居酒屋お夏 十 祝い酒

居酒屋お夏 十 祝い酒

小説・文芸
627円 (税込)

3pt

4.2

正体不明の大悪党・千住の市蔵は、争闘の場で見たお夏への復讐心を滾らせていた。お夏
とて母を殺めた市蔵との決戦は望むところだが、表の顔はあくまでも居酒屋の毒舌女将。
同心の濱名茂十郎は、お夏抜きで市蔵捕縛に向かう。正義と悪が激突する白山権現。そこ
で運命の悪戯ともいうべき事態が判明! お 夏の運命は? 人気シリーズ、堂々の決着。

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居酒屋お夏 の一覧

1~19巻配信中 1巻へ 最新刊へ
1~19件目 / 19件
  • 居酒屋お夏
    679円 (税込)
    目黒不動で居酒屋を営むお夏。化粧っ気はなく毒舌で、くそ婆ァと煙たがられているが、懐かしい味のする料理は評判だ。ある日、客の一人だった遊女が殺され、お夏は静かな怒りに駆られる。実は彼女には、妖艶な美女に変貌し、夜の街に情けの花を咲かすもう一つの顔があった――。孤独を抱えた人々とお夏との交流が胸に響く人情小説シリーズ第一弾。
  • 居酒屋お夏 二 春呼ぶどんぶり
    679円 (税込)
    口は悪いが、料理は旨い女将のお夏。常連客である貧乏浪人の亀井礼三郎・春之助親子の前に、家を捨てたはずの女房・おせいが現れた。春之助を強引に取り戻そうとするおせいの背後に怪しい影を感じたお夏が、料理人の清次と突きとめた姦計とは?客のささやかな幸せを守るため、艶美な姿で悪事を暴くお夏の活躍を描いた待望のシリーズ第二弾。お夏の鉄火肌と啖呵が胸に響く人情小説。
  • 居酒屋お夏 三 つまみ食い
    627円 (税込)
    居酒屋の名物女将・お夏の許に、髪結の鶴吉から思わぬ報せが届いた。二十年前、お夏の母を許し難き理由で無礼討ちにした才次が名を変えて船宿の主に納まっているという。凄まじい殺人剣の遣い手を用心棒に雇い、温和な仮面を被る才次を討つため、お夏は料理人の清次らと共に策を巡らした大勝負に挑む。無念と憤怒を晴らすシリーズ待望の第三弾!
  • 居酒屋お夏 四 大根足
    627円 (税込)
    悲願の仇討ちが、新たな波乱の幕を上げる――。人情居酒屋の毒舌女将・お夏に忍び寄る黒い影。その裏には、縄張り拡大を目論む悪党・市蔵の思惑が。しかも、お夏が敢行した仇討ちを、高輪から品川を取り仕切る五郎蔵一家の仕業と勘違いしている。野心と復讐心に燃える市蔵。このままでは江戸に血の雨が降る。お夏は止められるか? 激動の第四弾。
  • 居酒屋お夏 五 縁むすび
    627円 (税込)
    母の仇を討ったことにより、闇の勢力との激闘に巻きこまれたお夏。だが彼女は、居酒屋の女将としての穏やかな日常を守ろうとしていた。そんなある日、お夏は婀娜(あだ)な女に呼び止められ、殺しを依頼される。馬鹿な願いと一蹴したお夏だが、その女が続けて口にした名前に胸騒ぎを覚え……。願えば願うほど安息の日々は遠ざかるのか? 波乱の第五弾。
  • 居酒屋お夏 六 きつねの嫁
    627円 (税込)
    活気溢れるお夏の居酒屋の片隅で、静かに油揚げを食べるその男は、過去のしくじりに縛られていた。そんな男の日常にも、変化の風は吹く。恋心というには淡すぎる、ある女への慕情。だが、その女もまた運命に翻弄されながら生きてきたのだった。傷つきながらも健気に生きてきた二人は、お夏のさりげない尽力で結ばれるのか? 心洗われる第六弾。
  • 居酒屋お夏 七 朝の蜆
    627円 (税込)
    お夏が再会したその男は、親に捨てられ泥棒稼業に身をやつした過去の持ち主だった。一時期はまっとうな道を歩もうとした彼だが、世間の風は容赦ない。「生まれてこなければよかった」。捨て鉢な気持ちで喧嘩を起こした彼を救ったある浪人。その恩人が窮地に陥った時、男は一度だけ泥棒に戻る決意を固めるのだが……。心に優しい風が吹く第七弾。
  • 居酒屋お夏 八 兄弟飯
    627円 (税込)
    親の愛に背を向けて、散り散りとなった三兄弟。時に疎ましくも思った母が死に、十数年ぶりに三人で集った彼らを待っていたのは、お夏のお説教だった。しかも、母の死の裏には怪しげな奴らの影が見え隠れするという。許せねえ、暴れたる! けしかけたお夏も暗躍し、彼らを支えるが……。三兄弟は母の仇を討てるのか? 心に晴れ間が広がる第八弾。
  • 居酒屋お夏 九 男の料理
    627円 (税込)
    いぶし銀の働きでお夏を支える料理人の清次が、哀しき母子との交流を人知れず深めていた。女の亭主は理由あって旅に出ているのだという。やがて旅帰りした亭主と対面した清次は、その男に好感を抱く。だが彼の眼差しには、修羅場を潜った者特有の鋭さが含まれていた。男の過去に一体何が? 脛に傷持つ者は幸せになれないのか? 感涙の第九弾。
