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Posted by ブクログ
【キーン氏の文章は、謙虚で誠実な“日本への愛”を呼び覚ましてくれます】
日本研究の第一人者、コロンビア大学名誉教授のドナルド・キーン氏が 80年代に綴ったエッセイ集です。全編を通して、米国に生まれたキーン氏が日本に魅せられ、深い知性と謙虚な学びの姿勢で日本の人・文学・文化と向き合ってきた様子が浮かびます。
2011年3月の東日本大震災の後、キーン氏が日本に帰化したことが報じられました。その頃、世代の違う自身は、キーン氏を“日本に詳しい外国の研究者”位にしか認識していませんでした。しかし、本書を読んで、その考えがあまりにも浅かったことを思い知らされました。
本書は、キーン氏の日本との“馴れ初め”から始まり、日本の住居、和食、桜、メディア、能や歌舞伎、浮世絵、文豪達との交遊、そして太平洋戦争考にも至ります。これらの日本の文学・文化・美術芸術・歴史と多岐にわたるトピックを、バランスの取れた精緻な文章で論じています。
読んでいて文章から滲み出すのは、日本への謙虚で誠実な「情熱や愛情」、そして良識、知性です。決して手放しで褒めるのではなく、自身で実際に触れて学び、日本の良いもの、良くないと感じるものを冷静・公平に取り上げます。
日本人の親切に感動しつつ、時に“外国人”への行き過ぎた親切に戸惑う様子。日本の年末年始、四畳半の生活、炬燵などの伝統を大切にする思いと、それが風化することへの寂しさ。東京裁判の戦犯達の遺書に深く心を奪われつつ、“勝者の裁判”の意味も見出だそうとする姿勢。
二つの大切な国の間で葛藤しつつも、いずれをも愛し、その国の歴史・文化から学び続ける姿勢に、誠実なひととなりを感じました。何より本書に掲載された、狂言を演じる同氏の写真がそれを物語っています。キーン氏の文章に触れていると、盲目に陶酔的にではなく、謙虚に真摯に生まれ育った日本を愛する想いが呼び起こされます。また、自らの不学を思い知らされ、純粋に能・歌舞伎や美術、日本文学にもっと触れたい、と感じました。
「日本食の職人たちのこうした身の入れ方は、陶芸家や彫金師たちの芸への献身に勝るとも劣らないものであり、外国のカウンター・レストランの向こうでしょっちゅう目につく、コックたちのあのいい加減な仕事ぶりとは、実に雲泥の差があるというものである。(p.105)」
「世界には、新しい年を祝うそれぞれの独特の方法があるが、私が知る限りでは、日本の祝い方ほど心温まるものは他の国には見られないようだ。( p.79)」
「しかし私自身は、それによって貴重なものが失われてしまうだろうと考えている。つまり、過去一世紀にわたって、日本を研究してきた外国人学者たちを鼓舞してきた情熱や愛情がうしなわれてしまうことにはならないだろうか。 (p.14)」
「日本の印象を描写する場合、大いに変化した面、または昔から全然変わっていない面のどちらかを過大視する傾向がある。私にとっては両方を探すことが最も楽しい。(あとがき)」
灯台もと暗し。日本を照らす知者の暖かい光に、大いに感銘し、刺激を受けました。
まさに“小さな名著”です。
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