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Posted by ブクログ
前作『龍臥亭事件』に引き続き、業の深さが主題になっている。
閉鎖された村社会に伝わる因習。
妄信のように今に伝わる差別。
主従関係の厳格さから生じる男と女の色の縺れ。
そして御手洗シリーズの定番となっている物語を彩る逸話ともいうべきエピソードが今回も添えられており、それこそが森孝伝説、そして森孝魔王といった話だ。
上の梗概にも述べた森孝伝説は島田氏が常々テーマに挙げている日本の歪な上下関係・主従関係を扱った悲しい物語。
さらに挿入される森孝魔王の物語も悪徳代官が百姓をいたぶる話だ。森孝伝説の内容を受け、死体に森孝の霊が乗り移り、甲冑を身に纏い、代官に処刑を下すといった内容だ。虐げられた弱者を救済するために、人智を超えた存在が現れ、惨殺する。
同様の挿話は『魔神の遊戯』にも見られたが、この弱者救済の話はデビュー以来、島田氏が一貫して扱ってきたテーマだ。
そして本作ではこの森孝に纏わる話に加え、他に第二次大戦中の日本軍が秘密裏に行った人体実験の話などの戦時日本の暗部、そして上にも書いたが、獣憑き、獣子といった村社会独特の妄信による人種差別についても述べられている。
特に気のいいお手伝いとして登場した斉藤櫂が、その過去には小さい頃に獣憑きの疑いがあって里子に出された、先祖が首切り役人で呪われた家系だった、引き取られた両親と反りが合わず、子供を置いて夫と共に逃げた、といった業の深い人生を歩んできたことに驚いた。
最後の方で明かされるこの女性の凄まじいまでの虐待の日々は、本作のもう1つのテーマだろう。
この櫂の人生を通して語られる、村人の、その村に強く根付いた独特の道徳観に基づく嫁婿夫婦への躾なども、深く考えさせられる重い内容だ。
物語はこの他にも日本の鎧に関する薀蓄、からくり人形の歴史と江戸との係わり合いなど、興味深いエピソードが物語を彩る。
とは云え、前作に比べると比較的内容は明るいようだ。
犬坊家は特に前作に見られた一家の業の深さなどは微塵も描かれず、犬坊里美の若者特有の軽さや寺の住職日照、神社の神主二子山などの漫才の掛け合いのような方言交じりの会話などで重苦しい雰囲気を淡くしている。
事件自体は非常に陰惨なのだが、特にこの日照と二子山の語り口の面白さがそれを軽減している。
そして石岡も以前に見られた情けなさから幾分復調して、女々しさが消えている(それでも好きな女性に振られて、ストーカーになるのかと自問した時に、自分にはそんな事やる元気がないと云ったのには苦笑したが)。
また加納通子が娘を歌手にしてステージママになりたがっているなんていう意外なエピソードも面白い。
そのほか、里美が語る日本の司法試験とその採用制度の話も面白かった。裁判官が司法試験の成績上位者しかなれないなんて初めて知った。
(下巻の感想に続く)
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