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Posted by ブクログ
も生きるのに困らず、東京に妻子を持ちながら安全な場所から「遊び」として雪国を訪れる島村。それに対し、借金という泥臭い夜の世界に縛られながらも、異常なほどの清潔さを保ち、健気で甲斐甲斐しく生きる駒子。この残酷なまでの対比が凄まじい。
駒子が狂ったように書き留める日記や、一人で弾き鳴らす三味線の熱情。それらを、越後縮を雪に晒して漂白する「雪晒し」になぞらえ、ただ自分の目を一瞬楽しませるだけの美しい「徒労」として消費する島村のクソ男っぷりには反吐が出る。しかし、報われない熱をぶつけ続ける駒子が、次第に感情を制御できず現代でいう「メンヘラ」へと変貌していく姿は恐ろしいほどリアルだ。そしてその生々しさは、かつて島村が出会った頃の「清潔な駒子」の幻影であるミステリアスな少女・葉子と、完璧な光と影の対比を生み出している。
だが、この小説の真髄はなんといっても、狂気じみた美しさを持つ情景描写だ。真っ白な雪景色の中に浮かび上がる駒子の頬や唇の「赤」。まるで映画のワンカットのように鮮烈な色彩のコントラストには衝撃を受けた。
「虚しい壁に突き当たるこだまに似た音を、胸の底に雪が降りつむように聞いた」
島村の虚無感を表現したこの一文には震えた。駒子の燃えるような愛情も、結局は島村の心の空洞に降る雪に吸い込まれ、形を残さず溶けて消えていく運命だったのだ。
そして迎える、火事と天の川のラストシーン。燃え盛る炎の中で葉子を抱き抱え、生々しい狂気と悲哀を叫ぶ駒子の圧倒的な「熱」を前にして、島村は自分自身がすでに心を持たない空っぽの人間であることに気づく。人間のドロドロとした情熱や悲劇すらも一瞬で飲み込んでしまう、冷酷で巨大な大自然の象徴である「天の川」。そこへ意識を溶かし、現実の重さから完全に逃避して終わる結末は、虚しく、残酷で、言葉を失うほど美しい。
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