Posted by ブクログ
2019年01月02日
2016/9記。再掲です。
娘に読ませたいマンガ、ということでドラえもんを購入。1-6巻まで。改めて読んでその名作ぶりに驚嘆。
まず、マンガとしての表現の完成度。登場人物の表情の一つ一つの豊かなこと。のび太のダメさ加減、それにあきれるドラえもんなどの一つ一つのコマが全て違う顔でギャグマンガとして...続きを読むそもそも大うけできる。今のアニメ版を悪く言いたいわけではないが、原作に比べると如何にお約束の表情ばかりかが分かる。そして登場人物は今の標準版よりはるかにアクの強いキャラばかり。スネ夫の悪意は今のアニメとは桁違いだしジャイアンの理不尽もレベルが違う。ある種、当時の子どものリアルに近い。「ちびまる子ちゃん」もそうだが、国民化、大衆化することでキャラクターは本来の毒を失ってしまうものなのだ。
セリフ回しや視点のオーセンティックさ。すべてはきちんと吹き出しに収められ、今のマンガで多用されているような補足的なセリフを手書き風に加えたり、いわんやコマの枠外に作者が楽屋落ち的な書き込みをつけたり、といったことは一切ない。また、これも現代では多用されている「頭の中で考えていることを吹き出しに書く」ということも一切やっていない。「のび太君、またさぼっているだろうな」というようにあくまで独白のセリフとして表現されるところはむしろ演劇的と言ってよい。
またエピソードの深み。科学・知識についての小学生向け解説(例えば「台風は温かい空気で成長する」とか複利計算の考え方とか)があるし、何より「貧困」や「戦争」と正面から向き合ったエピソードが多い。思えば昭和40年代初頭の作品なのだ。長屋に住んでいて狭すぎて友達を呼べない、とか空襲で脱走することを恐れて動物園のゾウを射殺するとか。そういえば「死」をテーマにしているものも結構ある。
そして何よりSFとしての充実。子供にとって「パラレルワールド」の概念は「もしもボックス」で学ぶことになるし、より根本的に重要なのはSFのコアのテーマとも言える「時間」の感覚。「ドラえもんだらけ」のエピソード(5巻収録)は、沢山の宿題を「2時間後、3時間後、4時間後のドラえもんと手分けして(数人がかりで)やればすぐ終わる」とタイムマシンで未来のドラえもんを呼び出す話なのだが、その完成度は尋常ではない。小松左京や筒井康隆などの才能爆発期に時を同じくした天才と言える。
ドラえもんはれっきとした文学だった、ということが改めて分かった。