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屋根裏部屋に隠されて暮す兄妹、腹を上にして池の底に横たわる150匹のメダカ――脈絡なく繋げられた不気味な挿話から、作家中田と女たちとの危うい日常生活が鮮明に浮かび上る。性の様々な構図と官能の世界を描いて、性の本質を解剖し、深層の孤独を抽出した吉行文学の真骨頂。「暗い部屋」の扉の向こうに在るものは……。
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Posted by ブクログ
自身の華やかなプライベートをも恐らくは文学的咀嚼をしていた、吉行淳之介による“性”の一つのアンサーと解釈した本作。 一見纏まりの無い掌編の様なエピソード群と、女性との怠惰な交渉に、どこか終焉という単語を思わせる。 暗室という表題を、はっきり言語化するのは難しいが、一切の説明を省いたこの作品による提...続きを読む示に作者の名声通りの力量を感じる。 谷崎潤一郎賞を受賞した数々の名作のうち、個人的に特に評価したい一作。
以前から読みたかった本だったが、今回、著者の写真が掲載されたカバーに新装されていたので、やっぱりかっこいいな、と思い購入。 裏表紙に書いてある、屋根裏に閉じこもる兄妹、大量に死んだメダカの挿話も特徴的だが、それだけ聞くと内容の想像がつきにくい。特に序盤は、脈絡がなさそうな感じで、様々な挿話が断片的...続きを読むに提示される。だが、実際には、一貫して女性、性について描かれていて、意識的に構成されているのではないかと思う。 主な話の筋は、語り手の中田と津野木、中田の死んだ(事故死か自殺かはわからない)妻を巡る話。同性愛者のマキとの話。それから、天才の家系に生まれる知的に障害のある子の挿話。山陰で出会った孤児。彼らの生まれてきた理由は?それから、多加子、由美子、夏枝との関係。 中田は妻と津野木の間に何かあったのではと勘ぐっており、中絶させた子もどちらの子だったのか…という疑いも持っている。作中はさらりと描かれていたが、もしかすると中田が子を作らず複数の女性と体の関係のみ持ち続けるのはこのためか…とも考えられる。 マキとの話は、レズビアンの嗜好とはなぜ生じるのか、同性愛者であっても子を成したいと思うのか、あるいはそもそもマキが同性愛者であり得たのか、などという視点。この話と、夏枝との話が分量的にも多く、議論や検討の場面がある。理論的な印象を受ける。 夏枝との話は、他の女性たちが次々に結婚して中田から離れて行き、最後に彼女が残る。最後の方はやや長すぎるかもしれない。序盤の方がテンポが良く読みやすい。夏枝との間では、SMまがいの行為もするが、結婚を嫌う中田が、彼女に愛着のようなものを感じ出す場面もある。結婚をせず、快楽のみ追求し子も作らない主人公だが、すでに40半ばに達しかけており、私自身読んでいて思っていたのだが、肉体的に衰えていってもその方向性の先に未来はあるのか?と思いたくなる、まさしく暗室に入っていくところで話は終わるわけである。 性行為が、性的な欲望のためになされる場合と、当然、人間の本能として子どもを産むために行われるはず、という二つの側面について考察するような内容。避妊具をつけない方が快楽が大きいのでそうするとか、子供ができて引っ張り出してもらうのが好きとか、生々しい表現もあったが、書き振りとしては終始淡々としており、無論単なる官能小説に堕している訳ではなく、冷静に考えさせられる内容だった。同性愛者の結婚についてなど、今日の状況にも不思議に適合しているようにも思う。 ただ、女性蔑視とか、男性目線での小説に過ぎないとか、そういった批判はあり得るだろうと思う。女性の読者ならどう思うのか?
