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Posted by ブクログ
この作品の面白さは、厳島の戦いを「合戦の記録」としてではなく、その背景や謀略まで掘り下げて描いている点にある。忍びや調略といった「見えない戦い」が鮮明に描かれ、戦いとは武力だけでなく、人心の掌握と情報戦で決まるものだと実感させられる。
毛利元就の凄みは、奇襲そのものじゃない。敵を厳島という不利な地形におびき寄せ、「攻めれば勝てる」と信じ込ませた前段階にこそある。まさに「戦う前に勝負を決める」孫子の兵法そのものだ。
陶晴賢が厳島に上陸したのも、罠と知らずに乗ったわけじゃない。元就が周到に仕込んだ情報工作と偽装内通によって、攻める価値があると確信させられた結果だ。さらに武断派には「大軍なら押し切れる」というおごりがあり、弘中隆兼の冷静な進言も退けられた。外から嵌められ、内側からも崩れていった。
元就はさらに、この作戦を見破れる唯一の知将・江良房栄を陶自身の手で排除させたとも言われている(諸説あり)。勝負は戦場に出る前に、すでに決まっていた。
一方、最も心を打たれるのは弘中隆兼の生き方だ。謀略を使いながらも、私欲のためには絶対に使わない。それは領民や家族、部下への深い思いやりと、仏の教えに根ざした価値観から来るものだ。
私欲がないから、視野が損得を超えて広がる。三本松の戦いの最中でも、これまでの労力や損失を脇に置き、「今下すべき決断」だけに集中して進言できた。それは上に立つ者の意思決定として最上のものだと思う。
そして冷静な判断力と、人間的な温かさが一体になっているところが隆兼の稀有さだ。何度進言を退けられても、最後まで勝機を探し続けた。知性と情の両方が宿った人物だった。
この作品は「勝者だけが正しいわけじゃない」と教えてくれる。敗者の中にこそ、より人間的で尊い生き方があるのかもしれない。
元就の調略には暗い影がつきまとう。それが彼が信長や秀吉ほどクローズアップされない理由かもしれない。でも、謀略・情報戦・人心掌握こそが戦いのリアルだと思う。華々しい武勇の裏に隠れた、見えない調略と情報戦の中にこそ「戦いとは何か」の本質があるんじゃないだろうか。
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小説・文芸
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