【感想・ネタバレ】代議制民主主義 「民意」と「政治家」を問い直すのレビュー

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Posted by ブクログ 2023年12月29日

政治が機能していないと言われて久しい。それが政治不信の原因とされ、選挙制度をはじめ様々な改革が行われてきた。だがそもそも政治が「機能」しているとはどのような事態を指すのか。そして改革は何を目指し、その効果をどう評価すべきなのか。本書はこうした問いに対し、比較政治制度論の近年の研究成果を踏まえながら、...続きを読む各国の代議制民主主義がいかなる歴史的経緯を経て現在のかたちをとるに至ったかを、その基本的な理念に立ち帰って検証し、あるべき議論の筋道を示す。実証的政治学と規範的政治理論の野心的な統合の試みであり、久しぶりに歯応えのあるシャープで骨太の政治学に出会ったという気がする。

著者は代議制民主主義とは自由主義と民主主義という本来全く別の互いに矛盾する二つの政治理念の接合であり、一方が他方に対して強くなり過ぎないようバランスを取ることを目指す政治制度であると捉える。自由主義は「多数者の専制」の抑制を意図し、執政制度においては権力集中的な議院内閣制、選挙制度においては単独政権を生み易い小選挙区制の組み合わせを志向する。エリートの競争を通じて多数派を形成した政党が、民意に硬直的に縛られずに政策を実行することが狙いだ。イギリスが典型だが、内閣機能を強化し、小選挙区制を取り入れた近年の日本もこのタイプに分類できる。他方民主主義とは可能な限り治者と被治者の同一性を確保しようとするものであり、大統領制と比例代表制を志向する。マイノリティーを尊重し、社会のコンセンサスを重視した政策運営を目指す大陸ヨーロッパ諸国に多い。勿論いずれの組合せであっても代議制民主主義である以上、自由主義と民主主義の双方の要素を合わせ持つ。例えば議院内閣制や小選挙区制が自由主義的と言っても、普通選挙制を採用する以上、民主主義的でないはずはない。あくまで相対的な比重を問題にしているのだ。

政治が機能していないと言うが、政治が民意を反映していないことを指すのか、逆に、民意にとらわれ過ぎて何も決められないことを指すのか、それによって処方箋も変わってくるし、そもそも現行の政治制度は、批判者が政治に期待する「機能」を政治が発揮し過ぎないことを意図した側面を持つことを忘れるべきでない。既得権にとらわれた議会を軽視し、住民投票の意義を強調する自治体の長がメディアの注目を集めるが、彼は一体何を目指すのか。「決める政治」か、それとも「ふわっとした民意」の尊重か。前者であれば住民投票はベクトルが逆であり、むしろ必要なのは自治体における首長と議会の二元代表制の是正だ。後者であれば国政レベルの自由主義的改革に逆行し、中央と地方のねじれをさらに助長するだろう。政治家は結果責任を問われる。それはいい。だが政治制度は政治のプロセスやルールを決めるもので、長期的な視点から多面的に評価すべきものだ。個々の政治的イッシューに特定の結果を出すために変えるものでは決してない。

本書への不満を一つあげるなら小選挙区制への評価が若干甘いように思う。確かに小選挙区制は中選挙区制や比例代表制に比べて多党制を防ぎ、既得権にとらわれない「決める政治」に適合的な面を持つ。だが日本のようにイデオロギー分布がはっきりせず、無党派層が多い国では、ポピュリズムとの親和性が高い。自由主義を志向するはずの小選挙区制が歪な民主主義を帰結してしまうという逆説だ。

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Posted by ブクログ 2021年01月02日

課題図書。入門レベルにうってつけの良書。議会制民主主義の歴史を辿りながら、それぞれの政治制度の長所、短所をまとめた本。改めて全ての民意を完全に反映させることは難しいと実感しつつ、だからこそできる範囲のことは政治機関に担って欲しい。間違っても機能不全といった事態に陥ってはならない。

