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Posted by ブクログ
いわゆる記憶喪失というのがあるが、あれは一時的に記憶を失っているようにみえるだけで、脳の中に記憶は残っており、人間性まで変わってしまうわけではない。では、脳の記憶中枢が破壊されて、すべての記憶を失ってしまったら、私は私でいられるだろうか。記憶がなくなったら、もう私らしく振る舞わないような気がするが、そうだとしたら、記憶こそが自己ということになる。しかし、自己がただの記憶の連なりかというと、そうではないような気もするし、私の記憶を他人に植え付けたとしてもそれは私ではないと永井均ならいうだろう。
小林泰三はそうした問題をテーマに扱うため、「北」とか付く長たらしい名前の独裁国家の訳のわからない兵器実験を持ち出す。もっともらしい説明はともかく、実験のせいで世界中の人間が短期記憶しか持てなくなってしまった。そこで苦労のすえ、長期記憶を電子的な手段で補う技術が開発されたという未来。簡単にいえば、人間みなにUSBの端子が付いていて、長期記憶はUSBメモリに保存しておくという感じ。ここまでが「盗まれた昨日」という短編の設定。その設定下でどんな話が展開するかは読んでのお楽しみ。私はこれが一番面白かった。
この短編の次、本書最後に収められた「時空争奪」は時空レベルで「昨日」が盗まれた話で、バリントン・ベイリーばりのとんでもない話なのだが、冒頭の「天体の回転について」は端正なニュートン物理学SF。ただ萌え要素が付加されているのが表紙の通り。
基本的には論理を追求したアイディア・ストーリーだが、そこにスプラッタな要素が加わるといったあたりが、小林泰三の定番。逆にいうと、無重力環境しか知らない未来の世代の小説家志願者が、重力下の地球の話という「時代劇」を一生懸命書こうとしてとんでもない小説を書いては失敗して、という奇妙な小説が、実は科学的論理に裏づけられたアイディア・ストーリーの相貌を現す。
本書、昔懐かしいSF短編集という感じで好感を持った。もっとも話がまとまりすぎて、もっと破綻したところが欲しい気がするが、無い物ねだりかも。
Posted by ブクログ
SF作品を8編収録した短編集。
小林さんらしい独創的なアイディアやグロ描写、ナンセンスなユーモアがたっぷり詰まっています。その一方で今まで読んできた小林作品よりとっつきやすい短編が多かったので、全体的に読みやすく感じました。
表題作「天体の回転について」は科学とは無縁の世界に住む少年が宇宙エレベーターに乗り未知の科学と宇宙の世界へ旅立つ話。
作中の宇宙エレベーターの説明も面白かったのですが、その案内役となるホログラムの少女のセリフが個人的にいらっとしました(笑)
というのも「さあ、笑って♥」「これを使ってね♥」という風に彼女の喋る言葉のほとんどの語尾にハートマークがつくからです(笑)
そうしたイライラも含めて面白かったと言えば面白かったのですが。
「あの日」は小林さんらしいナンセンス具合。よくこんなことを真面目に書くなあ、と思ったのですが、あとがきを読むと案外作中の話も笑い事ではないのかもしれないですね。
「三〇〇万」はとある宇宙人民族の侵略の物語。
この短編を読んでいて思い出したのは歴史の元寇の話です。攻めてきたモンゴル軍に対し日本軍は苦戦を強いられるのですが、それは戦い方や武器の違いだけでなく文化や価値観の違いもあったそうです。
というのも日本は合戦時、武将同士の一対一の戦いで有名な武将の首を挙げることが美徳とされていました。「我こそは~」と戦い前に名のることも当たり前のことでした。しかしモンゴル人はそんなことお構いなしの集団戦法でした。
とまあそんな具合で侵略時の文化の違いが小林さんらしく味付けされた短編となっています。あまりのかみ合わなさに思わず苦笑してしまいました。
また一方で技術や科学に対する小林さんの思いというのも書かれているように思います。
「盗まれた昨日」は人類が記憶装置を埋め込む未来が舞台。
SFとしての面白さに加えミステリ的な味付けが加えられ、さらにそこに記憶と身体をめぐる哲学的な問いも加えられる、設定、世界観、展開とも魅力的な作品で長編でも見栄えのしそうな非常に濃い短編でした。
濃さでいえば最終話「時空争奪」もかなりのもの。作中の時空論、宇宙論のトンデモっぷりに小林さんにしか書きえないような描写や展開も見られて、こちらも面白かったです。
感想を書くため改めて各短編振り返ってみましたが、やっぱり小林さんはぶっ飛んでるな、と思いました(笑)。
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