権限を委任した後は基本的には政権の運営に対してチェックがききにくいが、短期的な民意(利害)に関係なく、長期的な視点での政策決定も可能となる。このモデルでは与野党それぞれが内部に厳格な規律を強いて、党の一体性が保たれやすいとされている。 一方で、コンセンサス型の典型は大選挙区制と大統領制の組み合わせで、政権の拠って立つところは与党ではなく、有権者の直接的な支持となる。議会にあっては、大統領とは意見を異にする党派・会派が多数存在するため、政策決定は時として短期的・地域的利害により停滞を余儀なくされるなど議会運営に時間と労力を割くことになる。しかし、一方で選挙時に多数党となった政党だけでは円滑な立法は困難であるため、多様な意見をくみ上げながら、妥協点を探るという点もある。さらにこの中間型や中央-地方政府の関係などポイントを絞って解説が加えられていく。 結局のところ、代議制民主主義は、現代政治を運営するためにベターだと思われた一形態に過ぎず、一度代議制を採用した新興国が独裁制や強権的な政治体制に戻ってしまうことも見受けられる。政治経済体制が不安定となったとき、自由主義的要素(エリート)と民主主義的要素(マス)の乖離が大きくなり、そこにつけこむ政治勢力(ex全体主義)がかつて存在したこともある。 民主主義、自由主義の一方に偏してしまうことに対する警鐘と、そのバランスを模索することが1990年代にはできなかった日本の政治改革の課題であるということを明瞭に示している。日本の政治の制度的立ち位置を理解するに最適な一冊である。 中公新書の政治学の名著と言えば、加藤秀治郎『日本の選挙』、飯尾潤『日本の統治機構』が双璧だが、本書はこれに比肩する。あるいは、中公新書でもないし、政治学の研究でもないが、民主主義的要素と自由主義的要素のジレンマという視点から、佐藤卓己『輿論と世論』と併読しても面白いだろう。
今年のベスト本候補。民主主義と自由主義を代議制民主主義のもとでせめぎ合い、運営されていっている、という視座で様々な政体を読み解く。関係ないと思っていたあれやこれがこういう統一的な説明ができるのか、という連続。AとBがあって一長一短ですよね、という中級本にありがちな逃げには走らず、どういう場合/目的の...続きを読む時はどういう方が良い、などときちんと触れてある。
代議制民主主義はエリート間の競争と相互抑制を基調とする自由主義と、有権者の意向(民意)を政策決定に反映させることを至上の価値とする民主主義のバランスの上に成り立っており、そのバランスの観点から、執政制度と選挙制度を分析している。どちらに重きを置くかについて正解はなく、相互に抑制し合いながらいずれか一...続きを読む方が突出することを防げることに代議制民主主義の妙がある。筆者は終わりに代議制民主主義を「人類の巨大知的プロジェクト」と呼び、高く評価している。
地方議会をはじめ代議制民主主義への批判論や否定論の声が高まる中、代議制民主主義のあり方と意義を改めて考えるという趣旨の本。代議制民主主義の歴史を振り返りつつ、明快な論理で代議制民主主義を分析し、今後の改革の方向について展望している。納得性の高い議論を展開しており、代議制民主主義への理解を深めるには最...続きを読む適の1冊である。 著者は、代議制民主主義を、エリート間の競争や相互抑制を重視する自由主義的要素と、有権者の意思(民意)が政策決定に反映されることを重視する民主主義的要素の緊張関係を孕んだ存在だと捉え、その本質を「委任と責任の連鎖体系」であると指摘している。そして、代議制民主主義の2つの基幹的政治制度である「執政制度」「選挙制度」に注目し、代議制民主主義を「コンセンサス型(執政制度―権力分立的、選挙制度―比例制高い)」「中間型1(執政制度―権力分立的、選挙制度―比例性低い)」「中間型2(執政制度―権力集中的、選挙制度―比例性高い)」「多数主義型(執政制度―権力集中的、選挙制度―比例性低い)」の4つに分類している。 代議制民主主義への批判は、委任と責任の連鎖関係が機能不全をきたしていると認識されていることに原因があると指摘し、委任と責任の連鎖関係を円滑に機能させるような改革が必要だと主張している。そして、代議制民主主義は、基幹的政治制度の組み合わせにより多様性が存在するところに意義があり、機能不全が生じても、社会のニーズに適合した基幹的政治制度の組み合わせを変えることによって改善できる可能性が高いと指摘している。
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代議制民主主義 「民意」と「政治家」を問い直す
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