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Posted by ブクログ 2019年06月04日

自由主義(効率性)と民主主義(公平性)の結節点として代議制民主主義を、歴史的、課題的、制度的に読み解き、あるべき改革を探る。

最後の章で、代議制民主主義はしたたかでしなやかである、との一文まで至った時、本書の冗長で、広範な書き口、構成の意義、つまり、作者の意図が始めて分かった。


あちら立てれば...続きを読む、こちらが立たない、というバランス装置の重要性こそ認識すべきなのだ。

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Posted by ブクログ 2018年10月14日

そもそも、民主主義と議会制度は出自が異なるのに、今では民主主義と言えば、普通選挙に基づく議会制度が必須となっているが、これは、決して直接制民主主義の代替物では無く、自由主義と民主主義の貴重な接点であること。そして、自由主義的側面と民主主義的側面が互いに摩擦を起こすことこそが、必要なことなんじゃないの...続きを読むかなあと。
多数の専制に陥らないように民主主具は制御される必要があるし、政治家の正統性は民意に基づかねば維持できない。そして、熟議民主主義では、民主党政権が行った(偏った専門家主導の)討論型世論調査で実証されたように、却って専門家による専制を招きかねない。
そして、民意と政治家と官僚(専門家)の関係性を調整することは必要になっても、安易に直接民主制的な国民投票を導入するのは避ける方が、長期的な利益を確保できるような気がするのである。

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Posted by ブクログ 2017年02月04日

政治の世界をテレビなどで見ている時に、様々な問題に対する批判や泥仕合を見ることが多いように感じていたのですが。その原因が一体何なのか、政治家が悪いのか、官僚が悪いのか、それとも私たちが勉強不足なのか、わかっていないままに散髪屋の親父と化してしまっていました。それを理解する視点として、代議制民主主義が...続きを読む日本の政治体制であり、その制度の利点や問題点を知ることができたこと、本書を読んで良かったと思いました。世界の政治制度を知ることで、日本だけの問題でもないことを知ることも重要と感じます。
代議制民主主義は柔軟な制度であり、それゆえバランスをとることが困難ですが、よくも悪くもなる制度であること。その希望について書かれた良書だと思います。

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Posted by ブクログ 2016年04月10日

最近政府に対する批判として時々聞かれる「民主主義的でないという言葉がよくわからず(選挙で選ばれた代表が多数決で決定することがなぜ「民主主義的でない」の?)、かと言って厚い政治学の本を読む気もなく、ちょうど良さそうなタイトルの新書だったので読んでみました。

ものすごく要約すると、結局のところ、執政制...続きを読む度や選挙制度に一つの正解なんてものがあるわけなく、必要とされていることと、現状の制度のずれが大きくなったら、適宜改革は行っていく必要がある。そのキーワードが「自由主義的素」と「民主主義的要素」のバランスで、極端に寄り過ぎて良いことはない、難しいけどね、というとこでしょうか。

私は学生時代、政治に興味がなく、この手のことを全然知らなかった(「共和主義」の意味、大統領と首相がいる国ってそれぞれの役割はどうなっているの?、新興国って何で大統領制の国が多いのか?等ふと疑問に思ってもとくに調べはしなかった)ので、単純に勉強になりました。義務教育でこの辺のことをもっとやれば良いのに。

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Posted by ブクログ 2015年12月13日

京都大学大学院法学研究科教授の待鳥聡史(1971-)による比較政治学の観点からみる代議制民主主義論。

【構成】
序章 代議制民主主義への疑問 議会なんて要らない?
第1章 歴史から読み解く 自由主義と民主主義の両輪
 1 近代議会の成立と発展
 2 大統領制と議院内閣制
 3 拡大する代議制民主主...続きを読む
 4 代議制民主主義の黄金期
第2章 課題から読み解く 危機の実態と変革の模索
 1 動揺の時代
 2 変革の試み
 3 目立つ機能不全
 4 危機への対応
第3章 制度から読み解く その構造と四類型
 1 代議制民主主義の基本構造
 2 代議制民主主義を分類する
 3 制度と政党
 4 四類型を考える
第4章 将来を読み解く 改革のゆくえ
 1 三つの「症状」
 2 執政制度の改革
 3 選挙制度の改革
終章 代議制民主主義の存在意義 バランスの観点から

