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一枚の切符、五ドル紙幣、そしてお腹の中にいる赤ん坊――それがヘレンのすべてだった。男に捨てられた傷心を抱き列車に乗った彼女にとって、前の席で楽しそうに語らう若夫婦と寄るべもない現在の自分との落差はあまりにも大きかった……彼らは親切にしてくれ、ヘレンの心も次第になごんでいった。だが、列車転覆という思わぬ事故でヘレンの運命は一変した。不思議な運命の糸に操られた女の辿る物語を流麗な筆致でつづる!
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Posted by ブクログ 2020年11月22日
あぁまた一気してしまった。ウィリアムアイリッシュはサスペンス小説の巨匠なのだが、私は最も好きな恋愛小説家は誰かと問われればアイリッシュと答える。彼の描く男女はいつも甘く切ない青春ど真ん中なのだ。そういう面で一番は暁の死線。幻の女も言うまでもない。殺人現場というドキドキのシチュエーション、揺れる心理、...続きを読む言えない秘密、逃げるふたり、それらは恋愛を引き起こすきっかけでしかない。まだ読んでなかった『死者との結婚』を読む。ニューヨーク行きの列車に一人乗った身重の貧しいヘレンは博打打ちの夫に捨てられ今後の不安に打ちひしがれていた。彼女にヒューとパトリスという婚約中の裕福なカップルが優しく声をかけてくれる。しかし列車転覆の大事故。ヘレンは病院のベッドで目を覚ました。そこから彼女の運命は一変する。アイリッシュは本当に魅力的な女性を描く。少し残念なのはラストで話をループさせたこと、そんな小細工はいらない。恋するふたりはすべてを投げ打ってでも運命を打ち破り明日への希望へ向かわねばいけないものなのだから。
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