  • 居酒屋お夏 十 祝い酒
    627円 (税込)
    正体不明の大悪党・千住の市蔵は、争闘の場で見たお夏への復讐心を滾らせていた。お夏 とて母を殺めた市蔵との決戦は望むところだが、表の顔はあくまでも居酒屋の毒舌女将。 同心の濱名茂十郎は、お夏抜きで市蔵捕縛に向かう。正義と悪が激突する白山権現。そこ で運命の悪戯ともいうべき事態が判明!   お 夏の運命は?   人気シリーズ、堂々の決着。
  • 居酒屋お夏 春夏秋冬 山くじら
    679円 (税込)
    目黒行人坂にあるお夏の店は再建初日から大賑わい。母の仇討ちを果たしたお夏の裏の顔などつゆ知らず、常連が毎日店にやって来る。調子に乗った客がいればお夏の毒舌が問答無用で炸裂。そんなある日、強烈な個性を放つ男が町に現れた。快活な振る舞いとは裏腹に悲壮な決意があると見抜いたお夏。そこで案じた一計とは? 人情酒場シリーズ新装開店。
  • 雪見酒 居酒屋お夏 春夏秋冬
    679円 (税込)
    お夏の居酒屋で行き交うのは、人情、毒舌、旨い飯。絶妙な居心地の良さの虜になった男女が集い、悲喜こもごもの事件が起きる――。ある日お夏は、目黒の豪傑として知られる初老の剣客の言動に胸騒ぎを覚える。弟子の活躍も相まって声望を高めていた男に一体何が?意外な理由に一同騒然!お夏の人情裁きに酔いしれる人気シリーズ新章第二弾。
  • 豆腐尽くし 居酒屋お夏 春夏秋冬
    679円 (税込)
    「お花という女がおりましてねえ」。渡世人として苛烈に生きてきた牛頭の五郎蔵。彼には人生に思い残したことがあるという。若い頃、一緒に料理屋を開く夢を抱き、献立を考えては笑い合った想い人。晩年を迎えた今、その女がどうしているかが気になると遠慮がちに語った。意を汲んで調べ始めたお夏。だが、その女は――。新シリーズ、感涙の第三弾。
  • 鰻と甘酒 居酒屋お夏 春夏秋冬
    679円 (税込)
    「あの姉さんには惚れちまうんじゃあねえぜ」見るからに苦労がにじみ出る女・お蝶。今は甘酒屋をしているが、誰にも言えない過去を抱えていた。その女に惚れたのは、羽目の外し方も知らぬ純真な男。周囲の忠告も聞かずに想いを募らせるが、二人の恋路に思わぬ障壁が......。黙ってられぬとばかりにお夏が暗躍!人情居酒屋新シリーズ、感涙の第四弾。
  • 鯰の夫婦 居酒屋お夏 春夏秋冬
    679円 (税込)
    夫婦ってえのは、そう容易く縁が切れるものじゃあねえのさ」鯰釣りの名人は愛息を連れてよく釣りへ出かけていた。ある日、釣りの最中に地震が起き、悲劇が。目の前で子を喪った男は自分を責め、気うつに。妻を置いて、家を飛び出し寺男になってしまう。悲しみ故にすれ違う夫婦にお夏が案じた一計とは......?人情居酒屋シリーズ、感涙の第五弾。
  • 根深汁 居酒屋お夏 春夏秋冬
    679円 (税込)
    「本来は、こういうはしゃぎ方はしない男なのではないか」お夏が敬愛する河瀬庄兵衛が何かと気にかける研ぎ師・喜右衛門。才はあるのに不遇を強いられる彼に、旗本の刀研ぎという破格の仕事が。意気揚々と仕事に取り掛かった喜右衛門だが、刀に付着した奇妙な錆に胸騒ぎを覚え......。鬱屈を見抜いた庄兵衛、どう動く?人情居酒屋シリーズ第六弾。
  • 明日の夕餉 居酒屋お夏 春夏秋冬
    679円 (税込)
    足袋職人の弥兵衛は、人も羨む隠居暮らしを送っていた。店は息子に譲ったが、職人としての腕は健在。七日に一度訪ねてくる息子家族との夕餉や、可愛い盛りの孫との遊びを楽しんでいた。だが、最愛の娘の久々の訪問が彼の心を乱してしまう。一体何が? お夏は弥兵衛の胸の内に溜まった灰汁を取り去ることができるのか? 大人気シリーズ第七弾。
  • もみじの宴 居酒屋お夏 春夏秋冬
    679円 (税込)
    目明かし父娘が持ち込んだ凶報が、お夏の居酒屋をざわつかせた。聞けば、男手一つで娘を育てた古着屋が殺されたという。さらには、その娘が行方不明ともいう。事件の真相も娘の安否も杳として知れず。そんな中、事件解決のきっかけとなったのは、お夏が「色ぼけ婆ァさん」とからかうお春が発した驚きの一言だった……! 人気シリーズ第八弾。
  • 酒と飯 居酒屋お夏 春夏秋冬
    679円 (税込)
    山の先生の身に何か起こるんじゃないか――。亡父の弟弟子・黒沢団蔵の言動に異変を覚えたお夏が知ったのは、武芸の道に生きる男ならではの壮烈な覚悟だった。お夏は団蔵の助太刀を決意するが、それによって目黒の居酒屋は臨時休業となり……。このまま店をたたもうかと悩みながら目黒に戻ったお夏が見た光景とは? 人気シリーズ第九弾。