今日の日本では「民主主義」「民主政治」と言えば、普通選挙による議会政治による立法行為を差すことが多いように見受けられる。

本書では今日先進諸国で多く採用されている「代議制民主主義」を「自由主義」「民主主義」に分解する。そして、それぞれの要素が形成される歴史的背景、第二次大戦後、冷戦終結後の環境変化によって構成要素に生じたジレンマを紹介することで、当たり前のように受け止められている「代議制民主主義」の特徴を明示し、課題を整理する。

第1章は歴史的背景である。「有権者の民意を反映すること」を主眼に置く民主主義、王権による財産権の侵害を防ぐことからはじまったロック的自由主義、権力を分立させることでエリート間のチェック&バランスを志向したマディソン的自由主義。

現代政治のように、決定に高度な専門的知識を要する政策判断において、専門知識を持たない有権者が常に妥当な結論を出せるわけでもないし、個々の立法・財政措置を一々国民に諮るということも非現実的である。そこで有権者は政治家に、政治家は官僚にそれぞれの領域を委任し、委任事項に対して各々が説明責任を負う「委任と責任の連鎖」の仕組みが構築される。

問題はこの委任の範囲がどの程度であるかという点であり、本書ではこれを第3章で中心的に論じる。選挙制度と執政制度を軸にした、レイブハルトの分類をもとに各国の代議制民主主義を区分する。選挙制度にあっては、大選挙区や比例代表制などの「比例性が高い」制度か小選挙区などの「比例性の低い」制度なのか。執政制度にあっては、権力分立的な大統領制か権力集中的な議院内閣制かというのが大まかな分類。
それに続いて、さらに細かく分類と考察がされる。小選挙区で権力集中的なウエストミンスター型は「多数主義型民主主義」と呼称され、選挙により多数派政党(および首班)に権限を委任した後は基本的には政権の運営に対してチェックがききにくいが、短期的な民意(利害)に関係なく、長期的な視点での政策決定も可能となる。このモデルでは与野党それぞれが内部に厳格な規律を強いて、党の一体性が保たれやすいとされている。

一方で、コンセンサス型の典型は大選挙区制と大統領制の組み合わせで、政権の拠って立つところは与党ではなく、有権者の直接的な支持となる。議会にあっては、大統領とは意見を異にする党派・会派が多数存在するため、政策決定は時として短期的・地域的利害により停滞を余儀なくされるなど議会運営に時間と労力を割くことになる。しかし、一方で選挙時に多数党となった政党だけでは円滑な立法は困難であるため、多様な意見をくみ上げながら、妥協点を探るという点もある。さらにこの中間型や中央-地方政府の関係などポイントを絞って解説が加えられていく。

結局のところ、代議制民主主義は、現代政治を運営するためにベターだと思われた一形態に過ぎず、一度代議制を採用した新興国が独裁制や強権的な政治体制に戻ってしまうことも見受けられる。政治経済体制が不安定となったとき、自由主義的要素(エリート)と民主主義的要素(マス)の乖離が大きくなり、そこにつけこむ政治勢力(ex全体主義)がかつて存在したこともある。
民主主義、自由主義の一方に偏してしまうことに対する警鐘と、そのバランスを模索することが1990年代にはできなかった日本の政治改革の課題であるということを明瞭に示している。日本の政治の制度的立ち位置を理解するに最適な一冊である。

