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Posted by ブクログ
二〇二五年の読書におけるベスト。今年はたくさん本を読んだわけではなかったけれど、それでも、読んだ中で一番の出来だった。連載開始から十数年、待ちに待った単行本化であり、鈴木光司がこれまで描いてきた「世界そのものへの謎」へのアプローチの集大成とも言える一作だ。
南極深層の氷、ヴォイニッチ手稿、都内で起きる連続変死事件、そして新興宗教団体。一見バラバラな素材が、主人公の調査を通じて一本の線に束ねられていく。その収束の快感がまず凄い。ミステリとしての謎解きの面白さにとどまらず、人類や宇宙、世界の領域へと物語が拡張していくドライブ感は、まさに作者の真骨頂だ。デビュー作『楽園』や『神々のプロムナード』『エッジ』、『リング』シリーズで培われてきた要素が、形を変えつつ、より洗練された状態で統合されている。
とりわけヴォイニッチ手稿という「解読不能な謎」への挑戦が、物語の推進力として機能している点が素晴らしい。僕自身、かつて何者かによって手帳に記された謎の数字を解こうとして結局何も掴めないまま年月だけが過ぎた不思議な経験がある。あのとき感じた、解読の入口に立っているのに永遠に入れない感覚――そういう「不可知の魅力」が、ここでは物語のエンジンになる。
一般にホラー作家として認知されがちな著者だが、本作が突きつけてくるのは、怪物の出現よりも「常識だと思っていた骨組みの崩壊」だ。
世界の仕組みを知りたいという欲求――それ自体を物語に変える、未知への自由研究のような無邪気さと熱量がある。
そして恐怖の質もまた、貞子がテレビから出てくるような視覚的なものではなく、自分が立っている大地が足元から書き換えられていく感覚に近い。盤石だと思っていた現実が、新たな論理によって更新されていくスリル。しかも、その飛躍は飛躍のまま終わらない。宇宙や意識や“神のようなもの”へと話が跳ぶのに、科学的な説明でSF/ミステリーとして成立させ、説得力のあるものとして着地させてくる。この技量こそが鈴木光司作品の醍醐味であり、『ユビキタス』はそれが最大出力で発揮された一冊だと思う。
後半を「ホラーとして失速した」と言う声が出るのも分かる。でも鈴木光司は、もともとジャンルを飛び越える作家だ。欠点ではなく、本領だろう。高山竜司を彷彿とさせる「稀人」的なキャラクター造形も、ファンとしては嬉しい。既視感はあるが、それはマンネリではなく、作者が信じる「ある種の人間像」の強度を示している。
タイトルの「ユビキタス(偏在)」が示す通り、今回のテーマは植物だ。あの表紙が示す静かなる支配と、全体を貫く大きな意志の力に圧倒された。中学時代、『リング』で世界の見方を変えられた僕が、大人になった今、再びその原点にして到達点を見せつけられた気分でいる。傑作。
Posted by ブクログ
重厚なSFだった。
実は人間は植物の意向に沿って生かされているという衝撃的な内容だった。植物の種を世界中に行き渡らせる為に、アルカロイドの刺激により言語中枢が刺激され、人間は言葉が話せるようになっただとか。
『人々が自然保護を謳うとき、「緑の地球を守ろう」というスローガンを掲げることが多い。この場合の「緑」はとは植物のことを指す。生物にもかかわらず、なぜか、植物は自然の一部に組み入れられてしまう。ノアの方舟に乗せられたのは動物のつがいだけで、植物は乗せてもらえなかった。
もし植物に、人間の言葉を理解する能力があったなら、「緑の地球を守ろう」というスローガンを聞いて、腹を抱えて笑うに違いない。笑い過ぎて、涙をこぼす。
……緑を守る? 思い上がりも甚だしい。お情けで、生かされている立場を自覚したほうがいい。
動物に対する生殺与奪の権限を握っているのは、地球に生息する生命全重量の99%以上を占める植物である。特に人間は、生存に必要なカロリーの七割以上を、コメ、ムギ、トウモロコシなどの穀物に依存している。
植物に対する動物の割合は0.5%から0.3%程度で、人間となればたった0.01%に過ぎない。そんなちっぽけな人間が、しゃーしゃーと「緑の地球を守る」とスローガンを唱えるおかしさは、生まれたばかりの新生児が「パパとママを守る」と宣言するようなものだ。』
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小説・文芸
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