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    0
    2025年06月15日

    Posted by ブクログ

    内容(「BOOK」データベースより)
    正体不明の大悪党・千住の市蔵は、争闘の場で見たお夏への復讐心を滾らせていた。お夏とて母を殺めた市蔵との決戦は望むところだが、表の顔はあくまでも居酒屋の毒舌女将。同心の濱名茂十郎は、お夏抜きで市蔵捕縛に向かう。正義と悪が激突する白山権現。そこで運命の悪戯ともいうべき事態が判明!お夏の運命は?人気シリーズ、堂々の決着。

    令和2年1月21日~23日

    0
    2020年01月23日

    Posted by ブクログ

    千住の市蔵をやっつけたので一応シリーズは完結ということになるのか。
    だけど実際にはまだ何作か続いているようなので、名同心 濱田茂十郎が引退して一般人として居酒屋の常連になりつつ、人情でお夏一味と一緒に弱者を救う流れになりそうな予感。
    居酒屋に通う男たちの余計なところまで立ち入らない阿吽の呼吸が、本作は特に心地よいものだった。

    0
    2022年09月25日

    Posted by ブクログ

    時代劇の巨匠 岡本さとる作 長編書き下ろし小説 『居酒屋お夏』(全10巻)。

    レビュー第一声は、長い、長すぎる。である。

    この手の仇討ち話に、10巻は要らない。
    せいぜい、2巻、600ページで十分である。
    本筋には必ずしも必要でない寄り道が多すぎる。


    待ちに待たされた肝心の仇討ち場面は、
    最後の最後、第10巻目のしかも最後の10ページである。
    例えは悪いが、性行為に及んでおきながら、
    なかなかクライマックスに行かさないのと同じ。
    しかも、到ったはいいが、一瞬で終わる。