中公新書の政治学の名著と言えば、加藤秀治郎『日本の選挙』、飯尾潤『日本の統治機構』が双璧だが、本書はこれに比肩する。あるいは、中公新書でもないし、政治学の研究でもないが、民主主義的要素と自由主義的要素のジレンマという視点から、佐藤卓己『輿論と世論』と併読しても面白いだろう。

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Posted by ブクログ 2015年11月25日

今年のベスト本候補。民主主義と自由主義を代議制民主主義のもとでせめぎ合い、運営されていっている、という視座で様々な政体を読み解く。関係ないと思っていたあれやこれがこういう統一的な説明ができるのか、という連続。AとBがあって一長一短ですよね、という中級本にありがちな逃げには走らず、どういう場合/目的の...続きを読む時はどういう方が良い、などときちんと触れてある。

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Posted by ブクログ 2016年03月10日

地方議会をはじめ代議制民主主義への批判論や否定論の声が高まる中、代議制民主主義のあり方と意義を改めて考えるという趣旨の本。代議制民主主義の歴史を振り返りつつ、明快な論理で代議制民主主義を分析し、今後の改革の方向について展望している。納得性の高い議論を展開しており、代議制民主主義への理解を深めるには最...続きを読む適の1冊である。
著者は、代議制民主主義を、エリート間の競争や相互抑制を重視する自由主義的要素と、有権者の意思(民意)が政策決定に反映されることを重視する民主主義的要素の緊張関係を孕んだ存在だと捉え、その本質を「委任と責任の連鎖体系」であると指摘している。そして、代議制民主主義の2つの基幹的政治制度である「執政制度」「選挙制度」に注目し、代議制民主主義を「コンセンサス型(執政制度―権力分立的、選挙制度―比例制高い)」「中間型1(執政制度―権力分立的、選挙制度―比例性低い)」「中間型2(執政制度―権力集中的、選挙制度―比例性高い)」「多数主義型(執政制度―権力集中的、選挙制度―比例性低い)」の4つに分類している。
代議制民主主義への批判は、委任と責任の連鎖関係が機能不全をきたしていると認識されていることに原因があると指摘し、委任と責任の連鎖関係を円滑に機能させるような改革が必要だと主張している。そして、代議制民主主義は、基幹的政治制度の組み合わせにより多様性が存在するところに意義があり、機能不全が生じても、社会のニーズに適合した基幹的政治制度の組み合わせを変えることによって改善できる可能性が高いと指摘している。

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Posted by ブクログ 2016年01月23日

近頃政治をめぐって「民意」とか「民主主義」といった言葉を用いた、罵り合いにも似た言論が盛んである。本書はそうした政治の現状をあくまで比較政治的に、選挙制度の選択×行政権の強さから検証したものである。
比較政治の妙味であるが、「こうすべき」と言われるような政治制度の多くは、既にどこかの時代のどこかの国...続きを読むで実施されている。それは失敗して別の制度に移行している場合もあれば、時々失敗はしつつも現在までそのままという場合もある。そうした政治制度の幾つかを検討して、「では、今の日本の代議制民主主義は言うほど悪いものか。」と読者に働きかける。
結局、そうした政治制度の帰結のどの点に着目するのかで結局議論は分かれるのであるが、その議論の前提として本書は活躍するであろう。
ただ、最初の2章(歴史、大まかな比較)のまとめ方が下手である。それがあまりにもったいない。

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Posted by ブクログ 2016年01月18日

2015年は「民主主義」という言葉が溢れた1年だったように思う。

とりわけ大きなトピックとして、安保関連法案と、大阪における大阪都構想の住民投票および市長・都知事ダブル選挙があった。

これらについては、とても奇妙に思える状況があった。


まず安保関連法案については、憲法学者による違憲という指摘...続きを読むがされたこと、「戦争法案」という批判により大きな運動が起こった。
しかし、ここで憲法について触れると話がややこしくなるので、以下ではその点はあえて無視をして進めていく。 

