Posted by ブクログ
2013年09月04日
“「きみたちふたりのつきあいが、もともとどんなふうに始まったにしろ、いまのきみはあの子に対して真剣なようにわたしには思えるよ。だからこそきみは、慎重になっているんじゃないのかい?」
ジュリアンは無言で視線を伏せた。幾度かためらってから、告白する。
「本当に大切なことは、いつまでも伝えられないんです」...続きを読む
わずかに目許をゆがめ、つぶやく。
「簡単に口にしては、言葉が汚れてしまう気がして」
「それはまた、新聞社で働いている人間の台詞とは思えないね」
レスターが呆れたように笑う。
ジュリアンは肩をすくめてみせる。
「ですね」
「このままでは、仕事にさしつかえそうだ」
「仕事なら、大いにさしつかえていますよ」
そして目を閉ざし、ため息のようにささやいた。
「近ごろのぼくは、とりつくろうだけで精一杯なんですから」”[P.132]
4巻目。
副題で指している人物を捉え違えていた。
最後にがつんときて次が楽しみ。
“「聞いたか?セシルはきみをこんなに信頼している。さぞ満足だろうな」
「ダニエル、セシルのまえだ」
低く、ジュリアンが指摘する。その冷静さが、ダニエルの感情をふりきらせたようだった。
ジュリアンを見すえるダニエルのまなざしが、にわかに鋭さを増す。
「それをきみが気にするというのか?結婚など最初からする気もないのに、散々この子の心をもてあそんだきみが?」
「ダニエル!」
叱責するように、ジュリアンが叫んだ。そして頭をうつむけ、乱れかかった髪に乱暴に手をさしいれると、懇願するようにささやいた。
「やめてくれ、頼むから」
そんなふたりの様子を、セシルは呆然と見つめていた。ただただ悪い予感のようなものが全身に広がり、その場に立っているのがやっとだった。
「……結婚ってなに?」
セシルがつぶやくと、ふたりが弾かれたように顔を上げた。
「……もてあそぶってなに?意味が、わからないの。なんの話なのか、ちゃんと説明してくれないと、わけがわからない」”[P.221]