    確かに、この手の仇討ちもの、長いものが多い。
    先の、知野みさき作『上絵師 律の似顔絵帖』なども、
    4巻1300ページの長編もの。
    ただ、この作品は仇討ちの他に主要テーマを持たせ、
    仇討ちの後も話しは続かせており、全体としては許容範囲内。

    『居酒屋お夏』も、寄り道それぞれについては味があり面白い。
    『居酒屋お夏 短編集』として出せば、文句はないところ。


    さて、この作品。
    母親を無礼打ちとか理不尽な理由を付けて斬り殺され、
    父親もそれが元で生業から外れ病いで死ぬという不幸な娘 お夏の仇討ち話である。
    お夏も本来ならまともに嫁いで女としての幸せな生涯を過ごせる筈の人生が狂い、
    化粧っ気なく、毒舌で、くそ婆ぁと煙たがられる居酒屋の女将をしながら
    仇討ちの機会を覗っているのである。
    そんなお夏の味方となってくれる常連客が次第に増えていくのである。

    居酒屋の常連客の一人である同心の濱名茂十郎、
    同じく同心であった父親が千住の市蔵という
    正体不明の大悪党に滅多斬りにされ殺される。
    実はその市蔵という男は、正に、お夏の母の仇、
    武家の剣道指南役として仕える小椋市兵衞と同一人物だったのである。
    お夏が探している仇と、茂十郎が探す仇が同じ男であったのだ。

    ..........そうするうち、
    市蔵が身を潜めているという館があるとの知らせが入った。
    白山権現裏の寮とか、居酒屋からは遠く離れた処であった。

    *【この居酒屋から遠く離れているというのが、作者の “みそ” であるが、
    読者にとってはまだ違和感はない。 ところがである、】

    ..........「いざという時は助っ人を頼む・・・・・」
    茂十郎はお夏にそう持ちかけた上で、
    お夏自身は目黒の居酒屋に居なければならなぬゆえにと、
    仇討ちの場にくることを拒んでいた。

    *【なにゆえ、作者は、お夏を仇討ちの場に行かさないのか。
    小説にならないではないか。
    そろそろ、ストーリーに対する違和感が出て来た。】

    ..........この日、お夏はかつての仲間達を総動員して、
    そっと茂十郎の助っ人に向かわせた。

    *【仇討ち場から遠く離れた居酒屋には、
    お夏たった一人しかいないというシチュエーション。
    作者が、ラストのクライマックスに向けて黙々と伏せんを打っていたことに、
    この時、まだ気が付かなかった。
    そしてこのあと、やっと作者の意図に気が付いたのである】

    .............六人は、主戦場であった表の庭へ戻り、
    手早く賊達を縄で縛り上げつつ、
    「市蔵はどこへ行った?」
    と、勘吉と十次兵衛を締め上げた。
    「ふふふ、元締めはおれ達のように不覚は取らねえお人だよ。
    お前の相手をするより、女を斬ってみてえとお出かけさ」
    勘助は薄笑いを浮かべながら、茂十郎をじっと見て嘲るように言った。
    「女! 何だと・・・」
    「何でえ・・・、おめえ達と一緒じゃなかったのかい。
    ふふふ、そんなら元締も無駄足にならねえで、済んだってもんだ」
    「しっ、しまったぁ!」
    茂十郎は市蔵に計られたことをそのとき知った。

    「旦那! ごめんなすって!」
    清次は「お嬢・・・!」と叫び声を残し塀を跳び越えた。
    「お嬢!」鶴吉も後を追った。
    茂十郎は、手先のものに番所への言付けを託し、
    残る二人と木戸門を駆け抜けた。
    もう今から駆けたところで勝負はついていよう。
    決着はついていようが、どうあろうが、
    お夏をひとり残した居酒屋に一刻も早く辿り着く
    こと以外何も考えられなかった。
    「あの女が容易く斬られる筈があるものか。そんなはずが・・・・・」