憲法上の問題を無視すれば、少なくとも自民党・公明党は2012年の衆議院選挙、2013年の参議院選挙を経て議席の過半数を獲得し、その上で法案を提出、成立させたのであり、手続き上は何の問題もなかったように思える。
しかし、これに対して「民主主義」の立場から批判がされた。

これは不思議な話である。
なぜ選挙で選ばれた国会議員による内閣の行為が民主主義的ではないのだろうか。
(立憲主義についての問題を指摘している場合は適切だろうけれど、やはり憲法との関係はここでは触れないことにする)


また、大阪市を特別区とするための住民投票についても批判が相次いだ。
しかし、これも不思議な話である。
住民投票は議会のように間接的ではなく、直接的に住民の意見を反映させることができる機会であり、最も民主主義的な手法に思える。

ところがこれに反対していたのは「民主主義」を叫ぶ人々であったように見えた。
その反対勢力(なんと自民党から共産党まで)の言う「民主主義」がどういったものなのかは不明瞭で、住民投票は否決されたものの、その後の大阪市長・都知事ダブル選では、都構想の実現を目指し続ける大阪維新の会が圧勝した。
大差をつけて票を得た大阪維新の会が選挙で訴えた政策を行うことは、民主主義的に思える。

ちなみに人気のある政治家、あるいは政策に対して「ポピュリズム」と批判されることがあるが、ポピュリズムとは「人気取り政治」のことではなく「人民主義(反エリート主義)」のことである。

では、議席多数の与党の政策や、直接民主主義的な住民投票、そしてポピュリズム(人民主義)を批判し、安保法案や大阪都構想に反対する立場が訴える「民主主義」とはいったい何なのだろうか。


本書はその疑問を解きほぐすのに役立つかもしれない。


ちなみにタイトルである「代議制民主主義」とは新しい民主主義の形ではない。

本書のいう「代議制」とは「議会制と大統領制」を含んだ制度のことである。
議会議員も大統領も、有権者の投票によって選ばれ、政治的行為を委任された代議士という点では共通しており、それを一括りにしているだけだ。

本書は、現在の政治の問題点を認めながらも、「熟議民主主義」や「一般意志2.0」といった新しく提唱されている民主主義の形に対するカウンターとして、旧来の代議制民主主義が優れている点を、各国の政治制度やその現状を紹介しながら、比較政治学を用いて主張している。

代議制民主主義がどのような理由で何が優れているのか、逆に内包している問題は何か、という点は本書を読んでいただくことにして、ここでは本書の知見を用いて冒頭の疑問、つまり「なぜ民主主義と民主主義が対立するのか」を考えてみたい。


その前段として、まずは政治制度を改めて整理してみる。

1.「君主制」「神権政治」「独裁制」
最も非民主的な政治制度と言って良いだろう。
これらはそもそも「国民主権」という考え方自体が存在しない。

2.「全体主義」
本書ではこれを「左の全体主義としての共産主義」と「右の全体主義としてのファシズム」の2つに分類している。
これらについて本書では詳しく言及されていない。

3.「立憲君主制」
君主は存在しながらも、その政治権力は制限されており、民主主義による統治がされている制度である。

4.「共和制」
君主を排して、大統領、首相、議会といった民主主義的な方法で選ばれた人物が国をまとめる。

5.「直接民主主義」
国家の有権者全員が直接的に政治に参加する制度。古代ギリシアの都市国家(ポリス)で行われていたが、奴隷をはじめ全員が有権者でなかったことは押さえておきたい。また集団の規模が大きくなれば、当然ながら全員が政治参加するのは不可能である。

6.「間接民主主義」
直接民主主義の規模の限界を克服するため、選挙によって委任する代表を決め、その代表が政治的行為を行う制度。政治については代表に任せ、各個人が自分の仕事などに専念できるメリットがある。

7.「議院内閣制」
選挙によって選ばれた議会のメンバーのうち、多数を占める政党が内閣をつくり政権を担う制度。首相は与党内で決定されるので国民が直接的に選ぶことはできない。

