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昭和26年、恋はまだひそやかな冒険だった――。 向田邦子をこよなく愛する著者が初めて描く昭和の恋 【あらすじ】 戦争の記憶がまだ新しい、けれども人々の生活が徐々に活気を取り戻し始めた昭和26年の東京・荻窪。 丸の内の商社に勤める小瀬家の長女、公子は、崩れた魅力を放つ画家の片岡と知り合い、惹かれていくが……。
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Posted by ブクログ
諸田玲子というと時代小説家という印象。ところが、本作は珍しく昭和26~27年の東京が舞台の近時代小説。珍しいといえば、戦後のこの時代を描いた小説というのも珍しい。 ヒロインの小瀬公子は家族と暮らす荻窪の家から丸の内の企業の医務室に勤務する看護師。恩師を囲む若者たちの集まりで親戚だという絵描きの片岡に...続きを読む出会い心引かれる。片岡も彼女に再三アプローチをかけてくるが、奥手なためか無頼な片岡との恋にまでは発展しない。 一方、一歩踏み込めない公子の周囲ではいくつもの愛欲沙汰が繰り広げられていることに公子自身もうすうす気づいていく。大伯母の老いらくの恋、騙されたのを承知か知らずか若い男に入れ込んだ行かず後家の叔母、結婚前に公子ができた両親のなれそめ、息子の家庭教師とデキてしまった近所の二号さん、妻子がいながら別の女性とつき合い一家で破滅に進んだご近所さん、そして結婚が決まっている従姉妹の不敵で不審な言動などなど。表現は悪いが、まるで安手の映画かテレビドラマのように引きもせずもち上がってくる。 男と女の間、人と人との間には、今も昔も愛だの恋だのにまつわるこういった件が満ち満ちているのだろう。ただ、戦後間もないいわゆる民主主義の洗礼を受けた頃というのは、長い窮乏生活や年々よくなっていく暮らしとも相まって、今とは比べものにならないほど濃密に濃厚に、また一種享楽的に愛や恋が謳歌されていた時代なのではないかと想像する。そうした時代の空気を、奥まで踏み込めず足踏みしている公子の目をとおして感じるのだ。 正直なところ文章で読むかぎり、片岡のどこに引かれるのかいまいちわからない。無頼でありつつ苦悩したり影がある感じに引かれたということか。あの頃の映画ではこういう輩が男らしい好人物として描かれていたから、そういうトレンドが案外と影響するものなのかもしれない。読みながら森雅之の姿かたちを片岡に重ねていたのだが、そういう意味でも小説というよりは映像的だ。 物語の終盤で公子と片岡との仲は終わる。片岡は別の愛に向かうのだが、とりようによっては公子自ら思いを断ち切ったようにも思える。それは、片岡に別の女性の影を感じた末にプライドを守るためでもあっただろうが、今まで貞淑に生きてきた殻を破るような生き方ができない自分を認めたうえでのことでもあるだろう。 公子の周りには片岡のほかにも2人の男がいた。一人は父親同士が友人で父子そろって公子を気に入ってくれており、人望があり将来を嘱望されている医師・小田島。もう一人は片岡の友人で同じくしがない絵描きの沼田だ。 沼田は無頼な片岡と真逆のやや鈍な人物なのだが、公子はこの後者といずれ所帯をもつことになるのではないかとふと思った。小田島と歩む安泰な道でなく沼田と生きることで、一歩遅れて殻を破ったつもりの人生を歩むのではないかということだ。長じればそこそこに幸せな人生だったと思えるだろうが、殻を破れず欲しいものをつかみそこねた者の不器用な生き方に勝手なシンパシィを感じる。
「恋愛」と「家」、これは昭和でなくとも両方は難しいテーマではないかと思います。家族への後ろめたさを感じつつ片山に誘われたコンサートに出かけていったり、片山が自分の家族といるところを想像できなかったり。穏やかな生活を波立たせるものかもしれない。行きたい、けど躊躇う・・・というぎりぎりの気持ちがしみじみ...続きを読むとよく分かる。周囲の恋愛事情に目がいくことからも公子の心情が伝わってきます。特に印象的だったのが、大伯母の50年来の恋。デートでのハプニング、大伯母の困惑、その結末。どれもこの二人を象徴しているようでした。
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