Posted by ブクログ
2020年04月15日
沢方佳人(さわかた よしと)19歳。
中学一年の時に父を交通事故で失い、その後、忙しく働く母に代わって、家事のほとんどと三つ下の双子の弟妹の世話を引き受けてきた。
高校卒業後も進学はせず、近所の酒屋のバイトを続ける。
“やりたいこと”のはっきりしている弟妹に大学進学の機会を与えてあげたいと思ったから...続きを読むだ。
ある日、母から切り出される。
「今の佳人の世界は狭い家の中だけ。今まで本当にありがとう」そして「巣立ってほしい」と。
佳人は子供の頃かかりつけの医院だった「小助川医院」をリノベーションした「シェアハウス小助川」に住むこととなる。
タカ先生は、一緒に開業していた両親を亡くした後、まだ50代なのに医院をたたんでしまった。
寂しい独り暮らしをしていたタカ先生と、それぞれ心に秘めたものがある住人達は、どう関わっていくのか。
「特にやりたいことが見つからなくて、フリーターをしている」
佳人の状態は一見、頼りない若者のように見えるが、気を付けて読めば、彼は最初から一つも揺らいでいないことに気づく。
『家事が好き』『人の世話をして喜ばれたら嬉しい』
仕事にできるような趣味もなくて…と言うけれど、それは世間一般が佳人の得意なことを仕事と認めないだけである。
シェアハウスや共同生活、または昔ながらの下宿をテーマにした作品に興味がある。
ともすれば家族との関わりもうまくできない自分にとって、他人と暮らすという勇気に驚いたりもする。
なんてことはない日常が延々と描かれても、ぜんぜん退屈しないのだ。
最初、家主のタカ先生は、気力を無くして心を病みかかっているのではないかと思ったが…
いや~、よくしゃべるようになりました(笑)
自分の信条などを語る相手を持ったことで、生き生きとしてきた。
身体の“内科”の先生ではあるが、人間の“内面”も診る。
他人とかかわり、自分と違う考え方、生き方に触れることは、面倒ではあるけれど、一番の刺激であり、生活のスパイスであり、心のカロリーでもある。
作者の言いたいことは、タカ先生によって語られ、佳人によって検討され反芻されて行く。
理解できない考え方をする人間とはどう関わるか、または関わらないか、というのは永遠のモンダイ。
先生の意見、しっかり者の恵美里の主張も、うんうんとうなずいてしまう。
そして、ついに、佳人の「才能」を「仕事」に結びつける道が開ける?
急に話が上手く転がった気もするけれど、今までの佳人のコツコツ積み上げた努力が報いられたと考えるべきか。
期待に満ちたラスト。ぜひ、続きが見たい。