8.「大統領制」
議会議員とは別に、大統領も国民による選挙で選ぶ制度。日本でも県知事と県議会、市長と市議会は別の選挙で選出され、実態としては大統領制である。大統領と議会議員は別の選挙で選出されるため、対立しやすい。


以上を再整理すると、以下のようになる。


民主主義的な制度は「3.」以降であり、「3.立憲君主制」と「4.共和制」は、どちらが民主主義的かというよりも「君主が存在するか否か」という文化的な違いに留まるだろう。

「5.直接民主主義」は、国家レベルはもちろん、現代では町内会レベルでも困難に思われる。
「文化祭での出し物を何にするか」というような学校社会や、「今年の旅行はどこに行こうか」といった家庭レベル、あるいは職場の現場レベルでの意思決定で用いられる程度だろう。

よって、民主主義による国家政治は「6.間接民主主義」による。
その形態が「7.議院内閣制」と「8.大統領制」であり、本書はこれをまとめて「代議制民主主義」としている。


さて、代議制民主主義は世界各国で採用されているが、本書で何度も繰り返されるのは「自由主義」と「民主主義」の構造的な「非」親和性である。
「自由主義」と「民主主義」は相性が「悪い」のだ。

ただし「自由主義」を日本における「リベラル」「リベラリズム」と考えてしまうと、本書の主旨は理解できない。

本書における自由主義は「権力からの自由」であり、財産を持ち、契約を行うことができる自由だ。
ただしその自由を謳歌できるのは、当然ながら、財産を持ち、契約できる何かを所有している人(=エリート)に限られる。
ここでは「自由な状況の中でエリートが競争し合うことでより良い状況が生まれる」という、政治思想よりも経済思想的な自由主義を想定したほうが分かりやすい。
(本書では「マディソン的自由主義(多元主義)」としている)

代議制民主主義においては、選挙で選ばれた議員等がこのエリートに当たる。
エリートが議会での議論を通じて競争し合い、より良い政策を行うのが、本書の言う政治における自由主義である。
これは、必ずしも「民主主義」を意味しない。


一方「民主主義」とは何だろうか。
これは有権者の意思をそのまま反映させることを第一の目的にした政治の形だろう。
しかし問題は、有権者の意思は多様であることだ。

つまり民主主義は「君主専制・独裁」ならぬ「多数者の専制」「少数意見の切り捨て」にならざるを得ない。
とりわけ、1つの選挙区から1人しか当選しない「小選挙区制」においては多くの「死票」が発生する。
その死票は民主主義的には無効で、考慮するに値しないことになってしまう。

なお比例代表制は、政党単位の獲得票数によって議席数が決まるので、小選挙区制のような大量の死票は発生せず、少数票でも議席を獲得しやすい。
よって比例代表制のほうが、より民主主義的である(有権者の意思が反映されている)ことになる。

とはいえ、実際には議席の過半数を得られない場合は政権を獲得できないのだから「多数者の専制」になることに変わりはない。

この「多数者の専制」=「民主主義の弊害」はどのようにすれば解消できるのか。
本書によればその方法が「自由主義(多元主義)」ということになる。

自由主義(多元主義)では様々な価値観を持つエリートによる自由競争が行われる。
そこでは各エリートが多元的な価値観を持つがゆえに、少数意見を反映させることが可能になる。

つまり少数意見を政策に反映させるためには「民主主義」ではなく「多元主義による自由競争」が必要ということになる。

しかし本書の主張は民主主義を否定するものではなく、「自由主義」と「民主主義」のバランスが必要だというものだ。


以上を踏まえて、「なぜ民主主義同士が対立するのか」を考えてみる。


まず、自民党・安部内閣が多数の得票を得たのは事実であるから、選挙の際に打ち出した政策を実行するのは民主主義的なのは間違いない。
2012年の改憲草案で国防軍について触れられているため、集団的自衛権行使や安保法案成立といった流れも、民主主義から逸脱しているとは言えない。
(立憲主義からは逸脱していると思うが、最初に書いたようにここでは憲法との関わりは無視している)