    *【このあと、ラスト10ページのクライマックスシーンへとつづく】


    『居酒屋お夏 第十巻 第三話 祝い酒 十七』

    「何とはなしに、来るんじゃないかと思っていましたよ・・・・・」
    その武士が居酒屋に現れた時、お夏は不思議と心が安らいだ。
    ひょっとして、恋焦がれた男と巡り会えた女は、
    こういう心地になるのかと思ったものだ。
    清次が出ている今日は、日暮れから店を開けるつもりであったが、
    朝から落ち着かなくて、
    ――いっそ店を開けようか。
    縄暖簾をかけんとしたところに、
    「邪魔するぜ・・・・・」
    と、武士は入って来た。
    黒い夏羽織に白い帷子、袴はお召し。
    物持ちの浪人か、身分のある武士の微行姿かと
    思えるこの男は、千住の市蔵であった。
    さすがは ”闇将軍“ とまで噂された市蔵である。
    逃亡の中、 しっかりとお夏の正 体を見極めて、
    客が寄りつかぬ昼下がりにやって来るとは大したものだ。
    今日は店を閉めているのも承知の上であったのだろうか。
    そしてただ一人で、 武士であった小椋市兵衛を懐しむように
    現れたのは芝居がか っている 。
    「こうして訪ねる方が、 手間が省けるというものだ」
    市蔵は静かに言った。
    「ええ、 お互いにね」
    お夏は板場からにこやかに応えた。
    その右手は、目の前の棚に忍ばせてある、朱鞘の小太刀に伸びている。
    「千住の元締、 お前の乾分はどうしているんだい?」
    「さあ、 今頃は忌々しい木っ端役人を始末しているのではないかな」
    「そいつはおあいにくさまだね。 あべこべに、
    あたしの仲間に始末されているだろ うよ」
    「なるほど、 そういうことか。 お前逹にはしてやられてばかりだな」
    市蔵は、 茂十郎とお夏の一党が、
    陰で巧みに手を取り合っていたことに気付いた が、
    その表情はさばさばとしていた。
    「千住の市蔵も、 いよいよ年貢の納め時だね」
    「いや、 千住の市蔵はもう死んじまったぜ。
    今ここにいるのは生まれ変わった小椋 市兵衛だ」
    「ふふふ、 どっちにしろあたしの親の仇だ・・・・・」

    お夏は店の入れ込みに出た。
    その手にはしっかりと件の小太刀が握られている。
    入れ込みの床几は端に寄せられているから、
    二人が斬り合うくらいの広さはある。
    「言っておくが、 お前の仇はおれに女を斬るように仕向けた菅山大三郎だ」
    「その仇は、 あたしのお父っさんが、 もう討ったよ」
    「そうか・・・・・、 そうだったのか。 こいつは好い・・・・・」
    市兵衛はニャリと笑った。
    「お前の強さは、 親父仕込みというわけか」
    「お父っさんが、 どれほど強かったか、 その由縁から話すかい?」
    「少しばかり気になるが、 今ここで聞くのも面倒だ。
    まずお前を返り討ちにして、 おれはまた斬るか斬られるかの魔界に戻るのだ」
    「ふん、 恰好をつけたって、 ただの人殺しじゃあないか」
    「人殺しは、 お前も同じだ」
    「あたしとあんたを一緒にするんじゃあないよ。
    あたしのおっ母さんは、 困ってい る人を助けようとしたんだ。
    それを無慈悲に斬り倒したお前は、 人の皮を被った鬼 だ。
    魔界に戻る前に、 あたしが地獄へ送ってやるよ」
    お夏は抜刀した。
    「よし、 ならば女、 まず戦いの血祭りに上げてやろう。
    お前の母親が斬られたのは、 下々の者の分際で、
    畏れ多くもおれ逹武士に、 出過ぎた口を利いた、 当然の報いだ。
    だが、 お蔭でおれは退屈な武士の暮らしから逃れられたぜ」
    「あたしのおっ母さんがあんたのような化け物を
    造っちまったのかもしれないね え」
    「そうだ。 出しゃばり女は、 おれの運命を変え、
    そしてお前の運命を変えた」
    「あたしの運命?」
    「お前は母親が殺されておらねば、 標緻がよくて、
    勝気で利日な小売酒屋の女房に なって、
    できのよい子供に恵まれて暮らしていたはずだ」
    「ふふふ、 こんな “くそ婆ァ” にならずにすんだと言いたいのかい?」
    「いや、 わざと “くそ婆ァ” の面を被らずともよかったということだ」
    「こいつはおもしろい。 小椋市兵衛という男は、
    鬼のように押し黙っているのかと 思ったら、
    こんなにお喋りだったとはね」
    お前にわたしの何がわかるのだとばかりに、 お夏は突き放した