保坂和志の「草の上の朝食」で 「恋愛のようなものに、ずるずると…」という文章があって、結局保坂和志の小説では、そのずるずるはつづかなかったのだけれど、 ずるずるが続いた結果がこの小説の中にあったような気がします。 で、実際恋愛というのはずるずるが続いたり続かなかったりの結果なんだろうとはおもうのだ...続きを読むが、ずるずるがちゃんとした文章で書かれるとこういう傑作につながるのかと、少し感動した。 そして、保坂和志の小説でづるづるが続かなくなったその原因が、とても楽しい日当たりの良いリビングだったのに対して、 ずるずるの行き着いた先が暗室だったというのが私の中では妙にうきだった関係に思えた。 これは、隠喩とかそういうのではないと思うし、変な深読みかもしれないけれど、なんか文学としておもしろかった。
はじめから、断片的に様々な女との関係を中心としたエピソード群が徐々に、女が様々な形で主人公から離れて行くとともに、暗い部屋に住む女の体に魅了されてくように、エピローグへと導かれて行く。おもしろい作品だった。
吉行淳之介には、『原色の街』「驟雨」などをはじめとする、赤線の娼婦を扱った所謂「娼婦もの」と呼ばれる一群の作品がある。 これらは1958年3月31日を境に赤線が廃止され、その時代状況とともに終わりを迎えている。 では、その後。 吉行はどうしたか、といえば、やはり本質的には変らない。 確かに、赤線...続きを読むの娼婦を描かなくなるし、そもそも職業としての娼婦を描くこと自体ほとんどなくなる。 (正確なところは寡聞にして存じません。) しかし、作品の中には、『暗室』でいえば夏枝がまさにそうだが、娼婦のようにふるまう女が登場する。 ただし、ここで肝腎なのは、“娼婦”が吉行の作品で一貫して描かれているわけではないということ。 あまりに“娼婦”という形式にフォーカスしすぎると、安易に“聖女”と対比させた単純な二元論に終始してしまい、面白味もなくそれより先もないこととなる。 吉行が描いているのはもっと広範に、「性」「軀」と捉える方が適切だろう。 “娼婦”も、よく言われる“女”も、「性」「軀」を書くためのツールの一つなのではないだろうか。 そんなことを考えながら『暗室』を読んでいると、この「暗室」というタイトルが、この作品にいかにもふさわしく、いよいよ湿潤で粘り気を帯びたもの思えてくるのだ。
数年前に奥さんを亡くした40歳過ぎの独身の作家、中田が3人の女性と織り成す関係を中心にしたストーリーです。 吉行淳之介さんの小説は好きですが、女性の視点から見ると、やや複雑な気持ちも持ちます。腹も立つような・・・(笑) 主人公の中田は、大人の女性二人と関係を持っていて、その時の気分で、二人のう...続きを読むちのどちらかと会うということを続けている。 そして、偶然バーで知り合った、レズビアンの若い女性に興味を持ち、その女性とも関係を持ち・・・ってな具合なのです。 ストーリーと一見関係ないような、逸話が自然な流れでいくつか散りばめられていて、これが、面白い。 最初っから、関係ないような場面から始まるんだけど、引き込まれるような流れがあります。 終わり方も渋いです。 どうしてだかわからないけれど、読み終わって、また、もう一度、読んじゃいました。
屋根裏部屋に隠されて暮す兄妹、腹を上にして池の底に横たわる150匹のメダカ―脈絡なく繋げられた不気味な挿話から、作家中田と女たちとの危うい日常生活が鮮明に浮かび上る。性の様々な構図と官能の世界を描いて、性の本質を徹底的に解剖し、深層の孤独を抽出した吉行文学の真骨頂。「暗い部屋」の扉の向こうに在るもの...続きを読むは…谷崎賞受賞作。
一章一章が掌編小説のようでそれぞれに印象的、全体を通せばひとつの長編小説になっている。 前時代的な女性観・男性観も、終焉した男の美学として読めば面白い。
言ってしまえば近代文学にありがちなクソ男が妙に股の緩い女たちと何故か溢れる色気で爛れた生活を送りまくる話。時折入る挿話は綺麗だけどさほど印象的だとは感じなかったのは色鮮やかではなかったからかな。鬱屈とした感覚がずっと続いて漆黒の沼にどぼんと飲み込まれるような本だった。ラストの運びがある意味救いを感じ...続きを読むて好き。
独特な世界観が広がっている小説。凡人の私には、どんなメッセージを読み取ればよいのかわかりませんでした。
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