よって自民党・安部内閣に対して批判している場合、「民主主義的かどうか」というよりは「エリートとしての質への批判」や「多元主義の機能不全の問題」と捉えるほうが妥当ではないか、という気がする。
多元主義の機能不全を、デモ等を通じて補っている、ということもできるかもしれない。
(多元主義の機能不全の原因は、与党である自民党内の問題と、野党の問題と両方だろう)

つまり反安保法案の立場は「民主主義」というよりも「自由主義」を主張していると考えるとスッキリする。
様々な反対意見がありながら「多数者の専制」で押し通すことは、「民主主義的すぎて自由主義的ではない」のだが、それを「民主主義的ではない」と言ってしまっているため、民主主義同士が争っているように見えてしまうのではないか。


大阪についてはどうだろうか。

大阪維新の会がもし「反民主主義的」であるならば、選挙で多数を得ることは理論的にありえない。
正確には、多数の票を獲得した事実により、その政策が「常に民主主義的である」ことを担保している。
橋下氏がよく使う「民意」という言葉は民主主義を重視していることを表していると捉えることもできる。
また、学者批判を頻繁に行う一方で、タウンミーティングを行うことにより市民との繋がりを強化していたことも、本当の意味でのポピュリズム(人民主義・反エリート主義)と言えるかもしれない。

つまり、大阪維新の会は極めて「民主主義」的な政党で、民主主義によって大阪都構想を実現しようとしていると言える。

ならば、そこに欠けているとすればやはり「自由主義」の側面なのだが、大阪では自由主義の前提である「多元的価値観」もまた欠けているように見える。
(これは、反維新の勢力として自民党から共産党までが一致団結してしまうことからも明らかだろう)

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Posted by ブクログ 2015年12月12日

代議制民主主義とは何かということについて、議会をめぐる民主主義と自由主義の緊張関係から読み解いていく本。
なるほど!と思うことは多いが、ちと難しいのが難点、抽象的な議論を扱っているから仕方ないが。またじっくり読みたいと思う。

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Posted by ブクログ 2016年03月22日

 『首相政治の制度分析』でサントリー学芸賞を受賞している京大政治学の看板教授が、初めて一般読者向けに著した政治制度論。同世代の東浩紀や國分功一郎が、議会政治の不調を前提に、その補完的制度を提案していること(東『一般意志2.0』、國分『来るべき民主主義』等)を意識しながら、政治制度の専門家として、代議...続きを読む制(議会制)民主主義の特性を分析し、その優位性を明らかにする。無論、単に現状を肯定するのではない。必要な制度改革のポイントも、理論的背景とともに示される。
 この本で説明される政治学的知見は多岐にわたるが、中でも現在のわたしたちにとって有用なのは、自由主義と民主主義のバランスに着目する視点だろう。権力の集中を防ぎ、多様な利害の相互牽制によって偏った政策決定を排除し、結果として人々の自由を守ろうとする「自由主義」と、有権者の意思=民意が政策決定に反映されることを何より重視する「民主主義」との間には、一定の緊張関係がある。この2つの理念を調合しながら政治を安定化させる機能において、代議制民主主義の意義が積極的に見いだされる。
 先般、「民主党は嫌いだけど、民主主義は守りたい」というやや自虐的なコピーで民主党のポスターに注目が集まった。これは安倍政権が「民主主義」を守っていないという批判的メッセージを当然含んでいる。しかし、この本を読んだあとでは、安倍政権に批判的な人であっても、それは民主主義的でないからダメなのか、あるいは自由主義的でないからダメなのかと、分析的に考えられるようになるだろう。政治リテラシーを得るとはそういうことだ。選挙イヤーに必要な読書として推したい。

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