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五年間、一度も友人と食事をしたことがない。他人と話をするのは、月二度程度という静寂だけの日々。――理津子は男に飢えていた。カトリック神父のもとで育った彼女は、恐ろしいほど規律正しい厳格な生活が、骨の髄まで染みついている。他人に、自分に嘘がつけない。誤ちには厳しい戒めもいとわない。そんな理津子の前に、本能の赴くままに生きる男・大西が現れて……。子供から大人へ――。精神と肉体の変化、個人と社会との関わりを残酷なまでに孤独な女性を通して描ききる。
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Posted by ブクログ
姫野カオルコ。凄まじい作家だ。 主人公のような人物を、現実には「こじらせた」人と言うのだろう。しかし、小説の中では、その凄まじさはたとえようがない。 これでもか、これでもかとつらいエピソードが続く。 性の貧困は、自分観の貧困、人間関係の貧困も招くからだ。 その中でも後の救いとなる、大西と食べる...続きを読むシーンは量感的で圧倒される。 あとがきを読んで、初めて主人公が救われたことに気付く。身体を取り戻したのだ、と。大西のおかげで。
姫野 カオルコの【喪失記】を読んだ。 「私は男に飢えていた」の一文から始まるこの物語に一瞬のうちに引き込まれた。 30歳を過ぎて「処女」である主人公の理津子。彼女は家庭の事情で、幼少期時代を点々と他人の家で過 ごし、再び両親と暮らし始めるまでの間、恐ろしいほど規律正しいカトリックの教会で育った...続きを読む。 故に、知らず知らずのうちに自らの心を「神」によって縛り付けてしまう。極端なまでの自己への戒律。 性を淫とし、願うことを傲慢とする。 物語は30歳を過ぎてイラストレーターとして生活を形成する理津子が、本能のまま生きる男、大西と出 会い彼と食事を重ねることで自らの過去を振り返り、自ら縛りつけた現在の自分から脱しようともがく様 を、切ないほどの孤独と、葛藤で描かれていく。 理津子は痛いほど真の孤独である。願う事はただひとつ。自分が人間であること、生身の女であることの アイデンティティを、他者によって明言してもらいたいだけなのだ。 イラストレーターとしてそこそこの成功を収め、歳の分だけ、世間からは「経験豊富な大人の女性」とい う目で見られ続ける。理津子も必死でそれに答えようとするが、自らを「鉄人」と呼ぶように容姿に対す るコンプレックスと染み付いてしまったカトリックの教えから、自らを装うことに罪悪感に苛まれる。 自分のような女と食事をすることでその男の時間を奪ってしまうのは傲慢である、もっと美しい女性に話 しかけられたほうが男性にとって喜びであろうに、強烈なまでの被害妄想と自己犠牲。理津子はもがけば もがくほど迷走を続ける。 強烈に印象に残るシーンがある。 男女の性について、一般的な男女の感覚が自分の理解を超えたある日、偶然再会した旧友に「五千円払う からキスしてくれませんか」と頼んでしまう。別にこの旧友のことが好きなわけではない。欲情したわけ でもない。言うなれば哲学的にキスをした後日、この彼と電話で話す機会が訪れるが理津子が何の気なし に発した一言「・・・よかった、電話してきてくれて・・・」彼のことを好きなわけではない。仕事で行 き詰ったときに旧友からの電話でほっとしただけである。なのに誤解され、一方的に「重っ苦しい」など と言われ困惑する。明白な答えなど見つかるわけもなく「そうですか」と電話を切り、電話の前で「いや いやキスをさせたことに対する謝罪はどうすればいいのだろう」などと考える。「すみません」と電話に あやまる。「すみません」とFAXにあやまる。呆然としたまま、おもむろに湯舟に湯を溜め、鎮痛剤を 7錠ウイスキーで流し込み、ドライバーを片手に朦朧とした意識の中でバスタブに浸かる。そして。 そして、朦朧とするまま、賛美歌を口ずさみ、ドライバーを逆に持ち自らの手で、ドライバーで、処女膜 を破瓜するのだ。 男の僕が読んでいて胸が痛くなる。込み上げてくる切なさが止まらない。 湯舟から上がり、服を着て、部屋の中央で正座する理津子。うつむくと床に涙の水滴が落ちる。その床を ソックスで拭く。