    話せば話すほど、 この男を殺したくなった。
    憎しみというような言葉で表せるものではない。
    人助けに生きた二親と仲間達の想いをこ奴にぶつけて、
    どちらが正しく刃を揮っ てきたか、
    ここで決着をつけてやろうと、 闘志が湧いてきたのだ。
    「ふッ、 憎まれ口よの。 すっかりと “くそ婆ァ” が身に付いたようだ。
    お前の仲間 はおらぬ。 命はもらったぞ……」
    市兵衛は、 無駄口もここまでだと、 自らも太刀を抜いた。
    いくらお夏が凄腕でも、 女一人に後れをとるつもりはなかった。
    だがお夏も負ける気はしない。 ここは家の中だ。
    狭いところでの斬り合いでは小太刀の術が生きる。
    若き日に、 十年の間、 足柄山に隠棲する武芸者に弟子入りをして、
    徹底的に術を 仕込まれた相模屋長右衛門は、
    「お夏お前は女ゆえ、 長い刀を振り回す機会は少なかろう」
    そう言って、 お夏にしっかりと小太刀の術を仕込んだ。
    それゆえ、 危ない時は家の中や、
    木立の中で戦えば腕の立つ男にも引けはとらないと、
    お夏は争闘の中で学んだ。
    おまけにここは勝手知ったる居酒屋である。
    ーーーやってやろうじやあないか。
    お夏は、 清次が濱名茂十郎の助っ人に出てから、
    妙な胸騒ぎに襲われていて、 臨戦態勢を整えていた。
    柄を握る右手に索早く手拭いを巻き付けて、
    小太刀を叩き落されぬようにすると、
    「小椋市兵衛、 母親の仇だ……」
    じりじりと歩み寄った。
    既に店の仕込みのために、 欅は十字に綾なしていた。
    「うむッ!」
    お夏は、 市兵衛の出方を確かめんと、 ぐっと前へ出て、
    牽制の一刀をくれた。
    市兵衛は、 さっと後退すると下段に構えた。
    そこは心得たもので、 彼の太刀はやや短かめで、振り回すことなく、
    剣先を鋭くお夏の左目に向けている。
    「諦めろ・・・・・。 所詮は女の生兵法だ・・・・・」
    市兵衛は冷徹な目を向けた。

    「さてねえ……。女の生兵法ほど、読めないものはないんだよ!」
    叫ぶやお夏は、傍の皿を左手で掴み、水平に投げつけた。
    「お夏、こいつを覚えていりやあ、どんな夫婦喧嘩にだって勝てるぜ」
    皿投げは、父・長右衛門が教えてくれた “女の武術 ” であった。
    たちまちのうちに五枚の皿が、市兵衛を襲った。
    手裏剣をかわすのとはわけが違う。皿は大きさがあり、
    しかも五枚共に軌道が違 って飛んでくる。
    かわし、刀で払いのけたが、
    その内の二枚は狭い入れ込みの中にいる市兵衛の両肩を捉え、
    彼の構えを崩させた。
    そこを狙ってお夏は斬り込んだ。
    市兵衛は、このような立合は初めてで、すっかりと調子を崩されたが、
    斬り合いになると体に沿み込んだ術が彼を守った。
    お夏の攻めを見事にかわすと、
    「お前は、おれに斬られる運命なのだ!」
    手練の諸手突きを、お夏に見舞った。
    お夏はそれをすんでのところでよけて、
    今度は油の壺を市兵衛の前に倒した。
    「おのれ・・・・・」
    市兵衛は油のぬめりに足をとられてよろめいた。
    「今度はこれだよ!」
    お夏は捨て身で、そこへ鼈の火種で箸に火を点け投げつけた。
    市兵衛の前でぼッと炎が立った。
    市兵衛はとび下がったが、その刹那、
    煙で目をやられて、堪らず外へ出んとした。
    お夏はそうはさせじと行く手を塞いだ。
    「この居酒屋はあたしの城なんだ。ここじゃあ、
    あたしに敵う者はいないのさ!」
    横に薙いだ小太刀の刃が、市兵衛の左の上腕を斬り裂いた。
    「うむッ!」
    市兵衛は、小上がりの上に飛び乗った。
    居酒屋の中は、火と煙に包まれている。
    「まだまだ!」
    市兵衛は、不利を悟り、太刀をお夏に投げつけ、小太刀を抜いた。
    何度も命のやり取りをしてきた男である。

