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ロシア革命,第二次世界大戦,スターリン独裁など激動の20世紀を生きた旧ソ連最大の作曲家ショスタコーヴィチ.その音楽は権力への迎合か,それとも密かな抵抗のメッセージか.没後五〇年,今なお激しい毀誉褒貶にさらされ,人びとを惹きつける音楽を作りあげた作曲家の人生の秘密に迫る,権力と芸術をめぐる人間ドラマ.
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Posted by ブクログ
・私はショスタコーヴィッチをほとんど知らない。ほんの少しの交響曲を知つてゐるくらゐで、他にはオラトリオ「森の歌」のピオネールの歌だけであらう。嫌ひだから聞かないわけではない。嫌ひかどうかも分からないのだが、一つ言へることは、ショスタコーヴィッチがソ連の作曲家であるといふことである。ソ連、遡つてロシア...続きを読むの作曲家もよく知らない。知つてゐるのはとびきり有名な曲のみ、名のみしてといふ作曲家の多いこと、これはどうしやうもない。やはり西欧のとは違ふといふ偏見があるのだと思ふ。ロシアはロシア、ソ連はソ連なのだと思ふ。ショスタコーヴィッチは多くの曲が録 音されてゐるし、発売もされてゐる。それでも聞かないのである。そこでふと思ふ、ショスタコーヴィッチは体制に取り込まれてゐたのではないか。その印象が強すぎるのではないか。さうかもしれない。亀山郁夫「ショスタコーヴィッチ 引き裂かれた栄光」(岩波現代文庫)はそのあたりが書かれてゐる評伝である。帯には「権力への迎合か? 二枚舌による抵抗か? それとも……」とある。本書のキーワードは二枚舌である。ショスタコーヴィッチは二枚舌で体制を生き延びてきたのか、これが主題であらうか。筆者はショスタコーヴィッチの惚れ込んでゐるかの如くである。私とは聞き方が違ふ。専門がロシア文学やロシア語であるから、さういふのめりこみ方をするのはある意味では当然である。「あとがき」には、「ショスタコーヴィッチの音楽を聴く喜びとは、ソヴィエト全体主義(敢えてそのように呼ぶ)との対話が必然的に招きよせるある種のいかがわしさを、一個の『個人文体』として受け入れ、それを『愛する』ことからはじまる。」(491頁)とあり、この段落の最後に、曲を聴くことにより、そのやうな「愛」の「反復のなかで、私たちは徐々に彼の虜となり、彼の音楽的ヴィジョンの想像を絶する巨大さに気づかされるのである。」(同前)ともある。要するに私にはこの「愛」が分からない、感じ取れないのである。それに気づけば、私もショスタコーヴィッチを偉大なる作曲家として認識でき、その曲をすばらしい曲として聴けるのであらう。私は「ソヴィエト全体主義」も所詮は全体主義だとして毛嫌ひしてゐるから、この人のやうになかなか「愛する」までには至らない。己が学問対象であるからにはさうあらねばならぬのかもしれない。難しいことである。 ・「社会主義リアリズムを奉じる社会で、個人が芸術家として人生を完遂させることなど絵空事に近いことは、作曲家自身だれよりも痛切に理解していたはずである。絶えざる監視と干渉のなかで、社会のネジと歯車であることを義務づけるスターリン独裁ーー」(491〜492頁)といふのは私が今更確認するまでもない。ショスタコーヴィッチはそれをのりこえた。「彼の栄光は、傷だらけというのが正しいだろうが、二十一世紀に生きる私たちにとって、まさにその傷の共有こそかけがえのない価値を帯びているのである。」(492頁)すると私はショスタコーヴィッチの「傷」をまづ知らねばならぬことになる。それを知るためにあるのが本書である。たぶんさうなのだらう。目次をながめるとⅡが「二枚舌による抵抗」とある。第二次大戦前後である。これを越えてショスタコーヴィッチは己が地位を確立していつたらしい。「交響曲第五番の成功がショスタコーヴィッチに約束した のは、なかば恒久的ともいえる『安全通行証』である。」(200〜201頁)ここでもショスタコーヴィッチは二枚舌と「公的な嘘」(180頁)をついてゐるのである。それにしてもショスタコーヴィッチは大変な人であつた。
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ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光
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亀山郁夫
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