拭いても拭いても水滴が目から落ちてくる。そして理津子はソックスで目の涙を拭う。 読んでいる僕はいたたまれなくて、切なくて、声が出ない。 これらの回想を経て、最後は大西と結ばれるという訳ではないのだが、大西の言葉や態度によって理津子 は己のアイデンティティを見出すきっかけを掴み、緩やかな、とても緩やかな、言われなければそれとわ からないほど緩やかなハッピーエンドを迎える。 性というキーワードで精神と肉体の変化、個人と社会との関わりを説いていく作品である。人はみな孤独 である。しかし、我々が口にする「孤独」は、ここで提示される「孤独」と意を異なる。話そうと思え ば、話せる友人が必ずひとりやふたりいる。遊ぼうと思えば、遊べる友人だっている。我々は孤独を自ら の手によって作り出しているに過ぎない。真の孤独とは心の状態である。寂しいなどという生優しい感情 ではない。理津子の孤独に比べれば、我々の孤独など甘えに過ぎない。 とにかく僕は姫野カオルコが描く世界感に真っ直ぐに引き込まれてしまった。姫野カオルコの作品を読む のはこれが初めてであるし、古本屋で大量に購入した本の中の一冊であったという事以外、特別な感情は なかったが、この作品を読んだことにより、姫野カオルコの別の作品を読んでみたいと願う僕ができたの は事実である。 男性が読むのと、女性が読むのでは読後の感想がだいぶ違うと思う。この作品に興味をもった女性の方が いたとすれば、感想を聞いてみたいと願う。
2009/7/23 あーすごい。 ホントすごいなぁ。 淡々とくる。 そうそう、そういうことなんよ。 いろいろと申し訳なくておこがましくて何もできんのだ。
匿名
同性にモテていて、自分の魅力を理解している女性と思っていたのに、すごい変わりようで驚きました。 強く自分を律するあまりに苦しんでく女性、色んな生き方があるんだとつくづく思う
そういえば昔読んだな、、と思いながらまた読みました(笑) 主人公がいい年して処女、という設定は姫野さんの小説には多いですが、切なさがよく描かれていると思います。 あとは料理や食べ物がうまくストーリーにからみあって、「スピーディにいいタイミングで同時に出来上がり、出来たてを誰かにサーブし一緒に食べる楽...続きを読むしさ」っていうのがすごく出ていてそのシーンがとても好きです。やってみたい!と思うけど、私は料理が得意ではないのでできないと思って読んでました(笑) 全体的にトーンは高くないのですが、暗すぎることもなく、切なさがうまく表現されていて、これも姫野さんらしさだなぁと思います。
「受難」となんだか似てる気がしました。 2作品続けて読むと より姫野さんを感じることができるかもしれません。 なかなか面白いと思いました~。。
主人公の寂しさや惨めさが伝わってきて胸が痛くなった 勝手に決め付けられるのは辛い 大丈夫な人なんていない 強いと思い込んで自分を保つ主人公がいじらしくて好きだ
普通に見た目はキレイな顔なのに、 何故か恋愛に縁がないまま三十路を越えた主人公。 私とは、たぶん対局にいるであろうタイプで、 とても共感出来る感情ではない。 『私は男に飢えていた。』 という小説の書き出しは、 読み進めていくうちに違う形で裏切られた。、 単なる三十路の処女の喪失までの話ではない。 そ...続きを読むれどころか、最後まで喪失する場面は出てこず、 痛くて悲しい女像を浮かび上がらせる。 共感は出来なくとも、 読み物としては好きな部類だ。
読んでいて苦しくて疲れる。読者を勃たせない。笑 ありのままでいることを許されない幼少時期が内なる健やかさ、自尊心、女性性をねじまげ、上手に解消できないとやっかいなモノを抱えて生きることになる。よく分かる。
食事をするだけの男女。 なんだか憧れる。食の好みが一致していないと、こんな楽しみ方はできないだろうけど。 食べながら色々なことを話す。子供の頃のこと、個人的なこと。告白しているようで、スッキリ整理できそう。 信頼していないとできない話かも。 理津子は堅物というのかな? それがまた個性的でいいんじゃな...続きを読むいのか。 我慢しているようでいて、自分に正直であるように感じる。
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