    火煙の中でも動じなかった。
    右手で上下左右に小太刀を揮い、お夏を攻め立てた。
    しかし、居酒屋の中ではお夏の戦法が勝る。
    いざという時は、この店の中でいかに戦うか、
    日頃から頭の中に描いていた。
    「くらえ!」
    お夏は左手で、傍らに積まれた折敷を投げた。
    これも大型の十字手裏剣のごとく、 市兵衛に飛来する。
    「小廂な!」 市兵衛はとび下がりつつ、
    これを小太刀で真っ二つにした。
    ーーー かかりやがった。
    その刹那、お夏はニャリと笑った。
    市兵衛がとび下がったところは、濱名茂十郎お気に入りの席だが、
    今は床がいたんでいて、使っていないところであった。
    「うッ!」
    市兵衛の足が床にめり込んだ。
    「死ね!」
    お夏は、体勢を崩した市兵衛に、 体を預けるようにして、
    右手に手拭いで固定した小太刀を突き入れた。
    二人の動きが止まった。
    「まさか・・・・・」
    市兵衛は振り上げた己が小太刀をどうすることも出来ず、
    「このおれが、まさか女にやられるとは・・・・・」
    お夏の耳許で呻いた。
    「女を殺すからさ・・・・・」
    お夏は刀に袂りを入れると、突きとばすようにして、市兵衛から離れた。
    燃えさかる炎の中で、小椋市兵衛は目を剥いたまま動かなくなった。
    こんな奴のために、母が死に、父は盗賊と化し、
    自分は復讐に生きてきたのであ ろうかーー。
    そう思うと体の力がすべて抜けた。
    「お父っさん、おっ母さん、みんな・・・・・。
    仇は討ったよ・・・・・。さあ、玉子焼で祝い 酒といこうか!」

    体中から振り絞るようにお夏が吠えた時。
    居酒屋の天井が音を立てて崩れ落ち、火煙が辺りを呑み込んだ。








                  この作品は書き下ろしです。




    0
    2020年03月11日

    Posted by ブクログ

    岡本さとる 著「祝い酒」、居酒屋お夏シリーズ№10、2019.12発行。白瓜、飴玉、祝い酒の3話。お夏、強し!もしかして、居酒屋お夏のシリーズ、これで完結か!?

    0
    2019年12月28日

    購入済み

    ここで終わり?

    すごく盛り上がって降りようなところで完結。。。
    その後とか全然書いてくれていないので、ぜひこのあとがどうなったのか続きをかいてもらいたいです

    0
    2019年12月10日

    ネタバレ 購入済み

    えっ!?

    とうとう、母親、お豊の仇を打った!けれど、居酒屋が焼け落ちた….….お夏の運命は如何に!?
    早く続きを読まなくては….….!!
    そうだね。続きが、有るのだから、お夏さんは、死んじゃぁ居ないよね。ちょっと、ほっとした(笑)

    0
    2023年01月12日

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    シリーズ第十弾。
    ※裏表紙には“人気シリーズ、堂々の決着”と書いてあるので、最終巻になるのでしょうか。

    第一話、第二話は、いつもの“ええ話”で、第三話「祝い酒」が前々から続いていた、お夏の母の仇・千住の市蔵こと、小椋市兵衛との決着です。
    濱名の旦那の奮闘ぶりが胸を打ちますが、結局はお夏VS市兵衛という展開に。
    ラストは居酒屋が炎に包まれ、読者としては「え!?」というところで終わりという・・。
    個人的には、その後、お夏と仲間達が玉子焼をつつきながら祝い酒を飲んでいてほしいという希望がありますが。

    0
    2020年04月29日

居酒屋お夏 十 祝い酒 の詳細情報

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